イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

・はじめに

 

 忙しく流れる日々をなんとか乗りこなし、今年も年の瀬、話数10選の頃合いです。
 素敵なアニメをたっぷり見られたありがたさに感謝しつつ、あえて選ぶことで自分なりの意味と思いを載せていく。
 アニメブロガーとしての年納め、よろしくお願いいたします。

 集計は aninado さんにやっていただいております。ありがとうございます

・ルール

・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

 

クールごとの各作ベストエピソード選出と総評はこちらから。
 柳春霖に濡れて緑 -2023年1月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

積雨百合の背を曲げず -2023年4月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

夏影長く伸びる -2023年7月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

雪痕を鑑みて残念無し -2023年10月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

 

 

TRIGUN STAMPEDE:第0話『HIGH NOON AT JULY』

lastbreath.hatenablog.com

 アニメブーム、リメイクブームに乗っかって様々な過去作が再生を果たしているが、”今”戦えるだけの強さと意味を持って叩きつけられるリメイクは、思いの外少ないように思う。
 自作を支えてくれたファンの思い出と戦わなければいけない関係上、見た目よりも遥かに難しい立ち回りを”リメイク”は要求されるわけだが、原作を敬意をもって咀嚼した上でデザインも物語の筋立ても大胆に変化させ、しかし中核にあるテーマや感情は損なうことなく……というよりも、新たな表現を選んだことでより強く描く。
 そういう難行に果敢に挑み、見事に成功してみせたTRIGUNリメイクは、ただ懐かしいだけで終わらない衝撃を毎話届けてくれたし、自分がこのお話の何が好きであったか、思い出せる仕上がりにもなっていた。
 その鮮烈な切断面は、見慣れぬ髪型の新生ヴァッシュが”トンガリ”になるこの第0話で一番加速する。
 この後に完結編が待ち構えているからこその大仕掛けで、新たなるロストジュライを描くこのエピソードは、陰鬱に溜め込んだ重苦しい空気を全て弾き飛ばすほどの爽快なアクションと、それに切り裂かれてより強く滲む、兄弟の過酷な運命を描き切る、素晴らしいエピソードだった。
 マージで、続き待ってます。

 

 

江戸前エルフ:第6話『Stand by Me』

lastbreath.hatenablog.com

 気楽に24分、アハハと楽しめるアニメは相当気合い入れて頑張らないと作れないと、当たり前の真実を時折思い出すようにしているし、思い出させてくれる作品との出会いは希少で貴重だ。
 江戸前エルフのアニメ化は、原作が持っている可愛さも切なさも、郷愁も眩さもなにもかも大変元気にアニメとして動かしてくれて、過不足のない面白さが画面のあらゆる瞬間に宿っていて、大変に良かった。
 良く取材された月島の情景を、創作される現実の中を生きているキャラクターの舞台としてしっかり馴染ませながら、描かれる掛け替えのない当たり前。
 その手触りがどれだけ愛おしく、永生者と少女の人生が触れ合う一瞬がどれだけ眩しいのか、肩の力が抜けた笑いの中にしっかり入れ込んで描いてくれる、とても良いアニメだった。
 その絶妙なバランスは自分たちが何を描いているのか、何を描きたいのか、真っ直ぐ見据えて手を動かす誠実さに支えられていると思うが、その硬質な手触りが一番濃く滲む話数は、やはりここだと思う。
 東京で一番高い場所、二人きりたどり着く光の先に、下らなく愛おしい日々がまだ待っている。
 その眩しさをしっかり切り取ってくれて、僕はとても嬉しかったのだ。

 

 

・スキップとローファー:第8話『ムワムワ いろいろ』感想

lastbreath.hatenablog.com

 しみじみと、良いアニメだった。
 青春の明るかったり暗かったりする部分を、思春期の少年少女がそれぞれどんな角度で受け止め、自分たちなりに踏みしめながら進んでいるのか、基本楽しく時折苦く、爽やかに見せてくれるアニメだった。
 非常にスタンダードで、プレーンにも思える作風をそのスキップするような軽やかさを殺すことなく、しっかりとアニメにして見せてくれた。
 色があること、音があること、動きがあること。
 アニメーションという表現がもつ特異性を最大限活用して、原作が持つ豊かで優しい青春と人間への視線を、的確に別メディアに活かしていたのは、大変良かった。
 明暗と情景による表現がとても力強く、豊かな意味を含んで魅力的な作品であるが、特にこの話数は光と影が何を意味しているのか、演出の綾織を読んで噛みしめる面白さが大変贅沢で、たっぷりと堪能させてもらった。
 凄く巧い作品なのだが、凄さでも巧さでも見ているものを殴りつけず、子どもらが生きている場所への橋渡しをするために優しく使っている上品さも、また良い。

 

 

・ひろがるスカイ!プリキュア:第17話『わたせ最高のバトン! ましろ本気のリレー』

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 虹ヶ丘ましろが好きだ。
 なので色んな歪さを孕みつつ、新たな挑戦に満ちたひろプリが好きだし、そらー文句も言うけども、色々頑張ってくれていたと思う。
 内気な少女が不屈のヒーローになるまでの物語としては第23話の圧倒的なカタルシスが強いし、そんな彼女が地面に足つけて自分だけの夢を追いかけていく物語は、第20話から第41話に至る童話を主題にした、一創作者が何かを成し遂げるまでのお話に色濃い。
 この話数はヒーロー、あるいは童話作家としての虹ヶ丘ましろをどちらも捉えない話数だが、優しく明るい彼女が抱えた影、そこにソラ・ハレワタールという少女がどう対峙し、どう踏み込めず、それでもなお隔たりを超えて手を伸ばすかを、凄く生っぽい筆致で描いている。
 リレーで勝てない、だから勝ちたい。
 中学生らしい頑是ない悩みの中に、人間の真ん中に届くような痛みと決意があって、そういう当たり前の日々を一緒に乗り越えていけたから、二人はお互いの特別になれた。
 そろそろ一年の長い物語が幕を下ろすこのタイミングで、ましろさんの普段隠している陰りが涙とともに表に出たこの話数は、作品全体の要として……なにより一人の少女の人生の1ページとして、とても大事なのだと思える。
 こういう、戦士たちが強く在るために踏みしめる、日常のスケッチが精密であることが、自分の中で”プリキュア”では大事なのだなと、改めて教えてくれた話数でもある。

 

 

 

機動戦士ガンダム 水星の魔女:第24話『目一杯の祝福を君に』

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 ”ガンダム”の大看板を背負って、今何を描いて伝えるべきか。
 フラフラ迷ったり、色々語りきれなかったり、口を挟みたいアレコレはたしかにあれど、”水星の魔女”はとても頑張ってくれて、だから好きなアニメだ。
 創作者が何をどれだけ本気で作品に盛り込み、扱っているか。
 真実知ることは難しく、結局は手前勝手な独断で評価するしかない部分なのだが、しかしなんとか、今生きて届く”ガンダム”を描こうとする野心を、僕は確かに感じていた。
 長い長い歴史に下支えされた、ポップカルチャーのアイコンであることが自縄自縛の不自由さも生んでるように見えて、正直”ガンダム”と上手く付き合えているとは全然言えない僕であるが、しかしそんな僕にも”水星の魔女”は優しく、力強かった。
 放送が終わった後にこそ、語りたかったものを自在には語りきれない不自由さと戦いながら、なんとか自分たちの物語を伝えようとした奮戦と苦労が見えてきた感じもある作品だが、それがこの終わりにたどり着けたのは、見た目より奇跡的で幸せなことなのではないかなと、しばらくたった今考える。
 明言されないが確かに美しく、地球の夕焼けに瞬いたあの約束の指輪は、作中二人の少女たちが呪いを祝福に変えて進みだした証であると同時に、彼女たちを生み出した造り手達がたどり着くべき、どうにかたどり着いた意思と夢の結晶でもあろう。
 それが眩く、幸せに思える”ガンダム”であってくれたことが、僕にはやっぱり嬉しいのだ。

 

 

・【推しの子】:第10話『【プレッシャー】』

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 有馬かなが好きだ。
 鳴り物入りの初回90分放送で駆け抜け、全力で視聴者をぶん殴って一大センセーショナルを生み出したこのお話が、持っている繊細でナイーブな側面を一番色濃く体現しているキャラだからだ。
 有馬かなという女の子の面倒くささ、難しさ、可愛さをちゃんと描こうと、色々拘って画作りをし、メッセージと意図を込めてお話を編んでくれたことが、【推しの子】アニメがどういうお話なのか、色眼鏡抜きで前のめりに見るきっかけを、僕に手渡してくれたと思う。
 原作が持っているポテンシャルをより強く、より深く見ているものに突き刺すだけのパワーがあったればこそ、幅広い年齢層と多国籍なファンにこのお話は届き、未だ途絶えぬ大きな波を生み出し続けている。
 しかしそのド派手な商業的成長は、作中の現実を必死に生きている青年たちが何を考え、何を大事に、何に傷ついて生きているのか、向き合って描く創作のスタンダードを、徹底しているからこそだとも思う。
 一話まるまる、有馬かなの面倒くささに向き合うこの話数はそういう、当たり前の部分が強い作品の強みが、一番濃く煮出されていると思う。
 ”ちいかわ”と合わせて、動画工房が『いつもの動画工房』からさらなる飛躍を果たした記念碑としても、大事な作品だと感じる。

 

 

・呪術廻戦「渋谷事変」:第37話『赫鱗』

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 アニメの中の、街が好きだ。
 元々良い美術を見るためにアニメ見ている部分が強い視聴者であるが、都市をどう描くかには作品がそこに住まう人間とか、それを生み出した文化や社会をどう捉えているかが、濃く滲むように思う。
 人がいなければ街は存在せず、ただの物質の集合体である街の何に注目し、どう描くかで、人の営みの何を尊んでいるのか、作りての意識が良く見える気がする。
 だから、”渋谷”という街を章タイトルに選び、情け容赦なくぶっ壊しまくって描いた呪術廻戦二期は、見ていてとても楽しかった。
 日本最大の繁華街として、様々な人が集まり騒ぐ祝祭の場であり、多くの人が日常の足とするハブ・ステーションであり、当たり前の時間が積み重なり閉じ込められている、大きく美しい箱でもある場所。
 それを揺るがさんとする大陰謀に立ち向かう戦いは、すなわち街に宿るものを守るか壊すかの攻防戦であり、結果としてそこに刻まれた意味やメッセージは激戦の中で乱され、断ち切られ、跡形もなく消えていく。
 異能の戦いとはそういうものであり、渋谷駅を満たす記号や意味に包囲された戦いの中で、否応なく道案内の看板も、道路標識も壊れていく。
 それは”渋谷事変”がたどり着く結末の見事な予言であり、何も守れないまま大虐殺の当事者となる虎杖悠仁の自覚されざる未来であり、どれだけ呪われてもかき消えてはしまわない、呪いの根源たる人間達の営みの残骸だ。
 そんな呪的空間として、見慣れているはずの渋谷駅を激戦の中異化したこのエピソードは、とびきり好きだ。

 

 

BanG Dream! It's MyGO!!!!!:第3話『CRYCHIC』

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 選び取った形式と描くべき内実が合致したときだけ、生まれる特別な物語の力というものがあり、この第3話は特にそれに満ちていた。
 一挙三話放送という、初手で顧客に分厚く時間を使わせて『もう見ちゃったしな……』で先を見させる昨今流行りの戦術の最後に、完全一人称で24分やり切る異形の……しかし必然の一手をねじ込む、野心的な構成。
 内気で歪な主人公の視界には当然、猛烈に焼き付くものと取りこぼすものがあり、燈の未熟で無垢な瞳が見落としてしまったものが破裂しながら、この後の話数は展開していくことになる。
 作品を貫通する縦軸となる、CRYCHIC殺人事件の目撃証言その一となるこの話数を、徹底的に燈が見たもので構成し、極めて主観的な映像の中に仲間が見せてくれたもの、仲間がいたから生まれた見知らぬ自分の顔を、鏡面に反射させていく。
 そういうアヴァンギャルドな挑戦はこの話数で終わらず、ドラマの重たいうねりや燃え盛る感情、様々な表現や炸裂する熱量を飲み込みながら、加速し突破していくことになる。
 この物語は、相当に凄いことをやり遂げる。
 第1話冒頭の湿った雨景色から既に漂っていた、尋常ではない気迫が嘘っぱちではないと思い知らされて、毎週期待と衝撃に震えながらMYGO!!!!!のアニメを見れたのは、とても良い経験だった。
 Ave Mujicaの物語も、このぐらいに野心的で精妙で、整った枠に収まりきらない気迫のこもったものにしてくれることを、僕は強く望んでいる。

 

 

・星屑テレパス:第9話『惑星グラビティ』

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 叙情的で、可愛くて、重苦しくて、薄暗くて、エロティックで……つまり、僕の好きなアニメだった。
 どっかぶっ壊れた美少女が耐え難い衝動に突き動かされ、とんでもない方向にぶっ飛んでいく話が好きなんだが、孤独な灰色宇宙に一人きり、誰かが奇跡を起こしてくれるのを待ってる女たちが、惹かれ合ってぶつかって似た者同士だとわかった後の、イグニッションのかかり方も良い。
 どう考えてもキスやセックスの隠微な距離感を重ね合わされている、海果とユウを繋ぐ特別な儀式がポップでありながらエロティックで、砂糖菓子みたいな女が肉体の熱を内側に秘めて、不定形の情感に揺さぶられているのだと感じられたのも良かった。
 良い所が沢山あるお話だが、『あ、コレ負けるな。つうか負けなきゃ嘘だな』と思いながら見守ってきた勝負が大惨敗に終わって、灰色の孤独に戻ってきた主人公が自分たちを負かせた”敵”に現在地を教えられ、一番最初に出会ってくれた特別を、今一番掴みたいものを吠えて抱きしめるまでのこのエピソードが、一番”らしく”て好きだ。
 パステルカラーの都合の良い幸せから、地面に叩きつけられ現実を思い知る重たさで引きずり落とされて、でもそこは自分が確かに今まで歩いてきた、人生を刻む大地であり出発点なのだと、教えてくれる誰かがいてくれること。
 それがロケットへの情熱で繋がった、仲間じゃない人なのが爽やかでいいし、そんな人のありがたみを海果が思い知る時までの、視線の高低差の見せ方が良い。
 ふわふわ柔らかな話に見えて、凄く切れ味の鋭い表象を随所にねじ込んでくる作品であったが、そういう物語のエッジを容赦なく立てて、クライマックスへの道を切り開くエピソードである。

 

 

・ミギとダリ:第13話『ミギとダリ』

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 1クールというフレームに、作品の全てを収めてくれるアニメが好きだ。
 この話は単行本七巻と、収めるには少し長めの原作を見事に再構築し、スタイリッシュ不条理コメディでありサイコサスペンスであり人間ドラマでもある、欲張りでギュギュッと複数ジャンルを詰め込んだ魅力を、余すところなく語り切ってくれた。
 母の死に復讐を誓い、笑えるけどよくよく考えると洒落になってないヤバさで二人で一人の奇妙な探偵として、真実を探し求めるミギとダリは、同じく洒落になってない真実に向かってトボけた歩調で近づき、危うく真実に食われかけ、舞い戻って自分たちだけの答えを炎の中に見つけて、死や狂気を越えた場所に進み出していく。
 それは笑えない理不尽や業に飲み込まれそうになりながら、復讐の外側にあって嘘っぱちの演技だったはずの幸せな日常と、下らなく無様でとんでもなく笑えるコメディが、自分たちの魂を食い殺そうとするモノより強くて善いのだと、運命に告げる物語だ。
 この最終話では、そんな答えに辿り着けた双子が幸せになり、だからこそ新たに羽ばたいてもっと自由になっていく、最高のエンディングを描いている。
 人生という山あり谷あり、涙あり笑いありの奇妙な物語の全部を、異常な力み方で描き切る、とってもヘンテコで素敵な物語が、その良さを見事に描ききってアニメとして終わってくれるのは、何よりも幸せだ。
 それが佐野菜見先生への手向けの花になったのは、悲しくも誇らしい偶然であり必然であろうけど、先生がこの作品で描きった『死の超越』が、アニメ化という営為を経て物語を飛び越え現実に帰還して、あるいは物語る行為自体に後押しされて、とても豊かに咲いているのは、僕には幸せなことに思えた。
 フィクションとリアルは切り離して考えられがちだが、一人間が魂を込めたからこそ心底楽しい物語が描いたものが、それを受け取って新たな筆致でAnimateされて蘇る時、創作と現実の境目は幸福な奇跡の中で消失している。
 そう実感できる素晴らしいアニメを見届けられたのは、とても嬉しいことだった。