イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第12話『星屑テレパス』感想

 新しくも懐かしい大地に足を付けて、私たちは新たに進み出していく。
 雷門瞬を無事迎い入れ、みんなで夢に向かって進み出していくロケット同好会に、微かに燃える情念の炎。
 それをブースターに灯してどこまでも高く、青春をかけていく二人のロケットを描く星屑テレパス、タイトル回収の最終回である。

 ドラマとしてのテンションは前回、難物・雷門瞬をぶっ倒したところでピークに達した感もあり、今回はややゆったりしたエピローグ。
 かわいいかわいいSD作画がたっぷり出てきて、俺がこのアニメの何を好きになったのか最後に思い出させてくれる展開に大満足……って思ってきたら、燃えたぜピンクの炎がよ……。
 おでこぱしーが持つ実質セックス力をフルに生かして、明内ユウが持つ人間的な揺らぎ……それを受け止められるだけのポテンシャルを手に入れた小ノ星海果を描いて、表面上とても爽やかに穏やかに、最終回は終わっていく。
 ユウと海果のアンバランスな距離感は物語の最初から幾度も、慎重に描かれ積み上げられてきたものなので、ユウに助けられて成長を果たした海果が、ようやく弱さや揺らぎを顕に出来るようになってきた宇宙人を、今度は抱きしめる側に回る物語をアニメで見届けたくはある。
 しかし1クールはあまりに短く、それを今見ることは出来ない。

 正直残念ではあるが、このおはなしもう一つの大好きポイントである絶妙な艶っぽさが久々に元気で、言葉よりもセックスよりも直接的なコミュニケーションを、無邪気に当たり前に使ってきたユウがようやっと、おでこぱしーのヤバさに身悶えする様子が見れて良かった。
 それは大好きな人達の中でも本当に特別な、世界の片隅をさまよい続けてきた白紙の宇宙人を見つけ抱きしめて、存在を固定してくれた女の子への、未文化で不鮮明な感情だ。
 自分の影の中蠢いている獣に戸惑い、怯えるユウがそれもまた自分なのだと受け入れるためには、今度は海果が怯える彼女を抱きしめ、道を示してやらなければいけないだろう。
 そうやって見えなくて怖い場所に目を向け、自分と世界を知っていく歩みがどんな手触りなのか、このお話はしっかり積み上げてきた。
 だから二人がどこに飛んでいくにしても、絶対大丈夫なのだと信じられるお別れになってくれて、このアニメ見て良かったなと思えた。
 とても良いことだ。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第11話より引用

 ちうわけで、前回唐突に知恵熱出した我らのリーダーを、同好会の仲間が見舞うところからお話は始まる。
 ……やっぱこのアニメのSD表現、ぶっちぎりに可愛かったなぁ……。
 このゆるーい絵面が顔を出すと、張り詰めた魂が擦れあって赤い血を流す緊張感が弱まって、仲良し時空の楽しい日々が戻ってきてくれた実感が、しっかり自分に届く。
 手のかかる姉のお世話をし続けた、健気な妹がまさかの友人来訪に最初警戒しつつ、気づけば意識を手放して身内を預けてしまうほど、同好会の連中が穂波ちゃんに信頼されていく様子も良かった。
 激ヤバ人間だった瞬の棘が外れて、気さくな距離感でワイワイ言い合えるようになってる描写も良かったし、自分たちの夢がどこに飛んでいくべきか、ようやく成れた”みんな”で目指していく様子、その舵取りを海果がしっかりやってる姿も良い。
 敗北に終わったロケット大会から、墜落したと思いこんでいた青春が実はちゃんと着地して、新たに進み出す様子がいきいきと、明るく楽しく描かれて……そこに微かに、桃色の熱が宿る。

 『なるほどなー……シラフじゃ言えない爆弾をユウに投げ込むために、意識を朦朧とさせる必要があったか……』と、海果をヘロヘロにした理由に納得などもしたが。
 ”みんな”になっていくことは喜ばしく、しかし海果の内側には何もかもを理解し合うおでこぱしーを独占したい欲望が、仄かに燃えている。
 助けてもらうことと依存することは違うのだと、跳ね除けた罪悪感もあって、清く楽しい日々に微かに混ざった砂粒のように、人間らしくも薄暗い感情が微熱に燃え上がる。
 自覚のない誘惑が、大変にエロティックに描かれているのが僕には凄く良くて、真っ直ぐ青春を走るきらら生命体の奥底に、不定形のマグマが眠っているのだと思わせてくれる。
 こういう形にならない、正しくもない思いにこそリビドーの爆発力は宿るわけで、薄暗い場所にある燃料と正しく向き合うことで青春ロケットがぶっ飛ぶことは、既に作品内のルールとして描かれてもいる。
 ならばここで火を付けられちまった奇妙な情欲に、天女も向き合わなきゃなるめぇよ……という話よ。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第12話より引用

 誰かが誰かを見つめる様子、なにかに出会って瞳を拓く瞬間が印象的に描かれるこのアニメ、最終話も明内ユウは小ノ星海果を良く見て、小ノ星海果も明内ユウを良く見ている。
 好きだから、大事だから、特別だから、思わず目を引く引力でお互いを繋ぎ合って、惑星系のように灰色の宇宙惹かれ合った二人の距離感は、ユウが海果の人間的なエゴを、特別であることを求めるエロスを間近に浴びたことで、少しギクシャクしていく。
 海果は(他ならぬユウが導き抱きしめ手を引いたことで)立派に成長を果たし、未来への航路を同好会に示し、交流がなかったクラスメイトにも、自分の好きなものを必死に伝えようとする。
 あけすけで毒のある瞬の素直な言葉を、遥乃がチャーミングに注意している雰囲気は風通しが良く、影にしまい込んでいたものを表に出して共有したからこそ、力むことなく今を楽しめている空気が漂っている。
 前向きに、一歩ずつ、極めて正しい青春群像。

 そこから少し遠い場所に、海果の欲望に炙られたユウは立っていて、多分自分ですら明確に気づいていない寂しさと独占欲と、満たされたいという願望の入り混じった”匂い”を、海果は敏感に嗅いでいる。
 菩薩のように、自分が間近に手を添えなくても進めるようになった海果を見つめているユウに、漂う陰りと熱。
 それがなんなのか、お互いに明確な名前をつけられないまま、不定形の獣は爽やかで正しい秘密基地の影をうろうろ、ゆっくり徘徊している。
 この危うく隠微な気配はこれまでずっとユウの中にあって、ずっと彼女に甘えっぱなしだった(それを脱したいと涙すら流した)海果が成長したからこそ、物語の表面に浮かんできた影だ。
 それが鋭い牙を剥いて、思春期の柔らかな喉笛に噛みつく瞬間を、俺はアニメで見てみたい。

 

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第12話より引用

 ”みんな”でいる風通しの良さを幕引きにせず、海果はユウの中に嗅ぎつけた獣の匂いに引きずられるように、灯台へと引き返す。
 肉体を触れ合わせることで否応なく、言葉よりも強く相手のことを理解してしまうおでこぱしーの特別さ、隠微な危うさにようやく気付かされたように、無邪気な宇宙人は体熱を上げながら、”それ”を求める。
 明内ユウが小ノ星海果の特別になった、特別な儀式。
 それは海果にとっての救いであると同時に、ユウにとっても安らぎで、特別で、エロティックな湿度を宿している事実に、天女はようやく行き着く。
 どこまでも明るく優しい天真爛漫少女が、戸惑いながら自分の中に湧き上がる熱に突き動かされていく様子は、ここまでの12話で海果が進んだ成長の歩みとはまた違う、しかしどこかが確かに重なっている期待感に満ちて、大変いい。
 そういう影と熱に、揺り動かされるタイミングがユウにも来たのだ。

 おそらく多分に危ういものも秘めているこの情熱を、海果は適切になだめすかし、破裂しないまま膝を曲げたユウの手を取る。
 最初の出会いにおいてとても高い位置にいたユウは、今は不定形の感情を支えきれず膝を曲げて、そこに手を差し伸べシャンと立たせる仕事は、海果が果たすことになる。
 見えないからこそ不安で切望する、おでこを介してつながる想いが何もかもを押し流す濁流にならないように、適切に繋がるための制御を担当するのも、ユウではなく海果だ。
 母のように全てを理解し、抱きとめ、迷妄に光をかざす役はユウから海果に移り変わってきて……はいない。
 あるがままの彼女たちそのままに、真っ直ぐな気持ちで友達を愛し、その清らかさの奥に弱さや欲望を暗く輝かせて、その明暗両方が自分たちなのだと、今ここにいる自分、そこにたどり着くために進んできた自分、そこから未来へと進んでいく自分を、相照らしながら見つめられる。
 そういう対等な関係に真実たどり着くためには、万能の天使などではなくただの迷える人間で、自分の気持ち一つも制御できない明内ユウの内側へ、暗い陰りの奥へ、進んでいく必要があるのだろう。

 それは、少なくともこのアニメでは描かれない物語だ。
 しかしユウを解決者特権の高みから下ろし、自分が手を差し伸べられ灰色の混沌に彷徨う旅人の立場になる物語が、海果にとってそうであったように明るく強い結末にたどりける予兆は、二人の気持ちが重なって灯る眩しい光の中に、しっかり示されている。
 この最終回は11話までの物語のエピローグであり、同時にここから伸びていく物語のプロローグでもあるのだろう。
 終わりきってない、語りきれていない卑怯さよりも、まだまだ彼女たちの人生が続いていって、公平に暗い場所も照らして、それでもなお輝くものに目を向けて繋がっていくのだと、思える豊かさを僕は受け取る。
 良い最終回で、だからこそ続きをアニメで見たくなる。
 今回は灯台に眩く照らされて退散した、名前のない獣は一体どんな風に、明内ユウの青春を走り抜けていくのか。
 第1話からずっと、俺はそれが気になっているのだ。

 

 

 というわけで、星屑テレパスアニメ全12話、無事完結いたしました。
 大変良かったです。
 コミュニケーションに大きな難しさを抱える少女が、運命的に出会った宇宙人の優しさに抱かれて自分を見つけていく、優しい世界の物語。
 そういう第一印象が瞬出てきた辺から心地よく裏切られて、青春の暗い部分に踏み込めばこそ描ける、眩しい光とのコントラストを強く感じることが出来ました。
 真っ青な夏空、不思議な色合いの夕焼け、影を照らす光。
 光と影の演出に力を入れて、それを少女たちの揺れ動く心理や関係性と連動させながら魅せる画作りは、詩情があってとても良かった。
 可愛いSDやチャーミングな小物デザインなんかで、ふわっと柔らかい雰囲気で作品世界を満たしつつ、感情が繋がり燃え上がる場面ではシリアスで硬質な演出も自在にやってのける、かおり監督の闊達自在を新たに見届けることも出来ました。
 巧さの使い方、使い所が全部良かったな、このアニメ……。

 テレパスとロケットという主題選択が、孤独を抱えつつ誰かに理解して欲しいともがく少女たちの群像にしっかり重なって、ドラマとモチーフが相補的に活きていたのも良かったです。
 翔ぶことに憧れるからこそ危うく揺らぐ青春が、より高く突き進むために必要な、足跡と絆。
 それを見つけて抱きしめれる自分に、主人公が一歩踏み出すまでの道をとても丁寧に、可愛らしく、情感豊かに描いてくれました。
 ユウにおんぶ抱っこな自分が嫌だと、海果が早めに成長と自立への意志を示して、その灯火に乗っかって話が転がっていくのが、やっぱ良かったな。
 あと俺が好きなきららアニメらしく、どっかイカレててやり過ぎなところも好きだ。
 そういう所が、やっぱあってくれなきゃいけねぇ。

 最終回で示された明内ユウに潜む、名前のない獣がどう暴れるかをアニメで見たい気持ちもありますが、今はとにかく、素晴らしいアニメを12話作り上げてくれたことに感謝です。
 とても面白かったです。
 素敵なお話を、どうもありがとう。