イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うる星やつら:第25話『想い出ボロボロ!?/想い出のアルバム/涙の家庭訪問 激闘の藤波家編』感想

 お久しぶりな帰還の挨拶を見事に果たし、行くぞ竜ちゃんメイン回!
 1話に同一テーマの複数エピソードを盛り込み、バラエティ豊かで統一性のある視聴感を生み出す、令和うる星特有の編纂技法が今日もうなる、第25話である。

 威勢の装いを強要され、マトモにコミュニケーション出来ないまま時に暴力に訴える激ヤバ親父と二人暮らし。
 令和に名作をリブートするにあたり、最も扱いを危惧してた龍之介であるが、『俺は女だ~!』要素ではなく不在なる母にフォーカスする形で、戸別回を彫り込んできた。
 今の時代クローズアップして面白い要素でもなく、つうか原作そのままの味でお出しするとあらゆるコンプライアンスと正面衝突しそうな所を、スルッと避けたナイスな選択だと思う。
 まー親父の激ヤバっぷりは、どこをどう転がしても絶対ぶつかる訳で、人情味スパイスを強めに効かせ、ギリギリ食えるテイストに仕上げるのも良い味付けだった。
 やること為すこと、全てがヤバいからなあの親父……。

 

 話としては面影だけが父子二人の家に残る、母の残滓をドタバタ追いかけて竜ちゃんが大変苦労する感じ。
 今回一本繋ぎでクローズアップされてみると、竜ちゃんはギャグ漫画やるのに向いていないくらい真面目な子で、親父はギャグ漫画でしか生存を許されないほどに真面目になれない存在で、そらー衝突するしか無いわな、みたいな感じだった。
 あたるやラムは(前回見せたように)硬軟両方に適性があって、エピソードの空気がシリアスに寄ったら湿度高い展開も出来るし、終わらない祝祭を笑いで包むときは全力で戯けてくれる。
 しかし竜ちゃんは常に性自認と周囲の対応(主にあたると親父)のギャップに悩まされ、拳だよりの暴力的解決で問題を殴り倒し、膝つき合わせた要求は笑いの中でナァナァにされ、その生真面目さがギャグになっているという、結構特殊なキャラ立ちである。

 娘の生真面目さを吸い取るように、親父は真面目になることが許されないキャラであり、深く掘ってみると相当シリアスになりそうな家庭環境とか、ジェンダーアイデンティティの話とかを、おフザケと暴力の嵐に飲み込んで無化していく。
 この徹底したスカされっぷりが、竜ちゃんのキャラ性を維持し作品が重たく沈み込まないための安全装置として、大事な仕事を果たしてもいる……わけだが、唯一の肉親が強火のイカレであり、自分が苦しんでいることとがっぷり四つに組んでくれない定めを押し付けられる、竜ちゃんはまこと不憫である。
 その報われなさがまた可愛さにもなっていて、非常に奇妙で絶妙なバランスで成立してるキャラだなぁと、改めて認識させられた。

 

 そんな竜ちゃんが欲しい物を与えるのが、すーっかり異星人を”うちの子”と受け入れた諸星家の食卓。
 俺はあたるのお母さんが好き(令和うる星で好きになった)なので、可哀想な竜ちゃんに欠けてるものを、親父の夕食からガッポガッポかっぱいで手渡してくれてたのは、大変良かった。
 なんか今回作画の角が取れていて、全体的にぽわぽわ可愛い感じだったのが、諸星家を包むほんわかオーラを上手く醸し出していて良かった。
 第1エピソード冒頭の、居眠りテンちゃんとかも可愛かったしなぁ……。
 親父と二人きりの激ヤバ自宅では、そういう温もり絶対得れないので、竜ちゃんエピに必要なものがしっかり作画され、演出されていたのは素晴らしかったと思う。

 あんだけ狂ったロクデナシでも、見捨てられないのが竜ちゃんの業であり優しさでもあり、そういうマトモな対応が浮かび上がってこないのが、永遠の祝祭を続けるための条件なんだろうな、とも思う。
 宇宙人もいれば妖怪も出てくる、八方破れ何でもありのオモシロ時空を維持するにおいて、シリアスなヤバさを前に真顔になってしまうのは危うい行為なのだろう。
 暴力やコミュニケーション不全を笑い飛ばし、時に殴り倒し、不健全で不謹慎で、だからこそ面白いモノとして描き切る。
 そういう綱渡りを、巧いことやってると示す話数にもなった気がする。

 客観的な他人の立場からすると、竜ちゃんは大変ヒドい立場に追い込まれているわけだが、当人は自分を哀れんで沈むこむことなく、元気にカスどもを殴り飛ばし大きな声で吠えて、やりたいことを追いかけ続ける。
 このバイタリティあってこそ、真顔になれば慎重に扱うべき劇物になるしかないものを、サラッと扱うコメディの妙味も維持されるのだろう。
 友引町のあらゆる問題と同じく、母の面影を追う竜ちゃんはゴールには至らず、終わらない日常の中で結末は鉄拳によって遠くにぶっ飛ぶ。
 竜ちゃんが振るう拳にそこまで嫌味がないのは、それがヒドい状況に追い込まれ続けてる彼女が唯一できるプロテストであり、拳がめり込もうがミサイルが爆発しようが”洒落”として誰も傷つかずに終わる、友引町の優しい空気に包まれているからだろう。
 そんな彼女の奮戦にあんま悲壮感がない……ないように作ってるし見せてる作品の面白さを、好きなキャラがドッタンバッタン元気に暴れてくれる嬉しさを頬張りつつ、じんわり感じるエピソードだった。

 

 というわけで、待ってましたの竜ちゃんメイン回でした。
 僕は莫大な原作のどこを選び、どう繋げて新たな意味を削り出していくかという、アンソロジーとしての技量や意義を令和うる星に見いだしているので、今回描き出された藤波竜之介の肖像は、面白く興味深く、大変良かった。
 いま表に出てくると毒になっちゃう要素も多い原作を、どう調理してるーみっくな味を守るのか、制作者の工夫も感じ取れた気がしました。

 魅力的なキャラクターを際立たせる話数の作り方、使い方が上手い印象のあるこのアニメ。
 後半戦も快調な滑り出しを見せ、今後何を見せてくれるのか。
 次回もとっても楽しみです。