イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第3話『動く鎧』感想

 動く鎧が集う部屋を前に、一行は足止めを食らう。
 かつて自分を殺した強敵に、鋭い観察眼と溢れる興味……そして止めどない食欲でかぶりつけ!
 人の生死よりも魔物に夢中な、オタクでサイコな主人公がどんな人物なのか、バトル&クッキングで掘り下げていくダンジョン飯アニメ、第3話である。

 というわけで、前回は3つのショートエピソードを通じて仲間の人となりを見せていた筆が、一話まるまる強敵攻略に振る舞われて、主人公を掘り下げていく構成となった。
 ここまで作風に合わせて抑えめだった、ケレンとアクに満ちたTRIGGER作画が全開となり、動く鎧との激闘に緊張感も生まれていた。
 何度切りつけても死なない厄介な相手との、命がけの死闘……になると思いきや、定説にも常識にも囚われないド変人の観察と実証によって、ここまで見てきた”ダンジョン飯”に決着していく。
 駆け出しの金剥ぎ時代には剣を砕かれ殺されるしかなかったトラウマ敵を、文字通り丸呑みにする成長を見せる意味でも、心地よいデフォルメと力強いメリハリの効いた独特の作画は、いい仕事をしていたと思う。
 結局みんなで楽しく”飯”をモグモグして終わるわけだが、楽勝では終わらない動く鎧の群れを相手にすることで、”ダンジョン”の部分の手応えも新たに削り出されていて、この物語の中を賢明に生きているキャラクターたち、生き生きとお話が転がる迷宮と魔物の魅力が、更に深まるエピソードだった。
 テンポよく短編を繋いで展開してきた物語が、一つ繋ぎの新しい形式に入ることで、ちょっと風が変わった感じも良かったな。
 ”第三話”だからこその面白さが、ジワーッと染み出す良いエピソードでした。

 

 というわけで、隠し扉を抜けて厄介な敵が待ち構える勝負所へと、一行は飛び込んでいく。
 既に迷宮深部に足をかけているだけあって、どこで何が起こるのかだいたい把握している、ダンジョン慣れの描写をサラッとやってる所とか、大変いい。
 ライオスたちが歴戦の強者であり、歩き茸に苦戦するようなニュービーの迷宮頑張り物語ではないってのは、結構変則的な作りかも知れない。
 既に仕上がった幻想的現実の、誰も思いつかなかった魔物食にフォーカスする話の作りからすると、”ダンジョン”にはある程度以上慣れていて、スラーっと乗り越えていく方が塩梅が良いんだろうなぁ。
 奇人変人が集いつつも、手慣れた様子でダンジョンを踏破していく一行の勇姿は頼もしいし、いらんストレス抱えることもないしで、良いチョイスだよね。

 とは言うものの、そういう経験値を積み上げるまでにはぽっと出の新人だった時代があり、慣れない金剥ぎに手を出してガッチリ死ぬ体験もしている。
 あの頃とは迷宮に潜る目的も、隣に立つ仲間も変わった今、頼もしい戦士に成長したライオスを際立たせる意味でも、動く鎧にぶっ殺された過去が現在とは違う、シリアスな死のトーンで描かれていたのは大事なのだろう。
 ブーブー文句を言いつつも一蓮托生、同じ釜の飯を食う仲間たちと苦境を乗り越えていく今は、苦戦しつつもどこかコミカルで明るく、確かな絆が感じ取れる色合いで描かれる。
 ライオスの観察眼が難敵の急所を見つけ、見事に窮地を乗り越えてのクッキングタイムではより朗らかに、明るく描かれる。
 そんな時間と色合いは急に降ってきたわけではなく、トンチキ冒険者なりの色んな経験を経てたどり着いた”今”なのだと思えるよう、絵と音楽と動きを仕上げてくれる回だと言える。
 こういう実感をアニメーションの全部から受け取れると、お話やキャラをより理解して好きになれるから、つくづくありがたいよね。

 

 自分以外の仲間も、あらゆる冒険者もアンデッド、もしくはアーティファクトだと信じて疑わない動く鎧を、ライオスは興味深く観察し、仮説を立てて攻略していく。
 目の前に迫る死の恐怖、仲間の危機よりも魔物観察に夢中なブッ飛び加減は、彼がいい人”ではけしてないことを僕らに教えるけども、剣を握りつつも思いの外学者肌なその気質は、思わぬ突破口を切り開いても行く。
 激しい戦闘の中で剣士としての確かな腕前と、それに担わぬ学級肌が描かれて、一筋縄ではいかない主人公の興味や能力が、より鮮明になっていく回だ。
 それぞれの個性がただ足を縛る欠点としてでも、何もかもを解決する万能の長所としてでも描かれず、凸凹色々ある人間味として描かれるのは、前回と同じ筆致。
 そしてそれが組み合わさって、運命共同体が危険な迷宮を乗り越えていく”パーティー”の意味も顕になっていくわけだね。

 ライオスの観察眼は生物としての魔物、食材としての魔物だけでなく、敵をどう攻略するかという戦術眼にも生きる。
 普段とは異なった対応で行く手を塞いだからには、その先になにか特別な要因があるはずだという推理を組み立てて、仲間を囮に核心に切り込んでいくのは、彼がただの魔物キチではないことを教える。
 いやまぁ、どこに出しても恥ずかしいモンスター狂いなんだけどさぁ……。
 動く鎧に興味津々過ぎて、死ぬ寸前まで追い込まれてる仲間見落としがちな所とか、ちゃんと描いてて良いなぁと思うよ。
 マジヤバイもんなライオス、色んな意味で……。

 盾の後ろに隠された卵鞘を見つけたことで、野山を妹とバカ犬と駆け回っていた過去が呼び起こされ、ライオスの脳内に”エウレカ!”が響き渡る。
 それは彼が定説に縛られない変わり者であり、人間社会に馴染みきれない厄介者だからこそ、手に入れた知見だ。
 学者なら研究室にもって変えるだろう知恵は、すぐさま戦いに応用され、折れた剣を鎧の隙間に差し込んで魔物解体を開始する、料理へと繋がっていく。
 魔物生態学のフィールドワーク……というには色々ヤバい立ち回りだが、興味と知識と観察力が武器になる、ライオス独自の強みがたっぷりと味わえる展開だ。
 おまけにただぶっ殺しただけで終わらず、美味しく頂くところまで突っ走るんだから、殺して食って生きる人間本来のタフさに、正直な男だとも言える。
 ……つーか、食うのが本命なんだがな。

 

 動く鎧の作動原理を、一般的な魔力操作でも悪霊憑依でもなく、軟体生物による疑似パワードスーツ生命体とする奇想も、また面白い。
 古今東西のファンタジーに精通し、既に積み上げられている”常識”を踏まえた上で独自の幻想を次々繰り出してくる手腕は学究の本道とも言え、そんなスタイルは観察から仮説を立て、実際に試して確かめるライオスのやり方とも通じている。
 人格的にも行動的にも常識ハズレの厄介者なのだが、だからこそ『迷宮の当たり前』をぶっ飛ばして新たな突破口を拓ける、主人公の強み。
 これを鮮烈に描くためには、何が一般的なファンタジーなのか、しっかり踏まえて描く筆力が必要になるわけだなぁ……。

 そんな新発見のご褒美は、シズル感満載の動く鎧フルコースになる……わけだが、ライオスの奇想を仲間がすぐさま飲み込むわけではなく、当然のようにドン引きして様子見しているのも、リアルな反応で良かった。
 そうされるだけの変わり者だってのは随所に描写され、実際その風変わりでヤバいことにもなっとるわけで、ピンチを乗り越える原動力にぶつけるには冷たい対応も、むしろ当然と思えてくる。
 そういう”常識的”な反応が、実際に目の前にあって触れられる……食べることすら出来る結果にだんだんと崩され、咀嚼され消化されていく様子も、見ていて面白いドラマであろう。
 視聴者がモニターの向こう側で見せてる反応と、同じ顔で仲間(特にマルシル)が魔物クレイジーに向き合っているのは、作品を自分の側に寄せる上で大事なことだんなぁ、とつくづく思う。

 

 ライオスのぶっ飛んだ部分は早々簡単には治せない業であり、彼を社会から阻害して迷宮に追い込む弱点であり、固定観念に囚われず可能性を切り開く武器ともなりうる。
 一話どっしり使って描かれた彼の人物は、動く鎧との激闘だけでは終わらず、今後の物語を彼らしく、”ダンジョン飯”らしく導いていくことにもなる。
 そんな物語の羅針としても、大変優れたエピソードでした。
 何をどう見せるか、手際よく料理し美味しく仕上げてくれる腕前が良いので、スルッと入って確かに腹に落ちるのが、つくづく良いアニメだなぁと思います。

 マトモな感性だったらすぐさま投げるだろう、魔物剣を新たな相棒に加え、一行の旅は続く。
 一応妹の運命がかかってるって自覚は在るし、そのために皆本気では在るのだが、それはさておき腹は減る。
 ならば美味しく、時に楽しく苦境を乗り越えていくほうが、人間が生きてるって感じもするわけだが……さてはて、食ったり食われたりの迷宮ライフ、次はどんな冒険が待っているのか。
 次回も楽しみですね。