イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第20話『必要な殺し』感想

 日没を前に加熱していく試練場に、かすかに滲む人間の証明
 殺し上等だったはずの一級試験、悪党ぶった善人達の素顔がちらほら見えてくる、フリーレンアニメ第20話である。

 バチバチ対人戦でぶつかり合ったり、知略を尽くして勝利条件を満たしたり。
 色んな様相を見せてきた第一次試験であるが、タイムリミットが近づいてきて直接対決が増えてきた。
 第一印象ではいけ好かない金持ちジジイだったり、ナイフ舐めてそうな殺戮者だったりした人たちが、思いの外命の値段を高く見積もってる普通の善人であり、試験側が定めたルールに簡単には乗っかるつもりがない人格強者であるとも、理解ってくる展開である。
 サーセンでしたデンケンさん、ヴィアベルさん……。
 片や陰謀渦巻く宮廷、片や魔族や人間と争う戦場。
 フリーレンがのんきに諸国旅してしょーもない魔法集めている間に、対人魔法戦の最前線に身を置いてなお人間であろうと戦ってきた人たちは、人の人たる由来を簡単に譲ることはなく、激戦の中でも一本芯が通った生き様を貫く。
 多彩な殺人魔法を使ったり、ド派手な戦闘を見せたりって方向に舵切ってもいいのに、こういう状況でも極めて地味で大切な人間味を刻んでくるのは、とてもこのお話らしいと思う。
 諸国漫遊まったり旅から画角は変われど、書こうとしているものは共通だなぁって感じね。

 

 前半は若作りながら人生経験豊富なヴィアベルさんが、人殺しを楽しむクズ相手に善戦したり、動けなくなった仲間を回収したり。
 クズだろうが殺すまで殺意を暖気させなきゃ動けなかったり、スレた外装で柔らかな本音を覆い隠したり、女子供が駆り出される戦場でなお”人間”でいようと戦い続けた男の生き方が、殺伐とした試験会場に爽やかな風を産んでいた。
 フリーレンが一級資格を求めるのは北への通行許可証でしかなく、富やら名声やら、ゼーリエから下賜される魔法やらを求めてのことではない。
 これは主役の特権かと思いきや、後に明かされるデンケン非殺の構えといい、心意気で並ぶ連中はここに結構いるのだと、理解ってくる回である。

 魔王が死んで数十年、勇者の物語も遠くに忘れ去られ、魔族に対抗するための誇り高い技術は人同士の争いに最適化された、殺伐とした殺しの技に堕ちかけている。
 魔法学校首席の実力者を、真っ向から物量で押し切ったフェルンの実力は、そういう血腥い小細工に愛弟子を浸さないための、フリーレンなりの考えで鍛えられたものだと見えてもくる。
 社会一般のスタンダードから、浮いた所をズカズカ進んできた主役に対し、欲や権力や戦争にまみれた人間の世界を歩いてきた人の顔が見れるのも、この魔法試験の面白いところだ。
 ヴィルベルは幼い日の思い出を心に刻み、人でなしの外道であったほうが生きやすい人間の世の中を、人の心を持った人殺しとして生き延びてきた。
 三十数年前の約束を支えに、魔族を倒して人を守る生き方はエーレの瞳に刻まれて、憧れは受け継がれて導きになっていく。
 フリーレン以外にも誰かからかけがえない何かを受け取って、形にも得にもならない何かを守ることで背筋を伸ばして生きている人はいて、その善良さはなかなか分かりにくい。
 簡単には分かられないように、強がりうそぶき生きていくカッコよさというものも確かにあって、そんなヴィルベルの良さがしっかり描かれたからこそ、シュティレがふわりと舞い降りる幸運にも、当然と微笑んで受け入れることが出来る。
 やっぱ良い人が報われたほうが、気分いいからな!

 

 ほいでもって後半戦、歴戦の魔道士デンケン、堂々と伝説の魔法使いに対峙す! って状況。
 いかにもごうつくばりの現実主義者っ面してたデンケンであるが、一級が持つ富も名声も特権もどうでも良く、人死出すほどの一大事じゃないと、嘯く奥には何があるのか。
 フリーレンの魔力隠蔽を見抜く確かな目を持ちつつ、己を未熟と蔑む姿勢の裏に、どんな体験があるのか。
 なかなか興味深い矛盾の描き方で、次回の対決が楽しみにもなってくる。
 ヴィルベルもそうなんだが、現実の世知辛さ全部をひっくり返すほどの、特別な奇跡には手が届かない自分を人生進んでいく中思い知らされ、甘い夢を堂々着こむほど若くもいられない人たちの強がりが、なかなか愛しい。
 悪ぶった態度の奥に確かに、善良で真っ直ぐなものを抱えているんだけども、それを素直に出せるほど無敵でもいられなかった人たちの屈折は、天真爛漫なままここまで来れた主役とは、違ったコクがあって良い。

 権力の中枢に身を起き、魔法の理想が現実に汚れ、人殺しの血に浸る様を見届けてきたデンケン。
 世の中そんなもんだと諦めているようで、その振る舞いと実力は言葉を裏切ってもいて、では酸いも甘いも噛み分けたはずの老人は、何を求めて試練に挑むのか。
 積み重なった人生経験が生み出すツンデレの奥、どんなピュアを柔らかく隠しているのか……こいつぁワクワクですよ。
 ラヴィーネとカンネは若くていい子なんで、デンケンおじじが不殺の姿勢を見せてくれることで、戦いが激化してもヒドいことにはなんねぇつう安心感も与えてくれるしね……。
 リヒターくんがやる気満々過ぎるのがちょっと怖いが、この試練に挑む魔術師のスタンダードである『殺してでも受かる』つう殺伐を、フリーレンとデンケンの老練がどう丸め込んでいくかも、また楽しみだ。

 

 つうわけで、色んな場所でバチバチ言い出してる第一次試験でした。
 状況が転がってタイムリミットが近づいてくると、戦いの温度が上がってキャラの地金が見えてくるのは、物語として面白い仕掛けですね。
 今までとはちょっと違う角度から楽しさを作りつつ、人が人であり続けるための理由を探る芯は継続されていて、さてどんな景色が新たに見れるのか。
 次回も楽しみです。