厳しい試練の合間、魔術師達は思い思いの日常を過ごす。
『次からは敵同士』と告げた言葉は予言か強がりか、ゆったりのんびり休暇回なフリーレンアニメ、第22話である。
激しいバトルを交え一応死人も出てる一次試験を、このお話らしい穏やかさで乗り切った後の、平和な休暇。
試験を通じてそれぞれの人間が見えた連中が、そこで生まれた絆を豊かに育んでいる様子を楽しむ、なかなか独自の味わいがあるエピソードとなった。
ここまでの旅はあくまでフリーレン中心、彼女が関わる人へ旅の中でクローズアップしていく形だったのに対し、”一級魔術師試験”という場を用意したことで主役抜きでも、キャラが独自に立つ足場が出来たなぁ、という感じ。
好々爺っぷりを全く隠さなくなったデンケンおじいとか、ドーナツむしゃむしゃ孫み全開ラオフェンとか、地元では良い魔法屋さんなリヒターとか、オンオフを明朗に切り分けて気持ちが良いヴィアベルトか。
戦いを強いられる場所ではああいう出会いをしたけど、杖を下ろした彼らがどんな人生を送っているのか、当たり前で下らない日々を描くことでジワジワ浮かび上がってくる手触りが、とても良かった。
やっぱこういう味が作品の魅力だよなぁ……と思うと同時に、魔物に食い殺されて会場のオブジェになった死体達にもこんな日々があったと考えると、なんとも複雑なコクがある。
俺は、それも好きだ。
つうわけで久方の出番になったシュタルクを交え、フリーレン一行はフェルンのご機嫌取りも兼ねて街を堪能する。
元々過酷な試験を前に過剰に構えていたわけでなし、湧いて出てくる山あり谷ありをスルーっと乗り越えてもいたわけだが、なんだかんだ激しい展開にもなったわけで、久々のゆったり進行が嬉しい。
バトルに忙しかったのと主役以外にカメラが振られたのもあって、フリーレンが世界からヒンメルの思い出を掘り返すおなじみのシーケンスも久方で、思い出の味は地味ながら良く刺さる描写だった。
『勝利の報酬として”変わらない味”を求めたヒンメルは、あのタイミングで既に自分の人生全部を、フリーレンのために花束を世界に埋め込むことに使うと決めてたのかなぁ……』と、思わされてしまった。
定命の己とは違った時の流れ、価値観、孤独を生きていくフリーレンに隣り合うことは出来ないけども、それでも彼女が寂しくないように、皆で守った世界が善いものだと思えるように、時折自分を思い返してくれるように、救いと喜びの種を蒔く。
己の死を以て”発芽”を完了したヒンメルの、思い出の中をフリーレンは歩き続けていて、しかし葬式で彼の思いやりに気づかなければずっとそのまま、冷たく理性的な生き方を続けていたかと思うと、少し怖くもなる。
なんてこと無いきっかけ……というには、人生賭けすぎた大仕掛けをヒンメルぶっこみ過ぎだけど、あくまでフリーレン自身が気づいて生き方を変えると望み、あるいは信じて、枯れていくかも知れない人生の花束あらゆる場所に置いてきたのは、何度見ても純愛すぎて凄い。
彼の勇者性は魔王を倒したことではなく、多分フリーレンへの静かな献身にあるんだろうなぁ……。
そんな思い出は確かに色褪せず輝き続けるが、しかし隣り合う人を変えて新たに進む日々もまた、個別で特別な輝きに満ちている。
ハンター試験で孫が増え、賑やかに仲良く転がっていく日々の、穏やかな眩しさ。
その真ん中にフリーレンがいる景色は、彼女が積極的に人と関わり何かを変えていこうと思えたから生まれていて、つまりはヒンメルが送った花束の先にある景色だ。
メッチャむっす~~しとるフェルンの可愛さ、不憫に思えてガンガン人の輪を広げているシュタルクの人望。
ここまでの旅で描かれたものは、魔術師試験でちょっと作品の画角が変わっても消えておらず、カンネやラヴィーネを交えてより、輝きを増している。
戦いを外れた場所に確かに瞬く、それぞれの人生模様が削り出されていくと、キメ顔で『次からは敵同士』とか言われても……って気持ちにはなる。
殺し合いとか無理だって!
魔術はクソ魔族だけに使うべきだってやっぱ!!
言うて魔王亡きあと、闘争の主眼は人間同士の潰し合いに移り、魔術の趨勢もより効率的に人を殺せる方へと流れたわけだが。
その真中に立って今の地位を得たはずのデンケンとヴィアベルが、それぞれ血生臭さのない顔を見せていたのも、また良かった。
ブツブツ文句言いつつも亡き妻との思い出のレストランへ、ジジイを案内しとるリヒターの日常なんかも描かれ、『無理だーコイツラとの潰し合いッ!』という気持ちを、より強くする。
全然力んでいない角度から、『やっぱ魔法は夢を叶えるロマンであるべきで、戦争の道具になってるの面白くねぇよな……』って、作品の背骨に近いネタを齧るの、結構面白い体験だな……。
世界観としては当然そういう方向に堕ちていくわけだが、久遠の英雄であるフリーレン、彼女に近しい魔術師達はそういう現世から距離を取り、超越的ロマンティシストとして夢=自分だけの魔術を追いかける立場にいるの、面白い立体感だ。
『殺すと決めてない』時のヴィアベルの、気のいい兄ちゃんっぷりも良かったね。
そんな優しい兄ちゃんと命の取り合いして、生粋の殺戮者にも変化が! ……生まれたのか?
メガネくんに興味津々なユーベルはなかなか可愛く、他の連中が人格既に整っていたり、優れたおじいおばあおっさんに見守られて未来が安泰だったりする中、結構独自の歩き方をしておる。
魔術師試験を通じて人間がどう育つか読みきれない、白紙であるが故の面白さは彼女が一番強いので、殺したり盗んだりに一切躊躇いがないサイコっぷりにどう、自分なりの変化を生んでいくかが楽しみだ。
……こうして見てみると、『自分ひとりだったら変わりようがない人格と生き様が、戦いも含めた交流の中で影響を受けて変わっていく』つう流れは、ユーベルとフリーレン結構重なってんだな。
亡き妻の面影を求めてレストランを訪れたデンケンもそうだが、主役のシャドウを随所に配置しつつ、独自の面白さと人格を持った魅力的なキャラとして立てる技芸が、巧いお話よね。
というわけで、極めて穏やかな魔術師達の休暇でした。
『緊迫の二次試験開始ッ!』みたいな感じで引いたけども、こういう景色を横幅広く映されちまうと、騙し騙され殺し合い上等ってのは無理だよ!
みんな”人間”だよッ!!
……この感覚自体は旅の中でも描かれていたわけだが、やっぱ群像劇の色合いを増したことで見え方がちょっと変わってきて、語り口の妙味というのを感じてもいる。
人間社会の世知辛い所があぶり出される、最高峰の魔術師試験。
新たなステージでが、一体何が見れるのか。
次回も楽しみですね。