さよなら異世界、さよなら美少女。
祈りによって囚われ、愛によって呪われた心優しき少年、最初の冒険の終わりを描く豚レバアニメ最終回である。
お、お、終わってねぇぇぇッ！
思わず叫んじゃったが、マジで終わってない最終回過ぎて大変ビックリした。
考えてみれば首輪を外されたジェスと豚野郎の、人間同士の対等な付き合いはスタート地点に立ったばっかであるし、イェスマ犠牲に成り立ってるクソみたいな世界はそのまんまなんで、続くしかない話ではあるのだが、まー俺アニメでこのお話に出会ったからさ……アニメの枠内である程度以上ケリつくと思ってたんよね。
紳士的に過ぎ英雄的に過ぎる豚の、己の本心を押し殺して選んだ”正しい”答えが全然正解じゃなかったのは、あるべき形を取り戻しいるべき場所に戻ったのに、異世界での冒険があまりに心を揺すぶりすぎた結果、そこを居場所だと思えなかった描写からも良く感じた。
あそこをカメラロールめいた静止画の連続、一人称なのに活き活きした躍動感がない灰色として演出したのは、マジで冴えてて凄く良かった。
豚じゃない自分を生きるに足りる人間と感じられない、異世界燃え尽き症候群は呪いとしか感じられなかったが、まー奴隷種族の美少女との愛に呪われちゃったならそうもなるかな……って感じで、結構納得のいく二度目の旅立ちではあった。
その続きがどうなるのか、アニメで見れないことは横において……。
作中描かれた真実しか言ってないのに、ヤバいオーラモリモリ出してる異世界転生サークルの仲間の言うことには、ノットさんは反逆の英雄として大暴れしているらしく、イェスマの人権に敏感な現地民としてはそらそーなろうな、という感じ。
過酷極まる世界の宿命に流されるまま、唯々諾々と支配者の言う事飲んで現実に帰る”ビターエンド”を選んだ一周目のあとに、少女の幸せだけ祈ってればよかった個人的で閉じた物語から、もうちょい広いところにアプローチしていくお話が始まるってのは納得も行く。
とにかくイェスマがひどい目にあい続ける世界を創造し、豚しか味方になってくれない≒豚でもヒロインを助ける王子様として唯一性を持てる歪さで世界を成り立たせたツケを、”正解”を選んで満たされなかった豚がどう支払っていくのか。
それをアニメで見たい気持ちもあるが、まぁ一応はここで終わりだかんな……原作読めって話よな……。
個人から社会へ、真実の愛に気づけばこそ広がっていくテーマ性の拡張はむしろこっからが本番って感じもあるわけだが、描けない／描かないモノは描けない／描かないｍだから、しょうがなかろう。
ちら見せさせられた二週目が面白そうだからこそ、それをアニメで見てみたかった無念が募る、正直なかなか難しい最終回となった。
つーわけで最終回、異世界ミステリという側面もあったこの話は、天使が祈った罪を暴いて終わっていく。
自分の手で剣を取る自由も、被差別種族に背を向ける権利も保証された真っ当な人間ではなく、否応なく味方するしか無い豚に転生者の魂を押し込めれば、可哀想な自分を助けてくれると思った。
それがキモオタク殺人転生事件の”動機”だったわけだが、人間の形を得ていたとしても我らが豚は極めて高潔なので、ジェスを助けていた感じもある。
ここで奴隷と自由意志の問題が、ずーっと被害者として描かれてきたイェスマを加害者とし、あくまで自分の願いと恋情に突き動かされるまま少女を助けてきた豚が、祈りの被害者だったと解ってくるのは面白い。
首輪を外されたジェスが最悪な社会システムの便利な道具ではなく、結構強めの自我をむき出しにしていることと合わせて、果たしてクソみたいな世界の犠牲になってる奴隷種族でなければ、豚を慕ったのかという問題も顔を出してくる。
出会ったこと、守ったこと、愛したこと。
聖地を目指す騎士道物語だったお話の全てが尊き自由意思ではなく、誰かが決めたシステムに押し流された決定項だったとしたら、果たしてその旅に意味はあったのか。
身を焦がすこの思いは、果たして”本当”なのか。
豚はこれまでと同じく高潔に、脊髄から湧き上がる獣欲ではなく理性が選んだ正しい答えを選んで、清いままお別れする道を選んでいく。
ブヒブヒほざいてた豚野郎がメッチャ摂理を噛み砕いて道を説き、優しい天使だった少女が解き放たれた願いのまま思いを燃やして最後のデートするの、結構面白い逆転構図だったな……。
これが物語の正解であり、豚と呼ばれた青年の嘘偽りない本心であったなら、戻った後の人間の生は誇らしく、充実したものだったろう。
しかしそこに豚自身の”正解”がなかったからこそ、彼は帰った後でも異世界を希い、今度は自分の意志で愛する少女の待つ異世界へと、再び豚として降り立っていく。
その決断が示すのは、”正解”は正解なんぞじゃなかった、ということだ。
結局己の心の望むまま、真実欲しい物を掴み取らなければ人生は灰色のままで、それはイェスマを奴隷として使い潰すことでしか成立していない、ここではない何処かにしか無い。
ならば進むしかないと、転生者仲間の助けを借りて二回目の転生に挑む終わりになったのは……どうなんだろうな、キャラには嘘ついてねぇ面白い展開だとは思うが、お話の収まり加減としてはモロに”続く”だからな……。
まー俺は豚が好きなんで、心残りがあるんならそれを焼き尽くすまで突っ走ればいいと思うし、人間の形してるから意味があるってわけでもなかろうし、生まれ故郷が灰色に見えるなら異世界に飛び込むしかねぇじゃん、とも思う。
長い旅を経て、ようやく選んだはずの結末に全く納得できなかったから、現世を捨てて畜生に転生する、逆即身成仏みてーな道も選ぶわけだ。
そうやって、『こんなん正解じゃない！』と棄却される結末を1クールアニメのラストとして選ぶことの是非は横において、そうしたいと思えるほどジェスが好きな豚こそが、僕の好きな豚でもある。
ジェスが世界に放った呪いに囚われ、首輪によって善良な天使にさせられていた女の子と、醜い身勝手も豚めいた我欲も全部ひっくるめた、泥まみれの本当に向き合う物語が彼らの前に待ってるのは、まぁ良いことなんじゃねぇかな、とも感じる。
まぁ、それがアニメで見れそうもねぇのが問題なんだが。
呪い呪いと言っているが、ブレースが既に示したように死ぬ定めを世界システムに組み込まれたイェスマだって、幸せに生きたいと星に祈り、大概は叶わない。
どう世界と向き合うか、どういう自分として生まれるかすら誰かに決められ抜け出せない、クソみたいなシステムに怯え、助けを求めることが罪だというのなら、それはあまりに過酷だとも思う。
そんな悲痛な祈りに巻き込まれて、待ってましたと地獄に飛び込む危害があるからこそ、我らの豚は気高い豚であった。
そこら辺を肯定しながらお別れし、それじゃ何も解決してないから戻っていくのは、彼ららしくて良い決着だったと感じる。
つーかそういう正しき呪詛を世界中に満たしていく、魔術師中心の糞以下のシステムが全部ダメダメなんであって、ジェス個人の問題じゃないよなアレ……。
どんだけ上からルール押し付けても、美しく作られたイェスマはクズどもの劣情を煽って犯され、遺体は高値のパーツを切り取られて売り飛ばされるわけで、終わりきってるだろマジ……。
つーかイェスマが女しか生まれないわけではなく、生まれてきた命の半分をすり潰すことで女奴隷種族として”出荷”されてるの、本当に最悪の人権蹂躙でしかない。
なので、”二回目”ではジェスとの個人的なロマンスを走り抜けるところで終わらず、宿命と悲しみを不当生産し続けてる大きなシステムに、堂々噛み付いてほしいもんである。
というわけで、結構間が空いての最終回、なかなかびっくりする”続く”でした。
12話かけて編んだ物語、豚とジェスが納得して選んだはずの決断を、ひっくり返してもう一度の異世界転生ってのは、驚きつつも納得する決着と感じられ、しかしアニメでその先を見れる雰囲気は薄く……マジ難しいよッ！
しかし豚とジェスが好きになれる人格の持ち主で、最後の最後でそれぞれの中にある身勝手な獣を暴いて終わったのは、個人的にはなかなか好みの展開でありました。
獣と天使。
相反するようでいて同居している二つの顔を、少女と豚に反射させながら進んできたお話は新たな局面に突っ込んでいくわけですが、さてはてどう転がっていくのか。
是非にもアニメで見せて欲しいと思う程度には、僕このアニメ好きだったので、ここに二期を希望しておきます。
楽しかったです、ありがとう。
お疲れ様でした！！
