イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第6話『ずっと見ていたいって思ってた』感想

 ぜんぶ。
 出てしまった答えを胸に抱いて、二人の恋は雪空に加熱していく。
 まだ半分も残っているのに交際成立!
 極音速でブッちぎる、超絶ピュアラブロマンスの第6話である。

 いやー……びっくりしたねおめでとう。
 桜志くんが外堀埋めている間に、ノータイムで本丸をかっさらいに行った逸臣さんの行動主義の勝利ではあるのだが、雪ちゃんが幸せそうだし必然の決着ではある。
 指先に宿った心に唇が触れ、『もう行く所まで行こう”こたえ”は出てる!』と思ったら仕事が入り海外に行くことになり『行かないんかいッ!』……と思わせておいて、溢れる思いで一気に寄り切り、あれよあれよと二人の関係は新たな局面へ。
 豊かに描かれ膨らんでいくときめきの描線に、気持ちよく翻弄される快楽を楽しませもらいつつ、無駄な足踏み一切無用と走り抜けていく、勢いとスピード感を堪能した。
 他の人(例えば桜志くん)がやれば無遠慮な踏み込みとなる所を、むしろ己から求めて引き寄せ触れてもらうような間柄……見えない心聞こえない声にやきもきもしつつ、一番大事なお互いの心を真っ直ぐ確かめ合うことで、収まるべき所へドラマが収まったと感じれた。

 

 凄い早い展開なのだが、置いてけぼりにされた感じがなく心から祝福出来るのは、やっぱ逸臣さんを特別に求める雪ちゃんの心と、それに噛み合う逸臣さんの思いを、丁寧に描いてきた結果なんだと思う。
 雪ちゃんにとってそうであるように、逸臣さんが何考えているかは魅力的なミステリとして提示され、親友として一番間近に知ってるはずの店長がヤキモキすることで、解りきらない面白さが加速もされていた。
  しかし”ぜんぶ”が”こたえ”なんだと分かってしまったこの局面、逸臣さんが雪ちゃんを見つめ求める気持ちがどういうモノなのか、繊細な表現に重ねてしっかり答え合わせがされて、その情熱と誠実さにふれることが出来た。

 ヌボーっと掴みどころがない自由人が、透明で美しい心の器を見て、触れて、見守りたいと願った気持ちそのままに、真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
 そこにはろう者を”身近な異国”として玩弄する興味本位はなく、分かって欲しいし分かりたいと真剣に願う心意気がある。
 同じ思いに突き動かされて、見知らぬ言語を学び街に身を置く生き方を選んでいる彼にとって、雪ちゃんに伝わる言葉を学び取って、分かって欲しいことを直接伝えるのは、特別で大事なことだ。
 その意味も熱も、損なわれることなく雪ちゃんにしっかり伝わっているから……伝わるように正しいやり方を選んでいるから、二人の恋は最短距離で”こたえ”に突き進んでいく。
 恋愛劇につきもののすれ違いや衝突の気配を、群像の中に薫らせていた物語がクール半ばにして選び取った、意外だがこれしかない一つの決着。
 甘くて熱くて、とても良かったです。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第6話より引用

 というわけで雪ちゃんも思わず貧血クラクラな、スーパーロマンティックの嵐が吹き荒れた先週から引き続き、恋の駆け引きはいよいよ爆発寸前である。
 ”駆け引き”って書いたけども、片やスーパー箱入り純粋娘、片や顔面特性自由人、駆け引きするほど人間濁っていないというか、進む方向はいつでも真っ直ぐというか。
 それでも思いが伝えきれないもどかしさ、伝わらない難しさをろう者のコミュニケーションに重ねて描いてきたお話なのだが、逸臣さんからの歩み寄りもあって、二人の答えは既に出てしまった。
 他の人には踏み込まれたくない苦しみとか、触られたくない柔らかな部分まで、手を触れ抱きしめても良い……むしろそうして欲しいと思えるような、特別な間柄。
 そこに至ってしまえば、行き着く所は一つしかない……わけだが、いいタイミングで仕事が入って一旦水入り、である。

 『終わる……終わっちまうッ!』と、モニタの向こう側でハァハァ息を荒げている隣で、桜志くんはノンビリお母さん相手に好感度を稼いで、『良い幼馴染』で足踏みしていた。
 悪いやつじゃあない……ただ、あまりにも競り合う相手が強すぎた。
 出会ってからの時間の長さでも、手話というコミュニケーションメディアの有無でもなく、心惹かれた気持ちに突き動かされるまま真っ直ぐ踏み込み、雪ちゃんが欲しかった景色を見せてあげれる勢いの良さが、逸臣さんを特別な場所まで押し上げていく。
 ずーっと桜志くんがなんで選ばれないのか、丁寧に積み上げてきたアニメがレース最終盤、恋の片鱗で立ち止まる落ち着きを描いてとどめを刺していくのは、美麗なる残酷が過ぎて大変に良い。
 ここで立ち止まらない自由さがあるから、雪ちゃんは逸臣さんに自分が羽ばたける空を見たし、その期待を裏切らず爽やかな風を吹かせ続けたから、逸臣さんは雪の真ん中へと飛び上がっていくのだ。
 芦沖桜志……お前がこれから這いずる選ばれなかった者たちの地平を、このお話がどう書くかは俺ほんとに期待してるからね……。

 そんな風に桜志くんを置き去りにしていく、逸臣さんの燃え盛る純情。
 静かで分かりにくいその内面に、切り込むのはやはりマブダチってわけで、美しすぎる店内で『何故、あの子なのか』を語る場面、大変いい。
 ド直球の心情ロマン演出と、抽象へとクッションをかけた表現を変幻自在に使いこなす技量がこのアニメにはあるが、逸臣さんが惹かれた透明で美しい器を、洗いたてのグラスに重ねて描く筆致は、美しく冴えて素晴らしい。
 桜志くんのちょっかいに見せていた暗い濁りも、もちろん雪ちゃんにはあるのだが、そういう人間味もひっくるめてめっちゃピュアで綺麗な心根に、惹かれ見つめ触れたいと願う自分の気持ちに、逸臣さんは結構素直だ。
 自然体で欲張りというか、欲しい物があるなら迷わず突っ走ってしまう思い切りの良さは、外国を訪れるフットワークの軽さを支える、彼の根本なのだろう。
 長い付き合いも思わず赤面してしまう、純粋で強い気持ちを雪ちゃんに対して持っていると解って、見ている僕も安心した。
 透明度高くてピュアな綺麗さだけではなく、何もかも押しのけても手を伸ばしたくなる強い熱がロマンスには欲しくなるわけで、そういうモンを逸臣さんがちゃんと持ってると、分かって勝負に備えられるのはありがたい。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第6話より引用

 というわけで物語が一つの決着へと至る、決戦の闘技場はオレンジと青に彩られて、大変に美しい。
 音楽から撮影まで、アニメの全領域がめちゃくちゃ良い作品なんだが、美術と色彩が冴えに冴えているのは本当に強いなぁ、と感じる。
 冬空の寒さと、それを包む暖かさが凄く上手く表現されていて、お互いの関係性を決定的に変えてしまう、幸せな爆弾が二人に落ちてくる瞬間の幸せと緊張感を、しっかり教えてくれる。
 作画クオリティ的にも、ドラマのテンションとしても大勝負な今回、みなぎる気合が画面から溢れ、力強く胸を叩いてくるのはありがたい。

 表情から内面を良く読み取れない、しかしたしかに心惹かれる、ハンサムでミステリアスな青年。
 逸臣さんは雪ちゃんを惹きつけ、話を牽引するに足りる一つの謎として描かれ続け、だからこそ自分が何を考えているか、なかなか語らなかった。
 前回出た”こたえ”を恋人たちの真実として射抜く今回、彼が結構計算ずくでこの場を用意し、雪ちゃんが自分を見るタイミングを測って思いを伝えていることが、ようやく暴かれていく。
 彼の内面が明確に描かれるのがこのタイミングなのは、分かりたいけど分からない、分からないけどなお知りたい、甘異矛盾こそが人と人を引き付け恋を生む、普遍的なロジック故なのだと思う。
 ペラペラ分かりやすく全部明かされてしまったら、先を読みたくなる心地よい疼きは作品に宿らないだろうし、適切に隠すべきを隠し、追いかけたくなる魅力をそこから覗かせるバランス感覚あってこそ、恋物語は魅力を増す。
 そんなふうに精妙に進展してきた物語が、逸臣さんの真情を覆い隠す必要をもはや投げ捨て、一つのゴールに辿り着くからこその、甘やかな謎解き。
 ここまで見届けたからこその、物語の醍醐味であろう。

 

 逸臣さんというミステリと同じくらい、気を配って積み上げられてきた表現として、ろう者である雪ちゃんがどのように言葉を受け取り、発し、心と心を繋げるか……その特殊性と普遍性があると思う。
 音声言語を聞き取れないハンディが、彼女を『可哀想な弱者』としないためにこのお話は相当に気を配って、当たり前に幸せそうな大学デビューに弾む日々を、メッセージアプリや筆記や手話を通じて”話す”彼女を、描き続けてきた。
 手話を綴る指先に人柄が滲み、聞こえぬからこその不便と難しさもあり、特別で当たり前の景色の中で、雪ちゃんが何を聞き何を感じているのか、しっかり伝えてくれた。
 そこに踏み込んで伝えたいと、思ったからこそ逸臣さんは手話を教えてもらい、そこを乗り越えて自分の真意を乗せれる言葉を学び、寒空に手渡す。
 ずっと欲しかった一言を貰って、彼女にとっての”耳”である視界が滲み、言葉がなかなか読み取れなくなる演出は、このお話だけが作れる優れた感情表現だろう。

 その幸せな潤みを、越えて繋がれる掌の暖かさは、雪降り注ぐ寒さの表現が上手いからこそ、見ている僕らに臨場感を宿して伝わる。
 冬を舞台にしている意味が、主人公の名前……そこに宿る透明度の高いイメージだけでなく、しっかり生きた表現だと感じる。
 今恋人となった二人を照らすオレンジの光の暖かさ、通い合う視線の輝き。
 描くべきものから一切逃げず、全力を尽くして描き切る真っ直ぐな力強さが、このアニメの良さだと僕は感じているわけだが、ドラマが最高潮へと駆け上がるこの勝負所で、それを一切怠けずぶん回してくれて、最高に良かった。
 おめでとう……本当におめでとう。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第6話より引用

 こういう力んだ勝負の演出のあとに、ふわ~っと柔らかく可愛らしい”抜き”をしっかり出来てるのが、心地よい緩急を生んでもいる。
 圧倒的に美しい、電柱からの雪景色と同じくらい、かわいいかわいいSD作画が俺は本当に好きで、毎週見させてもらってありがたい限りである。
 我が事のように唐突なカップル成立を喜び、もちもちほっぺを寄せてくるりんちゃんはめっちゃ可愛くて、『キミも幸せになってね!』って気持ちになるいいキャラだ。
 そんな彼女をちょいとからかい、気を利かせる心くんはエマちゃんの相手してるときに比べてめっちゃクールで、逆にどれだけ彼女が特別なのか、どんどん傍証が積み上がっていく感じ。
 恋人たち(いつか、恋人になるだろう人たち含む)を照らす暖かな光が、街に消えていく心くんの背中からは遠く、画面全体がとても冷たく見える表現が、クールに冴えている。
 桜志くんもそうだけど、サブキャラの書き方がいちいち鋭いことで、話の真ん中に立ってる主役の輪郭が心地よく鮮明になっていくのは、上手くて強い筆致だなぁ。

 晴れて恋人となった二人の距離感は、今までと変わらず緊密で、じんわりと現実が追いついてきてひどく熱い。
 ろう者である雪ちゃんが他者の声を聞くメディアとして、大事な仕事をしている(から、タイトルにもなっている)”ゆびさき”をどう描くか、このアニメは常に考えているわけだが、固く握りしめられて握り返す、闇夜の掌にどんな想いが宿るのか……しっかりと伝わっても来る。
 言葉よりも雄弁に思いを伝えるべく伸ばす指先には、聴覚の有無は関係なく鋭いメッセージ性があり、そういう透明で熱い気持ちこそが、色んなモノを乗り越えて人を繋ぐのだろう。
 恋愛という形を選んではいるが、より広範で普遍的なコミュニケーションのお話だなぁと、時折思わされるアニメだ。

 イケメンの真心爆弾を正面から投げつけられて、びっくりしちゃった雪ちゃんが調子を取り戻し、幸せになった今を噛み締めてのちょっと戯けた仕草も可愛い。
 こんなにかわいい子が彼女になっちゃって、逸臣さんも我が世の春と当然浮かれるわなぁ……。
 雪ちゃんがめっちゃ可愛くて素敵な子で、『幸せになって欲しいなぁ……』と素直に思える魅力を持っているのは、このお話の大きな強さだと思う。
 あまりにも純粋で危なっかしくもあるのだが、ステンドグラスで飾られた優しい檻から出た直後に、濁った下心一切なしのスーパーピュアボーイに出会ってしまった結果、人生のノイズほぼ知らぬままHappy Loveに着弾という……あまりにも……羨ましい……。
 妬ましさを心の奥から引っ張り出そうにも、お互いを求め重なる心があんまり丁寧に描かれたので、なるようになった安堵感と幸せを祈る気持ちばかりが溢れてくるのは、大変幸せな物語体験である。

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第6話より引用

 ……というもの分かりの良い幸せで話が終わらず、もっともっとと強く求める気持ちを、それが不快なく求め合う重なりを、美しくも激しく描くのも、このアニメの得意である。
 声をかけても届かない、恋人となった少女に己の気持ちを伝えるために、乱雑ですらある力強さで背後から伸ばされた、不意打ちの抱擁。
 そこに宿る雄々しい力強さを、ドアにカメラ埋め込んで表現する演出に『村野佑太……あまりにも天才……』となったけども。
 例えばこれを桜志くんがやったら、即NGの危険行為なわけだが、雪ちゃんはこんだけ強く逸臣さんが自分を求めてくれることを、その”すべて”を、心地よく受け入れ、回された手にすがりつく。
 相手を受け入れ、引き寄せ、抱きとめる仕草に宿った、言葉にならないたくさんの言葉。
 フィジカルで原始的ですらある指先のシニフィエが、どれだけ繊細な表情を持っているかを丁寧に書ききってくれる表現力が、やはり素晴らしい。

 『ここまで来たなら行けや! ……行かんのかい……やっぱ行くんかい! そんなに行くんかいッ!!』と、こっちの予測を気持ちよく裏切るスピード感と勢いが良いアニメなんだが、待ちに待ったカップル成立と幸福な帰り道で終わらず、いつもクールな逸臣さんが雪ちゃんにだけ見せる、身勝手な炎を切り取って終わるのも、そんなレトリックの一つかと思う。
 自分が知らに世界を自在に羽ばたく、でも豊かな気遣いで自分をわかってくれる。
 逸臣さんが”大人”であることに雪ちゃんは惹かれたわけだが、そんな彼が大人びた分別を投げ捨てて、もっと近く離れがたく求めてしまう特別さが、二人を繋げてもいる。
 自分を規定してる”らしさ”を投げ捨て、似合わぬ振る舞いをむしろ必然だと思わせてくるような、激しく湧き上がる想い。
 それこそがロマンス最良の燃料であり、逸臣さんにこそそれが強く宿っているのだと、教えてくれる話運びは凄く良い。
 燃えて揺れてるぜ……美貌のクールガイがよ。
 そういうのホント好きなので、逸臣さんにはどんどん雪ちゃんに狂っていって、スーパーハッピーカップルとしてドンドコ幸せになっていってほしいです。

 

 

 というわけで、ゆびさきと恋々第一部完ッ! という感じの、中盤の山場でした。
 冴え渡る繊細な表現力、力強く描かれる情熱と絆。
 勝負回に相応しいクオリティと熱量で、やり切るべき描写をしっかりやり切ってくれて、大変良かったです。
 いやー……やっぱ強いわ、このアニメ。

 かくして凄まじい勢いで運命の至るべき場所へとたどり着いた、恋の物語。
 雪ちゃんにも逸臣さんにも、報われることのない想いを寄せている人たちがいて、その人達の周りにもまた、彼らを愛する人がいる。
 作品が描くものが大きく広がっていきそうな状況を、この優れたアニメがどう乗りこなしていくのか。
 後半戦も、大変楽しみです。