イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第24話『完璧な複製体』感想

 水鏡の悪魔が映し出すのは、群像それぞれの実力と生き方。
 迷宮最深部へと続く道に立ちふさがる魔王攻略の糸口を探る、フリーレンアニメ第24話である。

 今回は最強の英雄攻略の前座というか、色んな前提条件を各パーティスケッチしながら削り出していく感じのお話。
 ドラマとしての手触りは軽めだが、アクションの作画に気合い入りまくりなのでアニメとしてのカロリーは高いという、なかなか面白い作りだった。
 不可視の刃が飛び交うユーベル同士の至近距離戦、監督役の実力を見せつけるゼンゼの髪魔術と、フリーレンに焦点を絞った展開では見れなかったバトル描写が味わえるのは、群像ひしめく魔術師試験だからこそか。
 複製体という、殺しても後腐れないコピーを相手取ることで人間VS人間の魔術戦を描けるの、逆にここまでの旅路でどんだけ、フリーレンが人間社会の厄介事から距離を置き、魔族殺し一本に魔法の使い道を絞っていたか分かる感じで、結構好きだ。
 永生者だからこその達観した距離感なんだが、フェルンの育ち方とか、デンケンやヴィアベルの生き方を見ていると、魔術師本来の生き方はそういう仙人めいた、あるいはスーパーヒーローめいたもんなんだろうな、って感じがする。
 超俗の理想を体現しちゃってるフリーレンも、それに憧れつつ傭兵なり宮廷魔術師なり、人間のカルマと取っ組み合って生き延びてきた連中も、俺は両方好きだ。

 

 

 

 

画像は”葬送のフリーレン”第24話から引用

 勝ったり負けたり、極めて厄介な複製体を相手に色んな人たちが自分たちなりの戦いを刻むわけだが、一次試験で濃かった所が補強されたり、薄かったキャラに見せ場があったり、横幅の広い回だった。
 他者への共感性がない(からこそ、自分と似通った存在が細切れ肉になる想像を魔法に変えれる)ユーベル。
 彼女がミラーマッチを制する鍵が、興味を持ったラントをよく観察した結果生まれたハメ手なのは、なかなかに面白い。
 ダンジョンの幾何学的構造、人工的な直線を活かして、二人を切り取るレイアウトは徹底的にその分断を強調してくるが、生来の殺戮者なりの興味は確かにあって、それが心なき自分を倒す決め手になってくる。

 隣り合い、近寄り、膝を曲げ。
 ユーベルはラントにだけは真っ直ぐな縦線を乗り越えて、身を寄せる何かを感じているわけだが、ラント自身も死が絶対的な終わりにならない非人間性を持っていて、殺戮者の共感を跳ね除けもする。
 二人の間には確かに深い溝があり、それは光と水に満ちて、ぴょんと飛び越えられまた離れていく。
 バキバキにキマったレイアウトが頻発し、真っ当な人間らしさからは縁遠い二人がそれでも、この異常な試験の中で心の距離を縮めていく様子が、上手く可視化される回だった。
 これがどういう実りをするのか……なんかあったけぇドラマがあって、『人間になってよかったね!』ではまとまらなそうな、ある種の臭みを残しているのがなかなかに面白い。

 

 心のある無しを問題にせず(出来ず)、怜悧な計算だけで勝ちに行くユーベルに対して、精神操作術以外決め手を持たないエーデルはそれで勝負に出て、複製体の特性に阻まれる。
 心。
 不確かながら確かにそこにあり、人間の弱点にも武器にもなりうるものの有無が、コピーとオリジナルを分ける決定的な違いだ。
 玄室への道を塞ぐ魔王相手に、老練なるデンケンが絞り出した勝ち筋は拘束……あるいは精神操作なわけだが、後者が通用しない説明代わりにぶっ飛ばされたエーデルはご愁傷さまである。
 まぁ精神操作で決着がつく戦いは、アウラ相手にこれ以上無いほど描ききったので、同ネタで押せない……て事情もあるか。

 試験には全く関係ない壁画を見て心が潤ったり、いい匂いするデカ女にムッとしてる魔王の愛弟子が、彼女のリタイアを活かした良い勝ち方見せてくれることを祈ろう。
 他の場面はコピー相手に緊迫した戦いしてんのに、主役師弟+監査役は古代遺跡堪能してイチャイチャブッこいてるの、人生の不公平が垣間見えてなかなか面白かった。
 政治も戦いも、効率的にやるしか無い生き残る術がない凡人共が、石投げたり花硬くしたり小細工弄している裏で、ただただMPと火力跳ねさせて力で押し切る戦い方極めてきた連中のチートっぷりが、パーティ外部から観測されてる感じ。
 フリーレンとフェルンが仲良しな所も、たっぷり接種できたしね!(フリフェルが仲いい描写があると、冬の寒気も乗り越えられるマン)

 

 あと『俺は他人なんてなんにも思わねぇ、氷の心を持つ男だぜェ!』みたいな面して登場したヴィアベルおじさんが、歴戦の小隊指揮官っぷりを発揮して”心”あればこその強さを見せていたの、大変良かった。
 下らない約束を胸に抱いて、必要な殺しを全てやり遂げてきた男が戦場で身につけた、1+1を2以上にする魔法。
 どんな状況でも生き残り、勝ち切る泥臭い強さは、俗世の塵から距離をおいてきたフリーレントは真逆であり、根っこでは繋がってもいる。
 思えばユーベルと対峙したときから、目の前にいる相手の心根を良く見て対応を考える人だったわけで、個人の力を掛け合わせなきゃ突破できないこの状況、水を得た魚だよね。

 1の力を2にも3にも増幅しうる、ヴィアベルの智謀と観察力が、10の力で全てをなぎ倒すフリーレンを前にしてどう牙を突き立てたか、見てみたい気持ちもある。
 しかし英雄殺しの方策は、その愛弟子に委ねられた感じだ。
 主役が預かり知らぬ舞台裏で、ひっそり犠牲になったエーデルが出してくれた結論……『精神魔法効果無し』が、歴戦のフリーレンには”前提”なのがまー、このお話らしい無情ではある。
 さて、フェルンが差し出すフリーレン攻略法とは、一体どんなものか。
 次回二次試験クライマックス、楽しみですね!