イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うる星やつら:第32話『扉を開けて 後編/涙の家庭訪問 禁じられた三宅家編』感想

 無限の可能性を秘めた扉を巡る、不思議な冒険の果てにたどり着いたのは、仲間が一人増えたいつもの友引町。
 SFマインドと豊かなイマジネーションが綾なす、奇妙奇天烈なモラトリアム・チェイスを描く令和うる星第32話である。

 新キャラ因幡くんを起爆剤に、ラムとあたるの関係性、そこから結果的に宙ぶらりんにはみ出す形になってしまったしのぶを掘り下げていく、長編エピソード完結となった。
 三角関係を維持するにはしのぶからあたるへの矢印が薄く、コミカルに怪力をぶん回す”いい友達”になっていたしのぶが、因幡くんというチャーミングな青年をヒロインに据えることで、淡い恋色に自分の物語を染め直す手付きが良かった。
 終盤凄い勢いで時空系泣きゲーのヒロインみたいな動きを積み重ね、一気にしのぶの隣に腰を据えた因幡くんの立ち回りも良かったが、『運命と決断』という青年期の一大事を、をとってもるーみっくな味わいであくまでコミカルに、永遠のモラトリアムを壊さないように削り出していく筆致は、作品の中核に何があるのか、第3クール最終盤に明瞭に示してくれた。

 都合の良いハーレム幻想をドデカハンマーで殴り飛ばし、その身が炎に焼かれてもラムが隣りにいる未来を死守しようとするあたるが、ずっと探し求めていた未来、彼だけの花嫁を見つけた時の表情は、この長編で一番いい顔だった。
 ああいうピュアな顔を見せるからラムも俺もダーリンに夢中であるが、浮気性でちゃらんぽらんな普段の仮面を引っ剥がし、自分にとって何が大事で何を守りたいのか、珍しくマジなあたるを掘り出すためには、数多の可能性を股にかける一大冒険絵巻が必要だったのだろう。
 基本的にはラムがあたるを健気に追う構図で進むこのお話、どっかであたるがラムの献身に報いる描写がないと彼を好きになりきれないわけで、令和うる星ではかなり多めに(そして的確に)、あたるの純情な側面が解るエピソードを選んで編じていると感じる。
 第5話”君待てども…”、第10話”君去りし後”、第22話”大ビン小ビン”、あるいは第29話”ラムちゃん、ウシになる”。
 いい加減で何事にも真剣にならない、人生の猶予期間真っ只中なあたるがラムの危機にはどんだけマジな顔で繊細な少年らしさをむき出しに、楽しい日々の終わりに抗おうとするかを、令和のうる星はかなり強く描いてきた。
 今回あたるが見せた炎の意思もその一つなわけだが、因幡くんが持ってきた可能性を可視化するSF的ギミックを鏡にすることで、どんな未来が気に食わなくて、望み通りだと思っていたハーレムは情けなさ過ぎて認められなくて、じゃあ何が一番大事か、ゴリゴリ削り出して説得力出していたのは、カタルシスがあって良かった。
 やっぱ俺は、なんだかんだラムにはマジなダーリンが好きだからさ……。

 

 因幡くんの親切であたる達は数多の可能性を覗き込み、自分が望む未来をその手で作るチャンスを得る。
 ガラス工房のような運命制作工場、無数の扉が浮遊する因果地平へ”墜ちて、潜る”仕草など、ちょっとシュールで可愛くファンシーな描写が、後に定番化するパラレルワールド物語の描線に、うる星らしい独自性を与えている。
 『未来が選ばれる/閉ざされる』というテーマは重く描こうとすれば、いくらでも重くなる題材だと思うし、そういうシリアスさをかすかに混入させてマジな願いを暴くための道具立てだとも思うのがだ、あくまで今回の度はドタバタと楽しく、明るくコミカルだ。
 結局選び取り帰っていく場所が『いつもの友引町』である以上、そういううる星テイストを崩さないのはとても大事だし、『やっぱあのドタバタは楽しいもんだなぁ……』と思えればこそ、あたる達の帰還(それを後押ししてくれる因幡くんの犠牲)にはホッと安心もする。

 軽い味わいを選んでいるから真芯を捉えた描写がないかというと、もちろんそんな事はない。
 ハーレムを求めてラムを不幸にした自分を殴り飛ばし、あんだけ求めていたはずの未来を自分の手で閉ざしたあたるは、たしかに何か一つ、とても大事なものを見届け選んでいる。
 何が自分の夢か。
 恋のライバル立ち位置から幸福にドロップアウトしていたしのぶは、扉を探す中で自分に問いただし、学生服を脱いで少し年を取って、でも恋の決着が先延ばしにされた新たなモラトリアムを夢に定める。
 それはとてもスタンダードな青年期の問いかけを、極めてこのお話らしい不思議で楽しい冒険の中で問いただし、終わらない狂騒の中に閉じ込められることを宿命付けられている子ども達を、物語が幕を閉じた後の可能性を探る旅へ誘う。
 そうやって、止まった時の中で永遠を踊り続けているキャラクター達に、人が生きておとなになってしまう遠い必然を近づけてあげれるよう、こういうエピソードを長尺で手渡すのは、僕はすごく大事で良いことだと思う。

 

 しのぶが世界で一番愛しいものと選び取った、今まで通りの友引町。
 その引力は他ならぬしのぶ自身を捉え、ラブコメディの相手役という初期属性を剥奪して、あやふやで不確かで心地よい場所へと追いやった。
 面堂も交え、ワイワイ騒がしくも楽しく過ごす日々は僕らが見ていても幸せなものだったが、しのぶ自身何もかもがハッキリしないあの時間が、とても好きだったのだ。
 そんな彼女の中の真実を確かめさせつつ、因幡くんという素敵な青年が新たに迷い込むことで、しのぶは恋ができる少女としてのアイデンティティを取り戻し、彼のために泣き彼のために微笑む。
 それはあたると恋愛関係になりうる可能性をほぼ完全に葬り、新しい相手とラブコメするリスタートなのだが、ここまで32話積み上げてきた物語が強く、そういう新生を祝福しているようにも思う。
 こういう形に話が転がっちゃうと、ラムと牽制し合いながらあたるを取り合うってルートにしのぶを乗せるの、もう無理だからな。
 (ここら辺の変遷を踏まえた上で、次作となる”らんま1/2”では許嫁設定を多角的に活かし、かわいくねぇ色気がねぇおまけに素直じゃねぇ相手とツンツン距離感を図ったり、猛烈にアタックしてくるライバルを複数用意したのかな……などとも考えるわけだが、もちろん余談である)

 あたるが彼の青い鳥を見つけ、そのために身を焦がして可能性を守ったように、しのぶもこの騒々しい旅の中で自分の中にある一番大事にしたいものを見つけ、新しい可能性への扉を開く。
 結婚とか就職とか、分かり易い成熟のアイコンを扉の向こう側から持ってくるのではなく、因幡くんという新しいキャラクターが友引町にやってきて、しのぶの微かな恋心が新たな芽吹きを始める事でエピソードが収まるのも、僕はとても好きだ。
 不定形だからこそ力強く脈打つ、青年たちの未来の前で延々足踏みを続けるこの物語であるけど、それが閉鎖され腐敗していく閉じた理想郷にならないように、物語的な新陳代謝へ挑戦する姿勢があればこそ、終わらない狂騒には活力が宿る。
 あたるが幾度目か気付いたラムへの思いは、また話が回った先で華やかに咲き誇るだろうし、パラレルワールドを巡る大冒険の果てに掴み取った、新しい友達との微かな慕情もまた、なかったことにはならないだろう。
 そういう風に、慣れ親しんだ『いつものうる星』に慎重に新しい風を吹かせ、”らしい”楽しさを維持したまま作品とキャラクターを活かし続けようと頑張ってくれているのが、やっぱり好きだ。
 可能性の扉という形で、永遠の日常を生きるあたる達にも未来があって、それは彼らの決断と意思で変えていけるものだと示してくれたのは、子どもを主役とするから明るく元気なこのお話が、背筋を伸ばして自分と向き合う上でかなり大事なことだと思う。
 普通のラブコメなら学内行事とかと絡めて展開するだろう自己との対峙、望ましい世界の選択が、こういうSFテイスト満載の奇妙で素敵なお話にまとまるのも、この物語の持つチャーミングだろうしね。

 

 というわけで、終わらない日常のちょっと先にある世界を、少し覗き込んでお家に返ってくる回でした。
 メチャクチャ超越的なことをやっとるんだけども、兎の顔をした運命神をハンマーで殴るわ電撃ぶち込むわ、いつもどおりの超暴力で対峙している所とか、そんだけ元気に走り回って手に入れたのは新しい仲間一人って慎ましさとか、やっぱ好きだわこの話。
 友引町の引力はいつもの喧騒の中にあたる達を飲み込んでいきますが、それでも未来への可能性を閉じきらず誠実に扉を開けているからこそ、終わらないモラトリアムが心地よい。
 そういう作品の背骨を、強く感じられるエピソードでもありました。
 大変面白かったです、次回も楽しみッ!