イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第26話『魔法の高み』感想

 最強の大魔道士を相手取るフリーレンとフェルンを支援するべく、デンケン達は玄室に集い来る複製体達を相手取る。
 隣に立つ誰かを信じ、それぞれの強さで相手の弱みを射抜く。
 激戦に人間の証明が眩い、葬送のフリーレン第26話である。

 

 つーわけで鏡写しの大魔導決戦、久々のアクション作画大暴れ回である。
 アニメになってみると、魔族相手には振るう機会がなかった美しき殺し芸をフリーレンが山程蓄えてて、自分を追い込める強敵以外には使うまでもなかった事実に、良い作画が鋭い迫力を与えていた。
 魔王打倒からたかだか100年、人間どもが権力闘争の中で積み上げた対人魔術から距離を取りつつ、自分と同等の怪物を相手取る時はそこを遥かに飛び越えた摩訶不思議で可憐な殺戮技芸を振り回せる、フリーレンの底知れなさ。
 彼女の秘められた強さが表に出てくると、魔王打倒の偉業とそれを共に成した仲間たちの株も上がるので、アニメで気合い入れてフリーレンのみ到達可能な闘争の高みを描いてくれたのは、大変良かった。
 平和主義に殺意を錆びつかせて実戦で『使えないの』と、そのつもりもないし機会もないから研ぎ澄まされた技を『使わないの』じゃ、強キャラとしての格が全然違うからなー……。
 試験の中で描かれた、デンケン達常人が必死こいて積み上げた多彩な技を遥かに上回る、不可思議で迫力ある破壊が複製フリーレン戦に踊っていたのは、強さの説得力を”動く絵”で支えていて、大変アニメらしい演出だった。

 フリーレンの凄みが際立つほどに、あの破壊の大嵐の中何とか生き延び、複製体を仕留める決定的な隙を作り出したフェルンの格も上がっていく。
 同時にあわやその生命を奪いかけた師匠の隠し芸、無拍子の魔術に圧倒される姿は、まだまだ大魔道士の高みには遠いことを教えてもくれる。
 生きるか死ぬかの瀬戸際で、フリーレンが絶対に自分を守りきり勝ってくれることを信じながら、目の当たりにした魔術の粋に当然としているのは、なかなかイカレてて良かった。
 ゼンゼを圧倒したユーベルが示すように、魔法使いの強さは思い込む強さであり、不可能をねじ伏せるある種の狂気が、強者にはつきまとう。
 『魔族のいない世界』を信じ切って実際に引き寄せたフリーレンの夢が、今回描かれた多種多様な破壊の技によって支えられ、『何でも壊せるがめったに壊さない』という超然とした精神性でもって、ミミックに食われたり義娘に甘えたりしていることも分かった。
 あそこでうっとりと、自分を殺しかけてる大魔道士を見つめれるあたり、フェルンも結構ネジ外れてんなぁ……と思った。
 まぁ魔族に家族皆殺しにされて、常軌を逸した修行でたっぷりフリーレン式を仕込まれ、俗世の栄達に一切興味を向けず師匠の酔狂に付き合ってんだから、どっか壊れてるほうが自然よね。

 ソロで玄室への扉を封じる複製体に対し、フリーレンは最も信頼できる仲間であるフェルンと、コンビで戦う。
 お互いの命を天秤に乗せて、危うく揺らしながらも実力を信じて戦い抜き、一人で挑んでいたら生まれ得ない隙をついて勝つ姿は、デンケンが対複製体戦……というか多分彼の人生の中で選び取った、人が一人ではないからこその強さを体現している。
 生物種として共感や尊敬を持ちえず、コミュニケーションの本質に迫れない魔族に比べて、人類は……まぁ魔法を政治や戦争の道具に貶めたりもするが、一応言葉を通じ伴に戦うことができる。
 フェルンというイレギュラーを戦いの方程式にねじ込んだことで、相打ちに終わりそうなドッペルゲンガーとの戦いを、フリーレンは師弟生存で終える。
 フリーレン一人でも、フェルン一人でも勝ち得ないと、見ているだけで納得できるような超絶魔導大戦が描かれたおかげで、フリーレンの勝因がどこにあるのか、彼女たちがお互いをどれだけ信じているのかが、良く見えたのはとても良かった。
 軽口叩いてキャッキャする間柄だが、二人は命の取り合いを前提に魔術を真摯に磨く求道者でもあって、そういうシリアスで研ぎ澄まされた関係性こそが勝利の鍵になったのは、激戦にこそ映える美しい花だった。

 

 そんな死闘に水をさしかねない一級魔法使いの複製体を討ち取ったのは、殺戮に特化した三級魔法使いだった。
 『揺るがぬ信頼が生み出す勝利のイメージこそが、大魔道士にも勝ちうる最強の武器』と、フリーレン達の戦いで示す隣に、魔法学の常識を全部蹴っ飛ばして『私が切れると思ったのなら、なんだろうが切れる』を地で行くユーベルがいるの、なかなか面白い構図だった。
 ナントカと刃物は使いよう……正しい方向付が伴えばイマジネーションは無限の力を生み出すが、しかしそういう力は危険な方向にも開かれているわけで、魔術師というより超能力者のような佇まいで、我が道を行くユーベルの存在感は、独特で大きい。
 ゼンゼ撃破の異常性を際立たせるべく、撫で斬りにされたラヴィーナ達には残念なことだったが、『魔法戦は相性』という世界律を示す意味でも、かなり興味深いマッチアップだった。

 文字通り切れすぎる刃物のように、扱いが難しいユーベルのイマジネーションがこのまま、殺戮の方向に進んでいくのか、はたまた今回の試験を切っ掛けにネジ曲がっていくのか。
 一級試験を契機に、群像劇としての色合いを強めてきたお話の中でも、彼女の行く末はなかなか面白いネタだと思う。
 メガネくんに興味を持っていたり、自分と鏡合わせの殺戮者に見えて、その実不要な殺しを徹底して避けるヴィアベルと闘ったり、何か起きそうな気配は随所に転がっている……んだけども、生粋のぶっ壊れ人間なのもまた間違いなく。
 そうして壊れている精神性が尖った強さとなり、勝利を揺るがしかねない強敵をあっさり倒すのだから、魔法が実在する世界の善悪是非もなかなか、単純には割り切れないなと思う。

 変わり者ながら非常に真っ当な倫理観でもって、人相手に魔法は使わず人類の天敵ぶっ倒してきたフリーレン達だけだと、こういう捻れた価値観は表現しにくいと思うので、やっぱ一級試験でキャラ増えたのは良いことだわな。
 デンケンやヴィアベルが、魔法を人間相手に使うのが当たり前になった社会をどう生き延びてきて、何が摩耗しどんな芯が魂の奥に残っているのか描けたのも、そういう風にキャラ増やして、俗世の権勢に興味一切なしな変人以外の視点を、お話に盛り込んだおかげだろうしね。
 そういう多角的な視線を盛り込みつつ、ただただ魔法の高みを追い求めて莫大な時間を費やしてきた存在が、どれだけ恐ろしくどれだけ美しく見えるのか、フェルンの恍惚にしっかり刻んでいるのも、また良い。
 時の流れ、人の定めに押し流されて虚しくなってしまいがちな、遠くて美しい理想をそれでも追い求める良さってのを主役が背負ってるのが、僕がこのお話見てて好きだなぁと感じるところなので、偉業達成の最大功労者となったフリーレンの戦いが、魔王の如く強く、星のように眩しかったのは嬉しい。
 綺麗で遠い存在は、どっかに恐ろしさを残してくれていたほうが好きになれるね、僕は。

 

 というわけで二次試験かくして終了! やっぱ主役が一番チートだわ!! なお話でした。
 ほんわか可愛い旅の日常ばかりだと、うっかり忘れてしまいそうな魔法師弟の緊張感ある関係性が、華やかな命の取り合いの中で鮮烈に輝いていて、大変良かったです。
 力入れてアニメにしてくれてるおかげで、俺が見たい大魔道士の破壊技芸が山盛り良い作画で堪能できて、最高に良かった。
 世界最高の魔法使いってんなら、あんぐらい摩訶不思議な絵面で闘ってほしいと思っとるからな……ありがたい。

 毎度おなじみミミックオチで綺麗にサゲて、遂に一級魔法使い試験も最終局面。
 最後に待つ試練はどんなものになるのか、それをアニメがどう描くか。
 次回も楽しみです!