イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

外科医エリーゼ:第12話『道』感想

 人生三回目の転生令嬢よ……迫りくる死の恐怖を越え、難病に立ち向かえ!
 チート知識と骨太な生き様でもって、かつて間違えた人生を新たに生き直す物語、外科医エリーゼアニメ最終話である。

 医師試験をフィナーレに持ってきて、全体としてはまだまだ続くけどキッチリ難局を乗り越えた満足度がある終わり方で、大変良かったです。
 『さんざん手術チート見せつけてきたし、フツーに難試験通ってもなぁ……』って状況だったけど、皇帝陛下を襲った正体不明の難病、愛しい人に降りかかる疑惑、迫りくる恐怖の白刃と、ガンガンに脅威度上げてクライマックス感をしっかり出した結果、納得いくフィニッシュになった。
  っっぱエリーゼさんのお話が幕を閉じるなら、こんぐらいのハッタリとワッショイはぶちかましてもらわねーと困るぜ!
 ……いやマジ、最後の最後までいかにエリーゼが凄いことしているのか、徹底的に口で喋り周りがビックリしながら持ち上げていて、ジャンルのプロトコルがどんなもんかを、門外漢に良く教えてくれる作品だった。
 『こういうのもアリだなー』と思えたのはやっぱ、ワッショイどころが”医療”であり、誰かを助けて世に認められていくという素直な構造、それにふさわしいキャラ造形が、僕と相性良かったんだろうね。

 

 というわけで前回衝撃のヒキ、ロクでもない貴族派が白刃ぶら下げて襲いかかってくる流れは、その首魁が白馬の王子役を買って出て解決された。
 最終エピソードに当たり急速な治安悪化が見られたこのお話、ミハイル殿下戦場仕込の殺人技術が図抜けて高く、息をするようにスムーズに人命奪える様子を、かなり気合の入ったアクションで描写してくれた。
 ぶっちゃけヌルい展開も多かったお話が、最後の最後に鳩尾に西洋剣ぶっ刺す描写を全力で叩きつけてきて面食らいもしたが、まーそんくらいロクでもない話だってのもちゃんと描いてきたので、異物感というより意外な面白さであった。
 末端の暴走を抑えられないくらい、貴族派も一致団結というわけではなく、腹違いとは言え兄弟を引き裂いて対立している情勢も、そこに付け入る隙を見出しどうにかなるかも……くらいの収め方。
 リンデン様との恋路と合わせて、帝国を二分する不安要素も未来に引き継ぎ未解決ではあるが、この『どうにかなるか……』感があるおかげで、納得しつつ幕引きを受け入れられた。

 1クールで語り切るには大部な原作なんだと思うし、最初っから資格試験突破までを見据えて話を編まないとこういう作りにはならないだろうけど、見定めた分のネタはしっかり書ききり、エリーゼを取り巻く諸課題、それを越えていける可能性をちゃんと書いて、いい塩梅に収まった感じ。
 そもそも皇国の内部対立がメイン課題にならないよう、エリーゼ個人の問題にフォーカスしながら話を勧めてきた感じがあり、その上で最後にふさわしい大ネタとして今回引っ張ってきた形なので、ここら辺の調整は巧かったと思う。
 エリーゼ自身が言っていたように、全然まだまだ道は続く幕引きになったわけで、デカい課題に齧りついたところで終わるのは、そこにちゃんと歯が立つ手応えを描いてくれた所含めて、今まで積み上げてきたものに嘘のない幕引きだった。
 医者としての修行、人間としての艱難辛苦は二度の前世で終わらせてきたわけで、だからこそ未だ越えたことがない大きな難問に挑み直して、三度目のベストエンドを目指していく物語の行く末を、アニメで見たい気持ちもあるけども。
 今は書けるだけを適切に選び取り、ちゃんと描ききった心地よさに感謝したい気持ちだ。

 

 つーわけで眼の前喫緊の第問題、皇帝陛下の”命”を救え!
 ”超執刀カドゥケウス”みてーな問診ミステリを時代を越えた知識でぶっ飛ばし、目視による開胸心臓手術敢行ッ!(多分人工心臓とかもあるッ!!)
 ……”異修羅”でも思ったけど、転生チートにより自然な社会発達をぶっ飛ばし、物語進行に必要な技術や物品だけを生み出す語り口、背景になっている社会がメチャクチャ歪になるので、便利だけど結構あぶねーなと思った。
 そういう所考えだすとキリないし、実りもないし本命でもないのでアタマから取り除いてはいたけども、主役の医療無双をぶっこむために結構軋んでいる部分はあって、でもまーそこ引っくるめて楽しむもんなのかな、くらいの認識。
 なにしろロングソードで殺し合いできる文明レベルなので、検査機器もそこまで超進歩しているわけではないと思うのだが、数字の裏打ちがないギャンブルに国父の命を張るエリーゼさんの侠気、やっぱハンパねーぜ……。

 そんなハチャメチャを周りに認めさせるだけの実力と実績も、この医師試験受験生たしかに持っているわけで、血栓除去……を越えて、糖尿病発症の根本原因でもあった悪性リンパ腫完全除去! 腫瘍マーカーとか調べんのでいいの!!?(その話はさっき終わった)
 ”一周目”ではなんもできんまま死なれて、要石を失った帝国が動揺した結果一族皆殺しの憂き目にもあったわけで、運命改変モノとしてもデカいイベント達成したなぁ。
 自身の疑惑を晴らし、オヤジの生命を救ってもらったリンデン陛下の好感度も既にカンスト
 お互い好き合ってるのに触れ合わないもどかしさを残して、しかしこっちも『どうにかなるかも……』という期待感を描いて、一時保留の未来に続く! となった。
 結果は分かりやすく示されていて、そこに至るまでの寄り道迷い路が面白い……という作りなので、リンデン様とどーにかなるまでの悪戦苦闘を見届けたい気持ちはあるが、それは原作で……つう話なんだろうな。
 さっきも言ったが、アニメの範疇でできる限りを、しっかりやってくれたのは大変ありがたい話ね。

 

 そんなアニメの物語を牽引する、メインエンジンになっていた王様との賭けを、エリーゼから譲る形で継続したのも、道が続いていく話が爽やかにまとまっていく上で、とても良かった。
 謙虚な生き様と誰にも何も譲らない主人公っぷりを同居させ、世俗の栄光やら表向きの勝ちやらをどーでもいいと投げ捨てつつ、人間にとっていちばん大事なものは何一つ譲らねぇ強欲を、清廉に輝かせているのが、この話で俺的に一番面白いポイントなわけだが。
 よりにもよって皇帝相手に『勝負継続ッ! 試験受かった程度で”人間”図られちゃたまんねーぜ!』と、爽やかに破天荒に突っ走る形になっていて、大変良かったです。

 やっぱエリーゼさんの人格が清らかかつパワフルで、運命に翻弄されるお姫様に見えてバリッバリに自主性と実力があり、ガンガン運命の扉を蹴り開けていくタイプなのが、見てて気持ちよかったです。
 二回の前世でさんざん辛酸を嘗め、反省も後悔も山盛り積んだ上で今生を望みのままに生ききるという、尊者の修行譚みたいなテイストが作品全体に漂っていて、やっぱ僕と相性良かったんだな……。
 オタク向けフィクションを軒並み、仏教説話に変換して飲み込む人間だからね……。

 そういうエリーゼ節に惚れ込んで最後まで見てきた人間としては、現世最高権力者にも一切物怖じせず、ただただ己の”道”をひた走る途中なのだと、眩しく描いて終わったの、大変良かったです。
 アニメ化という難行において、原作の何をどこまで描くのかはとても難しい選択だと思うのですが、アニメを契機にこの作品に触れた自分にとって、このアニメ化が選んでくれた描き方は肌にあっていたし、収まりも良かった。
 肩の力を抜き、時にツッコミ入れつつ素直に楽しめる作品を最後までやりきってくれて、とても良かったです。
 そういう、自分たちが選んだ”らしさ”を揺るがすことなく完遂してくれるお話は、やっぱり好きだ。

 

 

 というわけで、外科医エリーゼ全12話、無事完結とあいなりました。
 大変良かったです。
 正直転生ジャンルは体内に物語分解酵素が少なく、流行ってるのに食い方がわからない状態だったのですが、医療という武器を逆手に握り人間力で殴りつける、エリーゼ”三周目”の奮戦はとても面白かった。
 主役凄いと持ち上げる踏み台が、命を守り未来を生み出すポジティブなものであったり、悲恋に終わった想い人との新たなロマンスが華やかだったり、面白いなと思えるポイントが多々有りました。
 作画はスーパーリッチってわけじゃないけど、何を描きたいかはちゃんと伝わる水準をしっかり維持してくれて、要所要所では力の入った演出も見れ、総じて良かったです。
 最終話のミハイル殿下惨殺剣、冷たい殺意のある良いアクションだったなぁ……。

 全体的に善良で聡明な人たちが多く、あんまノイズなく主役がワッショイされる作りだったこと。
 作品全体を使って持ち上げられるエリーゼが、そうされるに相応しい人格を転生の中でしっかり育んでいたこと。
 主役の医療無双にフォーカスを合わせつつ、思いの外複雑な国内情勢をスパイスとして活かし、いい塩梅のコクが出ていたこと。
 面白いポイントが多岐にわたり、大変良かったです。

 真ん中辺りからエリーゼさんを、『誰も傷つけない、命を救う任侠』として見ていたきらいもあり、それは全く持って原作の素直な受容ではないと思うのですが……俺の食い方だとこうなっちゃうんだからしょーがないだろッ!
 ほんとエリーゼさんが、ドレスの似合う手弱女の外装をぶち破り、あふれる情熱と慈愛で全てを踏破していく”侠”だったのは、そういう飯しか食べれない俺にベストマッチだった……。

 とても面白く、1クールの物語を楽しませていただきました。
 早い段階から特級難易度の医師試験をゴールラインに据えて、サブキャラの魅力を掘り下げたり、特大級のアクシデントでクライマックスを飾ったりしながら、勢いを殺さず走りきれた構成、大変良かったです。
 肩の力を抜いて楽しみつつも、お話をバカにするのではなく自分なり膝を正して向き合う、ちょうどいい距離感で楽しむことが出来て、自分もありがたかったです。
 お疲れ様でした、ありがとう!!