イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第13話『炎竜3/良薬』感想

 火竜を倒し妹を蘇らせ、幸せな食卓を囲んでハッピーエンドまっしぐら。
 そんな甘い夢をぶち壊す、急転直下の狂乱の魔術師襲来。
 進むか戻るか、生きるか死ぬか。
 ベビーフェイスに分厚い人生経験を溜め込んだ、とっちゃん坊やが選ぶ道とは!?
 待ってましたのリドちゃん登場、ダンジョン飯堂々の第1クール最終回である。
 大変良かった。

 

 というわけで、三ヶ月も放送残してるのに素直に幸せになれるわけもないよねッ!
 最初の目的を果たしたからこそ迷宮と人生の深いところへ潜り、より広い視座で世界を描き出すお話が、いい塩梅に動き出すための序奏である。
 小林ゆうの好演が光る”狂乱の魔術師”シスルの底知れなさ、マジでヤバイピンチに現実主義車の顔が出るチルチャック、そんな彼に厳しく当たり真実を導く”良薬”リド姫。
 ライオスとマルシルが寝込んでいる間に、敵味方色んなやつがいるダンジョンの面白さをたっぷり煮出すような、味のある回だった。

 こっから作品は迷宮の外側に広がる世界、主役パーティー以外の人間模様に切り込み、群像劇としての面白さを深めていくわけだが、ここまで物語を牽引してきた料理と食事が引っ込み、勝手に動くドラゴンボンレスハムと得体のしれないオークの霊薬がお出しされるのも、そんな風向きを象徴しているようで面白い。
 奇妙奇天烈な”狂気”で動くダンジョンにおいては、調理したはずの食材が龍の血の池に戻ることもあるし、敵対的接触で始まった蛮族に命を助けられることもある。
 色んなことが起こるからこそ生命の危機も身近だし、『こうだ!』と決め込んだ世界や自分の形を改めて、考え直して道を変えることも出来る。
 地上の価値観では殺し合うしかない異種族と、蔑まれるオークの姫君が持つ知性と勇ましさ、優しさと美しさがチルチャックの凝り固まった価値観をほぐす今回、サブタイトルが苦い苦い”良薬”なのは良い文芸だなぁ……。

 

 お話としては呪わしき古代魔術に頼った反動か、ファリンは狂乱の魔術師に魅入られ、ライオス一行が旅の目的を果たしきっていないことが明らかになる。
 死せる火竜が背負った、ダンジョンマスターの眷属という役割に引っ張られて、ライオスの妹、大事な仲間である自分を忘れてしまうファリンの歩みが、彼女が死者の声を聞く良き霊媒であるからこそなのは、なかなか面白い。
 死を否定し狂った永遠を閉じ込めたこのダンジョンにおいて、地上とは別の死生観が世界を規定しており、死んで消え去るはずのものが意思を持ち、勝手に歩き回ることになる。
 事を終えた後のシスルの穏やかな語り口は、彼が亡霊に近しい存在であることを語っているが、しかしライオス達を死地に放り込んだその行いに反するように、物言わぬ死霊は”逆賊”を助ける。
 狂乱の魔術師と廃都の住人たちは、今は見えない関係性と歴史によって複雑に繋がっていて、プリーストであるファリンはひと足早くその声を聞き、取り込まれた……という見方もできるだろう。

 第6話で生きている絵とエンカントしたときには、意味不明な画中の挿話でしかなかった迷宮秘史は、火竜を倒すという当初の目的を果たしたからこそ、否応なくライオス達に身近なものになっていく。
 迷宮は地上で生活を営む者にとって、無限に富が湧き出る都合の良い穴としてしか見られていないが、そこには迷宮独自の歴史と価値観があって、一方的な収奪を続けられるわけではない。
 ”狂乱の魔術師”から逃れ、もう一度妹を人間に戻すために、ライオス達は再び冒険へ踏み出さなければいけないわけだが、その歩みは彼ら以外の殆どの人間が囚われているような、地上からの一方的な押し付け……古典的ハック&スラッシュにはなり得ない。
 死ねない死者達の声を聞き、秘められた王国の歴史を学び、時に命懸け、食うか食われるかの関係含めて向き合っていく必要が、今まで以上に強くなっていく。

 

 ここで死者の事情を直感できるファリンが、追い求めるべき囚われのヒロインになっているのは面白い。
 彼女が身内にいては、俗人どもが悪戦苦闘しながら迷宮と対話していく物語がショートカットされて、間違えたり悩んだりすればこそ俗人を前に進める、成長物語としての力強さが弱くなってしまうだろう。
 圧倒的な力をもつ迷宮の支配者を相手に、命懸けで立ち向かいながらライオス達は、狂乱の魔術師がどんな人物で、なぜこの迷宮が生まれたかを学んでいくことになる。
 その過程で『こうだ!』と思い込んでいた自分らしさの鎖を解いて、より自分らしい新たな自分に出会える……より善くなっていくドラマが展開されるのは、今回チルチャックが演じて見せてくれた。
 山盛りの苦労を重ね、食って食われる世の摂理を噛み締めながら、死力を尽くして冒険すればこそ、見えてくる答え、手に入る宝。
 それが黄金や名声ではないことは、1クールに及ぶ変人たちの珍妙な冒険に、しっかり刻まれているところだ。

 敵であるはずの存在と奇妙に共鳴し、自己像を反射させながら対話していく面白さ……あるいは危うさは、ファリンだけではなくマルシルにも色濃い。
 迷宮の主が操る絶大な力が、古代魔法だとその声を聞けるのは魔術師マルシルだけであり、魔術的クラッキング戦でなんとか、シスルと渡り合えるだけの能力を持っている。
 それがどこか危うさを孕んで、マルシルもまた”狂気の魔術師”になりうる可能性を見せる上で、血から生まれた魔物を倒すことで自身も血まみれになっていく描写、死地に追い込まれてヤバくなってく演出が、良く冴えていた。
 血に汚れる描写はシスルによって赤い新生を遂げるファリンも同じで、ダンジョンがもつ侵食性が仲良しコンビに長く伸びてるの、いいカプ描写だなぁと思った。(狂ったカプ厨の寝言)

 

 かくして幸せの絶頂から一挙反転、絶体絶命の奈落へと突き落とされたパーティーを、野蛮なオークが襲う!!
 ……って、ステレオタイプで転がる話では勿論なく、賢い姫騎士に率いられたオークさん達は彼らなりの利害と仁義を通し、センシが培った信頼を足場に主役一行を手助けしてくれる。
 ゾン族長の助け舟が、かなり冷徹な政治的判断を含んでいると解る所含め、モンスター扱いされているオークが独自の文化と知性を持った、隣人たりうるヒューマノイドなのだと教えてくれる。
 そういう蛮族のヒューマニティに、目を向けないのは偏見と短慮、そしてままならない現世のしがらみの結果であり、社会から切り離され遠い場所にある迷宮の中だからこそ、目の前にあるがままの姿を見れるという逆説が、今回は色濃い。
 というか、あるがままを真摯に見つめて対応しないとすぐさま死ぬ、極地だからこその智慧……って話か。

 必殺のファリンパンチでお兄ちゃんが昏倒する中、パーティー最年長の知恵モノであるチルチャックは怜悧な現実的判断を推し進め、無謀なバカに付き合って死ぬ道から自分を遠ざけようとする。
 そういうクレバーな判断でもって、世間の裏街道に半分足を突っ込みつつ、同族を守りタフに生き抜く歩みも進めてきたわけだが、その成功体験が逆に、自分の本当の望みから目を塞ぐこともある。
 賢いことと臆病なこと、優しいことと馬鹿なことは背中合わせに繋がっていて、どちらかだけが真実なのだと頑なに縛られてしまえば、大事なものを見落とす。
 そうならざるを得ないマジヤバ状況ではあるのだが、クールで洒脱な生き様が魅力なチルチャックが視野を狭め、なにかに囚われているさまは……”らしく”なくてカッコ悪いのだ。

 

 そんな彼の”良薬”として、口に苦い箴言をズブズブ突き刺してくるのが、超絶かわいいオークの姫君、俺の俺等のリドちゃんである。
 最高、マジ。
 ”ダンジョン飯”は異種族が実在するファンタジー世界を舞台にすることで、一筋縄ではいかない多様性を様々な角度から描いているわけだが、ドワーフにはドワーフの、オークにはオークの、獣人には獣人の、それぞれ素晴らしい”美”があると、最高で殴りつけてくれるのは本当に最高。
 族長の血縁として別働隊を率い、必要なだけの警戒と獰猛さを保ったまま冷静に周囲を見渡して、センシから受けた恩義と信頼に応えるよう、最初は殺そうとしていた連中を助ける判断したり。
 窮地に溢れ出したチルチャックの臆病に、心底軽蔑した表情を一度は見せつつ、心の迷宮奥深くへ分け入るような傾聴と詰問でもってその真意を探り、彼自身気づいていなかった甘っちょろい情を探り当てる聡明さだったり。
 色んなところが最高ガール過ぎて、リドちゃん(14才、人間換算20才)最高だな……ってなる回だった。
 声もスーシィだしなぁ~~~~~~~~~~~~~~。

 種族差もあって、実は人生経験豊富なおとっつぁんであるチルチャックの真実を、なかなか見れないセンシに変わって、リドちゃんはチルチャックのあるがままを見据え、探る。
 アイテムを回収するための二人旅は物理的な脅威には出来わさないが、お互いの事情を探る対話の中で心に深く分け入り、見えてきた他人や自分にどう向き合うか、真の強さを問われる一つの冒険だ。
 ここにおいて、直接チャンバラには関わらないが冷静に罠を見破り、仕事を果たすチルチャックの地金は、少しくすんでいる。
 『アイツラヤバイし逃げよう!』というパニック混じりの判断は、センシに背を押されてリドと歩む中で、問われ応える過程で薄れていって、チルチャックは自分が誰と、どこを旅したかをもう一度確認することになる。

 

 そこには命懸けのヤバさだけではなく、確かに暖かな食卓から生まれる絆が、守り守られる冒険があったと、チルチャックは改めて思い出すことになる。
 これはオークの居住地でぐるぐる考えても出てこない変化で、見知らぬオークと二人きり、迷宮を旅すればこそ明かされる答えだと思う。
 チルチャックの頼もしさを支えていた人生経験と賢さは、仲間を騙し見捨ててでも生き残るという最悪な発露を仕掛けるが、『それって最悪』とリドに突きつけられ、あるいは『お前はどこを歩いてきたんだ』と問われ、本来の形を取り戻している。
 それに先に気づくのがさっきあったばかりのリドで、なんもかんもお見通しなはずのチルチャックが、思わぬ言葉に呆然とするまで自分の気持が見えていない描写が、凄く良かった。

 大事なものはいつでも間近にあって、でもだからこそ、自我に隠れて見えない。
 改めて気づき直すためには旅と冒険が必要で、ライオスたちが潜る迷宮は(神話の時代以来”迷宮”がそういう場所である伝統に、正しく則って)心象風景そのものでもある。
 チルチャックを子どもと誤解したまま、あくまで優しく見守ろうとするセンシの言葉を遮って、チルチャックは自分の言葉で、思いでライオスを説得する。
 滲む涙が見た目通りの少年の純情ではなく、酸いも甘いも噛み分けたからこそ自分を見間違えかけた、頑ななオッサン心の雫であることを、ハーフフットとオークの逍遥に付き合った僕らもまた、学ばさせてもらっている。
 ライオスもまた妹大事な心を暴走させ、何が本当に大切なのか、そのために何をするべきかを見落としているわけだが、リドちゃんの導きで本当の宝を見つけ直した知恵者の助けによって、求めればこそ戻る強さへと立ち戻っていく。
 チルチャックがリドちゃんに助けられ、その彼がライオスを導くという、善導の連鎖があるのがこの話、いっとう好きだなぁ……”パーティー”だからこそ、って感じがする。

 

 

 というわけで人生万事塞翁が馬、最高から最悪へ叩き落され、でも何もかもが終わったわけじゃないと学び取る、第1クール最終話でした。
 ファリン復活のため、火竜との決戦にどんだけ死力を尽くしたか。
 その甲斐あって手に入れた幸せが、どれだけ暖かなものだったか。
 終盤戦にしっかり描いていたことが、この新章開幕に良く効いていて、こっから一体どうなっていくのか、しっかり示してくれるエピソードでした。

 こっからダンジョンの秘密と歴史は次々明かされ、ライオス一行と迷宮内部に集中していた視点は拡大・拡散していくことになるわけですが。
 そういうデカい話を乗りこなすのに必要な、主役たちの人間的強さを出会いと冒険の中掘り下げていくのだと、チルチャックの小さな旅にしっかり描いてくれたのもとても良かった。
 彼が今回見せた怯懦と優しさは、共に見た目通りのガキなんかじゃなく年経たベテランだからこその”らしさ”で、賢く強く美しいオークの姫君と合わせて、見た目に引っ張られて生まれる偏見を越えて、真実を見据える大事さを教えてくれました。
 ほんっとリドちゃんは最高。

 自分が本当に求めるものは、一体どこにあるのか。
 迷宮の深奥へ突き進む物語は、”パーティー”が力を合わせ命懸けの戦いを繰り広げるからこそ、自分をさらけ出し誰かに探ってもらう心理的ドラマを削り出していく。
 そういうオーソドックスで力強い面白さがあればこそ、奇想の数々もまた良く映えると、改めて作品の持つ強さを教えてもらえる回でした。
 第2クールに描かれる旅も、大変良いものとなるでしょう。
 次回も楽しみ!