イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うる星やつら:第35話『愛♡ダーリンの危機!!/月夜のキツネたち/涙の家庭訪問 温泉マーク宇宙へ』感想

 毎度お騒がせなやりたい放題軍団も、四六時中ろくでもないわけではない!
 ラムのあたるへの思いを死地に描く第1エピソード、第22話以来のきつね再登場となる第2エピソード、そしてCパートでひどい目に合わされ続けた温泉マークの旅が終わる第3エピソード。
 ファンタジックにリリカルに、そしてやっぱりロクでもなく……作品の多彩さが色濃く滲む、令和うる星第35話である。

 旧アニメが全218話+映画6作品+OVA12作品。
 改めて書いてみると莫大な話数で描いていたものを、たった4クールで描き直す令和のうる星。
 どんな話数を選び、どんな風に繋げて全体的な印象を編むか……アンソロジーとしての難しさと面白さは、一般的なアニメよりもなお分厚いと僕は感じている。

 そんな難儀に良く応えてきて、今35話。
 ドタバタワイワイやりたい放題だったり、SFや霊能を扱って不思議な雰囲気だったり、純情が眩しく光るロマンスだったり、じわりと染みる人情噺だったり。
 『”うる星やつら”って色んな奴らが出てきて、本当に自由で面白いなぁ!』と思えるよう、バラエティ豊かな物語が一定の連続性をもって受け止められるような構成を、かなり頑張ってくれていると思う。

 

 

 

画像は”うる星やつら”第35話より引用

 というわけで今回は、ファンタジックな異星の情景であったり、可愛らしい狐の夢が叶ったり、普段の騒々しいロクでもなさが少し鳴りを潜めて、なかなか叙情的な話が並んだ。
 涙涙のダーリン死にかけの原因が、あたるの拾い食いとランちゃんの宇宙的不注意だったり、Cパートでは温泉マークが過去一ヒドい目にあってたり、治安悪いところは治安悪いのだが、ここ最近は味わえなかった童話テイストが嬉しい。
 令和うる星は勝負どころの画作り、本当に頑張ってくれていると感じているが、今回ラムが旅する異星の風景も、SF的味付けで狂った”ふしぎの国のアリス”みたいな風情があり、大変良かった。
 こういうシンプルに”いい絵”が要所要所にバチッと決まって、キャラの魅力だけに頼らない世界観の横幅をヴィジュアルで示してくれていることで、作品の魅力が立体的になってる気がする。

 第1エピソードは何かとあたるに追いかけてもらうことが多いラムが、純情まっしぐらにあたるへの愛を追うという意味でも、結構変則的な話だ。
 女の尻追いかけてばかりいる浮気モノを、悋気バリバリ言わせて追いかけてくる”いつものうる星”とは、ちょっと違ったピュアな愛情。
 これが根っこにあればこそ、あたるとラムの追いつ追われつ、不思議なバランスも魅力的に成立しているわけで、(思い込みとはしたなさが原因とは言え)主人公たちの純情を何が支えているのか、新たに描いてくれたのは嬉しかった。
 思い返せば、ニヤけ面の下にどんだけのピュアさを隠し持っているか、諸星あたるの良いところを描くエピソードは複数本選ばれているのに、ラムがどんだけあたるを好きか、ど真ん中に真っ直ぐ投げ込んでくる話は少ない印象なので、ダーリンが昏倒する中でラムが駆けずり回るこのお話、貴重で大事かもしれない。

 結局ズッコケオチで収まるべきところに収まるわけだが、ランちゃんとレイの関係が結構良い感じな距離感に落ち着いてきていたり、いつもの恋愛遊戯ではなくガチの生き死に賭けて、親友がダーリンを奪った時ラムがどうするか見えたり、色々多角的なエピソードだった。
 食欲駄獣なレイに、報われない献身を延々続ける(その結果、いい性格している幼馴染とビシバシぶつかったりもする)ランちゃんはアニメの中幾度も描かれてきたわけで、餌付け気味とはいえ彼らなりの繋がり方で、ちゃんと向き合えている姿が見れたのは良かった。
 なにしろあたるが死んでる(と、ラムが思い込んでいる)ので、ランちゃんとの対峙も普段と違った重さを宿すわけだが、いざ最悪の事態となった時ラムが凄く乙女チックに、どこにもやり場のない感情を咽び泣く少女であると解るのも、また面白い。
 いつものやり取りに戯れているときは、目ん玉三角にしてビリビリ電撃撒き散らしているのに、いざ取り返しのつかない一歩を踏み込むと、懸命に追いかけて涙ながら追いすがるのが、良いギャップよね……。
 あと今回はラムがエピソードの解決主体になったので、色んな発明品を使いこなして状況を打破していくテッキー・ガールなところが沢山見れたのも、宇宙理系小町が好きな自分としては嬉しかった。

 

 第2エピソードはただただひたすらにきつねが可愛い回であり、釘宮理恵の声帯が特級の萌え兵器であることを証明しなおす、破壊力の高い話数だった。
 いやー……やっぱ凄いねホント……。
 小瓶につくしを詰めて、朧月夜の街にうんしょうんしょと歩きだしてくるきつねの姿は大変牧歌的であり、全体通してそんなテイストが続いてくれるのが、なかなか嬉しかった。
 うる星には色んな味があるけども、どんな存在にも化けうる無性なきつねが、恋とは違う温もりでしのぶを慕いちょこまかちょこまか、可愛い冒険を繰り広げる今回の味わいも、豊かな色合いを作品に足してくれていた。
 やっぱラブコメが話の柱なので恋の鞘当てが話の基礎になってることが多いのだが、きつねはそこを上手く外して可愛く仕上げることで、陽が当たりにくいしのぶの魅力も引き出してくれていて、大変いい。

 多いとは言えない話数でのきつね再登場は、良い感じの余裕と奥行きを感じさせてくれる構成も生んでいて、そこも良かった。
 約1クール開けて、待ってましたのかわいい子再登場はシンプルに嬉しいし、大好きな人達と同族になりたいピュアな願いが叶う、月夜の夢の描き方も素晴らしい。
 こういう落ち着いたいい話が展開されると、”いつものうる星”ではなかなか煮出されない優しい味が染み出してきて、『これも”うる星”なんだなッ!』っていう驚きと嬉しさがあるの、やっぱ好きだ。
 令和うる星はどっちかっつーと、この落ち着いたコクはかなりの話数を割いて濃い目に煮出している感じがあるが、個人的にはドタバタコメディを頑張る人たちもまた”人間”だと思える配分で、なかなかいいなと思う。

 まぁ超ロクでもないハイテンションドタバタは、第3エピソードで大暴れしとるしな……。
 温泉マークがふんだり蹴ったりな家庭訪問連作も、遂にフィナーレを迎えたわけだが、最後の最後で宇宙規模のろくでもなさにブッこまれており、悪童の相手も大変ねぇ……って感じ。
 いい人エピソードもあんまないまま、どんだけヒドい目に合わせても良い被害担当艦ポジションに居る彼だが、彼がズタボロに振り回されることで全体的なムードが生み出され、あるいは強調され、”いつものうる星”が成立しているわけだからなぁ……。
 前2つのほんわかムードをぶち壊す大暴れだったが、この落差が共存している作品の懐深さを再確認する形になって、個人的には面白かったな。

 

 

 というわけで、普段と経路がずいぶん違うような、これも含めて”うる星”なような、なかなか面白いお話でした。
 令和うる星に改めて気付かされることは多いのだが、ナンセンスSFもラブコメディも不謹慎な大暴れも、今回のような優しい幻想譚も、全てを一つの箱に入れて特別なところまでもっていける、高橋留美子という作家の多彩さ、力強さを、色んな話があるから面白いアンソロジーを読む中受け取り直せるのは、とてもありがたい。

 次回はまた画角が変わって、面堂終太郎にフォーカスした一本繋ぎのエピソード。
 長い尺でじっくり向き合うことで、色々面白い味が出てくる強みは第3クール以降前面に押し出されている印象だが、そこら辺をどう料理してくるかも含め、大変楽しみです。
 来週もまた、いろんな”うる星”が見れることでしょう。
 しみじみ、ありがたいことだなー……。