終末トレインどこへいく? 第1話を見る。
水島努監督の、ハイテンションでキャッチーに狂っている終末世界青春劇…でいいのか?
人類と世界の規格を書き換える7Gが暴走し、何もかもが壊れてしまった世界の池袋西武線終点、吾野。
大人が皆獣になってしまう最果ての地で、親友との望まぬ別れを抱えていた少女が今旅立つ…みたいな話。
明るく装ってるところも、暗く狂ってそうなところも、世界観をノンストップで語り上げつつ話が動き出すところまで、一気に引っ張る勢いの良さは大変ありがたい。
ただ明るく狂っているだけではなく、クレバーに世界を見せる冴え、語る強さを感じ取れるスタートとなった。
全体の雰囲気としては『いそしぎ』を筆頭とする椎名誠SF…その源流たるブライアン・オールディスに近い匂い。
人間の形が書き換わる異常事態にも、人は日常を積み上げ生きているが、何かが決定的に壊れてしまった危うさがポップな外見にしっかり滲み、危うい気配はパット見よりしっかり濃い。
肉を求めるマレーグマの本能に、飲まれかけている住人の描写。
”あがり”を迎えてアイアイになってしまった青年の悲哀。
寿命を定められたモルモットになっても、孫娘の面影に涙する小雪おばあちゃんの哀しみ。
狂った吾野は思いの外マジで、その匂いが速いテンポに独特の魅力を生み出していた。
超スピードで世界がぶっ壊れる冒頭から、全体的なBPMは早め早口で転がっていくわけだが、背景美術がいい仕事をして、お話全体の見取り図はちゃんと伝わってきた。
つーかめっちゃダイアログ詰め込んでる結果、独自のテンション生まれてるのはナイス。
人間が日常をメンテナンスする手段が失われ、2年分のボロさが積み上がった街のボロさ、侘しさ、美しさが、現実吾野の風情と奇妙な共鳴を起こして、魅力的な異界となっている。
現実的距離を歪めて成立する、30駅分の異世界がそれぞれ個別にどう狂い、どう美しいのか。
旅路の先に期待したくなる起点の描き方でもあって、大変良かった。
物語のキャラクターも、狂ってしまったセカイに拘泥することなく独自のタフさとクセでもって、勝手にタフに生きている。
しかし完全に開き直れるほど当然強くもなく、きららテイストでワイワイ騒ぐ女の子たちの背骨になにか、根本的な不安みたいなものがじわじわ滲んでいる様子が、健気で良かった。
ここら辺の、イカれた世界と奇妙な青春の同居は”ガルパン”の背骨でもあるわけで、自分達の強みを初手から最大限ぶん回してきた、クリティカルな手応えがあった。
星辰すら歪む終わりかけの世界でも、友達は大事だし未来へ進む歩みは止めれない。
そういう、オーソドックスなジュブナイルの手触り。
電車関係の描写が、ド素人から見ても気合い入りまくって実在感があるのが、それに乗って未来へ進み出していく作品のエンジンとして、なかなか頼もしい質感だった。
あの黄色い列車に乗って、暗がりの中、遠い遠い未来へと少女四人と犬、イカれた車掌は進み出していく。
武装宅配便に刻まれた血糊と弾痕は、始まりの街に漂うノンキな終わりとは違った激しいものが、旅路に待ち構えていることを告げている。
しかし踏み出したことが間違いではなく、進む先には絶望だけが待っているわけではないのだと、告げてくるような不思議な逞しさのある旅立ちとなって、その爽やかな温もりが良かった。
実在車両を使ってるがゆえの手応えかと思う。
小さなクスグリでキャラや関係性を手際よく見せる手腕も冴えていて、物知り担当の晶ちゃんが”黒魔術の手帳”を愛読するドラコニアンなの、ツボを突かれる良い造形だ。
撫子ちゃんのギンバイカとか、後々効いてきそうな小道具もしっかり積んでいて、さて狂った世界の青春列車がどこに往くのか、なかなか楽しみになった。
やっぱ小雪おばあちゃんの描き方が、簡勁に良く刺さる感じで素晴らしかったな…。
獣に変えられてしまった悲しさと、それでも残る情と。
狂った世界でなお、なにか正しい人間の証明は確かにあって、黄色い電車はそれを探して進むのだ。
多分、そういう話だと俺は信じて、今後も見ていく。
次回が、とても楽しみだ。