イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ガールズバンドクライ:第3話『ズッコケ問答』感想ツイートまとめ

声無き魚が、遂に産声を上げる。
 ガールズバンドクライ 第3話を見る。
 前回生粋のロックンロール・モンスターとしての資質を見せつけた仁菜が、その才能を初ステージに炸裂させるまでを描くエピソードである。
 Aパートで”三人目”であるすばるちゃんの人柄を掘り下げ関係を築き、満を持しての”声無き魚”まで一気に駆け抜けるカタルシスが、勝負の三話に相応しい仕上がりだった。

 

 やっぱ仁菜を演じる理名さんの歌が、圧倒的な説得力を持って作品を下支えしているのを感じる。
 燃え尽きたはずの桃香さんがもう一度魂を熱く燃やし、面倒くさいガールを導きたくなる、圧倒的な才。
 運命を引き寄せ人生を捻じ曲げる、巨大な星。
 スーパースター誕生の物語に必要な存在質量を、歌の説得力が分厚く下支えしてくれるのは大変いい。
 仁菜のチャーミングな面倒くささをここまでどっしり描き、それを爆笑しつつ嘲笑わない…むしろ面倒くさいからこそ期待を寄せる仲間たちの頼りなさで毒気を抜いて、『今爆発しなきゃ嘘だろ!』って所まで、物語のテンションを持っていく。
 熱さ一辺倒で力むわけではなく、心地よく抜いた笑いを随所に交えて、独自のテンポでバンドをやるしかない女の子たちの叫びを、高く高く響かせていく。

 濃い口なキャラの魅力をこすり合わせ発火させていく、ダイアログの良さを最大限活かして、気持ちよく初ライブまで行ける回だった。 初ステージを天国までぶっ飛ばすには、色々と仕込みがいる。
 前回顔見世だけしてたけど人間が見えきれないすばるちゃんを掘り下げ、バンドの起爆剤となる仁菜のロックンロール魂、自分が認められない魅力を発見し肯定してくれる仲間のありがたさを積み込んで、初舞台が話の筋書きで用意されたものではなく、運命であり必然であると思わせないといけない。
 今回のエピソードは、そういう物語的要請をしっかり果たしつつ、川崎や渋谷に生きる彼女たちの息吹を、今までよりも更に色濃く描き直してくれる回だ。
 嘘っぱちの世界に、確かに彼女たちが在る。
 その実感が、作品に前のめりに踏み込むための足場になっていく。
 ありがたい

 ここまで二話、圧倒的に面倒くさい主人公を目が離せない引力弦として削り出し、その推進力で進んできた物語は、やっぱり仁菜を真ん中に据えて進んでいく。
 冒頭、作曲アプリにドハマリしてガンガンその才能を燃やしていく(ついでに勉強して大学受かるフツーの幸せから、ガンガン遠ざかっていく)様子が、鳩の縦ノリを伴奏に大変良かった。
 小気味いいコメディと真っ直ぐな音楽スポ根を描きつつ、細かいところで『今、川崎で、ロックをやる』ことがどういう風景を生むか、編み上げていく指先が繊細だ。
 ド素人が『今、川崎で、ロックをやる』なら、教本より先に感覚で操作できるアプリが手渡される。
 なるほど、そういう手応えかと、小さな描写の中に納得が積み重なっていく。

 

 

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 最高の初ライブに向けて笑いと期待をガン済みしていく、早くて強い流れの中で、作品が乗っかる舞台がどういう場所で、少女たちがどこに生きているのか横幅広く見せるのも怠けないのが、大変良かった。
 今回のエピソードは、ここまで描かれなかった少女たちのパーソナルスペースのお披露目会でもある。
 仁菜の予備校、桃香さんの家、すばるのアクターズスクール…そして後に仲間となる連中の吉野家
 それぞれ異なった場所に、それぞれ異なったキャラクターが、自分たちの在り方を反射させながら立っている。
 お互いがお互いの領域に足を運び、匂いを感じメシを食う。

 勉強して、大学行って、クズどもを見返す。
 仁菜の復讐計画をダイナシにする楽しいことを、ドンドン手渡す桃香さんの視界に”進路指導室”が入っているのが好きだ。
 それは確かにそこにあって、しかしそこから伸びていくフツーの幸せに背中を向けて、ロックンロールをやるしかない。
 桃香さんは仁菜をそういう存在だと、極めて正しくみぬいいているし、バカ後輩が無駄なあがきでその部屋に迷い込む前に、行くべき場所への道を拓く。
 全然自分に自身が持てない怪物を、自分がどっかに置いてきてしまったものを持ってる眩しい星を、受け止め励まし送り出していく。
 桃香さん、佇まいがかなり”姉”でありがたい…。

 

 ねじくれて面倒くさい仁菜のキャラクター性を、破壊力ある物語のエンジンとして肯定的に受け取れるのは、桃香さんの頼りがいが大きいだろう。
 彼女がクズの中にある炎を信じ、吉野家奢ってアプリ渡して、自分自身気づいてない可能性が開花するよう、期待し面倒見てくれるからこそ、仁菜を『おもしれー女』として受け取れる。
 ロックンロールをやるしかないバケモノを、フツーにいい子として矯正してアク取りするのではなく、エグみやヤバさ込で楽しい主役として受け止めさせるためには、三歳上の大人力が絶対必要なのだ。
 ここら辺、すばるちゃんが自分と他人をしっかり把握し、適正距離を積極的に探れる人格なのとも重なる。
 とにっかく面倒くさい主役一本に人格的問題≒作品に独自性と爆発力を与える、扱いの難しい火薬を絞り、物わかりの良い二人が主役の可能性を面白がり、支え導く構造が、前回に引き続き鮮明に照らされていく。

 しかし桃香さんも無傷の天使ってわけではなく、自分が置き去りにした/自分を置いていった仲間を眩しく見上げて、燃え尽きてしまった自分を燃やしてくれる新たな才能に、人生を預ける歪さを持っている。
 バブちゃん仁菜がちったぁ自分の足で立てるようになった時、多分この歪さに飛び込んで今までの恩を返す展開になると思うので、今からメチャクチャ愉しみである。
 マージで桃香さんには世話になっとるからな、井芹は…。

 第1話ラストで故郷に帰ろうと、青春を終わらせようとした桃香さんを川崎に留めた、仁菜の吠え声。
 カラオケボックスでそれが炸裂する時、桃香さんが陶然と聞き惚れている様子が良かった。
 それは彼女が失った…と思いこんでいるものを、もう一度取り戻してくれる特別な歌であり、だからこそ彼女は極めて面倒くさい情緒赤ん坊女の面倒を見る。
 思いの外、河原木桃香は利己的なのだ。
 透明でエゴのない天使の思いやりより、自分から失われ諦めきれない、ロックの原液を間近に浴びれるから助けていると、少し濁ったとびきりの優しさを感じれたほうが、もっともっと桃香さんを好きになれる。
 そういう描き方で、大変良かった。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 現状、自信ないくせにプライド高く、卑屈なのに傲慢な仁菜は自分を見れていない。
 そんな彼女がどんだけ特別で、どうすれば一番自分らしく叫べるのかは、仁菜の外側…河原木桃香の視界の中にある。
 ヨーグルトと肉まんを口に運んでもらい、ワンワン泣いては爆笑しながらあやしてもらい、『お前は最高の怪物だ』と褒めておだてて、歌わせてもらう。
 『完全にママじゃん…』って感じの、期待と信頼が仁菜の世界を開いていく。
 その先にあるのが”声無き魚”の眩い光であり、モニター越しようやく自分の姿を、数多同じ屈折を持った観客席の幻影を、見つける井芹仁菜である。

 井芹仁菜がどんな存在であるか、他人に決めつけられたくないと反発するくせに、自分でも見つけられていない…だからこそロックンロールをやるしかない少女は、世界に山ほどいる自分の分身へと、必ず声を届けていく。
 観客席にフリフリ衣装の仁菜の影が、彼女の叫びを待っている描写があったのは、この後主役たちの声が世間に届き、共感性で若者を殴るロックンロール兵器として仁菜達が、売れていく未来への滑走路を確かに開いていた。
 仁菜の鬱屈と爆発力は彼女固有の才能であると同時に、小さな身一つ飛び超えてもっと大きな場所へと届き、その反響で仁菜に己を教える、大きなエコーになってく、
 桃香さんは、そんな未来を確信してる。

 

 プロデューサー(あるいは教育者)に必要なヴィジョンと信頼を、プロ経験者である桃香さんはしっかり持っている…という話なのだが、そんな彼女の自己評価は思いの外低いと思う。
 何しろ全部辞めて故郷に戻ろうとしていたわけで、若いまんま人生に勝てなかった負け犬として、仁菜という才能…自分から失われてしまったモノを持ってる特別に照らされなきゃ、もう輝けない老いた星だと、自分を見ている感じがある。

 『んなわけねーだろ!』と、ロック幼児の面倒見てる姿を眺めりゃすぐに解るが、この客観と主観のすれ違いは、それこそ桃香さんと仁菜の間にある期待と自己卑下の構造に重なる。
 仁菜を信じ引っ張り上げた女が、自分を地べたに投げ出してる。

 自分のことで手一杯、人間的伸びしろしかない激ヤバ女はまだそういう事に気付けないが、仲間とロックンロールを駆け抜ける中で快楽と光りに包まれ、自分と世界のあり方が見えてきた時、そういう残酷を見落とせるのか。
 自分すら愛してなかった自分を愛し、信じ、導いてくれた人が、『アタシ終わってるし…』と下向いてるのを、ロックンロールの申し子が我慢できるのか。

 

 そういう未来への疑問を、熱の入ったハイボルテージに押し流されながらしっかり感じ取れる、良い”第3話”だった。
 桃香さんが『メシ食わす人』として描かれ続けてるの、俺好きなんだよなぁ…。
 ヨーグルトに牛丼、アプリに衣装にマイク。
 自己肯定感を簒奪され、己を証明するものに飢えている若者にたっぷり食わせて、自分を叫ぶための武器を用意してあげる、フィーダーとしてのありがたみ。
 それに報いて、実は飢えてたかぁちゃんに手ずから魂の糧を渡し返す責務が、間違いなく仁菜にはあるだろう。

 一歩後ろに引いて『井芹仁菜の物語』を軌道に乗せるサポーターを、自分の立ち位置とすることでなんとか背筋を伸ばしている桃香さんに、仁菜が『アンタ主役じゃん! アタシを主役にしてくれたじゃん!』と叫ぶ瞬間を、僕は心待ちにしている。
 それを果たしたときが、ロックンローラー井芹仁菜、真実の一本立ちになると思うから。
 やっぱね、ロックは仁義ですよ。

 

 

 俺は断然ももにな派なので、お話の順序をすっ飛ばしてその話をしてしまったが、Aパートのすばるちゃん掘り下げも大変良かった。
 仁菜と同レベルの激ヤバだと話が制御不能に沈没していくわけで、距離感解らず後ろに引く仁菜にグイグイ前に出つつ、自分を適切に開示して魂預ける足場を用意もしてくれる、とても人間育ったいい子だった。
 まー拗れて面倒くさい所も山盛りありそうだけど、今回のライブで成功体験を積んだ仁菜がもうちょい頼もしくなったら、そっちを掘り下げるターンが来るのだろう。
 つーかこのお話が面倒くさい女を描く筆は最高なので、すばるちゃん固有の面倒くささも、ガンガン表に出ていって欲しい。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 カトゥーン調の小気味いコミカルと、最高に熱い音楽描写と同じくらい、情感を背景とレイアウトに反射し、人間関係の変化を美術で語る表現の上手さはこのアニメの武器だ。
 尊大なくせにビビりな仁菜がまとう影に、前向きで力強いすばるの光が追いつき、逃げられ、また追いつき返して一緒に光の中に飛び込んでいく様子を描く、Aパートの変遷。
 それは仁菜が自分を追い詰める凶器になってる、持ち前のネガティブがかけがえのない誰かの助けで、少しは希望のある方へと向き直るまでを削り出していく。
 そうしてくれる、すばるちゃんのありがたさと素晴らしさも。

 薄暗く遠い街頭ですれ違う距離感は、役者を目指す明るい(と思われてる)光に、暗い仁菜の領域が照らされる間合いまで縮まり、最終的にハチ公前でズッ友写真取る所まで行く。
 すばると語り合い、お互いをよく知る前は気になっていた顔のない嘲り(仁菜が熊本で、一回殺された凶器)も、友達が隣りにいてくれるならもう聞こえない。

 お上りさんで陰気で、だからこそ炸裂するロックを内に秘めた怪物の顔は、すばるが撮ってくれるからこそ目に見える形になる。
 仁菜はつくづく自分の顔と辿り着きたい未来が見えない子どもで、すばる(と桃香さん)はそんな彼女の卑屈な退却戦を許さない。
 お前は、もっと出来る。
 私がいてやる。
 仁菜(が代表する、世界すべての子ども達)が一番欲しい言葉を、グイグイ前に出てガンガン手渡してくれる少女は、ロックの怪物がその才能を羽ばたかせるために、絶対必要な仲間なのだ。

 

 空気読めず自分の光を押し付けると思わせておいて、ビビって身を引く仁菜の呼吸をしっかり読み、柔らかく絡め取って本音引っ張り出せるあたり、すばるは相当に視力が良い。
 仁菜のチャーミング・モンスターっぷりに当てられている視聴者としては、作中でもアイツのやりたい放題を『しょーがねーな!』と受け入れて欲しい。
 その通りにすばる(と桃香さん)が振る舞ってくれるのは、求めているものと描かれるものが重なる、幸福なありがたさだ。

 とりあえず東京出て大学行けば人生に復讐できるだろうと、旧日本軍並のガバガバ戦時計画で逆襲戦に挑んでいる仁菜に対し、すばるは未来が見えないながらしっかり自分を探って、やりたいことを世界に突き出している。 
 家のしきたりに押し流され、やりたくもない役者人生を背負わされつつも、怒りをスティックに叩きつけドラマーでいる自分を、自分で選び取る。
 自分の手綱を己で握る独立独歩が、彼女の背筋を伸ばし眩しく輝かせ…そういうのに憧れつつもビビって背筋が曲がる仁菜を、影の方向に逃げさせようとする。

 でも仁菜だって、好き好んで暗い場所に逃げ込んでいるわけではない。
 そこじゃなきゃ、息なんて出来ないから。
 自分を殺してくる親と学校から、自分を生存させられないから、仁菜は自己卑下の影に必死に隠れて、何をやりたいのか見えなくなっている。
 ならそういうやつほど、光り輝く表舞台に引っ張っていかなきゃいけねーだろ! つうことで、すばるちゃんとぶつかり触れ合う中で、仁菜は光に近い場所へと進み出していく。

 安和すばるはそういう事をロック赤ちゃんにしてくれる、マジいい子で良い姉貴だということを教えてくれるAパートで、大変良かったです。
 三話にして既に、自分の中で仁菜は愛すべきベイビーになってきているので、自分じゃメシも食えねぇ赤ちゃんをバブバブさせてくれる人たち、全員好きになってしまう…。

 

 というわけで、大変良かったです。
 『勝負の三話』という深夜アニメの方程式が、通用しなくなるほど作劇もアップテンポになってきていると思いますが、時代に追いつく速さと熱量を維持しつつ、大事なコーナーを最高速で回りきる妙技を、たっぷり堪能させてもらいました。
 ファーストライブを最高の輝きと受け止めさせるために必要な、キャラとドラマへの愛着と期待をしっかり作り上げた上で、望んでいたより遥かに高くぶっ飛んでいった”声無き魚”、素晴らしかった。

 『やっぱ勝負どころで、キッチリ勝てるアニメはつえーな!』と、当たり前のことを思いつつこの後のお話、大変楽しみです。
 おもしれーなこのアニメマジ…。

 

 

 

・補記 あの時照らしそこなった、普通怪獣の陰りが彼らの瞼の奥に、僕と同じように突き刺さっているのなら。
 仁菜のロック野郎っぷり、矛盾だらけの青春モンスターっぷりは、ある意味高海千歌のリベンジなのかなと、極めて勝手に気楽に思ったりもする。
 スクールでもアイドルでもない、クドい萌記号を拾わなくてもいいセッティングで、本来は相当暗くてヤバいはずのキャラがキラキラ青春に飲まれ何かが歪んだ、遠い昔のあの話。
 あの時見たかった、怪物が怪物のまま怪物らしく暴れるお話を、ようやく見れてる手応え。

 でもそれは、怪物が怪物ではない何かになって、色々ガタつきながら必死に己の話を走りきったからこそ、今見れているものなのだろう。
 勿論、この話は内浦の続きじゃない。
 でも自分の中確かに、あの子の残影を追ってる部分がある。

 話のあやふやな輪郭、スタッフの共通項だけで何かを語るのは何の意味もない空言なんだが、こうして新たな波動に心揺さぶられてみると、全然あの子の物語にケリつけてられてなかった自分を新たに見せつけられて、その事書かないのも嘘だろうと思ったから、今ここに余計な補記を付け足してる。

 暗くて面倒くさくて暴力的で、ロックの怪物になるしか道がないくらい真っ直ぐな、仁菜の顔。
 彼女を主役とする、”ガールズバンドクライ”の顔。
 そこに重なる、怪物として設計されていながら、甘く柔らかな光でその影を塗りつぶされた少女の面影。
 それが妄想であると刻まないと、引きずられすぎて仁菜の顔、ちゃんと見えなくなりそうだ。