イマワノキワ

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烏は主を選ばない:第3話『真の金烏』感想ツイートまとめ

 絹の衣と金の玉座に、秘めたる御毒はいかほどか。
 烏は主を選ばない 第3話を見る。

 ぼんくら次男が若宮のもとに出仕し、常人がこなせない難題をブツクサ言いながら乗り越えつつ、だんだん御代の近しい所…つまりは宮廷の毒のど真ん中に近づいていく過程を描く。
 人と獣の間で、抱えた獣性を下賤と切り捨てることで権力構造を維持している八咫烏の社会の実態も見えてきて、華やかに見えてグロテスクな匂いが心地よい。
 ホワイトカラーとブルーカラー、貴族と奴隷を切り分ける制度は、複数の役所が複雑に絡み合う官僚制といっしょにずいぶん発達しているみたいだが、衣一つ剥けば人に劣らず烏もまた、ずいぶん畜生のようだなぁ…。

 

 前回ぼんやり予測してた”馬”の真実がズバッと当たり、的中の喜びよりもそのロクでもなさにげんなりもしたが、蝶よ花よと育てられたあせび様は下々の事情を、何も知らない感じで。
 囲碁をやるにも長ーい箸ごし、現世の汚れを遠ざけ高御座でふんぞり返っている貴族の、最上級の方々は汗を厭い獣であることを嫌っているわけだが、その頂点に立つはずの真の金烏は、はしたないはずの羽衣(漢字これでいいよな?)でスラスラ歩き回る。
 窮屈な格式を嫌い、実質的に生きている様子はみすぼらしい庵住まいからも感じられ、婚礼政治の毒が詰まったハーレムからも身を遠ざけている。
 清廉…とも少し違うその眼光が、何を睨んでいるのか。

 ここら辺は雪哉がその主に近づく中で、あるいは陰謀の温度が燃え上がる過程で、否応なく暴かれていく部分だろう。
 まだ死人も陰謀も匂い程度、プンプン匂うだろう八咫烏社会のハラワタが暴かれていない状況なので、その汚れを跳ね除ける気高さや強さも、気配程度しか見えない。
 ドタバタ振り回され振り回し、コミカルに展開する宮中の日常の外側…例えば烏人が”馬”にされる現場とかが描かれた時、華やかな社会が孕む矛盾と、それに立ち向かう気概が誰にあるのか、より鮮明になっていくだろう。

 

 今回はそのための助走、周辺情報の説明回という感じだったが、想定より八咫烏社会が律令官僚制度をしっかり備えてたのが面白い。
 烏衣では上がり込めず、若宮専属の帯を肩から下げれば通行御免な、衣一つで態度が変わる世界。
 本来衣を必要とせず、裸で生きれるはずの八咫烏は、人の衣を纏う権利を剥奪することで、人間を”馬”にしている。
 彼らの本性が人に近いか獣なのか…あるいは人間という最悪の獣にそっくりなのか、未だ見えきらない状況である。
 けども、するりと鳥形に化けれる人でなしが、社会制度もそこに軋む差別も、人間社会の良くない所を擬しているのは、良い感じに趣味の悪いジョークと思える。
 まー差別と搾取を前提に社会を編んできたのは、山内の外にある僕らの社会も全く同じだから、上から目線で偉そうなことは言えないが。

 家柄、血縁、性別、身分、装束。
 八咫烏はあらゆる手段をもって、上に立つべき存在と踏みつけにされる連中を切り分ける。
 近代以降の価値観が血に染み付いた僕らにとって、それは”悪いこと”なのだが、彼らにとっては呼吸するより当たり前な社会の当然であり、華やかなお后選びも貴族の勢力争いも、不平等と差別に立脚している。
 そんな世界でも、全ての烏が一個人としての尊厳を求めている様子は、ここまでも幾度か描かれた。

 人間が当たり前にもっているものを抑え込めば、当然の反発があらゆる場所に満ちる。
 俺達は汚れ仕事を背負う”馬”でも、家格を上げるための婚礼ゲームのコマでも、政治と権勢の道具でもない。 そういう澱は、あせびが知らぬ俗世の塵の中にずっしり溜まっているだろうし、抑圧を吸い上げる上澄み…宮中の外側にカメラが向いた時、より鮮明に見えてくる感じがする。

 バッキンバッキンに不満高まってそうな世界で、どんな弾圧と暴力装置がそれ抑え込んでいるのか、お綺麗な行政手続きの外側にある血みどろを一回、見てみたいんだよなぁ…。
 人間社会の中世レベルの、そうとうエグい抑え込みしなきゃ、この超身分社会維持できてないでしょ多分。

 

 ここら辺の生っぽい事情は今後暴かれるとして、雪哉が出仕した若宮は、”真の金烏”なる存在らしい。
 年功も才能もぶっ飛ばして、オカルティックに権力の中枢に座る霊王。
 散々『このクソ烏共、自分たちの獣っぷりを衣で隠し、権力片手に人間ごっこやってますよ!』と書いた後、霊獣たる八咫烏の本文が全部の道理を押し流して皇位を決めると語られるのは、なかなかに面白い。
 あんだけ”人間的”な在り方に支配されておきながら、その中心は理屈を蹴飛ばした宣託が支配してて、年が上だとか、能力があるとか、当たり前の理屈で主上を選べない前中世が居座っているわけだ。
 宣託に選ばれし霊王たる若宮が、底の見えない白面の奥にどうやら、身分や建前に囚われない超中世的発想を抱えてるっぽいのが、更に興味深くもある。

 八咫烏社会を支配する、古臭く軋む差別と権勢の”人間的”世界。
 霊的宣託によって特権的に選ばれる旧さと、社会の当然に縛られない新しさを兼ね備えている…ように思える若宮が、一体何を考えているのか。
 陰謀渦巻く御簾の奥から、ずずいと飛び出した御前会議がそこら辺、雪哉と僕らに見せてくれそうである。

 

 時代を越えた快男児の社会改革絵巻となっていくか、世界を支配する枷の重たさがそれを押しつぶしていくのか、全然見えない所が面白い。
 フツーに気持ちよく話し進めるなら、若宮と雪哉の近代的価値観が古くてヤベー因習殴り倒していくんだろうけど、華やかな桜花宮…花嫁候補の牢獄をもう一つのメインに据えているのが、どうにも湿り気強くて一筋縄ではいかない予感。

 一見華やかな女の子の憧れッ! みたいな衣整えつつ、イエ制度と政治と差別を練り合わせた地獄の碁盤なわけで、それも姫君の誰かが蹴っ飛ばすのか、婚礼制度が犠牲を飲み込んでしぶとさを見せるのか。
 恋という個人的で大切…なはずなんだが、身分と建前に一番最初に押しつぶされる脆いものを、王子様が全然顔を見せない婚礼ゲームがどんくらいの温度で扱ってくるのか。
 そこら辺も、大変に気になる。

 一人間として、誰が誰をどんくらい慕っているのか、姫君達のハラワタもまだまだ見えないからなぁ…それが解んないと、悲劇にすり潰される純情無惨も際立たないわけで。
 邪を払うとされる桃がどんだけ、あせび姫を俗世の塵から守るのか…
 あるいはそんなシンプルな、乙女物語的構図を越えたところにキツいのブッ込んでくるのか。
 まだまだ御簾の奥に作品の顔が見えきらず、だからこそ追いかけてみたくなる所が、なんとも平安の趣があって良い。
 秘すればこそ花が咲くのは、芸事もミステリも同じだね。

 

 今回見せたややコミカルで、あんま洒落になんないことが起きない温度感がこっからも続くのか。
 匂わされてる色んなヤバさが、牙を剥いて襲いかかるのか。
 御前会議でそんな風向きも判断できると、アニメからの新参としては嬉しい感じです。
 やっぱなぁ…”腹”ってのを早めに決めておきたいわけよ、重いブロウで死なないために!
 次回も楽しみ!