イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヴァンパイア男子寮:第1話~第3話までの感想ツイートまとめ

 ヴァンパイア男子寮 第1話から第3話を見る。

 『なかよし創刊70周年記念作品』と堂々揮毫された、男装女子と純情吸血鬼のドキドキラブコメ
 『周年記念アニメは怪作揃い!』という、個人的な鉄則にビッチリハマって、メチャクチャヘンテコで楽しい味のする伝奇ラブコメである。
 ときめきのために全てを押し流していく圧倒的なかよし力に感動しつつ、ピュアで可愛い子多くてマジ良い。

 

 超ロクでもない環境で血が冷たくなってた主人公・山本 美人(美人と書いて”みと”と読む。このネーミングの時点で、現代伝奇として最高。)が、自分を愛して血を温め、美味しいいちご味にしてくれる運命の存在と出会う…つう大筋。
 吸血鬼要素をフリルで飾りスローモーションで彩り、スキあらば心のときめきが外側に出た謎のキラキラで埋め尽くしながら、純情少年少女には許されざるエロティックを屈折させて描写可能な所まで持っていく手段として、最大限活用しているのがまず面白い。
 ブラム・ダイクストラが”倒錯の偶像”で書いたような、ミソジニーと結びついた吸血鬼物語アイコンを逆立ちさせ、なかよしテイストに染め直して蹂躙するような、もやっとファンタジックな、禁忌に満ちた憧れたるセックスの、代償行為としての吸血。
 『血を吸うって名目なら、エロティックなフィジカルコンタクトは通る!』という、タクティカルな見切りが素晴らしい。

 快楽を伴う吸血行為を、血の味が美味いか不味いかによって愛されチェッカーとして機能させる描写も良いし、激ヤバ人外ダーリンに最高に愛された結果『血がいちご味になって美味しくなる』のは、夢いっぱいで可愛くてマジ最高。
 これは”ちゃめっこ”から世界で一番遠い存在であるキモオタ中年男性がスガメで当てこすっているわけではなく、愛されたいと願いつつ愛されなかった少女が追い求める願いを、凄く暖かく優しい形で結晶化させてくれてる、めちゃくちゃ良い表現だと感じた。
 『誰にも愛されず、世界全部から見放された女の子の冷え切った血が、素敵ないちご味になるまでの物語…ええやないかッ!』と、最初見た時マジ思ったの。

 

 不味い不味い文句言いつつ、ルカは美人の血だけを求め飲み干し、他の有象無象は飲む気がしない。
 運命の女を追い求め、野放図に色々飲み散らかすドンファンというイメージから程遠い、一本気純情少年が彼の本質…なのだが、彼自身がそんな自分をまだまだ分かっていない。
 つーか眼の前の存在が女の子であることすら、メチャクチャ無理くり長い髪(≒女であることの証)をウィッグに収め、晒しで胸を潰した彼だけの血袋を抱いても、全く理解していない。
 おまけに吸血鬼業界はヘテロセクシュアルへの圧力マジ高くて、”運命の女”以外に恋したら血に飢えた獣に落ちるの確定だからな…何もかもがねじれている。

 ねじれは二人の間で起こっている行為と、その持ち主の心根の間でも同じで、フツーの高校生がやっちゃいけないアツアツ吸血行為の熱量と、純情極まるピュアピュアっぷりの落差が、微笑ましくもエロティックでいい。
 『血を吸う/吸われる』という、世間一般では認められないけど、二人にとっては唯一絶対のコミュニケーション。
 世間の視線(を代表する、いい人吸血鬼ハンターな蓮くん)に何を言われても、愛し合いされている自分を強く実感できる、特別な行為。
 それが秘めている性的な匂いを、感じ取るにはあまりにも未熟で純粋な、汚れのない二人の幼さが、作品全体に広がっていい空気を生んでもいる。

 

 女を堕し血を啜る、パブリックイメージに則った吸血鬼のあり方と、誰の地を吸う気にもなれず美人だけを求める(くせに、その特別さを自覚してない)ルカくんの在り方は、強いねじれを秘めている。
 これを可視化するべく、『アイツらマジ獣だから近づいちゃダメだって!』と、めっちゃ親切に忠告してくれる蓮くんもまた、魔狩人やるには純粋すぎる。
 ヴァンパイアとハンター、バチバチのつぶしあいが発生しそうな座組なのに、起こっているのは優しく純情な少年たちによるお姫様争奪戦であり、しかも当人たちは恋の自覚が全く無いという、小学生レベルの情緒が生み出すチャーミングな現代伝奇ラブコメ

 これを成り立たせるファンタジックな物語装置として、”ヴァンパイア”が使われている事自体が、欲望に負けた人間の似姿、打倒されるべき堕落の獣として始まった怪物が、その魅力故にポップにこすり倒されて、可愛いマスコットになった変遷とねじれを感じさせて、なかなかに面白い。
 『怖いけど/怖いから惹かれてしまう怪物』だったヴァンパイアは、快楽と死を与える牙を丸くされ、ついには愛されなかった女の子の血を温めいちご味にしてくれる、特別な王子様になったのだ。
 セックスではないから堂々描けて、セックスよりも獣性の強い吸血行為も、微かなエロティシズムを残したまま極めて安全に、癒やされ傷が残らない。

 このお話が”吸血鬼”を変奏する手つきは、ゴスの本道にずっぷり浸かった本格派には色々文句もあるだろうが、しかし文化的変遷の中で彼らがどう愛され、受け入れられてきたかを照らす、非常に面白い鏡だと思う。
 ルカの根源的な善良さ、幼く健全な純粋さ、それ故恋を知り己を知り成長していく余地は、時を止めた動く死人である吸血鬼の属性とは真逆の、とても生き生きとしたものだ。
 そういう存在として、間近に”吸血鬼”を起きたくなる誰か達の欲望がこのお話を削り出したのだろうし、怪物を王子様に変えてしまうその祈りと呪いが、僕にはとても素敵なものに思える。

 

 同時に吸血鬼が人を引き寄せる蠱惑的な闇も、変質し活用される。
 ママをクソ吸血鬼に寝取られた、蓮くんのトラウマが描かれることで、ルカの善良さがヴァンパイアの基本装備ではなく、彼だけが持つ特別な美質であることも理解ってくる。
 世のバケモノは蓮くんが危惧する通り超ろくでもないのだが、ルカだけが他人を傷つける獣性から自由に、スキな女の子を大事に出来る。
 血が不味かろうが、男だろうが、美人が美人であるがゆえに強く求め、熱く抱きしめてくれる。
 そういうヒューマニズムが、怪物にこそあるねじれを活かして、この物語は面白くなっている。
 ルカくんが自分の善良さに全く無頓着で、『俺様は人類の天敵、夜の貴族だぜー!』みてーなツラしてるの、マジ面白いんだよな…。

 更にいうとヴァンパイアの貴族イメージも、ラブコメ温度を上げる燃料として、良い使われ方してる印象。
 男が男を好きになる自由も、定められた相手以外に恋をする自由もない、吸血王子の宿命。
 現代的に変奏された『イエの定め』がルカを縛っていることが第3話で示されたわけだが、その鎖は美人とのロマンスをより熱く燃えさせるための、破壊されること前提の束縛でしかないだろう。
 しっかり悩めばこそ、自分の目の前にあるものが真実であるかを確かめることも出来るわけで、そういう束縛は大変大事なわけだが、まー二人の純情ラブラブっぷり、スキあらばキラキラが溢れ出す画面の作り方見てると、”フリ”だよなぁ…。

  性別、種族、吸血種の定め、血の味という価値。
 色んなハードルが二人の恋路を阻むのだと描かれているが、んなもん余裕でぶっ飛ばすくらいのトキメキが二人の間では既にボーボー燃えていて、愛だけが絶対の真実であるラブコメ時空において、答えは既に一つしかない。
 重要なのは、どんだけチャーミングな寄り道を積み上げて、ハッピーエンドまで突っ走れるかだ。
 行き着く先はバレバレだが、それが全く見えていない主役たちの純情っぷりがマジ可愛くて、すれ違いや回り道も楽しく見れてしまう。
 そういう状況に視聴者を持って行けているのは、乙女向けラブコメとして大変強いところだと思う。

 

 ルカくんが吸血鬼かくあるべしという社会の常識を、幼く無批判に受け入れて『お前は本命までの繋ぎ!』とか言っちゃう残酷と、そのクセ無価値な血袋なはずの美人ちゃんにぞっこんLOVEなところとか、本当に面白い。
 誰かに押し付けられた当たり前が、自分を突き動かす願いと全然噛み合ってない事実に、少年は現状全く気づいていない。
 その無垢なる盲目が、恋の中で自分を見つけていくオーソドックスな成長物語のキャンバスとなり、運命の相手を自分で選び取る決断の熱量を、強く発火もさせていく。
 『いや理解れよッ!』と思わず叫ぶもどかしさも、チャーミングなキャラクターと世界設定の妙味に助けられて、むしろ心地よい。

 愛し愛された経験がない…ないからこそ愛を強く求めてる美人ちゃんが、自分の胸に湧き上がっているものがなんなのかまーったく理解しておらず、しかしそれは圧倒的に”本物”なので、行動自体はバリバリLOVE色なのも最高。
 なんとはなしにそういうものと、非常にあやふやな理解で自分や世界を突き動かすものを把握してるぼんやりちゃん達が、自分とその外側にあるもの、心の一番深い場所に繋がる存在がどんなものなのか、ワイワイ賑やかに可愛く探していく話なんだと思います。
 やっぱそういう、ジュブナイルな手つきがしっかりあってくれると、お話を楽しく飲み干す姿勢も整ってくるというか。

 高校生という設定年齢ながら、キャラの世界把握、情緒の複雑さは非常に幼く、過剰なロマンティックが世界全てを支配する演出で彩られながら、優しくピュアな作品世界が成立している。
 ともすればシンプルすぎるトゲのなさが、しかし数多のねじれを含む吸血鬼伝奇としての味わいと入り混じって、非常に興味深い味を生んでもいる。
 これ、フツーの高校生でやってたらなかなか飲み込めなかった話だと思うんだけども、フツーじゃないヴァンパイアの話にしたことで思わぬ新鮮味で食べれてるの、組み合わせの妙味を感じ取れてマジ面白いね。

 

 シンプルでオーソドックスな恋物語を、二重三重の捻ったファンタジーで包むことで、生まれる律動。
 それはこの物語にしかない面白さとして、しっかり僕に届いてくれました。
 ズレた位置からシニカルに笑い飛ばす姿勢が僕の中に無いわけじゃないけど、そういうスタンスだけに安住させてくれない真っ直ぐな可愛げ、ヤリ過ぎ感溢れるロマンティック一本勝負が、お話から近い場所にオッサン視聴者を引っ張ってくれてる感じ。
 大変好みの味なので、今後も楽しんでみていきたいと思います。

 女性向けラブコメが対象年齢ごと何を描くかの違いとか、最新鋭の吸血伝奇の扱われ方とか、端っこの面白さもかなり強いんだけど。
 なんだかんだ、美人ちゃんとルカの純情恋物語を見守りたくなる、真っ直ぐな面白さがとにかく太いんだよな。
 次回も楽しみッ!