イマワノキワ

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花野井くんと恋の病:第8話『初めてのペット』感想ツイートまとめ

 花野井くんと恋の病 第8話を見る。

 お試し期間も無事終わり、晴れて”本当の恋人”になった二人の物語、新章開幕である。
 バイト先とか新しい友達とか、何かとほたるちゃんとの狭い関係性に閉じこもろうとする花野井くんを、世間の荒波があんま厳しくない環境に開放して、徐々に人間リハビリをしていこう…という流れ。
 主任も矢尾くんも人間出来てて、ネグられた結果どう社会と付き合うべきか、全く学習機会がなかった少年がトゲだしても致命傷にならないのは、大変ありがたい。
 自分やっぱりこのお話を、ある種の崩壊家庭背負った不良少年の更生物語として見てる感じだ。
 勿論、そのリードを取ってるのはほたるちゃんだ。

 

 大人びているようでいて幼く、成熟しているようでいて脆い、花野井くんのアンバランス。
 自分を愛してくれる立場の”恋人”を過剰に独占して、世間を狭くしていく気質は自己防衛的な意味合いが強いと思う。
 帰属する社会と関わる人間の数を増やしていって、愛にはいろんな形がある事、それを受け取るのに十分な資格が己にあることを、ジワジワ学んでいければ、時に恋人を押しつぶしかねない重たい寄りかかりも、減っていけるんじゃないの…という試みの、今回は第一歩目だ。
 イヤなヤツである自分を装うつもり/余力がない花野井くんは、環境が悪いと即座に排除されるタイプの人間だと思うが、まー世間が優しくてよかったッ!

 というかバイト先にしろ友達関係にしろ、全部ほたるちゃんがアダプターになって花野井くんに輸血してる関係性なので、優しいとしたらそれはほたるちゃんの人徳が、自分が繋がる世界を選んだ結果…というか。
 悪い人と悪い繋がり方してたら、耐性なくその色に染まっていきそうなヤバさが花野井くんにはあるので、本当に蛍ちゃんに出会えて良かった。
 フツー人より生真面目で勤勉なほたるちゃんは、恋人になろうが面倒くさい他人との意思疎通をウザがらず、しっかり現状の希望と問題点を可視化して、二人で乗り越えていこうと頑張ってくれる。
 この二人三脚は、ほたるちゃんが引っ張らないと生まれ得ないものだ。

 

 ”恋人”という看板下がっていれば全肯定して、自分の全部それに捧げる/預ける気質がある花野井くんが、ちったぁ世間一般にアダプト可能な人間に近づいていくとしたら、それはほたるちゃんの人格が関係性の中で転写した影響が、結構大きい。
 どーでもいい他人との関係を、彼なりにしっかりしようとするのは、ほたるちゃんの評価と自分の態度が連動していると、一応は理解しているからだ。
 二人だけで満ち足りていられる場所に安住することを、公明正大なほたるちゃんは望んでいないし耐えられない。
 花野井くんがともすれば溺れてしまう不健全な充足から、引っ張り出して社会に繋ぎ、その変化が花野井くんを変えていく… あるいは消滅しかかっていたモノを再生させていくわけだ。

 花野井くんは”恋”以外で他人と繋がることが出来ない…出来なくなってしまった歪な人間だ。
 その欠損が、”恋”だけを知ることが出来なかったほたるちゃんと繋がって埋められることで、彼はどーでもいいはずの他人と向き合うことを余儀なくされ、誤解を理解に変えていく歩みを進めることになる。
 ここら辺、チャーミングな主任さんとの小さなやり取りが積み上がっていて、今回大変良かった。
 周りのサポートとケアが太いので、花野井くんの社会性獲得はいい方向に転がるんじゃないかな…という期待感が強い。

 

 バイト先はそんな感じでまぁまぁ前向きであるが、八尾くんを中核に据えた友達関係はもうちょいトゲがあって、変えられない過去に執着し誰だろうと牙を剥き出しにする、花野井くんの狂犬力が強めに出ていた。
 ほたるちゃんと向き合ってる時は、一途さのポジティブな顔ばかりが見れて胸キュンだけども、その裏にはこういう激ヤバっぷりが隠されているわけで、”花野井颯生”って人間を掘り下げていくなら、しらねー男にガルガルいうフェイズは必要だ。
 噛みつかれる八尾くんはマジ災難であるが、キミの鷹揚な態度でギリギリ話が持っている側面はデカい。
 もうちょっと頑張ってくれ! 悪い子じゃないんだッ!!

 花野井くんは”恋人”に執着する自己像にしがみつくことで、なんとか自分を保っている側面が、僕にはデカい気がしている。
 他人の子供を救うのに夢中で、家で一人待ってる少年を置き去りにしてきた隙間に、スポッと入り込んできたドンファンの人生訓。
 支えにするにはいびつで、しかし己が潰れないためにはそれしかなかったアイデンティティに、必死にしがみついた結果ガルガルしてると考えると、八尾くんには悪いが花野井くんに甘い採点になってしまう。

 

 んじゃあ”恋人”への依存度を減らしてマトモになるのだけが正解かというと…まぁそういう方向には持っていかないんじゃないかな、という期待と信頼もある。
 花野井くんがエゴに手綱をつけて、眼の前の誰かを傷つけないために自分を抑えれる社会性…少なくともその萌芽を宿していることは、ほたるちゃんとの恋人お試し期間で見えた。
 彼が思っているほど彼の優しさは”恋人”限定ではなく、その狭い強さをもうちょい広げて、彼が『どーでもいい』と切り捨てている世間や他人と手を繋げる助けに変えていく道は、ちゃんとあると思う。
 燃え盛る情熱の上手い使い方を、ほたるちゃんの助けを借りつつ今必死に探している少年が、一体どんな生き方にたどり着くのか。
 なかなか楽しみだ。
 狭い了見のガルガル野郎だと、ほたるちゃんに真実愛して貰えないしなぁ…あの子、魂の根っこが公平だし。

 あときょーちゃんの助けになりたいほたるちゃんを描写することで、花野井くんに出会う前から絶望へのワクチン接種を結構頑張った結果、今のほたるちゃんになった事実が見えてよかった。
 そんな救済も自分が独占したいエゴイズムは、自分以外に救われてはいけない加害主義に簡単に転化するものだが…花野井くん根っこが優しいんで、そういう病み方はしなさそうだ。
 誰が救うかではなく、どう救われるかのほうが大事だと、自分を手放せたらもうちょい身軽になれそうだけど、虐待されてきた高校生にそういう”正しさ”求めるのも、別種の加害だよな多分。
 まーせっかくいい環境にいるんだから、じんわりやってきゃいいよ。

 きょーちゃんのコミカルな苦手克服も、好きな人が大事にしているものを大事にしたい、背伸びの一環だ。
 それは見栄と嘘の入り混じったフェイクだが、燃料となる誰かへの”好き”は嘘じゃない。
 そうやってらしくない自分を頑張ってみることで、嘘が本当に変わっていくこと…嘘だと思いこんでいた自分の中に、より自然な本当を見つけることだってあるだろう。
 花野井くんとのお試し恋愛の中で、ずっと解らなかった恋がほたるちゃんに自分のものだと実感されて、それが今の繋がりを生んでいるように、嘘っぱちでも強がりでも、眩しく強いものを生み出すことがあるのだ。

 

 ここら辺の影響と発見が、恋に一段落ついたここからどう転がっていくのか、なかなか楽しみになる新章スタートでした。
 八尾くんへの負担は大きいが、花野井くんなりの自分との向き合い方、今後もワクワク見届けたいと思います。
 次回も楽しみッ!

 

・追記 獣の時代は終わった……のか?
 額へのキスが今の自分達にはベストと、ほたるちゃんの背伸びを優しく抑えて現在地を選んだ花野井くんは、唇で繋がる頃合いを穏やかに待ちながら、ガッツイた性欲を極めて清潔に制御している。
 世間的に”恋”とされているものの提携に、自分をハメて傷つくよりも、自分なりのテンポと歩幅でセックスに向き合っていく……それに付き合ってくれる、性同意をあらゆる局面で最優先してくれるダーリン像は、”ゆびさきと恋々”でも同じで、個人的に面白い。
 それが掲載誌によるものなのか作品個別のキャラ/価値観造形か、はたまた時代を反映したものなのか判別するには、僕はあまりに漫画読んでいなさすぎるけども、しかし”何か”がありそうなポイントだなぁと、思ったりもする、