イマワノキワ

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終末トレインどこへいく?:第11話『もう無理かな……』感想ツイートまとめ

 終末トレインどこへいく? 第11話を見る。

 椎名町を駆け抜け遂に池袋決戦ッ!
 なのだが、ノリと勢いでテンション上がりきって突っ走るより、主役の極めて小規模な弱気と後悔が物語全体の足を止めて、一時撤退したりフロントチョークで絞め落とされたり、その間に追うべきヒロインが狂気のキリン列車で駆け出したり、なんだか奇妙な味の最終話一個前だった。
 そしてそのストレンジ・テイストが、極めてずっと見てきたこのアニメらしくて良かった。
 狂いきって拡大した世界を舞台にしつつ、結局物語の焦点は静留と葉香の高校生らしい衝突とすれ違い、ちっぽけでつまんねーはずなのにどうしても言えない『ごめんね』になる。

 

 それさえ言葉にできれば何もかもが解決しそうなのに、記憶を失った葉香にここに来た理由を問いただされて、静留は何も言えない。
 この逡巡が決定的な引っ掛かりになって、ゾンビ女王が援軍連れて押しかけても、全てをリセットするボタンが目の前にあっても、狂った世界は解決しない。
 起こっていることはクライマックスに相応しくスケールがデカく、体格を生かしどっしり重心の落ちた拳打で押し込んでくるポチと、非力を大技で補って安定感に欠ける静留のバトルなんかも、大変見ごたえがあった。
 あんなに説得力あるフックラッシュとフロントチョークの描写、アニメでなかなか見ないよぉ…。

 しかしゴーヤ回線が繋がって、遂に吾野の賢者たちと連絡がついても、静留が己の気持ちを言葉にして葉香に伝えられない限り、物語は終わってくれない。
 尋常な理屈を超えて狂った7G世界はやはり、少女二人の精神世界という色が強くて、あらゆる事象は自分が何を言うべきなのか見つけられない、弱気と記憶喪失な高校生二人の気持ちに集約されていく。
 言ってしまえば全てが終わる『ごめんね』に、世界全部を巻き込んでも近づけない矛盾。
 人の心のなかにある極小の宇宙が、その外側無限に広がる狂った世界の命運を決め、強烈に繋がっている手応え。
 それを、最終話一個前に確認できる回だった。

 

 勢いよくクレイジーな外面整えつつ、駆動原理は極めてナイーブなジュブナイルな所が俺は好きなので、やっぱ静留の気持ちが答えを見つけなきゃ、なんも解決しないと重ねて描いていく今回は妙に気持ちよかった。
 静留は、素直に応援したくなる”いい子”ではあんまない。
 粗暴なくせに意気地がないし、土足で他人の気持ち踏みにじる部分あるし、どんだけ世界が狂っても変わらない友情にちゃんと感謝できてる感じもない。
 でもそういうイヤな部分を解った上で、『しょうがないかー!』で命がけの旅に、友達が付いてきてくれる子でもある。
 ごくごく普通の、良いところも悪いところもある思春期の女の子だ。

 その凸凹した普通さが、遂に決戦の舞台となった池袋の有り様が示す、イマジネーション豊かに狂いきった多才な世界と噛み合い、あるいは物語の根本的な部分と繋がり支え、普通じゃない旅を生み出していく。
 フクロウ人間が狂った街に住まい、池袋の終末を告げる列車の到来に歓喜する冒頭の『理由(ワケ)が理解(ワカ)らねぇけど、何かが開始(ハジ)っちまったぞ!』という躍動感は、お話が動き出したときからいつでも元気で、しかしそのエンジンは極めて普遍的で当たり前な、少女たちの心の宇宙にこそあったと思う。
 つまんねーすれ違いに傷つけ合って、再び出会うために世界のすべてを賭け、運命を駆け抜ける。

 壮大さが下さらなさの、狂気が当たり前の尻尾を噛んでウロボロスの輪を描く構造特有の、極大と極小が繋がった心地よいめまいにこそ僕は興奮し続けて、1クールの物語を見続けた。
 だから今回描かれた静留の言えなさ終われなさ(つまりは、たった一言を言えれば全てが終わる予感)は、極めて僕が思うこの話らしさに溢れてて、凄く良かった。
 誰かを思い、その気持のまま突っ走って試練を乗り越えて、手を携え時に迷って、新たな絆をレールに青春の列車が走っていく。
 まぁずっと、そういう話をやってきたのだ。
 そして僕はそんな、宇宙のように小規模で、心のように途方もない、狂って元気な旅がとても好きだったのだ。

 

 結局静留と葉香の関係に集約していくこの物語はしかし、そこにたどり着くまでの物理的距離、旅の険しさが良い風通しを生んで、八方破れの心地よさを有している。
 旅を通じて縁を繋いだ連中がこの最終決戦に力を貸す様子も良かったし、誰よりも葉香を案じて体を張るポチと、敵対しつつもなんか通じ合う感じが、殺伐としながら妙に暖かかった。
 そういう交錯からメチャクチャ遠い場所で、永遠の現状維持を望むポン太郎の哀れさも、少女たちが乗り越えるべき間違っちゃった大人像として、なんか良い。
 こんだけグチャグチャに狂った世界で、その元凶があんだけ小市民なのも、このお話特有のスケール感だよなー。

 停滞し現状維持だけを望む存在を、『悪いゾンビ』と断じる美都ちゃんに、旅の目的を目の前にしてなーんも言えなかった主人公はズブズブ刺される。
 現状維持のままなら腐って砕けていくだけだから、一か八か未来を求めて、『善いゾンビ』とその優しい女王は池袋へと進んできた。
 世界が狂った責任を取りたくないから、茶碗蒸しにしたりところてんに変えたり、7G世界らしく変形させられた”殺人”を振り回しながら、ポン太郎は徹底して葉香を便利に使い、その意思を消し去り、逃げて逃げて逃げ続ける。
 足を止めているようでいて、後ろ向きに滅びの方へと世界ごと、自分を引っ張り込んでいる。

 

 ラスボスがそういうコトしてるってことは、やっぱ主役は後先考えず前に突っ込んで走り抜けて、自分たちの原点にちゃんと戻っていかなければいけないのだろう。
 終わっていく世界を振りちぎるほどの速さで駆け抜けなければ、いちばん大事な場所にはたどり着けない。
 狂った世界の一番狂った場所にこそ、世界で一番安らげる思いがあるのだとしたら、後ろ向きに走る逃走列車を追いかけて、終末トレインも最後の疾走に踏み出す必要がある。
 その時果たして、静留は言うべきたった一つの言葉を届けて、狂った世界を終わらせられるのか。
 言わなきゃ、スイッチ押しても世界は日常を取り戻せないってことは、今回ちゃんと示された。

 だから次回静留は、長い旅の果てに凄く当たり前の大事な言葉を、どんな試練も踏み越えて掴みたかった女の子の手を取って、ちゃんと告げてくれるだろう。
 そういう話だろうと思いながらずっと見てきて、そういう話として終わってくれそうで、僕はとても満足だ。
 この期待をさらに上回るエンドマークを、ちゃんと届けてくれる極めて真っ当な話だとも思っているので、来週の最終回はしっかり見届けたい。

 

 旅が終わる。
 それはつまり、取り戻された青春と日常が新たに始まるってことだ。
 次回も楽しみです。