イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヴァンパイア男子寮:第10話『美少年、変身する。』感想ツイートまとめ

 ヴァンパイア男子寮 第10話を見る。

 前回さんざん積み上げた厄介ごとの種に、ドキドキ後夜祭ファイヤーでガッツリ着火して、クライマックスを加速させよう! という回。
 ありとあらゆる試練がルカと美人ちゃん、真実の恋を試す方向に転がっていって、ある種の聖人譚みたいな味わいが出てきて面白い。
 小森は物語全体の交通整理役として色々イベント起こしたり、『これを越えれられたら青春合格』みたいな試験を用意したり、お話の要として相当頑張ってくれてるなぁ…。
 ラブコメ古典派の技法を今に蘇らせた作品が、”荒野の試練”つう超クラシックをも貪欲に取り込んで自分を加速させていくの、時代を越えた興奮があるな。

 

 さてお話の方はスーパーロマンティックな学園祭で全てがキマる! …と思いきや、煮えきらない返事で色々更に拗れて、ガワだけ”運命の女”に寄せた誘惑者が更に状況を引っ掻き回してきた。
 『俺は性別を超越した、真実の愛の持ち主だから!』で、対象の性自認完全無視してトランスさせてくるヤバダンピールが恋に狂ってるおかげで、ドンドン状況がヤバくなってくぜー!
 いや実際、性別っていう極めてナイーブな部分を他人に勝手に弄られて、勝手な理想たたきつけられるの相当な恐怖だと思うよ…。
 『素の蓮くんが善良すぎるから、呪われた血に狂わないと状況が回らねー!』って、狂気ドバドバしたら入れすぎちゃった感じだな。

 メインと並走する感じ樹里Changの純情が学園祭でぶつかったり、ヘタレが逃げたり追いついたり、サブキャラの決着もいい感じに加速してた。
 こっちは吸血鬼の異能関係ない、ごくごくフツーの幼馴染 In loveなわけだが、『本当の自分を見つけて欲しい』という願い自体は、みーんな同じ。
 ”見つけられる”という受動態が軒並み女性に背負わされていて、”見つける”という能動態が男の子たちの役割なの、エロティックでアバンギャルドな装いを維持しつつ、極めてクラシックな価値観軸で回ってるこのお話らしいなぁ、などと思う。
 女の子は待ってるお姫様で、男の子は迎えに来る王子様。

 この関係性は固定されて動かぬまま、しかしただ見つけられるだけで満足できない少女の自我が状況を動かし、密室での告白や炎の前の口づけになって炸裂する。
 ここに吸血鬼の異能由来の、ゴリッと性的アイデンティティを切り替えてしまう大胆さが絡んで、なかなか独特の味が出ているのが面白かった。
 性転換という一大事が、『女であること/男であること』を掘り下げる抽象化に行くのではなく、あくまで美人ちゃん個人の『本当』を捻じ曲げ覆い隠す恋の障害として消費されていくのが、このお話らしい魅力的な乱雑さだと思う。
 『え、そこズッパり行くの?』みたいな所を、マジズッパり行く気持ちよさ。

 

 怪物が本来持つ恐怖を去勢して、イケメンお化け屋敷としてお嬢様方に消費してもらう文化祭の出し物は、極めて優秀な本作の作中戯画だと思う。
 吸血鬼が持つ耽美な退廃は適切に脱臭され、極めて倫理的で善良で初心な青年が、超常的なラブコメを演じるための舞台装置へと研ぎ澄まされていく。
 恋が持っている身勝手で残酷なエゴもまた、そんな大きな非日常装置が駆動する騒々しさに飲まれて、恋心が秘めた生臭い泥をあまり表に出さぬまま、『本当の私』を巡るすれ違いと発見が、折り重なりながら物語は加速する。
 ここで蓮くんだけが、身勝手なエゴを暴走させた『悪いやつ』やってるの、面白いけど可哀想だなぁ…。

 求めるあまり相手を壊す恋の危うさも、人食いの怪物となる怖さを秘めた吸血鬼の在り方も、あくまでドキドキワクワクな恋物語のスパイスであって、それをぶち壊しにする本気度で暴れるわけではない。
 そんな安全装置がかかった物語を揺らすべく、蓮くんのクソ親父とその使い魔が色々ガタガタ揺らしているわけだが、作品全体を俯瞰できる立ち位置に唯一居る小森が『まー若造共には良い試練なんで、そのまんま続行!』とOK出しているので、思う存分恋路は揺れる。
 小森という”保護者”が安全を担保しつつ、彼が見守る水槽の中で子ども等の恋が踊ってる構図、メインユーザーに想定されてる発育段階とシンクロしてそうで、個人的にオモロイ。

 

 地獄の二者択一に選ばれなかった美人ちゃんは、せっかく美味しくなった血を再び冷たくして、奈落へ落ちる所を救われて始まった恋を、今度は地べたへ叩き落とす。
 転化した性別、吸血鬼社会の因習、形だけ似せた”運命の女”。
 状況を生み出してる色んな厄介事を、軒並み『関係ねぇーッ!』とはねのけて美人ちゃんのキスに応えれば、小森が用意した水槽の中で適切に自我を育ててきたルカくんの青春遍歴は終わりであり、子ども達は実現するべき自己の形を、恋の相手とぴったり撚り合わせ重ね合わせて掴み取ることが出来る。
 恋愛を燃料にしたジュブナイルの、あるべき終わり方へとたどり着ける。

 しかしそんな”正解”に行き着くまでの、個人としての懊悩や欲望をどれだけ精度高く、熱量込めて描けるかがラブコメの技量であって、美人ちゃんがガンガン前に出る今回はそこら辺、大変良かったと思う。
 彼女が抱え込んだ思いの爆弾がどんだけデカいかは、今回良く描けたと思うので、あとは幻の手を掴んで真実を取り逃したルカくんが、ズタボロにぶっ壊れた美人ちゃんの心を取り戻すだけだ!
 …改めて文字にしてみると、相当ダメージデカい試練だな。
 『クライマックスには相応しい、頑張れ若者ッ!』と無責任なエールを投げて、次回を楽しみに待つ。
 この温度は準備した厄介事がしっかり燃えた結果なので、構成偉いわマジ。