可哀想なモーリス卿の口から漏れた情報で、猟犬たるヴラドは狩られる獲物に堕した。
”デリコズ・ナーサリー”という戯れも終わり、組織のトップを餌にして敵を釣る戦いが始まる…という、デリコズ・ナーサリー第5話である。
育児要素にフォーカスしていた話が、ペンデュラムの直接襲撃で事件の方に軸足を変えて、不気味な敵たちの顔が少し見えて、また可哀想なおじさんが死ぬ…という展開。
内部情報は漏れるわ上層部がバンバン倒されるわ、もはやヴラド機関はガタガタな感じもする。
この体たらくでよく「誇り高き支配階級でござい」ってツラ出来てんなとも思うけど、それ以上にペンデュラムの手が長いつう話かな?
なんか得体のしれない、支援者の存在も示されてたしなぁ……。
今回は初の直接対決ということで、敵対存在の内情も少し見えてきた。
永遠の繭期を求めるキースの狂いっぷりを見てて、一つ得心が行ったのだが、子を持ち社会的重責を背負うナーサリーの貴族たちと、それに敵対するテロリストの対立構造って、子どもでいられなかった大人と、大人になりたくない子どもの対峙を含んでいるのだろう。
ダリとゲルハルトのクラン時代にも言及があったが、この世界の誰もが危うく危険な繭の時代を経て、次代の希望を背負える大人へと羽化していく。
繭の中に微睡み続けることは出来ないし、そこが天国じゃないのは、幻影に苛まれて孤独なテオドールくんを見ていれば良く分かる。
自分でも制御しきれない破壊願望や、イカれた無限の愛に翻弄されるペンデュラムの凶漢共を見ていると、どれだけ歪んで軋もうが貴族≒大人が社会の形を維持し、幼虫から繭、そして成虫へと進み出していく”普通の”社会を維持しようとする意味も、より鮮明になる。
現状キャラ出してるのが繭期のイカレポンチばっかなので、他の連中がどういうつもりなのかは分からないが、繭の中で腐っていく最悪なピーターパン・シンドロームを、ペンデュラムが内包していること…それが子どもを育てる大人の様子が、たとえ不器用でヤバくても頑張ってる託児所で対置されていることが、今回自分の中で納得いった。
あの歪さではナーサリーの子供らも、十全に幸せな子供時代を過ごし、だからこそ幸せに繭の時代を終えて立派な大人になっていく、”まとも”な生き方は難しいかもしれない。
しかしそれでも、繭の中に留まるために他人を殺し続けるキースの醜悪や、愛を歌いつつ何かを壊すことしか出来ないキキの破綻を見ていると、思春期に不安定にのたくるより、真っ直ぐ幸せに大人への階段を登れるよう、託児所や社会システムを整えている秩序の維持者の…子を持つ大人の”まともさ”が際立った。
まぁそれを完遂できないから、ナーサリーというミクロな視点でも、社会全体というマクロな視点でも、吸血貴族社会ガタついてんだけどさ…。
繭期という、吸血種に特有な超常現象があろうとなかろうと、子どもには特有の苦しみがあり、それを乗り越えて”まとも”な大人が醸造されていく。
永遠の繭期を望むキース、望まぬまま狂った人形劇に閉じ込められてしまったテオドール、普遍的なカイン・コンプレックスに悩まされるラファエロ。
そして社会を率いる特権に相応しい矜持と成熟を、末期に示してヴラド機関を守ったウンベルト卿。
吸血種の幼生から成体へ、様々な在り方を混在させながら描かれる、大人と子ども…そのなりそこないの姿。
誇りに樹んじて死ぬことが、はたして唯一の大人の証明なのか。
イニシアチブの命令権限があまりにも絶対的なので、それを使った働きかけに対しての答えが”死”しかないの、やっぱ詰んでんな…って感じだけども。
誇りを捨てて実益を取るとうそぶいた若造に、ウンベルト卿が窮地で示した問いかけに、貴族らしからぬダリは今後、物語全部を使って答えなければいけないだろう。
吸血種に刻まれたTRUMPへの隷属、自由意志の剥奪、繭期という死に至る不安定は、彼ら個人もその社会も、ひどく歪んで出口がない、幼生が”まとも”に成体になることが難しい作品世界を、否応なく描き出す。
そんな運命の檻の中で、どうすればより強く、より優しい存在へと羽化できるのか。
ペンデュラムの連中が、社会全体を包むTRUMPの繭をどうにか打ち破ろうと他人の血を注いでいるのか、まだ全体像は掴めないけども。
貴族たちが自分たちなり、社会で一番成熟した存在(だから、支配の特権を持つ)…一番の大人として己の階級を規定し、それに相応しく生きて死んでいく道を、親から子へ継いでいる様子を見ると、やっぱ腐れテロはちげーだろ、という感じにはなる。
世界を己の思うがままにしたいというガキっぽい衝動を、他人の命と尊厳踏みにじる形で叶えようとしてるクズは、やはり革命のための手段選びからして間違えてて、目的達成のため襲撃した先で、まんまと獲物に自害もされる。
社会が維持され、その上に乗っかって個人の家…そこで育まれる幸せが約束されている、正統な秩序。
キースが望む永遠の繭期は、それ全部をぶっ壊す身勝手を吠えるわけだが、ぶっ壊される方はたまったもんじゃない…てのを、罪なき子どもたちの無邪気がよく伝える構造なのは、残酷ながら有効だろう。
色々問題はありながらも、必死こいて貴族し大人し親しようと足掻いていた、ナーサリーの捜査官たち。
その不器用な生き方に、子育て奮戦記を追う中焦点を当てていたことが、なんか世界の真実全部解ってますよッ面で他人ぶっ殺す、クソカスどもの最悪っぷりを良く照らす。
イヤホント最悪だよーアイツら!
そう思わせてる時点で、いい”悪役”なんだろうね。
僕は一見普通に見える家庭の平穏とか、社会の安定とかが、その実全然大人になりきれない人たち必死の足掻きによってなんとか維持されていて、だからこそ価値があるのだと描いている話が好きだ。
吸血貴族の支配、TRUMPを中心とする社会がどんだけ歪んでいるか、色んな角度から照らしつつも、そこで必死に生きてるボケ共の頑張りを見落とさないこの話は、そういう視線が確かにあると思う。
小さな体で受け止めるにはあまりにも大きすぎる愛憎に、苦しみつつ生きてる子どもらの姿を見てると、苦労してんのは大人も子どもも、吸血種も僕ら人間も同じだなという、共感の橋が作品にかかる。
子どもでいることの苦しさ、大人でいることの難しさを、育児と親子関係に照らしながら描いてきたからこそ、それを暴力的に跳ね除けてエゴを押し付けてくる、ペンデュラムのやり口は認められない。
それは秩序の守護者たるヴラドの責務とも重なる実感で、マジ好き勝手絶頂にテロリストに良いようにされた主役たちが、今後クズに反撃していく流れに心が乗っかる足場だ。
貴族として、大人として、死んでも譲ってはいけない何かが確かにあったからこそ、ウンベルト卿は死んだ。
それを譲ってもいいとうそぶいていた、人の親ながらおとなになりきれていないように見える主役が、この犠牲をどう受け取るのか。
そこで生まれる何かが、彼の手の中で育まれている小さな魂に、どういう影響を及ぼしていくのか。
そこら辺、大変気になるエピソードでした。
長いTRUMP年表の中で、今子どもである存在が繭期に入り、艱難辛苦を乗り越えて立派に羽化したり、生まれることなく繭の中死んでいったりする未来が確定してるのだとすると、ウンベルト卿が命がけで見せた大人の証明も、既に運命によって蹴り飛ばされたりすんのかな…。
たかが命一つ、誇り一つで証を立てようが、”まとも”に子どもが大人になっていくことがどれだけ難しく、理不尽で破壊的であるかを描く話なのかな…って感じも、現状受け取っているので、なかなか安心も油断もできん。
TRUMPというあまりに不安定な神に、社会と種族の行く末を決められてしまっている吸血種社会自体が、大きな繭に包まれた未熟な時代にある…という見立ても可能な回だったと思う。
ペンデュラムがここからの脱却を願って腐れテロ敢行しているとしたら、永遠の繭期を望むキースはそもそも自己矛盾してて、その破壊願望は自分を壊すことで完成するんだろうなぁ…。
アイツホントに身勝手なカスなんで、それなり以上に重たい事情が背景にあったとしても、その末路で全然OKなんだよな現状だと。
死ぬなら一人で勝手に死んでくれよマジでよー!(最悪ながら素直な感想)
つーかペンデュラムがTRUMPベースの社会を維持・純化したいのか、破壊したいのかも、全然解んねぇしな…。
ここら辺の大きな謎が気になりつつも、今は空っぽの家からガキどもが消えた謎が心配でしょうがないよッ!
退屈なのもようよう解るが、人の命なんて何も思ってない人面鬼畜がキミら狙ってんだから、大人しく言うこと聞いてねッ!
…って大人のワガママを素直に受け止めてもらえるほど、パパたちの愛が子どもらに届いていないから、大脱出冒険絵巻が展開されるんだろうな。
それもまた、羽化に至るための必然。
湧き上がる衝動に押し流されながら、魂が安らげる岸辺を探す旅は続く。
次回も楽しみ!