イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

異世界失格:第10話『きちんと僕の命を奪わなかったことは、 本当に猛省したまえ』感想ツイートまとめ

 砂漠に吹き荒れる颶風は、いかなる物語を暴くのか!?
 激化する七大堕天使との戦いに、”執筆”の種が芽吹き出す異世界失格アニメ、第10話である。

 すげー勢いでフラグを立てまくるイケメン飲んだくれエルフが、想定通りにセーラー服着た”複雑な過去”に衝突されて、状況が謎めいて加速する隣でセンセーは一人、物語の奥を覗き込みキーパーソンを押さえる…みたいな話だった。
 ”執筆”の強味と弱みが解ってきて、物語の基本構造が大体把握できたタイミングで、こういう”ありそう”のど真ん中が尺使って襲いかかってくるのは、逆に新鮮だ。
 なんだかんだ、”ありそう”を上手く外して話を転がしてきた証拠なんだろうな…。

 

もしかしたらアニメ化最終エピソードになるかもしれない、東ゲルプ攻防戦。
 因縁の主役は現地民の魔術師ヴォルフにあり、センセーは安全圏から濃厚な物語を読み解く”作者”のポジションに陣取った。
 家族の絆だの自己の克服だの、人間を悩ますよしなし事を俯瞰で見届けられる特等席を確保した上で、転移者特攻な”執筆”に必要なネタを集め、因縁が十分発火するまで待ってオチをつける。
 アニメも最終コーナーを回った所で、センセーの性分と立ち位置、異能に一番しっくり来る他人事が、戦争の真ん中に座った感じもある。
 もうちょい興味本位で他人事弄くる話になるかとも思ってたが、思いの外太宰が異世界人間模様に前のめりでな…。

 ヴォルフはタマやニアくんと違ってパーティーメンバーでもないし、もしかすっと今までで一番主役との心理的距離が遠い、エピソードヒロインかもしれない。
 謎めいた老女とか、”強欲”の堕天使とか、”執筆”に値するコクがある因縁は次回以降掘り下げられていくとして、ニヒルで怠惰なセンセーは自分を取り巻く因縁に、常に適正距離を取る。
 一見冷たく突き放しながらも、執筆対象に潜り込むのに必要な興味と愛は確かにもって、しかしベタついた感情は燃やしすぎずに、あくまでクールに見守る。
 それは異性への愛や欲に汚されることなく、極めて平等に悩みおおき愚かな人間全てに向いている、サラッとした視線だ。

 ただひたすらに興味の赴くまま、二度目の生も文豪として生きるべくネタを集めているわりには、執筆対象のプライドを尊重し無粋を避ける。
 一見無頼なヴォルフが純情を寄せる相手が誰か、知ればより”執筆”は進みそうな所で、ブレーキをかけて相手と自分の品性を守る。
 そういう俗っ気のなさが、ワーワー騒々しいギャグ時空やらネバネバ湿った人情の沼からセンセーを遠ざけ、しかし何もかもを冷笑する醒めすぎた感じを、作品から抜いてもいるのだろう。
 今回メロスを伴にウロウロと、ヴォルフ周辺を探った動きにはそういう、主役のスタンスがよく透けていたと思う。

 

 やっぱセンセーのキャラ性、その足場を固める太宰生前の圧倒的な人間力が作品のエンジンではあって、「主役がおもしれーヤツだから、話も面白い」という、凄く健全な構造で動いてる物語ではある。
 同時に太宰自身の物語を燃やしきってしまえば、謎めいてるからこそ魅力的な主人公は影を失い、物語は推進力を無くしてしまう。
 なので主役の外側に、文豪としての観察力とスタンス、人間としての凄みとヤバさを存分に発揮できる因縁を用意し、間接的に物語的ポテンシャルを確保して展開していく構造…なんだろう。

 ここでさっちゃんではなくユリコが出てきた以上、センセー個人に踏み込むエピソードはアニメじゃなしかな、って感じだが。
 おそらく作家なるものは全てそうなのだろうけど、センセーは俯瞰で遠く執筆対象を睨みつけつつ、そこに己自身の赤い血を否応なく滲ませる。
 太宰自身が興味を惹かれ、見つめ描かざるを得ない何かが他人の中にあるからこそ、彼は異世界で出逢った誰かの物語を”執筆”し、それが無敵の転移者をぶっ倒すカタルシスを連れてもくる。
 執筆に値するコクがない、カイバラみたいな輩にセンセーは自分の反射を、あるべき世界の残滓を見て取らず、美しい祈りと複雑な家族関係に挟み込まれたタマの方を、自分が筆を執るに値する存在と祝福していた。

 そこには結構色濃く、人間と世界がどうあるべきかというセンセーの判断…つまりは『太宰ならば、このようなものを書くべきと考えるだろう』という、作品独自の太宰解釈が反映されている。
 ”異世界失格”が描き見つめる太宰治は、生粋の無責任と逃げ癖が上手く削られて、程よく他人と適正距離を取りつつ凄みで圧倒する、ヒロイックな造形になってるなぁと僕は思う。
 それはそれで太宰の一側面であるし、笑えないクズさを「太宰だから」で練り込んで主役に据えてたら、こんなに飲み込みやすい話にもなっていなかっただろう。
 センセーがどんな話に興味を抱き、何を”執筆”するのか。
 その選択に僕は、作者の太宰読解を見て取って、そこをこそ楽しんでいる感じが濃い。

 

 色々気になる種を巻いたヴォルフの物語が、どういう真相を次回見せるかは、それを通じてこの話が太宰治をどう解釈し、センセーがどう第二の生を生きるかを反射している。
 生前借金と因縁に絡め取られ、他人と上手く繋がることがお世辞にも上手く出来なかった太宰治という男を考えると、結構スッキリ執筆対象との距離感を確保し、旅の仲間との関係も前向きなセンセーの在り方は、なんだかこうあって欲しかった夢のような手応えがあって、結構好きなのだ。

 ”執筆”に問答無用のチート力を込め、無頼派の凄みと卓越した観察力でもって、あらゆる物事を筆と身一つで乗り越えていける、超人としての…常識に縛られない無頼派人格者としての太宰治
 それは薬物中毒と病に蝕まれ、更生の機会をことごとく蹴り飛ばし、人の果たすべき責任から逃げて逃げて遂には現世からも逃げ出した、哀れな負け犬としての太宰治の陰画であり、そんなゴミクズの描いたものに魅せられた読者が夢見てしまう、美しい星でもあるのだろう。

 

 ヴォルフと彼の物語を相手に今回描かれた”執筆”の準備は、このポップな太宰治論が内に秘めているものを改めて感じさせてくれて、なかなか面白かった。
 次回さらにその内側に切り込み、”執筆”というチートが快刀乱麻を断つ中で、新たに見えてくるセンセーの横顔が、僕にはとても興味深い。
 次回も楽しみだ。