ネガポジアングラー 第4話を見る。
無明の恐怖に瞳を閉じ、逃げて逃げて逃げた果てに釣り上げられて、始まったコンビニバイトの日々。
自分を人生のポジティブな岸へと釣り上げた貴明とは一旦距離を取って、見知らぬ魚である鮎川ハナちゃんとの間合いを測るエピソードである。
前回で明確に第一章を終わらせ、新章開幕となった話数であるけども、ゆったりと焦らず進むペースは相変わらずで、常宏とハナちゃんの一日がどう転がっているのか、それが交わって何が起きるのか、釣り糸を垂らしてじっくり待つ。
「釣れないことも、また釣りである」と告げるように、二人の関係は急速な進展を見せないがしかし確かに、改めて挑んだ釣りから感じ取るものも、店長を間に挟んで少し見えた気がする相手の顔も、ライン越しの手応えをしっかり伝えてきている。
昼から夕方、夜へと色を変えていく時間の中で、解らぬなりにドタバタもがき、釣れないなりに楽しさを探し、見えないなりに他人を知ろうとする時間は、何も起きていないように思えて、その実不思議に豊かだ。
その焦らぬ面白さを、常宏と僕らに改めて教えるようなエピソードだった。
この語りすぎず感覚を預けてくる描き方、俺は結構好きな釣り方なんだよな…。
常宏の抱えたありふれて特別な絶望への、無明から己を引き上げる方策への、面白い処方箋の出し方だなと思い始めている。




硬い笑顔を貼り付けさせて、カタにハメられて動き出した真人間としての常宏の人生。
それは不慣れながらも思いの外熱心で、便所も掃除すれば商品カタログもしっかり読み込み、釣り銭計算で同僚がフリーズしたら自分が引き受ける、とっさの器用さもある。
前回見せた一心不乱の大逃走を見ていると、もっと逃げ腰にやる気なくコンビニバイトするかと思いきや、存外お仕事頑張ってくれているのは、主役を好きになれる良い描写だった。
ここら辺、貴明がヘラヘラ見切っていたように、真面目な地金がようやく地面に根を張り出した…ということなのかもしれない。
ブツクサ文句言いつつ、押し付けられた新しい環境で前を向こうとするのが常宏の”本性”だとするなら、それが芽吹ける環境を作った貴明の手助けは、やはり盲亀の浮木優曇華の花、得難い奇跡なのだろう。
ここら辺の特別さをお互い理解しないまま、当たり前の日常が積み重なっていく手触りが個人的には面白くもある。
生きイソメの水槽がドデンと置かれたエブリマートは、普通のコンビニと切り分けるにはなかなか異形の職場で、半ば釣具店と化した店内の心地よい異質性を、今回のエピソードはどっしり捉えていく。
ヘンテコだけど/だから面白い。
そういう作品の風を、人間関係やそれが動く舞台に乗せて描く筆致は好きだ。




混ざり合わないはずのものが同居してしまっている、奇妙な面白さがどこから来たのか。
常宏が腰を据えて仕事に勤しむ今回、カメラは同僚たるハナちゃんの日常にもクローズアップして、勤労少女の忙しない毎日を面白く切り取ってくれる。
髪の毛はどんどんトランスフォームするし、飯食ってるときの珍獣っぷりは凄いし、「このアニメのヒロインはなぁ…ただ可愛いだけのお人形さんじゃねぇんだ!」と、じっくり少女の一日を追いかける描写が殴りつけてくる。
自由闊達に見えて思いの外苦労と寂しさが滲んでて…俺、この子好きだよ…(唐突な告白)
三時に起きて朝釣に勤しみ、フライヤーで獲物を料理して学校に向かい、ガースカ眠ってシフトに入り、また釣りをして一日を終える。
常宏が逃げっぱなしの人生に定点を得て、周りをゆっくり見渡せる状況になってみると、他人がどういう苦労をして、それでもなお人生をエンジョイしようとしているか、それで取りこぼすものも含めて描く余裕が出てくる。
ハナちゃんは別に、バランスの良い完璧な人生を送ってはいない。
学校では寝てるし、好きな釣りの話は山盛りできても釣り勘定は上手くいかないし、自分の興味の赴くまま店は書き換えちゃうし、初心者に寄り添った説明も出来ない。
身勝手で自由で、子どもで大人な人間だ。
彼女がどんな風に一日を送るのか。
それは俯瞰で物語を見つめる僕らだけが知れる、特別な”答え”だ。
自分だけが不幸で、自分だけが間違っていると、目をつぶって文句たれていた常宏には、まだここで描かれたハナちゃんの生真面目と自由は見えない。
限られた視点から彼女を見るしかない、おバカで必死な一人間は今後、ブツクサ文句を言いつつ、”釣り”という共通言語を介して、色んな荷物を背負い間違い込みで元気に生きている他人に、目を向け開いていく事になる。
そうやって、自分の外側に確かに光があるのだと見定めたときに、暗い場所に自分を閉じ込め、そうすることで不安を殺していた背年は、何を思うのか。
やっぱりそこが気になっている。
ハナちゃんの一日を丁寧に追いかけられると、自由なようで生真面目で、真っ直ぐな割に不器用なその生き方が、先に描かれた常宏の地金と妙に似ているのだと感じる。
奇縁で結ばれ釣りに助けられ、ひとつ屋根の下同僚やることになった二人が、この共鳴を重ねていったときに、一体何が起こるのか。
今回のエピソードはガッチリ針が食い込んで、デカい獲物を釣り上げる話ではない。
しかしそこに至る一歩目が、ドタバタ騒がしくも楽しくて、上手くいかないなりに面白くて、余計な考えを吹き飛ばす真っ白な専心に満ちていることを教えてはくれる。
だから、その先が楽しみなのだ。




夕闇迫るビルの間、ハナちゃんは常宏を連れ出して竿を握らせる。
彼女は熱心だが良い教師とはいえず、専門用語を分かりやすく解説したり、やりがいを満たしてくれるような釣果をすぐさま手渡してくれはしない。
しかし頭でっかちに考えすぎて、人生がフンずまりになってしまっていた常宏にとって、とにかく仕掛けを投げ、じっと水面を見つめる実践主義は、不思議とセラピーめいた仕事をしてくれる。
彼方に霞む少女の横顔を見つめて、なにかに急き立てられるような硬さを取り除いた笑顔を、夕日の中に見せることだって出来る。
このアニメは釣り人からは直接見えない水面の下で、ルアーがどう”活きて”魚を誘うかを、結構力を入れて描く。
それは”釣り”というモノがどう面白いのか、一番プリミティブに魅せると同時に、見えないものの奥を探るコミュニケーションの面白さを、躍動させる試みと感じる。
常宏が悩む初心者当然の難しさを、ハナちゃんは回り込んで親切に教えられない。
そういう成熟は彼女からは遠くて、しかし自分が大好きな釣りを常広にも好きになって欲しい気持ちは、溢れるほどにある。
常宏が釣りを通じて、腰を据えて誰かの横顔を見れる時間を掴もうとしているように、ハナちゃんもまた、なかなか探れない新入りの気持ちに近づいていく。
動かないルアーをどうそれっぽく”活か”し、魚を釣り上げるのか。
第1話から継続して、このアニメがメインに据えている”釣り”の技術はそこにある。
相手の食べたいものを想像し、釣り人の工夫がなければ死物でしかないルアーを動かし、ラインで繋がったファイトの末に釣り上げて、美味しくいただいて命を繋ぐ。
見えないものを想像し、死んでいるものを活かす。
そういう角度から”釣り”を掘り下げようとする視点は、やっぱり目を閉じてネカフェの暗い子宮で死んでいた常宏を、活かし直すドラマと呼応しているのだと思う。
ハナちゃんは無自覚ながら、ルアーの扱いを通じて常宏の人生に血を通わそうとしているのだろう。
…貴明はここら辺、ヘラヘラ顔の奥で超自覚的っぽいのが、個人的にはビリビリくんだよな…。




人生という釣りはまーなかなか簡単にはいかず、しかし店長を間に立てることで、ハナちゃんが抱えた水面下の事情も解ってくる。
ここですぐさま直接本人に人生の深いトコロ聞けない常宏も、「まぁ良いでしょ」でなんとなく媒を果たしてしまう店長も、そんなのお構いなしに夕焼けに釣り竿振り上げる花ちゃんの力強さも、俺は凄く好きだ。
そうそう簡単に、釣り上げるべき人生の真実なんて想像もできないし、正しい竿の振り方も解らない。
でも解んないなりにやってみたら、思わぬことが面白かったり、見えなかったものを遠目に見つめたり、そこで解ったつもりになったことがやっぱ違っていたり。
そういう、やってみたからこそ掴めた何かを足場に、ちっとは何かが出来る自分に一歩ずつ、近づけはするのだろう。
ハナちゃんという他人が、果たして大人か子どもか。
自分だけが人生の理不尽に苦しんでるのではなく、それぞれ厄介な荷物を背負って必死に前向いているのか。
答えは今回一回では釣り上げられず、教えきれず、凸凹を噛み合わせながら日は暮れて、また朝が来る。
このアニメの”釣り”が常に時間経過とともに描かれ、日が暮れて朝が来るまでのネガポジを繰り返しながら描写されているのが、地に足がついた人生賛歌を無言で描いていて、僕はかなり好きである。
嫌がらせでドヤ顔するためであったとしても、ただただ自分の”好き”を押し付けてるだけだとしても。
ハナちゃんはずーっと遠巻きに近づいてこなかった常宏の竿を取って、同じ場所、同じ道具でデケー魚を釣り上げられるのだと、実例を持って身近に教えてくれる。
そういう手に残り腹を満たす釣果だけでなく、ただ遠くに仕掛けを投げれるようになっただけで結構面白いのだと、常宏が新しい窓を開く描写もあったのが良かった。
第2話で示されていたように、なにかと考えすぎる常宏と、しっかり考えた上で無心になる”釣り”との相性はいいんだろう。
何も考えていないようでいて、色んなモノを感覚して自分なり向き合ってるハナちゃんの、優しくて強引な直観主義とも。
バイト初日に見せていた根の生真面目さは、多分大物に繋がってる。
そんな風に、面白くねぇはずのボウズの面白さが、暮れて明けてまたやってくる明日を照らしてくれる様子を、丁寧に積み上げる第4話でした。
ここで一話、釣れないのも釣りだし、すれ違ったり解りあえなかったりするのも出会いだと、一見足踏みするように描く筆致は好きだ。
そういう豊かな無駄足があればこそ、ネガティブな絶望を跳ね除けてポジティブな方向へと、人生を”活かす”物語に潤いも生まれる。
振り回されただけのこの一日が、振り返れば輝いて見えるような物語が、今後積み上がっていくと良いなぁと思うエピソードでした。
大変良かったです。
ハナちゃん珍獣可愛かったし。
次回も楽しみッ!