イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

来世は他人がいい:第5話『椿姫』感想ツイートまとめ

 明紅色に咲き誇る毒花が、一輪京都より舞い落ちる。
 ヤベー男とヤベー女が横浜に火花を散らす、来世は他人がいい第5話である。

 前回鳥葦くんを間に挟んで、吉乃と霧島の距離感が鮮明に暴かれ、また変化していったように、上田麗奈声の激ヤバ女が颯爽登場を果たして、また新しく物語に光があたった。
 霧島と対等以上にせめぎ合える知性とエグみの持ち主が、吉乃好き好きで奇妙な共鳴を果たして怪物の底を抉ることで、何を信じたらいいのかわかりにくかった男の何処に指をかければいいのか、視聴者にヒントをくれる回だった。
 こういう解体役がいてくれると、作品全体の見晴らし良くなって助かるわいな。

 

 

 

画像は”来世は他人がいい”第5話より引用

 屋内と庭先、屋根に覆われた人間の領域と、土むき出しの獣の世界に分断され、腹を割った対話を通じて改めて繋がり直した、吉乃と霧島。
 吉乃の発熱を適切にケアすることで、二人の間合いは更に近づき、去ろうとする男の裳裾を引くあだな仕草で無自覚に繋がっていく。
 新幹線ホームでの抱擁で見せた、親密な家族の領域に鳥葦くんを置き去りにしたまま、吉乃と霧島は同じテーブルの上差し向かいに対峙し、お互いを気遣いながら食事をする。

 無邪気に無自覚に…というには、吉乃の生き様はヤクザ適性がありすぎるけども。
 自分が何を見据え、抱え、壊しつなぎうるかに考えぬまま、霧島が人格ぶっ壊れた獣なりに手渡そうとした優しさに、バランスを取って同じだけのものを返そうとする”仁義”を、彼女は無垢に手渡す。
 それは何もかもを先回りして考えすぎて、愛する人の周辺情報を片っ端から探る霧島だけでなく、それに伍する怪物性を秘めた徒花…明石潟椿をも惹きつける、イノセントな芳香だ。
 華やかで親しげな空気をまとった横浜デートは、同じ人を好きになった男と女がお互いの腹を、性根を、在り方を探り合い、適正距離を見つける緊張感を、当の吉乃を蚊帳の外に守りながら生み出していく。
 いやコエーなコイツラ…一応10代だろ?

 

 ひとっ風呂浴びて汗と警戒心を流し、素の自分で自然と箸を進めれる吉乃と霧島の食卓に対し、横浜での会食は微笑みの奥に怜悧な知性を隠し、儀礼の中に毒針を潜ませる危うさが揺れている。
 お互い対等な知性派ながら、徹底した情報収集で外堀を埋め、人情を介さぬ冷たいデータから相手のことを知ろうとする霧島と、実際に顔を合わせての人間観察から関係性を測る椿の対比が、なかなかに興味深い。
 人外の獣二匹、ロクデナシ加減と吉乃ちゃんLOVEは釣り合っていながら、他人を解体するためのメスが全然違うのが、人間なるモノの複雑さを教えてくれて、おっかねぇし面白いね。

 椿はデートでの霧島を通じて、彼自身気づいていない彼の人間味と人でなしを言語化し、解体していく。
 どうでもいい他人には、関係を維持できるだけの都合のいい荷物を感情無しで手渡し、心の底から呪われた女には歪な見返りを求めて、力んだ優しさを不器用に手渡す。
 それは初恋に踊る少年にも似たチャーミングな仕草で、しかし霧島と触れ合った数多の人間たちが、これまで誰も見つけられなかった、獣の純情だ。
 この手触りを間近に睨みつけることで、椿は霧島を最悪のロクデナシでありながら、親友を預けるに足りる人物と評価することになる。
 椿の価値観の中で、それは同居しうるのだ。

 霧島もまた、自分と対等に結びあえるだけの知性を持ち、なおかつ自分自身にどんな感情も寄せてこない女を鏡にして、自分自身を知っていく。
 この獣達の乱反射はあまりに凶暴で優しすぎるので、無邪気な(だからこそ獣達に愛される)吉乃が飲み込むのは難しい。
 唾棄と信頼、利用と尊敬が同居する複雑怪奇なジャングルから、二人は無言の共謀をもって吉乃を遠ざけ、タクシーで平和な学生生活へと送り届ける。
 そのジェントルな仕草を冷たく見届けて、椿は獣二匹空飛ぶ密室の中、語らえる状況を己に許す。
 張り付いた笑みの奥にある渇きと優しさが、自覚なき真実であることを、肩越し後部座席を睨む瞳はすでに見切っている。

 

 

 

画像は”来世は他人がいい”第5話より引用

 白昼の逢引が明るく照らしていた外装を取っ払い、お互いのハラワタを睨み合う暗闇は狭く、時折淫靡で危険な色合いが、暗い籠を照らす。
 吉乃が譲れぬ己を叩きつけ、霧島の特別になった腎臓売却の裏にある、もっとヤバい執着と打算。
 意地を通すための”ツテ”が何処にあったのか、薄暗い交友関係までひっくるめて全てを調べ上げた男の視線を、真正面から受けながら、椿は口外法度のその先…親友にすら告げていない己の臓物を、同種の獣にさらけ出す。
 そこには人でなし同士の奇妙な共鳴と、不思議な公平さ、異形のコミュニケーションが確かにある。

 臓物は取ってないが、確かに血は抜いた。
 疵が残るくらいは、愛の必要経費でしかない。
 艶やかにそう嘯く毒花は、完全で熱狂的な好意でもって、親友の命を危うくしかねない取引に乗っかった。

 そんな風に、吉乃をむき出しに熱くさせる男の顔を実際に見届け、冷徹の先にあるものを射抜いてみたいからこそ、椿は京都から横浜へ足を運んだのだろう。
 鳥葦くんとの間には、ノイズ混じりの一触即発が不気味に導火線を伸ばしているわけだが、知性派の獣二人の邂逅は奇妙に波長が合い、お互いを認め合う気配が漂っている。
 同じように追加キャラを触媒にして、主役の性根が見えてくる展開だが、その響き方が多彩なのは面白い。
 人間の話って感じがする。

 

 女を抱くのもゴミを脅すのも、熱の宿らぬ冷たさでこなす霧島自身、気づいていない己の潜熱。
 親友への愛ゆえに銭も命も天秤に乗せる、知性に冷えた情緒主義者な椿の視線は、賢すぎる男が見落としているものを暴き、霧島に教え直す仕事をしているように思う。
 椿という鏡を目の前に置かれなければ、偶然の横暴に思えた恋心が実は相当に根深い初恋であったことも、それに振り回されて血を流した吉乃の意地の行く末も、改めて暴かれはしなかっただろう。
 お互い交わらない領域に立って、しかし同じ女(ひと)を強く睨みつける獣達が、暴き立てる狂騒の奥の純情。
 その手触りは、なかなかに良い感じだ。

 獣達の視線がお互いの深い部分に突き刺さり、しかし魂を結び合わせはしない、真夜中の奇妙な邂逅。
 一周ぐるりと回って紳士的に、手を触れることをお互いに許す間合いへと近づいた怪物共は、吉乃の頭を跨いで連絡先を交換し合う。
 他人の輪郭を徹底的になぞり倒し、情報を調べ上げることでしか人間に迫れない男と、卓越した知性で仮面の奥を探り、歪な真心の鼓動を聞き届ける女の衝突は、イカれたカップルの距離をまた一つ近づける。
 あの夜、結局同じ地べたに足をおろして横並びにはなれなかった二人は、肩を並べて普段着で命を育み、奇妙に幸せな日常を共有するようになる。

 

 殺す、裏切る、惚れさせて捨てる。
 物騒な言葉で飾られた繋がりは、全く嘘ではない。
 霧島は他人の心がわからない(からこそ獣として強い)クズであるし、吉乃も普通人気取っておいて生粋のドヤクザ、どっちもどっちのゴミカスだ。
 しかしそういう存在だって…あるいはだからこそ”人間”で、ならば安らぎや繋がりから、無縁ではいられない。
 椿というもう一人の人でなしが間に入ることで、主役たちの歪な人間味がより深い色合いを教えてくれる、とても良いエピソードでした。
 ゴミみたいに生きていくことしか出来ない、社会の規格外品がそれでも、自分たちなり人であろうと足掻く話のようで、俺好きだなこのアニメ…。

 まぁクズでゴミでイカれてんのは全く嘘でないので、ふつうの人間が身を預けるような温もりや安らぎは、早々簡単に吉乃たちには訪れないのだろうけど。
 だからこそお天道さまの下を真っ直ぐには歩けない、ヤクザという稼業を話の舞台に選んだのだろうという、奇妙な納得がある回でもあった。

 

 西と東の巨大勢力が衝突し、血の雨が降るフラグも順調に積み上げられてきてて、さてはてこっからどうなるか、楽しみでもあり恐ろしくもあり…いややっぱ、愉しみでしかねぇな…。
 『やっぱ人格ぶっ壊れた怪獣共が、ぶつかったり触れ合ったりするのを物語の外から見つめてるのは最高に楽しいな!』と思いつつ、次回を楽しみに待つ!