意志あるホビーは、いかにしてホビーを愛するのか?
”私だけのルンルーン”に囚われたアリスちゃんを置き去りに、新ホビーでワイワイ盛り上がる様子を描く、アニぷに第5話である。
アリス&ルンルーン中編というべき今回、拗れた関係を適切な場所に持っていく中心人物になるべきアリスちゃんは、ずっと話の真ん中から外れた場所でブツクサ文句言い続ける。
全力でホビーたるルンルーンを楽しみ、楽しみすぎて周りからは蔑ろにした扱いを受けてしまう南波くんの姿と、母代わりである宝代とすらすれ違うアリスちゃんは好対照を為す。
…と綺麗にまとめるには、画伯ボイスの宝代が狂いすぎてはいるわけだが…。




暗くて湿った感情だとか、意志なき無機物の宿命だとか、何かと重くなりがちな要素をコロコロテイストで上手く包みこんで、楽しいギャグに変えてしまえるのが、この物語の強みの一つだ。
愛が重すぎてアリス本人の顔見れてない宝代のヤバさとか、”栄養素”キレてぶっ倒れてるきらら先輩とか、掘ったら相当エグそうなホネちゃんの性欲とか、いろんなモノをアリスちゃんとコタローのコロ顔ツッコミが緩和し、シャレの範疇に収めている。
自作キグルミ着込んでおそばに寄り添う、宝代の愛は疑いようもなく本物で、本物だからこそ歯止めが効かずヤバい。
愛するホビーが意思を持って動き出し、幼い夢を叶えてくれる奇跡の時代が遠くなってしまった現実を、思い知らされてる真っ最中なアリスちゃんに適切に寄り添い、その苦さと栄養素をどう飲み干すか、大人が果たすべき適切な助けは全く出来ていない。
…と切り捨てるのもなんかズレてて、イカれつつ本物の愛が妙な繋がりを維持して、凸凹主従は結構いい感じである。
他の連中とは距離を取るアリスちゃんが、宝代にはビシバシツッコミ入れるの、間違いなく”甘え”ではあって。
この反発すらぶつける相手がいないなら、マジでヤバイ場所までアリスちゃんは追い込まれてしまう。
宝代も思春期の壁役望んでいるわけではなく、愛するお嬢様に抱きしめ返して欲しいわけだが、ズレたコミュニケーションに引っ張られて声色作って「アリスちゃん」呼びしているようじゃ、愛は届かないのよ…。




アリスちゃんのフラストレーションは、彼女が遠ざけつつ焦がれるぷにる(コタロー専用の奇跡のホビー)とは今回ぶつからず、静かに保留され続ける。
心底ホビーをホビーとして楽しめる子ども時代に、軟派な外見になってもお構いなしビタ浸りしてる南波くんのように、無邪気には笑えなくなってしまった女の子が、笑いの輪から遠ざかり、一人孤独に何かを探している様子が、爆笑GAGの合間にしっかり挟み込まれる。
この寂しさを埋めるのに、無様ビキニの宝代ルンルーンは役に立たない。
遠くからブツクサ酸っぱい葡萄してても、ズレた愛を過剰に叩きつけてくる宝代の隣りにいても、アリスちゃんから引き剥がされてしまった”私だけのホビー”は戻ってこないし、あるいはその欠損を認め補い、傷を埋めればこその成長を果たすこともない。
御金賀アリスというキャラクターの登場と問題解決の間に挟まれた今回は、彼女が遠巻きに見つめている話の本筋…ホビーと意思と思春期を巡るハチャメチャな物語の真ん中に突っ込んでいかなきゃ、彼女自身の物語が終わらないし、つまりは始まらないことを語っている。
宝代という治の繋がらない家族だけを隣に置き、その過剰な愛に守られている時代から出なければ、少女は先に進めない。
生粋のホビー野郎である南波くんをフィーチャーすることで、彼のように無邪気にはなれないアリスちゃんの難しさも、また可視化されていく。
ホビーをホビーとして楽しみ、人でなしなステッカーまみれも余裕でぶっ込める(その乱雑が子どもなりの愛でもある)南波くんの大騒ぎに対して、アリスちゃんはそれを「バカみたい」と遠ざけ、理想のルンルに似て非なるルンルーンを”偽物”と位置づける。
あの頃は命を持って寂しさに寄り添い、対等な友達として心に語りかけてくれた存在が、もはや輝きを失ってしまっている時代。
コタローが”べき”の外圧で飛び出しかけ、ぷにるという奇跡によってそこに縫い止められている、輝ける幼年期。
変わってしまった自分に合わせて、ホビーのほうが変化してくれる奇跡は、コタローに訪れアリスちゃんからは逃げた。
この残酷な選別が、彼女を人の輪から遠ざけてもいるのだが、そっちのほうが思春期の普遍に近くはある。
子どもたちは皆、自分と他人、魔法と現実の区別をいつの間にか付け、あるいは付けさせられて、ホビーから離れていく。
そんな摂理を小さな体に引き受けつつ、それに流されたくないという必死の足掻きが、脳天気なアホどもの大騒ぎからアリスちゃんを遠ざけている。
その寂寥を、何もかもがシャレになるギャグ時空にひっそり、しかししっかり描いて茶化さない筆は、やっぱり好きだ。




このホビーとの捻れた関係に、極めて純粋な頑是なさをブン回し、無生物の共感も添えて全力で突っ込んでくるのが、今回のぷにるである。
今回ぷにるは、おみくじモードになりっぱなしなくらい、アリスちゃんに捨てられたルンルーンを抱きしめ、一緒に居続ける。
その時ぷにるの認識の中で間違いなくルンルーンは”活きて”おり、プログラムであるがゆえに柔軟性がないズレた応答も、意志の不在を告げる残酷な答えにはなっていない。
(コタローと違って)生まれてたった数年、少ない経験で作り上げた透明度の高い泡の中に生きているぷにるは、心からルンルーンを慈しむ。
数年前、アリスちゃんがそう出来ていた(今はもはや、こんな無邪気にやれない)ように。
生きているホビーであるぷにるが、何の躊躇いもなくルンルーンを愛する様子は、ホビーであって人間ではない自分を当たり前の全力で肯定できているぷにるの在り方と、その背中を支えている”ぷにるというホビーを愛したコタロー”に反射してて、そこも今回好きなところよ。
ぷにるの理由のない可愛さへの確信は、基本間違ってない”答え”として作中扱われ続けていて、その背筋伸びた生き方がルンルーンを適切に愛せてることに繋がってるし、何かと悩み多き青少年に向けた、一種のロールモデルとしての仕事も果たすしな。
ルンルーンもまた、分け与えられたぷにる成分に引っ張られるように、無生物の”姉”の姿に共鳴し、チア服着たりバニー衣装まとったりする。
これが自発的な追随…あるいは心から愛されたホビーの恩返しなのか、ギャグ漫画特有の”ノリ”による現実改変なのか、判別つかないところが巧いなと思うけど。
アリスちゃんが機能不全に陥らせている、ルンルーンというホビー…物言わぬ無機物でありながら、遊び相手の思いを豊かに反射するかけがえない隣人でもある存在との対話が、ぷにるとルンルーンにはしっかり成り立っている。
ここら辺のズレながら繋がっている感覚は、母性妖怪・雲母麻美とぷにる達の触れ合いにも宿る。
児童のお世話という”栄養”が欠乏しぶっ倒れかけてる彼女は、間違いなく特級呪霊の類ではあるが、しかしかわいいチアぷにるの外見よりも、ザックリ分断された分身ぷにる全員を、デカすぎる腕で抱きしめ愛する。
ぷにるにとっては少し過剰な愛だが、しかしやりすぎなありがた迷惑に包まれて、ルンルーンというお友達と楽しい時間を過ごす安心を保証してくれるきらら先輩は、ぷにると今回ズレてはいない。
宝代の過剰な愛が、アリスちゃんが今必要としているモノから決定的にズレ続けているのと、ココは好対照であろう。
顔のないぷにるを愛すべき子どもだと受け止めている麻美のイカれっぷりには、しかし茶化し嘲笑うだけで終われない暖かさが確かにある。
ルンルーンをキュティちゃんのパチモノ、プログラムされただけの偽生物だという、現実見てる大人の視線からズレた、ぷにるの愛が微笑ましいのと、それは多分似てる。
ズレてネジ曲がっていようが、間違いなくそこに愛と喜びがある時、現実的な正しさを持ち出してそれを横合いから殴りつけるのと、ほっこり笑えてシャレになるイカれ方に飛び込むの、どっちが豊かなのか。
ここら辺の問いかけは、”べき”に呪われカワイイ好きを隠すコタローの自意識と、結構深く響き合ってるように思う。
いやホンットね、ずーっとルンルーンをギュッギュし続けてる今回のぷにる、あらゆる場所にお気に入りの玩具を連れて行く思春期以前の児童過ぎて、可愛くてしょうがなかった。
”ここ”なんスよ…ぷにるという奇跡の生命体の”現在地”は…。
アリスちゃんが認識するように、ルンルーンが偽物で魂のない無生物なのは事実で、でもぷにるの世界の中で彼女は生きているし、大事な友だちで、ずっと一緒にいたいのだ。
現実と夢、大人と子ども、ホビーと人間の間に横たわるこのズレを埋めるのは、思いの外大事な課題であり、そこに手を差し伸べてやれるのが児童誌スピリッツってもんじゃないんスかッ! という話を、まぁ次回やるのだ。
フツーに進級してフツーの中学生になった(様子が、ジャージ姿の体育祭準備から見れる今回、大変良かった)コタローが、”きらら先輩”と呼ぶ少女に、ぷにるは”麻美”と呼びかける。
当たり前に学校に乱入しつつ、授業にも学級にも縛られないエトランゼたる彼女は、きらら先輩が望むだろう”ママ”という幻も健全に跳ね除け、生身の雲母麻美を見つめている。
そういう真っ直ぐな眼差しは、あんま目立たないけど凄く大事なぷにるの良さだなぁ、と思う回でもあった。
同時にルンルーンとの捻れた関係を、中学生の視線で客観視することで、真っ直ぐすぎてヤバい部分もちゃんと描写してんだけどね。
毎回のコスプレもありがたいが、やっぱぷにるの強みは被造物であることすら活かして描かれる、徹底した純朴よ…。
そのイノセンスをしっかり描くことで、コタローやアリスちゃんという子どもでいられなくなってきてる子ども達の懊悩を際立たせて、世の中が求める成熟、ホビーとコミュニケーションできる魔法の破棄だけが答えじゃないと、示している所も好きなのだ。
あんなに可愛くて健気なぷにるが”間違い”だってんなら、世の中に正しいことなんて何もねーだろうがッ!!
…す、すいません。
自分とっても原作好きなんで、うっかりすると過剰な思い入れが溢れてしまいがちで…。
というわけで、ワイワイガヤガヤルンルーンの帰属を巡って、いつもどおりの騒々しさの輪…に、どうしても混じれないアリスちゃんを描く回でした。
次回解決編へのヒキとしてかなり良かったし、コタローとじゃれてると悪ガキ要素が目立つぷにるが、ルンルーンというホビーであり同類であり年少でもある存在を愛でる姿に、新たな魅力を輝かせてもくれました。
ほんっっとひたすらルンルーンを大事に愛で続けるぷにる、可愛くてしょうがない。
この愛が、一体どこへ行くのやら。
宝代やきらら先輩といった愛の獣達が暴れ倒しているので色々心配ですが、きっと大丈夫問題なし!
ホビーが描く幼年期の終りと始まり、次回も楽しみ!