暗器、不意打ち、仕掛けに策略。
遂に幕を開けた格闘新体操は、乱馬に厳しい超ハンディキャップマッチ!
はたしてジョシカクでも鮮烈なデビューを飾れるのか、カンフーボーイ決戦の令和らんま、第7話である。
第5話であかねが髪を切り、大きく作品の方向性が切り替わるVS小太刀編。
しっとり落ち着いて重たい雰囲気を跳ね飛ばすように、武器も秘境もなんでもありなぶっ飛び格闘が、良い仕上がりのアクションとともに大きく暴れた。
原作においては長い物語の序盤…ある種の”気の迷い”ともいえる、あかねの髪が長かった頃特有の空気を、どうぶっ飛ばして永遠の格闘狂騒へ飛び込んでいくか。
令和らんまなりの答えがアクションの作り方、格闘の魅せ方からよく見えて、なかなか楽しいジャンクション回だったと思う。
原作読者からすれば、とにかく明るく元気でハチャメチャ、何でもありで加速していくこの感覚こそが”らんま”なんだけども、(とりあえず)1クールの半分をあの心地よく湿った空気が満たすアニメで見てみると、「すんげぇ変わったな!」という感覚が強い。
しかし佐倉綾音のテンションブチ抜けた好演にも助けられ、図太く秘境で可憐な小太刀のキャラが見事にエピソードを牽引して、ずーっと騒がしく楽しいお話になってくれた。
この終わらない祝祭の手触り、”うる星”でも感じたが時代の匂いがあって良い。
さてあかねが負傷して突如の代理、良牙コーチと二人三脚息を合わせて…等となるわけもなく、復讐鬼の暗さをなげうったPちゃんボーイとガヤガヤいがみ合いつつ、らんまは本番へと駆け抜けていく。
遠慮のないド付き合いに明け暮れ、モノは壊れる手ぬぐいは食う、らんまの修行はハチャメチャで…だからこそ面白い。
ジト目や崩し顔が乱打される破天荒な面白さを引き立たせるのに、一切の悪気なく闇討ち不意打ちカマしてくる小太刀は、大変良い助演だと言える。
こんだけ根性ネジ曲がり切って、なお笑えて可愛い造形なの本当にスゴイな…。
ガサツ女の意外な成熟が初恋を葬り、そこにシャイボーイが背伸びしてなんとかついていこうとした、5話までの重たくしっとりとした空気。
そこで良牙くんは”格闘”の荒くれて危うい側面を結構シリアスに担当し、復讐のためには周りを傷つけても気にしない、優しくない青年として作品に登場した。
しかしそのまんまのマジっぷりでは、今後異様なハイテンションで終わらない祝祭を駆け抜けていく物語では浮くわけで、この小太刀戦を契機にぐいっとキャラを変えなければいけない。
丁々発止の当意即妙、あかねとはまた違った噛み合い方で、コーチと選手がボコスカ殴り合いつつ波長をぴったり合わせる描写が、その助けをしっかり果たす。
マジ顔ばっかに思えて良牙くんは、Pちゃん形態も活用しつつ格闘コメディにしっかり適応した、面白くて可愛い男の子でもあるのだと、このエピソードはしっかり語る。
そういう面白さをより深く刻み込むために、器機術に長けた良牙くんが”武器攻撃以外禁止”な格闘新体操のコーチを務め、ライバルと仲良く喧嘩しながら腕を高めていく様子が、いい仕事を果たす。
あかねの地道でどんくさい修行に比べ、らんまはひょいひょいと勘所を掴んで見事に技術を身に着け、実際の格闘でも軽やかに空中戦をやってのける。
乱馬の天才と、それに置いていかれていくあかねの描写を、そういう所に静かに練り込んである回でもあるね。
かくして幕を開けた格闘新体操は、ジムナスティックスというよりは女子プロ風味の味付けがされており、これに関さん演じる一郎の実況が華を添える。
ダンプ松本の引退が88年で、ちょうど連載当時に重なるか重ならないかぐらいだったわけで、「女が戦う」ロールモデルとして、(レオタードつながりもあって)一番わかり易いネタだったのだな。
(ここら辺の時代感の補助線として、ちょうど”極悪女王”がバズってるのはいいかみ合わせだな、と思う)
らんまは「女相手に本気になれない」「アウェイでなれない戦い方」「へんしんの秘密がバレてはいけない」「Pちゃんという足枷」と、多重のデバフを背負った状態で格闘新体操に挑み、そのままならなさが新たな格闘コメディのショーケースとなるこの一線を、大変元気に盛り上げている。
涼しい顔で本気度の高い凶器をバンバン繰り出してくる小太刀の、力まぬ本気もここに上手く絡んで、新路線の叩き台としてスゲーよく仕上がった試合であることが、アニメで新たに見返すと良く分かる。
本来格闘と結びつかないネタを、珍妙ながら冴えた描写でしっかり殴り合いに昇華しつつ、濃い味のキャラがハイテンションにどこか楽しそうに、お互いの持ち味を活かして競い合う。
一言でいうと「すげー”らんま”っぽい」んだよな、小太刀戦…。
このバトルは女らんまのデビュー戦でもあって、九能先輩相手に見せてた結構どっしり足をつけたカンフーアクションに比べると、飛んだり跳ねたりな空中戦の比重が大きい。
パワーよりスピード、重さより軽さ。
「女の武器」である速度を強さに変えて戦うらんまは、実は結構ガッチリしてると新アニメで良く分かる乱馬くんよりも更に、軽妙で軽薄な戦い方をする。
こうしてらんまが格闘コメディに本格参戦することで、あかねへの態度を決め切れず、”男”になりきらないことで永遠の祝祭を維持していく主人公のキャラクター性が、バトルの熱に炙られて固まっていく手応えもあるなぁ…。
あとPちゃんと鎖で結びつけられることで、格闘家としての乱馬の格を落とさないまま、コミカルなピンチを上手く演出し、いがみ合いつつ相性がいい二人を、しっかり描くことにも成功している。
恋と拳のライバル関係でありながら、不思議と馬が合って友達でもある…んだけど、そういう距離感を素直に認めはしない、可愛い少年たち。
そらーウケるわ。
この関係性、あたると面堂くんの距離感を整理・洗練した上で新連載の起爆剤に使った感覚が、令和”うる星”見た後だと感じられて、個人的にかなり面白い視聴体験になっとるなぁ…という感じ。
あたると比べると、タイトルにもある通り乱馬中心の話だよな”らんま”は。
唐突にパンダがお茶持って出てきて、真顔でボケをかましたと思ったらやかんを取り上げられ、すわ正体バレのピンチ!
それをあかね必死の放水で乗り越え、しかし今度はそれがリングアウトの危機を呼び、なんとか乗り越え最終局面。
盤面が停滞することなく動き続け、「だいたいこんくらいのリアリティラインで、らんまの変身とそれを取り巻く社会は扱います」つうアナウンスもしっかりねじ込み、とにもかくにも巧いエピソードである。
気合の入った作画や構図が随所に顔を出し、シンプルな”絵”の力でしっかり盛り上げてくれているのも、大変嬉しい。
ここら辺の賑やかなランブル感は、小太刀が勝つためなら何でもありのハチャメチャファイターであることが、よく効いてるなという印象だ。
場が盛り上がりそうなら何でも取り出して、状況を固定させないままどんどん戦いと物語を流動させていく、何が飛び出すかわからない面白さ。
ここら辺大事にするべく、このあとのレギュラーキャラはどっかから取り出した獲物をブンブン振り回すキャラ多いのかなぁ…とか思った。
今回はロープや鎖がいい仕事をして、空中を飛び回る大きなダイナミズム、それを華麗に乗りこなすらんまらしさが、いい感じに暴れてて良かったです。
勝負の舞台それ自体をぶち壊す、破天荒極まる決着を経て、なおこりない、悪びれない。
小太刀の異様にしぶとい”いいキャラ”に打ちのめされ、試合に勝って勝負に負けた乱馬くんのトホホっぷりで、物語は幕を閉じる。
あかねの髪と思いを切り裂いて途中で終わった、良牙くんとの初戦を思うと、極めて明るく元気で後を引かない、カラッとした”格闘”だと言えるだろう。
この天井ぶち抜いたハイテンション、後を引きすぎない爽快感が、今後の”らんま”のスタンダードになっていく。
楽しくトホホな〆方といい、それを示すのにベストな戦いでした。
小太刀という”悪い見本”が、乱馬の都合も思いも考えずに大爆走しまくることで、逆説的に相手を思いやりエゴを抑える大人っぽさが、結局恋には必要なのだと示せてもいる。
そういう成熟にはまだまだ、永遠の祝祭に身を置いている青少年たちは遠いわけだが、だからこそ追いかけるべき決着の証として、強く優しくなった自分たちの未来は、大きな意味を持つ。
ここら辺、一生相手を思いやって優しくもなれず、つまりは真の意味で強くもなれないと登場時点で背負わされてる小太刀、今見ると結構悲しいキャラだなぁ…。
こういう機能性に優れたキャラを活用することでしか、長期連載って維持できないとは思うが。
あんまりにも小太刀が手前勝手に大暴走し、一種の清々しさすら伴って”勝つ”終わりにしたことで、負けても負けではなく、相手を打ち負かすことで生まれる後ろめたさみたいなモンと無縁な、明るく楽しい格闘コメディの下地が作られた感じもある。
こういうキャラを新展開の幕開け、女らんまのデビュー戦に用意できる語り口こそが、やはり古典的名作を伝説たらしめていると思いつつ、まだまだ狂騒は続く。
この終わりなき騒々しさ、軽やかさと明るさをアニメが新たにどれだけ描き、楽しませてくれるのか。
残り半分の物語に期待を膨らませつつ、次回を待ちたいと思います!