さよなら、静かで幸せだった貴方との日々。
ハードコアな政治事情を背景にした、静かなる学内テロに魔女が沈黙を破る、サイレント・ウィッチ第8話である。
腐ったお貴族様が学生時代からクズカスまかり通し続けている、この国の終わりっぷりが今までしっかり描かれていたので、ケイシー衝撃の正体も「うん…まぁ…」という感じで飲めてはいる。
んだが、モニカがお馬さんに乗って開けた世界の描写があんまり綺麗だったから、それが壊れてしまったことはとても悲しい。
龍災害を一瞬で制圧できるほどの天才だからこそ、情緒が育つ前に魔術と暴力の階段を歪に上がりきり、それ故この学園での小さな”冒険”が愛しい。
”沈黙の魔女”としての実力を隠し、生徒会のオドオドビクビク小動物として過ごす偽りに、どんだけの意味があるのかをちゃんと描けていたからこそ、今回七賢人としての本分に向き合い、王子を守り嘘を貫くモニカの姿には、切ない悲壮感が宿っていた。
ここで情に流されず為すべきことを為すのは、既に七賢人の立場を得てしまっているモニカにとっては当然であるんだが、その肩書を捨てて裸一貫、学び舎に失われた魂を取り戻しつつあるただの女の子としては、痛みと葛藤を伴うもので。
その実感をこちらに伝えれれていればこそ、テロリストに立ち向かう決意には重たい質感が宿る。
モニカが回想する過去が、物語を始動させたケルベック伯爵領の龍災害の影として、とても良かった。
三人の兄の悲壮な死に様、辺境の困窮を無視して野心を燃やす梟雄、その操り人形になるしかない第二王子。
騒がしくも楽しい学園生活の奥、冷たく確かに脈動していた政治の現実が、今回の事件を生み出している。
それを無詠唱術式でぶっ飛ばしたからこそ、イザベルちゃんは悪役を勝って出てお姉様を守る覚悟を固め、チート魔術師に助けられなかった故郷のために、モニカはテロリストになる決意を固めた。
やっぱ超ろくでもないよこの世界の貴族主義~~~。
ここら辺のエグさはボンクラ愚者貴族が散々ロクでもない傲慢ぶっこみ、ビシバシザマァ喰らって失脚していく様子から、すでに感じ取れていた部分でもある。
最悪人間凹ませてスッキリ! という、シンプルに気持ちいい快楽供給で終わることなく、そういう最悪がどんどん出てくる腐った構造の犠牲者が、最悪の手段で現状を変えようとする事件が次に出てくると、腐敗の重さが中々ずっしり来る。
この終わり加減の代表選手が、護衛対象の後ろ盾でもあって、最大のクズをぶん殴ってスッキリ民主主義! とはいかなさそうなの、この身の複雑さでありがたい。
モニカが巻き込まれてる政治機械、機構がかなり入り組んでるよなぁ…。
どんだけ超絶チート魔術師であっても、モニカは世界に一人しかいない。
七賢人として国家に首輪をつけられている関係上、龍災害を制圧したような善行を無条件に正しく執行できるわけでもないし、そもそも何が正しいことなのか、判断する情緒は今学園で育ててる真っ最中だ。
ただのモニカとして幸せに過ごした日々と、”沈黙の魔女”としての責務に板挟みになりつつ、ただのモニカだからこそ為すべきことを、心を軋ませながら選ぶ所まであのオドオドマスコットがやってきたのは、とても偉いなと思った。
そういう結団を、誰にも知られることなく完遂しなきゃいけない国家最強エージェントの寂しさも、無双の中に微かに滲む。
ケイシーの凶行はイザベルの陰画でもあって、前回の悪役令嬢無双と補完し合う作りなんだと思う。
チート主人公がスルッと救えてしまえるものが、毒殺されかけた主役を助けてくれることもあれば、その小さな掌が取りこぼしたものが、まばゆく思えた絆を砕くこともある。
それはどんだけ超人であろうが一人間でしかないモニカが、解決できないモノにあふれている世界の広さを、逆説的に語る。
これは乗馬とかチェストか、今まで知らなかったことに果敢に挑む”冒険”の涼やかな輝きと、互いを補う陰りでもある。
ここら辺の陰影が、バランスよくしっかり刻まれているのが、僕がこの話楽しみながら見れてる理由かもしれない。
七賢人二人がかりの罠を、”沈黙の魔女”唯一の詠唱魔術で打ち破り、防衛プロテクトをクラッキングして魔術テロを遠隔で打ち破る。
モニカの無双っぷりは今回も健在…というか、単なる力押しよりも絡め手乗っけている分、より鮮明に「こ、このチビ強すぎる…ッ!」感が凄かったけども。
しかしザマァするだけして気持ちが良い、愚鈍で平板なキャラではなく、日常の中でかけがえない交流を積み重ねていた友だちが敵に回る事、その痛みを乗り越え責務を果たす決意を描くことで、七賢人の魔術無双にも新たな陰影が刻まれていた。
こういう感じで、作品が持つ立体感を多彩に削り出してくれるのも、無双味に飽きずにすんでありがたい。
今回はエピソード内部でのメリハリが、ドラマの展開としても絵作りとしてもよく聞いていて、心地よい起伏に身を任せることが出来た。
口開くたびにどんっどん、おもしれー女であることがバレていくクローディア嬢とのコントで明るい感じを作って、木造倉庫の作り込みに圧倒される暗い場所で事件が起こり、それを解決して黄金の日々に戻れると思ったら、その輝きの中にこそ残酷な真実がある。
暗い夜に意を決して進み出し、今まで隠してきた”沈黙の魔女”としての実力を、あえての詠唱魔術で堂々顕にし、現実に向き合う強さを示す。
明→暗→明→暗→明…という、心地よい二拍子で状況が転がっていく中で、ロープの仕掛けを瞬時に見破れてしまうモニカの才能も哀しく、ケイシーとの絆を照らす黄金にも悲壮の色が滲む。
それでも一瞬でテロリストを制圧し、学園に貼られた魔術的セキュリティを活用して、正体を隠したまま王子を狙ったテロを解決できてしまえる、七賢人の凄みもよく描かれた。
つーか世界唯一の無詠唱術師が、あえて詠唱を必要とする最強魔術をパナすケレンと、顔のないチートではなく一人間として、テロリストであり友人でもある少女と向き合おうとする決意が宿ってて、精霊王召喚のシーンは大変アガった。
俺は人間離れした超人が、確立したスタイルを情の炎で燃え上がらせ崩し、とんでもない火力を出す場面がマジで好きだから…。
やっぱケイシーの悲壮な覚悟、それを生み出してしまう政治の腐りっぷりが、兄三人の壮絶な遺体でこれ以上ないほど活写されていたのが、とても良かった。
あの子が抱えた地獄をな~んも理解しないまま、クズお貴族様は成り上がりの田舎者をバカにしているわけで、そらーテロリズムの種子も辺境に蒔かれるわなぁ! って感じ。
ここまで学園生活のアクセントでしかなかった(…割には、ダイレクトな毒殺とかも起きてっけど)イヤ貴族の最悪が、どういう恨みを生み出しているかという、答え合わせの回でもあったか。
ケイシーの死を賭した抗議は、彼女の友であった七賢人の奮戦で未遂に終わってしまったが、このまんま王子は野心の傀儡であり続けるのか。
そもそも結構あったかそうな心根を隠し、苛烈な権力の装置であり続けなければならない理由はなにか。
ターゲットである王子に悟られぬまま事件を解決したことで、逆に彼と国家の核心が照らされるような話運びも、凝っていて良かったと思う。
ラストに乱入キメてきた人型暴力装置が、このやるせない状況にどういう決着をもたらすかも気になるが、エピソードが一段落ついた後始まるだろう、王子エピソードに意識が向く回でもありました。
ケイシーがぶん回そうとしたテロルはそりゃーワルイコトなんだが、モニカの親父さんが灼かれた炎と、彼女の兄を殺した火は多分よく似ていて。
貴族が権力にあぐらをかき、数多の痛みと涙を無視している国の体制が、ケイシーの凶行の根っこにはある。
そういう腐敗を飲み干して傀儡となる決意を、守るべき王子は固めてるっぽいが、そういう奴が国の頭に座るのは、そらーケイシーの言う通りコロしてでも止めなきゃいかん最悪でしょうよ。
ここら辺の疑念を、今回のテロルの先に描き切れるかが、今後の物語を見ていく上で、自分的なポイントになりそうだ。
なんだかんだ、政治の話をやってくれると嬉しい視聴者なんだな、自分は…。
モニカ自身は父を殺し己を砕いた国家体制に、首輪をつけられ餌を与えられる側なんだけども。
その対極にいるテロリストが、確かに心を通わせあった友でもあったという経験を、今回飲み干すことになった。
この苦渋があの子をどう成長させ、視野を広げて国家を睨む契機になるか…てのも見届けたいけど、残りの話数だと描ききるのはちっと難しいかなぁ…。
話数が積み上がるほど、クソ貴族の最悪が国の中枢に刺さってて、七賢人はその走狗でしかない状況が軋んでいる感じだけども、このヤダ味にモニカがどう向き合い、脱したり壊したり飲み込んだりする決断まで、アニメで見たいよ、俺は。
それは歪な育成過程を経た天才少女が、一人間でしかない自分を選び取るってことで、そうなればジュブナイルたるこの物語は終わるわけだが。
そこに至るまでの旅路を、笑いあり痛みあり、多彩に描いてくれているのが嬉しいアニメでもあります。
ケイシーという鏡を通して、貴族制度の歪さ、その傀儡になりかけてる護衛対象の姿がより鮮明になったけども、コミュ障天才児は秘密を抱えたまま、そこにどうアプローチしていくのか。
”サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと”、後半戦も大変に楽しみです!