イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

その着せ替え人形は恋をする:第23話『自分の人生には良い事なんて起こらないと思ってた』感想ツイートまとめ

 運命の一夜を乗り越え、ついに楽しい”棺”合わせは目前ッ!
 …の前に、甘酸っぱい季節を超えてなお”好き”を楽しみ救われてる、ハッピーな大人たちのお話を聞こう!! …という、着せ恋アニメ第23話である。

 

 学園祭編ではクラスのクラい異物だった五条くんが、”人形”に賭ける思いを実地で理解らせ、世界がそんなに暗くも狭くもないことを縁遠いはずの人たちから教えてもらっていたが。
 今回はコスプレという共通の趣味を持ち、高校生より少しだけ人生先に行ってるダメ大人たちが、自分たちの経験を踏まえてエールを送る回となった。

 コスプレへの距離感とか、年齢や社会的立場とか、一本調子にならず色んな角度からアプローチして、”好き”を誰かと繋がり自分を支えるための命綱にして、より幸せな日々を送っていくための祈りを立体視していく姿勢は、やっぱり見てて清々しい。
 コスプレの暗黒面、”好き”が生み出す呪いにあんまフォーカスを当てない物語なので、こういう形で多角的な描写を心がけて、作品全体がのっぺりしないように工夫してんのかなぁ…とも思う。

 

 そもそも海夢ちゃん自体が、人形に取り憑かれた陰気クンとは別世界の人間のはずだったのに、思わぬ出会いからグイグイ人生に這入られて、ガンガンその色が眩しく変わっていくお話なわけで。
 縁遠いと想っていた存在と語らうことが、頑なな鎖を解きもっと自分らしい自分へと近づく大きな助けにもなる。

 「んじゃあ露骨に海夢ちゃん避けてるアキラさんとも、そういう喜ばしい化学反応が起きんの?」つう、見てりゃ湧いてくる当然の疑問を最終回前、丁寧に解す回でもある。
 五条くんと造形やってるアキラさんは寡黙ながら誠実で、”好き”を殺され封じかけられたからこそ、それを共有できる友達への思いも篤い。(ここら辺の重たさを、鋭く描き切る筆致が今回冴えてて、大変良かった)
 それは五条くんの海夢ちゃんへの思いに似てて、二人の出会いや関係を眩しく(時にピンク色に)肯定し続けるこの物語において、同じ温度で誰かを”好き”でいられるアキラさんは、まー悪い人ではなかろう。
 そういう余談を抱えて、運命の”棺”合わせに突入していくための下準備を、今回のお話は丁寧にやってくれた。

 

 これと鏡合わせになる形で、ジュジュ様の高貴なる頑なさにダメ大人たちがズルズル寄り添い、自分が抱いた”好き”とあるがままの己が食い違ってなお、どう”好き”を表現するのかもがいた歩みを、惜しげもなく手渡してくれる。
 ぶっちゃけ今回のジュジュ様、めんどくせーこだわりに縛られた了見狭いクソガキなわけだが、そのままならなさも愛しい若さだと抱きとめ、化粧と写真術の粋を凝らして思い込みを溶かしてくれる、ミヤコさんの歩み寄りが大変良かった。
 あの余裕のある応対はまさに年の功で、色んな経験を重ねて多分結構傷ついて、なお抱えた”好き”を呪いに変えなかった生存者の頼もしさが、色濃く出ていたと思う。

 いつかコスプレを卒業し、誰にも強制されてないのに物分かりよく美しく自分の”好き”を諦めていく未来図を、勝手に頭蓋骨の中で発酵させていたジュジュ様は、ブラックロベリアになれるはずもない自分がそれでもあこがれへと”成る”経験を経て、自分の考えを変えていく。
 この頑なさをぶっ壊すパワーは、自分の身体を衣装や化粧や写真で作り変え、存在するはずのない二次元を現臨させていく、コスプレという表現ゆえかなとも感じた。
 凄くイマジナリーでファンタジックに見えて、そこには揺るがせられない己の実体が必ず付随し…しかしその成約を飛び越えて、なりたい自分を引き寄せてくれる。

 

 そういう成る/変わる素晴らしさは、コスプレを通じて”好き”を寿ぐこのお話の大事な一部であり、そろそろ二期も幕を下ろしそうなこのタイミングで、ジュジュ様をキャンバスにして描かれたのはとても良かった。
 理想の自分、あるべき己。
 遠すぎる夢とも、誰かに殺された残骸ともなりうる自分の影法師を、不自由な呪いで潰して世界を暗くするのではなく、もっと明るく輝かせるための、笑顔に満ちた人生闘争。

 その一幕をとても綺麗に、とても素敵に描いてくれて、とても良いエピソードでした。
 色んな人に色んな出会いがあって、それが呪いを祈りに変えていけると信じさせてくれるのは、やっぱありがたい現代の御伽噺である。

 

 

 

 

 

 

 

 

画像は”その着せ替え人形は恋をする”第23話より引用

 というわけで、色んな人が抱えている”好き”への遠さと、魂が閉じ込められる牢獄についてのエピソードである。

 朗らかにアニメの話題を楽しむ誰かを、アキラさんが見つめる視線の遠さ。
 自分のこだわりにそぐわないサプライズを、唐突に投げかけてきたダメ大人へのジュジュ様の距離。
 そこを埋めるべく、ミヤコさんが告げた自分の過去は、意を決して光の方へと腕を伸ばすことで、何も諦めず何も殺さなくていい自由に、確かに手が届くことを告げていく。
 そういう経験者の言葉が、若い子に必要なときだってあるよね…。

 

 過去のアキラさんは”好き”を押し殺して殺しきれず、だからこそ自分から遠い光に呪われていて、今のジュジュ様は”好き”を一つの形に押し固めすぎてて他人を拒絶している。
 それぞれ”好き”へのアプローチは真逆に見えて、ひたすら素直に”好き”なだけじゃあ上手くいかない、人間の難しさを切り取った距離感は、どこかで似ている。
 この遠さを救ってもらったからこそアキラさんは、友達のためなら何でもしてあげたいと静かに想っていて、そういう救いはかつて海夢ちゃんの無遠慮な踏み込みに自分のペースを乱され、見知らぬ喜びを知ったジュジュ様の中にも、既にあるものだと思う。

 五条くんが海夢ちゃんじゃないクラスメイトに、自分の”好き”を見つめ認めてもらって世界が拓けたように、より自由で幸せになる道は誰か一人に縛られた、狭いものである必要はない。
 今回ジュジュ様の青く狭いこだわりを、元気なダメ大人達がサプライズでぶっ壊し、彼女を支えるプライドであると同時に、追い詰める壁でもあるものを溶かしていくのは、風通し良くてとても好きだ。

 

 ダメ大人三人組は悩み多き高校生たちに、とにかくやってみたら壁を壊せた自分の体験を手渡し、自分なりの悩みや痛みがどういうものだったか、自然と語る。
 年長者特有のマウントが全然なく、サラッと同じ視線でやってるのは偉いなと思う。

 五条くんも似た傾向を持つけど、ジュジュ様もこだわりが強い分心の扉を中々開け放つことが難しくて、「これ!」と思い込んだものに縛られる。
 それが不自由な遠さを生みもするのだが、同時にその意固地な頑なさは彼女たちの良さでもある。
 そんな「らしさ」を壊すことなく、端から見てて心配になる尖った狭さを、どう拡げていけるのか。
 考えたからこそのサプライズであり、身体の制約を超えて憧れに”成る”ための、たくさんの技術と経験である。
 世界を広げるための魔法がどんな手管を宿しているのか、描写が具体的で分厚いのは、説得力があっていいなぁと毎回思う。

 

 

 

 

 

 

画像は”その着せ替え人形は恋をする”第23話より引用

 そういうえば本当はお姉ちゃんといっしょにコスプレもしたかった心寿ちゃんに、寄り添い解き放ったのもジュジュ様ではなかったな…などと思いつつ、ようやく姉はあの時の妹の不安と、それを受け止めてあげれた自分の”好き”の意味を知る。
 人間何もかんも一人ですべて乗り越えれるわけでも、支えきれるほど完璧なわけじゃないけど、だからこそ色んな人の個性を噛み合わせて一緒に進んでいけるし、チャーミングな凹みが魅力になって、縁がつながったりもする。
 そういう人間本来の凸凹を肯定しながら、にこやかに日々が希望に満ちた方へと転がっていくお話なのが、俺は好きだ。

 畏れを込めた遠さを一足飛びに踏み越えて、眼の前に生まれた”好き”が最高に輝いているのだと教えてくれる、誰かとの近さ。
 それが生み出す救いと変化を、話数開けて立場変えて再び描くのは、幸せな円環が回ってる感覚があってとても良い。
 まぁ親愛が溢れすぎて、写真撮影の絵面ヤベーことにもなっているが…。

 

 アキラさんもジュジュ様も、”好き”の毒に中って人生ねじ曲がる半歩前で、なんとか身を翻して前を向いた。
 この幸福な方向転換を、登場人物に手渡し続けるオプティミズムと、ノリと勢いが良いギャグで沈まず描くのが、このお話の画風である。

 ずっしり重たいものも描くけど、基本人生は笑顔に満ちてハッピーであり、魂を引きちぎられそうになっても誰かが助けてくれたり、乗り越える力が人間にはあるのだと、気楽…を逞しく装って、この物語は語り続ける。
 そういうタフな軽妙さが、可愛らしい笑いで快活に下支えされているのが、僕はとても好きだ。
 可愛くて笑えるのは、とっても強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像は”その着せ替え人形は恋をする”第23話より引用

 デジカメのモニタという客観の鏡に捉えられた、想っても見なかった自分の姿。
 それはあってはいけないと思い込んで縛り付け、誰かが手を差し伸べてくれたから解き放たれた、間違いなく自分でありながら、自分ひとりではたどり着けない自分の形だ。

 そうやって自分の”好き”に…もっと”好き”になれる自分に手を伸ばして、一瞬の夢ではなく長く続く現実として、抱きしめ続ける道は確かにある。
 そういうことを実感として教え、感じさせてくれる人との出会いがあったのは、幸せなことだなと思う。
 すーぐ限界になるダメ大人どもは、同時にそういうハッピーを手渡せる人たちなのだ

 

 

 そういう風に柔らかな心に近づいてくれる人の大切さを、ちゃんと解っているはずのアキラさんは、一体どうしてあんな態度なの!?
 半歩間違えると結構なヤダみ出そうなところを、サバサバ事実として受け流せる海夢ちゃんの人間力と、いい塩梅で”抜き”を生み出すSDの活用が、上手くシャレにしてていい感じだ。

 五条くんに語った過去、そこから生まれる自然体な素直さと噛み合わない、ギクシャクした態度を最後のミステリと残し、次回ついに”棺”合わせである。
 衝撃の真実をアニメがどう書くか楽しみにしつつ、来週もしっかり見届けたい。
 …三期、天命編の最後までアニメやりきってくんねーかなぁマジ…。