イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスターシンデレラガールズ:第19話『If you're lost, let's sing aloud!』感想

シンデレラたちの第二幕、19回目の今回はデコボコイチャイチャユニット*と、ロックンロールの王子様のお話。
二期の基本フォーマットを丁寧に踏襲しつつ、*結成秘話だった第11話をもう一度掘り返し、問題点を浮き彫りにした上で解決したエピソードとなりました。
第14話から埋めていた伏線を掘り返し、多田李衣菜とロックンロールの関わりに決着を着ける話であると同時に、木村夏樹を色濃く描写する回でもあったなぁという印象。


第19話のお話をする前に、二期の基本フォーマットについて少し。
1期のおさらいと二期の予告に時間を使った第14話を除くと、デレアニ二期は

1 交流
CP個人の物語は一度展開しているので、CP外のアイドルとの接触を物語の軸にする
2 対立
常務がかけてくる圧力とそれへの対抗策が提示される
3 深化
過去のユニット回で扱ったテーマの変奏を行い、別角度から光を当ててキャラクターの人格を掘り下げる

辺りを、共通のルールとして持っているように思います。
無論、エピソードごとに適応できるルール、そうでないルールがあるわけですが、今回のお話はこの3つの要素を、ほぼ完璧に満たしています。

それぞれ過去回を浚ってみると
・第15話
 1 交流:高垣楓とNG
 2 対立:アイドルの仕事を数字でしか見ない常務
 3 深化:数の大小ではなく、ファンとの絆がアイドルの仕事の価値であるという再発見(他の話が過去エピソードに別角度から光を当てているのに対し、このお話では価値の再確認というストレートな追認になっている)

・第16話
 1 交流:安部菜々前川みく
 2 対立:下世話なバラエティを潰し、キャラで売っているアイドルを排斥する常務
 3 深化:誇りを持ってキャラを貫くことの価値の確認(実は前川みくの猫キャラは個別で意味合いを持っているわけではなく、第11話で多田李衣菜の持つロックとの対比で描かれていたので、『キャラを被る』ことの意味を掘り下げる初のエピソードとなった)

・第17話
 1 交流:城ヶ崎美嘉と凸レーション
 2 対立:大人になることを強要してくる常務と母親、子供でいることを強要するバラエティスタッフ
 3 深化:第10話では束で扱われていたみりあと莉嘉、それぞれの自意識の発掘(この回では常務だけが意にそぐわない認識を強要してくるのではなく、みりあの母やスタッフも悪気なくイメージの強要を行い、常務=敵という構図が少し崩れてきている)

・第18話
 1 交流:CBYD(特に輿水幸子)とCandy Island&諸星きらり
 2 対立:常務からの圧力はほぼなく、かな子&智恵理が出来ない自分と、きらり&杏が出来る自分と対峙、成長する
 3 深化:第9話で描かれていた、杏が残り二人を引っ張るCIの構図を否定し、かな子と智恵理が自分の出来なさにしっかり向い合い、自分の足で立ち上がるまでを描く(切り離された杏はきらりと一緒に、周囲の認識を乗りこなせるが故の苦悩などを描かれていた。また、常務からの圧力がことさら弱く、外部的な圧力よりも内面的な対峙の方が重要な回)
という感じになります。


こうして並べてみると、毎回ゲストアイドルが出てきて、様々な関わり方でCPのアイドルに影響を与え、過去描写されてきたキャラクター/物語の価値を再確認したり、別の角度から再発見したりする、というおおまかな構図が共通であることが見て取れます。
CPが外部につながらなくてはならない状況は、常務によるプロジェクト一新が起因となっていますが、実はCPメンバーが直接にその圧力を受けることは少なく、ゲスト・アイドルが常務の圧力を受け、CPメンバーがそこから抜け出す手助けをする構図が多いように思えます。
看板に起用されそうになって拒絶した楓さんであるとか、、逆に看板を剥奪されそうになったウサミンであるとか、キレイ系を押し付けられた美嘉姉であるとか、現れ方は様々ですが、常務の起こした飛沫を浴びて、困ったことになるのは共通です。
明るくて素敵な旧プロジェクトルームを追い出され、地下に追いやられた時点でCPにかかる圧力としては十分、ということなのでしょうか。

危機に陥ったゲスト・アイドルとCPメンバーが触れ合い、窮地を乗り越える手助けをすると同時に、過去のエピソードでは気づかなかった自身の願いや魅力に気づいていくというのが、二期のお話に共通するフレームだと言えます。
そういう意味では、個別エピソードいの一番である第15話で、楓さんが華麗に常務からのプレッシャーを躱し、NGから道を教えられるのではなく、逆にアイドルとして大切なモノを教示するお話なのは、面白い例外だと言えるでしょう。
この路線を引き継いだのが第18話における輿水幸子で、彼女は憎まれ口を叩きつつもCI出来ない班を奮起させる、メンターとして機能しています。
第18話は常務によるプレッシャーがお話の軸にならない、非常に例外的なお話なので、楓さんとはまた立場が異なるわけですが。


二期のお話を回している圧力源である常務は、各話ごとに扱われ方がかなり変わっています。
これを一貫性のないキャラクター描写のブレと受け取るか、各話ごとの役割に合わせた描写をしていると受け取るかは意見の別れるところですが、毎回課題を与え乗り越えるべき障壁を演じる『単純な悪役』という描かれ方をしていないのは、こうして並べてみると歴然としています。
アイドルの本質を間違え続ける失敗者としても描かれて(第15話・第16話)いるし、アイドルの別側面に光を当てるプランナーとしても描かれて(第17話)おり、彼女の行動すべてが作中の価値観において悪である、という描かれ方はしていません。
常務が抱える隠し球である『宮本フレデリカ&塩見周子&速水奏』のトライユニットが世界を席巻している描写も、チラホラと見えていますし。

ただ、アイドル側のモチベーションや個性を無視し、自分が良かれと思った行動を押し付ける存在だというのは、これまで一貫している描かれ方です。
バラエティ豊かなキャラクター性を認め、個性を価値として称揚してきたこれまでの価値観とは正反対なこの押し付けが、二期のお話が回転する大きな動因になっているのは、間違いないでしょう。
これに反発したり飲み込まれたり、飲み込まれそうになった所を救済したりすることで、二期のお話は展開しています。
第18話は味方であるはずの『ヴァラエティ番組の嫌味』を杏ときらりにぶつける話で、これが常務が起こした波風に反発する形で強化されたことを考えると、第15話~第17話までの描き方とは正反対の立場から、常務の圧力を取り入れている、といえるかもしれません。
二期から取り入れられたゲスト・アイドルにしても常務にしても、基本的なフォーマットを共有しつつも、その使い方・描き方は(当然)各話ごとに異なり、アイドルの様々な部分に光を当てるべく使われていることがわかります。

 

このような基本フォーマットを踏まえた上で、今回のエピソードを見てみると
・第19話
 1 交流:木村夏樹と*(特に多田李衣菜
 2 対立:ロックの根本哲学を無視した、常務によるお仕着せのプロデュース
 3 深化:第11話では是とされた*の対立性を、ロックという共通要素を持つ夏樹との交流の中で問い直し、再是認する(にわかロッカーである李衣菜が本物である夏樹に憧れるだけではなく、懐きが常務の圧力に反逆する勇気を李衣菜から貰う相補性がある)
という感じになります。

ユニットエピソードの最後を飾った第11話は、猫キャラを重視する前川とロックを(なんにも判っていないにわかなりに)大事にしたい李衣菜が当然のように衝突しつつ、アイドルにかける強い思いを共同生活の中で確認し、そこを足場に差異に価値を認め、違っているからこそ分かり合えるユニットとして*が結成されるまでを描いていました。
二回目の*(というか多田李衣菜)エピソードである今回は、当時是認されてた差異について問い直し、それがほんとうに良いものなのか悩んでいくお話になっています。
違うことの意味を問うためには同じである存在を対比物として置かなければいけないわけで、李衣菜が心奪われるロックンロールの神様、木村夏樹が今回のゲスト・アイドルとなります。

物語序盤の李衣菜はアイドルに関してもロックに関しても適当で、自分が心から望むからではなく、『なんとなくカッコいい』から『他人が褒めてくれる』から『それ』を選択したクソにわかでした。
本田未央の脱退未遂であるとか、*としての活動であるとか、CP全員が一丸となった夏フェスであるとか、様々な経験を経て李衣菜も成長し、いつまでもにわかでいてはいけない、自分が選んだ『それ』に対し『本気にならなければいけない』と、強く感じるようになりました。
それは、常務によるCP解体の危機、近送りにされた経験を経て、更に強化されたのでしょう。
別の言い方をすれば、第2話で既に本気で猫をかぶっていた前川と、李衣菜はようやく同じラインに立ったとも言えるわけです。

第14話で鮮烈に出会った木村夏樹は、『本気にならなければいけない』けどどうすればいいのかわからない李衣菜にとって、ロックンロールそのものです。
木村夏樹のように振る舞えば、自分は選びとった『それ』に本気で向きあい、危機に負けない芯を手に入れることができるという、憧れの存在。
今回の夏樹は、第15話の楓さんや第18話の幸子のような、自分を導いてくれるメンターとしての側面を、強くもっています。


そんな李衣菜の憧れを強く反映するように、今回の夏樹はとにかく格好良い。
後輩をよく導き、知識や技術を惜しげもなく与え、新しい世界を次々見せてくれる、まさにロックスターです。
音楽を自己表現として選んだものらしく、二回もライブシーンがあるのが印象的です。

しかし今回夏樹は、ただ格好良くて完璧な、憧れのスーパースターとして物語に存在しているわけではありません。
まるで恋する少女のように夏樹を見つめる李衣菜にとっては、一切瑕疵のない完璧な存在に見える夏樹も、彼女の目に見えない部分では悩んだり怯えたりしています。
常務が押し付けてくるアイドルバンド企画はとんでもないチャンスですが、同時に一切の自由を奪われ、夏樹にとって一番の価値である『ロックンロール』を無下にされる檻でもある。
檻に入ってうまい飯を食うか、風が冷たいのを覚悟で檻をぶち壊すか、このジレンマに今回、夏樹はずっと悩んでいます。
生活空間を共にしない李衣菜にはけして見えない人間的な傷が、スーパースターである夏樹にも、ちゃんとある。

このように、一見完璧で隙がない存在が持っている弱さを描写し、簡単に天使や神様を造らないキャラクター描写は、このアニメでは結構徹底していると思います。
CP全体を保護するきらりがダメージを追う描写や、頼れる先輩である美嘉の苛立つ姿は、丁寧に描かれてきました。
逆に一期では『負け役』だった智恵理やかな子が立ち上がる姿、本田未央の挫折と奮起、アイドルの底辺街道を歩いてきたウサミンの晴れ舞台など、傷を追ってみすぼらしい人間が輝く瞬間も、ちゃんと描いてきました。
今回描かれた『李衣菜の瞳に映る完璧な木村夏樹』と『木村夏樹の目から見た弱くて迷う木村夏樹』の両面性は、このアニメが大事にしているキャラクターの多角性そのものだと言えます。


多角性が重要視されるのはキャラクター描写だけではなく、李衣菜が抱え込む『憧れ』に関してもそうです。
ロックンロールとアイドルを真剣に考え、『それ』に夢中になればなるほど、ネコミミとのキメラである*は不純なユニットとして、不協和音を強めていきます。
李衣菜がロックに詳しくなり、抑えられなかったコードが弾けるようになるのは夏樹への『憧れ』故なのですが、前川の提案を上の空で聞き流し、ステージ上で接触事故を引き起こしてしまうのもまた、『憧れ』が持っている魔力故なのです。
そして、*の特徴である異質性は、ロック≒木村夏樹に本気になった李衣菜を受け止めきれず、浮気されたら自分が悪いと即座に思い込む系女子・前川みくから本気の解散を提案されることになる。
(楽屋のシーンでネコミミとにゃ語尾を外しているのは、前川の描写に共通する本気度のバロメーターですね)

ロックの純粋性か、*の異質性か。
木村夏樹か、前川みくか。
二者択一を突きつけられた李衣菜はここでようやく、自分がロックに熱中するあまり事態が悪化していたことや、一期(特に第11話)で積み上げてきた絆が切れかかっていることに気づき、*を選びとります。
夏樹が目覚めさせてくれた『それ』への本気を尊重しつつも、相方として選びとり一緒に歩いてきた前川みくと一緒にロックすることを、李衣菜は選択したわけです。

この決断を人知れず聞いていた夏樹は常務の用意した暖かい檻をぶち壊す決意を固め、一夜限りの『にわかロック』ライブを敢行する。
メンターだったはずの夏樹にとっても、自分を純粋に信じ憧れてくれる李衣菜の存在は大きく、導く立場の存在は導かれてもいたわけです。
李衣菜が夏樹に惹かれていたように、夏樹もまた李衣菜とのユニット結成に魅力を感じていたわけで、『にわかロック』ライブは李衣菜だけではなく、夏樹にとっても未練を振り切り選んだ道を真っ直ぐ進んでいくためのケジメです。
こういうシーンを自分から作れるところが、まさにロックスターの面目躍如と言えます。

夏樹と李衣菜の相補的な関係性、『憧れる誰かの瞳に映る自分こそ、誇りに思える本当の自分』という描き方は、今回だけのものではありません。
第16話における前川とウサミン、第17話における莉嘉と美嘉、第18話におけるきらりと杏のように、二期になってそこかしこで強調されている、重要な関係性だと思います。
より善いセルフイメージが、自分が決定できない他者の意思によってのみ作られるという構造はそのまま、アイドルとファンに通じるものがあり、CP内部の完成に重きをおいた一期では重視されなかったこの視線が、常務という圧力を取り込みアイドルとしての貫禄をました二期のCPたちに注がれているのは、結構意図的なんじゃないかと、僕は思います。
作品のテーマとしても、魅力的かつ強靭ですしね、このテーゼ。


李衣菜の後押しを得て常務の提案を蹴った夏樹は、その足でCP連合軍に加入し、『Rock&Cat+ウサミン』が結成されます。
『にわかロック』ライブで縁を切って走りだすのではなく、約束された成功から外れた夏樹がハグレモノ軍団に合流したのは、現在展開されているメインストーリーが、プロデューサーを代表とした国盗り物語であることと、無関係ではないでしょう。
『頼れる仲間を集めて、悪辣で強大な常務を倒せ!』というクエストは、個別のキャラクターとゲスト・アイドルとの物語を緩やかに繋ぐ、大きな縦糸です。(常務の描写がソフトに過ぎて、悪辣にも強大にも感じられないというのは、また別のお話です)

(『ウサミンどっから来たん? 前川推薦枠?』とか『夏樹がロックすることで放り出された、松永さんと星くんかわいそうじゃね?』とかの疑問は、外部メディアであるWeb次回予告とか、MAGIC HOURとか、NO MAKEとかで一応補足されてたりします。
なにぶん登場人物と展開させるべき物語の総量が多く、そこから溢れてフォローしきれない要素が大量にある中で、受け皿としてアニメの外側を最大限利用していると取るか、はたまた24分のアニメの中で勝負するべきと取るか。
難しいところですが、個人的には外付けメディアをフル活用してでも、こぼれ落ちる物語を拾い上げてくれる姿勢は凄くいいと思うし、外側を積極的に活用しようと思わせる魅力も、このアニメにはあると思っています)

ロックスター・木村夏樹という大駒を手に入れたプロデューサーですが、一期の頃に比べると、直接的にアイドルを支えるシーンが減ってきたように思います。
これはゲスト・アイドルを入れ込む二期基本フォーマットの関係上、アイドル-アイドルの関係性が重視され、一期で重視されていたアイドル-プロデューサーを中心に据える余裕が少ないことが影響しているのでしょう。
今回も様子のおかしい李衣菜との会話の場を作るか提案し、前川に『信じて見守ってほしい』と言われていました。
第7話で本田さんが脱退しCPが壊れかけた時、プロデューサーに談判しに来たのが前川であること、それにプロデューサーが答えた言葉が『信じて待っていてほしい』だったことを考えると、なかなか感慨深いものがあります。
導いていたはずの相手に教えられ、気づけば支えられる立場になっているのは、なにも夏樹だけではない、ということかも知れません。
もちろんプロデューサーがCPにとって、このお話にとって大事な存在であることは間違いがなく、コンパクトながら確かな気遣いと変化を、画面の中で起こしているのも事実なのですが。


『味方』の描写はこんな感じですが、『敵』である常務は今回、かなり分かりやすい圧力源として描写されていました。
アイドル個人の顔を見ず、自分の考える最善を押し付けて離反されてしまう流れは、第14話の楓さんとよく似ています。
接触したアイドルほぼ全てに離反されているので、逆に大駒として確保し、推し、それなり以上の成果を出している『宮本フレデリカ&塩見周子&速水奏』をどう慰留しているのか、非常に気になります。
常務側のロジックと実力を見せる意味でも『宮本フレデリカ&塩見周子&速水奏』の描写って大事だと思いますが、何しろ彼女たちのユニット名も明瞭ではない状況なので、あんまり掘り下げることはないんでしょうかね。

実現しかけた『実力派アイドルバンド』(三次元で言えばPRINCESS PRINCESSSCANDALの路線なんでしょうか)は夏樹の離反によって空中分解し、常務は次なる手として『渋谷凛&神谷奈緒北条加蓮』による新ユニットに目をつけていました。
これも二期の出だしである第14話から埋められていた伏線で、夏樹と李衣菜の出会いを今回使ったように、次回以降活性化する感じです。
もしトライアドプリムスが凛ちゃんに『何か』を与えるのなら、それは貴重な出会いを作った常務の行動がポジティブな意味も持つという証明になり、彼女が『ただの悪役』ではない描写を強化することになると思うのですが……さてはて。
正直な話、常務の多面的な描写が演出のブレなのか、狙った多面性なのか、嫌われる悪役を押し付けない臆病さの現れなのか、イマイチ確信が持てなくなってきているので、実際の描写を待ちたいところです。


適当なにわかだった多田李衣菜の変化、*が持っている価値の再確認、木村夏樹という人物の多角的な描写。
まるで恋のようにキラキラと輝く二人の視線を、善い所に落ち着けたエピソードだったと思います。
これで二期でユニット単位でのエピソードがないのがLOVE LAIKAとRosenburg Engelになりましたが、あと二話基本フォーマットを踏まえた変奏に使うのか、はたまたここらで大きな波風を起こすのか。
個人的にはやや影の薄いアナスタシアにスポットを当てて欲しいところですが、どうなるんでしょうかね。