イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

コンクリート・レボルティオ ~超人幻想~:第7話『星も空も越えていこう』感想

残忍無垢なるヒーロー・ヒストリー・チャネル、七話目はサイエンス・クライスト・スーパースター。
あまりにも純粋な正義装置が取りこぼす嘘と弱さ、絶対に憧れる裏切り者の空を見上げる視線、機械ですら夢を見る魔界の果実。
世知辛い世の中の一服の清涼剤として、大切に機能しつつもこれまであまり目立っていなかった輝子にクローズアップし、彼女が現実の天秤について考える回でもあった気がします。


純粋な子供/機械/動物と、純粋さを失ってなお憧れる大人が常に対比され続けるのがこのアニメだと、僕は思っています。
かつてメガッシンやガゴン、風郎太が担当していたロスト・イノセンスを今回担当するのが、物理的に正義を判別できる宇宙英雄、アースちゃんです。
彼女(彼?)の判断基準は地上から届くSOSだけであり、そこにまとわりついてくる色々は一切斟酌しない。
嘘つきは悪、助けを求める人は善、それを阻むものは悪。
シンプルで超越的実行力を伴った彼女の行動は、曖昧な世界を単純化したくてしょうがない大衆に支持され、アースちゃんが正義を行うのではなく、アースちゃんの行いが正義となるような転倒が発生しています。

今回アースちゃんと交流する輝子やジュダスは、そこまで単純な世界に生きていない。
アースちゃんのように助けを求める声を感じ取ることも出来なければ、そこに快楽を見出すこともない。
約束を破らないと人を助けられない世知辛い世界の中で、善悪定かならぬモヤの中で、自分で考え判断して何かを裏切り続ける地上の人間なわけです。
だからこそ、迷わず怯まず留まらない、正義の装置としてのアースちゃんに憧れる。
自分には無い無垢さを求め続ける身勝手な視線という意味では、第2話『未来編』の爾郎が風郎太に押し付けたそれ、第5話でメガゴンの中にガゴンと弟を見続けた少年のそれと、強く共通するものがあります。

今回輝子がようやくクローズアップされ、彼女(正確に言えば彼女周辺)の暗部が公開されました。
魔界のプリンセスとして人間の魂を収奪するべく、事情を隠したウルに色々操作されながら無垢を演じさせられている、魔法使いの中学生。
『無自覚の善意システム』という点で、彼女とアースちゃんには共通する部分が多く、だからこそ強い共感を輝子はアースちゃんに抱いていたのかもしれません。
羽田事件とジュダスを巡る事件の中で、輝子はこれまで信奉していた善悪二元論の単純な世界観を捨て、嘘という悪を行わなければ善を為せない、矛盾に満ちた人間観を受け入れる。
『過去編』から『未来編』の間で爾郎や風郎太が、第5話ラストで早川少年が果たした『大人』への成長が、アースちゃんの正義に憧れつつそれを否定した輝子にも、今回起こっている。
無垢なるものも弱気人間も皆、世間の風に吹かれて純粋ではなくなってしまう。
悪魔の娘が手渡したキャンディで『只の人間』という嘘を夢見たアースちゃんもまた、作品を支配する劣化/成長のルールから逃れることは出来ない、ということかもしれません。


『永遠にイノセントな存在などいない』というシビアな視点はこの作品の基本スタンスでして、『未来編』でがっつり機能停止しているアースちゃんもまた、機械の正義神ではなく、血を流して死ぬ人間でしかない。
『人間には存在しないSOS受信機関と、正義を為すことで快楽を得る神経回路を持っているとしても、それは別の在り方というだけで何か特権的な地位を約束するものではない』という見方は、第3話のメガッシンと共通するものがあります。
空からやって来る正義の審判が『正義』足りえているのは、無論彼女の純粋さもあるけれど、工場の煙突を捻じ曲げ一結びにしてしまう圧倒的な暴力が、彼女の主張と行動の後ろ盾になるからです。
彼女自身が制止した米空母上の軍用怪獣(もしくはそのメタファーとしての核)と、アースちゃんの『正義』を保証するものは基本的に同根なのであって、そういう意味でもアースちゃんはけして無垢でも無罪でもないわけです。

鋼鉄の天使という彼女の出自、善意を感じ取り快楽とする彼女の組成が、無条件に彼女の『正義』を保証しているわけではないし、彼女が実行している『正義』は人間社会の矛盾を切り捨てる果断さ(もしくは愚かさ)によってのみ可能なのであって、それは人間が持つ共感能力(もしくは優しさ)の不足を意味している。
物質的な波長としてSOSを直感できるからこそ、それが不可能な人間が発達させてきたツールとしての優しさを必要としないし、必要性を理解しないというのは、なかなか皮肉なところでしょう。
ここら辺の自動性が今回開示された輝子の設定と響き合っているのは、かなり不穏な感じがしますね。

犯罪組織に身を置き、空からの正義によって回心し、しかしまた悪に戻って再び組織を裏切り、刑務所で贖罪を果たしてデモに加わり『能力を使わない』という約束をやぶる。
JUDASという名前を背負うに相応しく、電光人間ジュダスは様々な場所で迷い、裏切り、嘘をつくという、人間の弱さの証明みたいなキャラクターでした。
そんなフラフラした人間だからこそ、あまりにも純粋で無垢なアースちゃんに憧れ、世界を敵に回しても爾郎の隣に立ち、アースちゃん救出のために『悪』を為す。
彼は正義と悪を直感的に感じ取ることが出来ない普通の人間であり、様々に裏切り迷ってきたからこそ、どうにかして助けを呼ぶ声を聞き分けたいという願いをもって、実際に決断し行動する。
助けを呼ぶ声が(望むと望まざると)聞こえてしまう故に、『正義』という生き方しかできないアースちゃんとは好対照を為すキャラクターであり、彼がまるで救い主のようにアースちゃんを見上げ続けることも、『未来編』においてその聖骸を盗み出す『悪』を選択することにも、強く共感できます。
人の心が分からない正義のシステムに夢を見させ、罪人に罪人なりの『正義』を選択させるバランス感覚は、やっぱりこの作品の奥行きを製造する重要なパーツでしょう。
不完全な神様が代表するテーマ性を際だたせるために、不完全な人間二人を配置した今回の構図は、お話の狙いがくっきりと見え、とても面白かったです。


というわけで、『夢見る神じゃいられない』『魔法少女じゃいられない』というお話でした。
ED後の情報量が多く、『未来編』の爾郎反逆軍メンバーが明らかになったり、メガッシンは爾郎の行動を正義と認めたのかなとか、柴警部中村豊作画貰っておいて負けたんかいとか、色々分かりました。
アースちゃんはなぜ機能停止したのかってのは、『過去編』と『未来編』を繋ぐミッシングリンクであり、爾郎が超人課を抜けるのと同じように、その輪郭だけが語られ続ける事象かな?
アトムとキリストというモチーフを考えると、人類の罪過を背負って犠牲になったのかあぁ……ここら辺は想像(もしくは妄想)を逞しくして面白いところであり、このアニメに特徴的な楽しさだと思います。
こういう風に『うぉー、気になる!』という気持ちを煽らないと、『過去編』と『未来編』に分割し真ん中を抜いた構成が意味を失っていくわけで、アースちゃんとジュダスというエピソード・ゲストを魅力的に描けていたのは、とても大きい。
アースちゃんはピュアで可愛いしヘンテコ変形も面白いし、ジュダスは自分の弱さと向き合う強さを持っているし、一話で好きになれるキャラって大事よね、やっぱ。

第1話の段階では単純明快な善悪二元論の世界にいた少年も少女も、話が進むにつれあるいは成長し、あるいは最初から単純ではなかったことが判明し、どんどん複雑な世界に適応していきます。
そんな世界の中で、それでも『正義』でい続けるためには必要な憧れの視線を、地上の塵とは無縁の宇宙に上げ続ける。
そんな感じのお話でした。
メインキャラクターである輝子の輪郭がぐっと深まり、シリーズテーマである『正義』と『悪』について彼女なりの足場を手に入れたのは、凄く良かった。
そしてジュダスは純愛だなぁ……俺純愛キャラ好きなんだね、ウン。(今更な気付き)