イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プリパラ:第79話『アイドル終了ぷり』感想

選ばれし者のためだけのステージ、特定の価値観だけが称揚され、多様性は枯渇した! 世はまさに、プリパラ暗黒時代ッ!! という感じの、セレパラ第2話。
神の眼鏡を手に入れたまほちゃんマジやりたい放題ですが、凡人代表として反撃の狼煙を上げて欲しいみれぃは自分を攻め、凄い勢いで曇りまくり。
努力系を追い込むプリリズの系譜を正当に受け継いで、語尾アイドル(造り)がぎりぎりまで追い込まれる、シリアスでしんどいお話でした。

前回姿を見せたひびきの独裁体制はどんどん加速し、特定ランク以下のアイドルはライブすら出来ない、『エンジョイ勢マジ死ねよ』体制が完成してしまいました。
アマチュアのなりきりテーマパーク・プリパラから、選ばれたプロフェッショナルだけがステージに上るセレパラへの変化として考えると、ひびきの理想に合わせて質的変化を強要されている感じです。
競技として考えるとアマチュアからプロに才能を吸い上げる機構(スクールなり草の根セレパラなり)が完全に閉じているので、演技をするプロの供給がいつか途絶えて先細りになる気がするのですが、おそらくひびきはプロリーグとかより大事なものがある。

それは強烈な彼女のエゴイズムを拡大し、プリパラを自分色に完全に染め上げることです。
彼女は競技性の高いプリパラという理想を追いかけているわけではなくて、どっちかといえばガチなプリパラが好きな自分が世界規模に拡大し、自分以外存在しない世界を現実化したいという、猛烈にエゴイスティックな欲望を抱えています。
だからせっかく仲間になったみかんが離反しても気にしないし、構造的に閉鎖されたセレパらのシステムに疑問を感じないし、一部のアクター達が反発しても気にも留めない。
大事なのは自分なので、『みんなトモダチ、みんなアイドル』というプリパラの理想は、そりゃ気に食わないでしょう。
ひびきにとって大事なのは『みんな』を排除した後孤独に残るひびき自身であって、他の存在は全て孤立するためのコマでしかないわけですから。

しかしその先に待っているのは、高いパフォーマンスを評価する観客すらいない完全な孤独なわけで、『プリパラを愛している』と胸を張って宣言し、そふぃやシオンに新しい世界を見せたもう一人のひびきとは、実は矛盾する道です。
このまま進んでいけば待っているのは彼女自身の内破なわけですが、それを指摘してくれそうな優しい人が回りにいない現状では、ひびきの道を正してくれる人はいません
チームになっても胸襟を開くわけでもなく、エゴイスティックにコマとして使い潰すひびきに誰も手を差し伸べてくれないのは、当然といえば当然です。
ギャグっぽく演出されているアイドルたちのコマの演出はしかし、彼女のエゴイズムと孤独(何しろ人形は何も喋らないし、一緒にステージに上ってもくれないわけですから)をビジュアルで示す、結構野心的な演出です。

プリパラの子供たちはみな優しいので、エゴに塗れたまほちゃんのことも見捨てず、面倒を見てくれるかもしれません。
ファルルがコピーロボットから人間のあたたかみを知ったように、まほちゃん自身にも変化があるかもしれない。(孤独から共存に舵を切った象徴として『トモチケパキった』結果、ファルルが一度死んだのは、ひびきがこれから歩くかもしれない道と面白い対比をなしていますね)
しかしなまじっか権力を握ってしまった現状では、他人の言葉は耳に入らない状態だし、玉座から引きずり下ろすにしても上手い手がない、誰にとっても閉塞した状況だといえます。
今回見せられたひびきの独裁は、いつかひっくり返すべきストレスであり、クライマックスのカタルシスを高めるためのタメだといえます。


ここを気持ちよくひっくり返すためには、『みんなトモダチ、みんなアイドル』という理想を信じるらぁら達が反抗するべき流れなのですが、今回みれぃの心を折ることで、その流れが一回断ち切られます。
視聴者の大半が『みれぃが安い挑発に乗らなければ……』と心の底で思っている事実を巧く拾って、みれぃ自身にそのことを攻めさせる展開は、『視聴者の代弁者』としてのドロシーを巧く使うことで、お話しの瑕疵を浮かび上がらせつつ綺麗に拾う形に収まっています。

『みれぃは相当な無理をしてアイドルをやっている、結構普通の女の子』というのはこれまでも沢山描写されてきて、そんな女の子が努力でキャラを作りグループを引っ張る姿が共感を生みもしました。
彼女がらぁらや他の女の子たちにこれまで見せてきた優しさが、事態をここまで追い込んでしまった失策への自己嫌悪に繋がっているし、彼女に相当シリアスな側面があることも知っていればこそ、逃げ場がどこにもなくなって折れてしまう流れにも、(勘弁してくれよと思いつつ)ある程度納得は行く。
今回『もう、頑張れなく』なってしまったみれぃの弱さは、急に表面化したわけではなく、これまでも密かに描写されていた彼女の特質があってこそのものだし、だからこそ辛いのに納得がいく、面白い視聴体験になっているわけです。

ネタにして笑ってきた語尾キャラづくりが剥がれる姿、天才へのコンプレックスをそふぃにぶつけてしまう姿は、ぷりぷり言いながら頑張って守ってきた、ポップアイドルみれぃの仮面の奥にある、傷つきやすい彼女の素顔なわけです。
らぁらは子供らしい(というからぁららしい)真っ直ぐさで『みんなトモダチ、みんなアイドル』という理想を真正面に打ち出せるけど、少しお姉さんであるみれぃは小学生ほど真っ直ぐ理想を信じ切れない。
だから今回、ひびきの横暴に『間違っている!』という真実をつきつける役は、もう一人の天才であるらぁらが全部やって、凡人であるみれぃはどうしても『正しいと解っているけど、間違えてしまった自分には言う資格が無い』言葉を自分から口にできないわけです。
ここら辺の細やかな強がりと心の傷は、凄く丁寧にみれぃという人物に分け入って描いている感じがあって、繊細かつ丁寧でとても好きな描写です。

らぁらが今回言ったことは全て正しくて、お話が収まるためには彼女が口にする理想を叶える以外の道はありません。
主人公が真っ直ぐそれを口にできるのはとても良いことなのですが、同時に世界の殆どを占める(つまり僕らがそうであるような)凡人は、何よりも正しい真実がなんであるかを直感できないし、それを分かっていても口ごもってしまう。
ひびきへの反発をまっすぐ口にするドロシーとは違う形で、みれぃは僕らの代弁者として追い込まれ、迷い、心を折ったのです。
ひびきの才能主義・選別主義で言えば『勝ち組』になってしまいかねない天才・真中らぁらではなく、そこからはじき出される『負け犬』南みれぃをここで主人公に持ってきたのは、才能について語るお話を展開する上で、凄く大きな意味を持っていると思います。


無論、みれぃが今回迷い込んだ袋小路は世界の真実ではなく、いつか抜けださなければいけない一時の宿り木です。
この話が希望と友情についての物語である以上、いつかはらぁらが口にした理想が勝利し、実現するのは間違いない。
しかしここで凡人に『努力なんて、何の意味もない』としっかり言わせたことは、ただ理想を追いかけていれば叶うという薄っぺらい夢物語から、プリパラを巧く切り離す上でとても大事なことだと思います。
対立する意見もある、それが一時的な勝利をおさめることもある、心に傷を負ったり迷ったりすることもある。
そういうマイナスポイントを排除せず、普段はネタと笑いがたくさん詰まった楽しいプリパラを見せてくれつつも、本当の勘所ではまっすぐシリアスに攻め抜く姿勢があるというのは、本当にこのアニメの強いところだと思うわけです。
ここら辺は、ファルルをきっちり殺した一期終盤で、既に証明されている強さだと思います。

ひびきのエゴイズムに一番傷つき、一番振り回されているみれぃが折れることで、セレパらの持っている不条理を糾弾するレジスタンス運動は、どうにも勢いと正当性に欠ける弱々しい物になっています。
逆に言えば、みれぃが折れた心を繋いで立ち上がり、『努力は無駄じゃない』ともう一度言えるのであれば、ひびきの横暴を糾弾する流れは非常にスムーズになるわけです。
そのためにはなにか突破口が必要なわけですが、これまで常に正しい選択肢を直感的に選んできたらぁらは、その天才性故にみれぃとすれ違ってしまっています。

いったいどうするんだろうと思った所で、次回予告からまさかのストライクが飛んできました。
ファルルの帰還とともに現れた問題児、プリパラの闇の体現者、負の感情が生み出した子供であるガァルルがここで再登場し、何やら起爆剤になるという流れは意外であると同時に、まさに盤上この一手だという展開です。
プリパラに込められた負の感情は、セレパラの選別主義で加速しているわけで、ガァルルが急成長し、アイドルとして表舞台に立つ流れには説得力があります。
今回痛いほど見せたように、みれぃは自己嫌悪や臆病さ、コンプレックスといった負の感情を強く持った女の子なわけで、ガァルルのネガティブな出自とも響きあうものがあるでしょう。
僕個人がガァルルをとても好きだという理由はさておき、意外性と説得力を両立させた、素晴らしい起用だと思います。

システムの忌み子が八方塞がりの状況に風穴を開ける一方、クソシステムの体現者であるクソメガネはついにステージデビューしていました。
非常に悔しいことにステージそれ自体はモデリング、ステージのテーマ、SF性を活かした楽曲と全てにおいて高レベルで、ひびきの支配体制の隙の無さを巧く強調する意味合いでも、良い演出だったと言わざるをえない。
スタイリッシュタフガイ改めガイ改め水中メガ兄がうらぶれた暮らしをしているのに、増殖したりアイドルしたりやりたい放題し放題な辺り、あのアマほんとスゲェな……。


というわけで、丁寧に『この子がひびき編の要だから!』と強調していたみれぃを容赦なくへし折り、お話に真実味を呼び込んだ回でした。
あれだけ前向きに努力を重ね、アイドルを愛してらぁらに新しい世界を見せてくれた南委員長が『努力に意味は無い』『アイドルをやめる』という今回の展開は、正直マジしんどい。
なのですが、このアニメがバカやりつつ大真面目に希望について語るアニメだってのはよく知っているので、より良い方向に転がしていってくれると、僕は確信しています。
『No rain、No rainbow』てのは前番組の言葉ですが、その魂を受け継いだこのアニメが綺麗な希望の虹をしっかりかけてくれることを、僕は楽しみに待ちます。

いやーガァみれはマジ想像してなかったなぁ……でも南委員長KD(KodomoDaisuki)なので、一歳児にエナジー貰って大復活ってのは納得いくわ。
みれぃがまたぷりぷり言う元気を取り戻すために、ガァルルには頑張って欲しいところですね。
まぁ単純にね、ガァルルのキャラクター性とSFマインドは僕の好みにドンピシャなので、バリッバリ活躍して欲しいっすねマジ!