イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE:0096:第7話『パラオ攻略戦』感想

いろいろ難しい理屈こねくり回しても、結局巨大な暴力装置でドンパチするしかない哀しみのサーガも第七話目。
すわインダストリアル7の悲劇再来かと身構えましたが、連邦・『袖付き』両方の思惑が奇妙に絡み合い、マリーダさんとバナージ少年の1ON状態メインで展開しました。
ニュータイプ絶対殺すロボだったユニコーンの真実とか、マリーダさんの過去とか、負け犬オーラが危険領域まで高まってるリディ少尉とか、今週も色々ありましたね。
あとジオン系モビルスーツの大同窓会とかね……懐かしMSを最新鋭の作画で見るだけで、結構面白いなぁ……トライブレード、ああいうエグい武器だったのね。

ハイクオリティなMS戦闘と並列して進行しているので、ちょっと何が起こったのか分かりづらい今週のUC。
お話としてはバナージがユニコーンに乗ってドライセンを落とし、リディ少尉&オードリーと会話してからフルの思惑通りマリーダさんと戦闘、ニュータイプ絶対殺すモードが発動して危うくぶっ殺しかかるけど、NT的なアレソレが発動してギリギリ捕虜にして来週、という感じか。
キャラクターが陣営を行き来することで、それぞれの立場を『体験』出来るのは良い展開よな。

リディ少尉とオードリー、そしてバナージが一瞬の邂逅の後また別れていく対話は、彼らの三角関係がよく見えるシーンでした。
三角関係というか、相互に想い合ってるバナージ&オードリーに、リディ少尉が横殴りを仕掛けたいっていう絵だけどさ。
公人として生き続けてきたミネバを、初めて私人オードリーとして遇したバナージは彼女にとって非常に特別な存在で、それはガンダムに乗っているのがバナージだと分かった瞬間の声と表情の変わりようでよく分かる。
リディ少尉に多大な借りを作りつつも、それはあくまでミネバ・ザビとして戦争を回避する責務を果たすための借りであり、歳相応の少女の顔はバナージにしか見せない姫様は、マジズルい女だと思う。

バナージもまた、公人としてのややこしい状況確認をすっ飛ばしても、個人としての感情の確かさを確認することを優先します。
ここら辺の一個人最優先主義は、後々マリーダさんの懐に潜り込んだ時も使う、バナージくんの得意技です。
ともすれば裏切り者となりかねないミネバのエスコートをリディ少尉に任せる時も、『男と見込んだ』という殺し文句を使い、所属する組織のベールを剥いで対話相手を一個人に戻してしまうバナージ論法は、もしかするとユニコーンよりも強力な武器かもしれんね。

しかしそれはあくまで主人公の特権でして、バナージとオードリーの私的な関係に割り込まんと、ミネバを『オードリー』と言い換えるリディ少尉の好意は、ミネバには届いていない。
軍に属する限り、というかおそらくリディ少尉がリディ少尉である限り埋められない二人との距離を、今後おそらくややこしい事になる彼はどう処理していくのか、非常に気になるところです。
バナージに対しては爽やかな兄貴分として、オードリーに対しては紳士的な恋慕の騎士として振る舞ってる彼のエゴイズムは、結構分かりやすく映像に埋め込まれているので、そのうち爆破されるとは思う。

つーかバナージと姫様のロマンス値がもうカンストしてて、誰も入り込めない領域なのがいかん……お互い好き過ぎでしょ、あの二人。
僕はお互い好き過ぎな二人を見ているのは嫌いじゃないっていうか大好物なんですが、バナージくんがミネバの欲しいものをストライクど真ん中で投げ続けた結果、二人の関係が転がるスペースがこの段階でほとんどない感じがする。
だからこそ、二人一緒にいる時間が極力少ない、すれ違う恋人として描かれてんのかね。

リディ少尉がニュータイプっぽい描写も随所にあるので、宇宙世紀名物『戦場のイヤムードの中で、過剰に電波を受信して人格大暴走』を披露してくれるのか、不安と期待が半々ってところですね。
家格に期待される『良い連邦軍人』であろうとする努力は色んな所で感じられるし、今の『綺麗なリディ少尉』を頑張って維持しようとする彼も好きなんだけど、そんな綺麗な表面を許してくれるほど宇宙世紀も甘くないよね、多分……。
もしくは『綺麗なリディ少尉』で在り続けるために、ボロが出る前にバナージ庇って死ぬか……そっちの仕事はダグザさんがやるかなぁ。


そんな風にヒロインの処遇に主人公が納得した後は、第二のヒロインたるマリーダさんとのタイマン開始。
マリーダさんが戦場で殺し方や殺す相手を選んでしまうタイプの戦士だというのは、インダストリアル7襲撃の頃から強調されてた部分ですが、顔を見て言葉をかわし一緒に飯まで食ってしまったバナージ君はやっぱり殺せませんでした。
フル・フロンタルが何の躊躇もなくエコーズ隊員をぶっ殺し顧みなかったのとは、わかりやすい対比でした。
……こういう感受性が豊かで実際の行動でそれを押し通す実力を持っている人が、フルのような冷徹で乾いた指揮官の下にいるのは結構な損失だと思う。

バナージ必殺のタイマン説得を、『一個人としての土俵で話そうとするお前も、無意識に連邦という公的な装置の一部として振舞っているのであって、『袖付き』という公的装置の一部である私の背負うものを無視した言動だ』と切って落としたのは、マリーダさんなかなか鋭いところでした。
どれだけ透明な自分を大事にして、『あなたはどう思い、何がしたんですか?』という強烈な問いかけを武器に使っていても、人間は自動的に歴史に取り込まれるものだし、この物語で描かれる殺し合いは、望まず背負った歴史の重さの比べ合いでもある。
一学生として自分の立場を意識せず生きてこれたバナージは、マリーダさんに対し無邪気に『負けろ』というけれども、その発言はあまりにもナイーブかつ自分勝手な危うさを秘めているわけです。

今回明らかにされたように、『負ける』ということが何を意味するのか、マリーダさんはそれこそ身に染みて理解しているからこそ、バナージの高慢な一個人主義に言い返さずにはいられなかったのでしょう。
同時にあれだけの経験(強制売春を想起させる演出のあと、手術室で『重石は取れた』ッて言わせるのは、福田原作らしい悪趣味さだなと思った)を経てなお、マリーダさんは柔らかな感受性を失ってはいなくて、『袖付き』の戦士である公的な自分が、同時に傷と罪と汚れを背負った私的なマリーダ・クルスでもあるという事実を強く認識している。
バナージの身勝手な言説を拒絶しつつも、そこに込められた一面の真実を認めればこそ、フルのように冷徹に敵を殺すのではなく、脅しという形でバナージの生命を保全できる道を探しもする。
匂わされるだけで最悪で散々な目にあってきただろうマリーダさんが、絶望に落ちずに(武器を構えてとは言え)対話を続けようという意欲を持っているのは、中々に奇跡的なことだと思います。
あれだけエゴを傷つけられると、宇宙世紀だとその精算のためだけに人殺しを続けてもおかしくないと思うが……ジンネマンさんが色々ケアしたのかなぁ。

二人の平行線の対話はNT-Dという全自動暴力装置の発動で遮られ、NT同士の共感という超自然的現象で乗り越えられ、分かり合って終わる。
マリーダさんのバランスの良い組織主義を徹底的に考え抜くことで、バナージの中での『公/私』の対立は新しい局面を迎えられたとも思いますが、まだそこに思い悩むタイミングではないのか、はたまたバナージの象徴する『私』は『公』の持つ否定し得ない真正さを特権的に乗り越えられる、保護された特権なのか。
ここら辺は来週以降、ネェル・アーガマの虜囚となったマリーダさんと交流することで見えてくることかもしれません。
まぁ、分かり合えないままニュータイプ絶対ぶっ殺す装置になった主人公が、マリーダさんぶっ殺して終わりとかマジ見たくないしな……良いタイミングでサイコフレーム君は光ってくれた。


ユニコーンガンダムに搭載されたNT-Dなる機能の正体は、サイコミュ兵器のコントロールを略奪しニュータイプを根本的に否定する悪魔の契約でした。
ニュータイプなるあやふやな幻想(もしくは希望)で政治と経済が揺るがされるのを望まない連邦としては、徹底的にニュータイプを否定しうる機能を、世界で最も有名なニュータイプが乗った『ガンダム』に搭載することで、象徴的ダメージを与えたいのかねぇ。
かつてニュータイプを信じ絶望すればこそ世界を敵に回した、赤い彗星のポーザーであるフル・フロンタルが、この発想に一応の理解を示し、むしろニュータイプや強化人間を憎悪するような仕草すら見せているのは、中々皮肉だと思う。
リアルな政治の現場において、ニュータイプはUC0096においてはもはや理想の投影先として機能しておらず、連邦も『袖付き』も空疎な一年戦争の象徴を悪用することで、その幻想を叩き潰そうとしているわけだ。
夢も希望もない時代だが、ニュータイプをめぐる戦争の結果あまりに沢山人が死にすぎた世界としては、ある程度理のある決断かもしれない。

ユニコーンは『ニュータイプ幻想の象徴であるガンダムを以って、ニュータイプ幻想を叩き潰す』という悪魔の兵器であると同時に、物語を推進するマクガフィンたる『ラプラスの箱』のありかを指し示す羅針盤でもあるようだ。
連邦上層部(及びそれに踊らされるネェル・アーガマ)、『袖付き』(及びそれに反感を感じつつ従うしかないジンネマン&マリーダ)、ビスト財団存続派(及びその暴力執行機関として機能しているエコーズ)、主人公たるバナージとミネバ。
お話に関係する全てのキャラクターが『箱』を求めるが、その中に何が入っているかを知るものは誰もおらず、謎めいたモビルスーツが示す啓示を粛々と受け取ることでしか、『箱』をめぐる物語は展開しない。
フルが作戦行動を歪めてまで、マリーダさんを『噛ませ犬』にしてNT-Dを発動させたかったのは、ユニコーンこそが物語の推進力だと最も鋭く理解しているからなのだろう。

フルの思惑としてはマリーダさんはあのままぶっ殺されても問題なかったのだろうが、彼が否定したいように思えるニュータイプの不思議な力により、バナージは殺戮機械であることをやめてマリーダさんの過去に接触し、彼女を保護して帰還した。
フルの狙いは物語を先に進めることであり、マリーダさんの生死はどうでも良いのだろうが、あくまで一個人であることにこだわるバナージにとって、顔を見知った存在が生きるか死ぬかというのは何よりも大事なことだ。
私的領域にあくまでこだわりその情熱ですでに幾人もの心に侵入している少年と、私情を見せずに『袖付き』の首魁という公的役割を達成し続ける男。
主人公と(おそらく)ラスボス両方の思惑が成就することになったこの奇妙な戦闘が、どういう場所に流れ着いていくのか。
それはユニコーンガンダムと『ラプラスの箱』だけが知っていることなのだろう。
……いやね、このアニメ見てる人の結構な数が、どこに流れ着くのか知ってるのはオレもわかってるよ、ウン。


と言うわけで、パラオは戦場にならず、マリーダさんも死なないですんで一安心なお話でした。
いやー実際、あそこまでヒロイン力を上げられてしまうと、マリーダさんに死なれると痛すぎたわけで、バナージが止まってくれて良かった良かった。
まぁこういう共感を利用して、腸がよじれて切れるくらいのしんどい殺し方してきたりするわけだけどさ、ガンダムって……。(予防線を張って、いつか来るかもしれないマリーダロスに備える男)

ガンダム名物『闘いながら喋る』を駆使したことで、キャラクターの価値観や主張もよく伝わってきました。
現状、あまりに辛い過去に苛まれつつも、強く自分を持って誇り高く立ち上がっているマリーダさんへの好感度が、俺は高いなぁ……。
MS戦闘自体も強いこだわりと高いクオリティを維持していて、とても面白かったです。
ハイメガ粒子砲って、あんなにヤバい武器だったのね……。

殺戮機械に落ちる寸前で『人間らしい生き方』を握りしめたバナージ少年は、一体これからどこに行くのか。
『自分のやりたいこと』として地球に向かったオードリーは、スペースノイド迫害の中枢で何を見るのか。
超ろくでもないことになりそうなオーラ満載のリディ少尉は、マリーダを送り届けた後どうなるのか。
高まった緊張が争いを呼び、その決着がつきつつも、これからの展開からますます目が離せなくなるエピソードでした。
いやー、面白いねぇこのアニメ。