イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第34話『とら』感想

そして週替りの奇跡の神話は、その始原へとたどり着く。
とらと白面に隠された因縁をうしお(あと省略されたけどキリオ)が追体験することで、設定を明かしつつ絶望の底から立ち上がる気力を充填するお話でした。
うしとらZEROは怒りと絶望に彩られていて、うしおは海の底に沈んで沈んで、物理的にも底を打ったお話はもうアガるしかねぇ!!
反撃開始だッ!! って気持ちになる展開を、たった一話で作るのマジすげぇな。

ママンにはぶたれる、大事なものは全部奪われる、敵は超煽ってくる。
憎悪の化身となった潮と記憶の中のシャガクシャは、非常に良く似た境遇です。
思い返してみれば幼少期の潮は母なし子として荒れていたわけで、両親を殺されて復讐鬼と化したギリョウさん含め、獣の槍にまつわる男たちは共通点が多いですね。
潮もハラワタの底から沸き上がる程の憎悪を経験したからこそ、シャガクシャの物語を自分のものとして受け止め、憎悪を客観視して光の側に立ち上がることが出来たのでしょう。
辛い出来事を痛みを込めて追体験することで、やり場のない気持ちを収めていく動きは、とらと流にも共通するところです。

うしおの孤独は麻子の親父さんが体を張って受け止めてくれましたが、シャガクシャは幼少期からずっと一人。
憎み、妬み、嫉み、暴れまわって殺しまくったからこそ手に入れた英雄の地位は、普通の学生だった潮とは正反対のものです。
荒れたシャガクシャを受け止めてくれるラーマとその姉に出会って、憎悪の化身は初めて笑顔を知るわけですが、彼の物語は破滅が約束されたものであり、メタ的な見方をすると奪うために与えられた温もりといえます。
桑島さんが儚さを感じさせる美少女を好演してて、『キャスティングの時点でフラグ』とか抜かす奴は俺がぶっ飛ばす! って気持ちだった……俺もそう思ったけど。

潮と違い、白面に憎悪を仕込まれて生まれてしまったシャガクシャは、キラキラしたものを受け止めて真っ直ぐ生きようになろうとか、潮の考えそうなことは思えない。
ただ目の前の小さな幸せを体一つで守って、ようやく見つけた温もりを維持したいとは、心の底から願っていたはずです。
『お口に隠れていましょう』と可憐に自分を頼る存在を守りきれなかった後悔が、気に入ったやつを『食っちまうぞ!』と脅す強がりに繋がっている辺り、ホントとらちゃんあざとい可愛い優しい。
そしてそんな暖かな気持ちがあればこそ、白面という災厄を生み出すほどの濃厚な絶望を受けるわけですが……ホントアイツたち悪いな。

どす汚れた英雄を真っ直ぐな目で見つめてくるラーマは、流にとっての潮と同じように眩しく、疎ましい存在でもあったのでしょう。
全てが奪われた時の慟哭の血涙が今回印象的に映像化されていましたが、とらの顔の文様はあれと同じラインを辿っています。
つまりとらは生まれた時からずっと泣いていたとも言えるわけで、流を嘲笑うシーンに漂っていた不思議な悲壮感に、しっかり説明がついた気がします。
シャガクシャの物語を見ることで、流ととらの因縁に納得がいく作りはホント好きだなぁ……。


今回の話は『シャガクシャ=とら→ギリョウ→ヒョウ→流→潮』と続く、槍と白面にまつわる憤怒の男たちの系譜を確認するエピソードです。
彼らは皆暖かなものに惹かれつつ、それを奪われたり背負いきれなかったりして、内なる憎悪に焼きつくされながら戦う戦士です。
憎悪は強力な力を生みますが、それが暖かなものを守りきれないという事実は、敵に回ってしまった流や今回明らかにされたシャガクシャの過去を見てもよく分かる。
この憎悪と敗北の歴史を全て飲み込んで立ち上がり、戦士たちの厄介な因果に決着を付けれる陽性の存在だからこそ、潮がこの物語の主人公なのでしょう。
預言者の系譜を引き継ぎつつ完結させるという、啓典の救世主的立場なのだな。

ラストシーンで潮は光の側に立ち上がっていきますが、このタイミングではまだ、父親や麻子が生き延びていることを知らない。
彼はすべてを奪われ、憎悪に一度身を落としても、シャガクシャの物語をもうひとりの自分として強く体感し、その敗北に学んで立ち上がるわけです。
キラキラした理想論だけで高いところを飛ぶのではなく、業の泥の中に何度叩き落とされても戻ってくる靭やかさがあればこそ、彼の輝きは説得力を持ち、主人公としてこの骨太のお話をしっかり支えてくれる。
流を敵に回すことで、その輝きが人を傷つける可能性まで真剣に考え抜いている所含めて、やっぱ潮の主人公力すげぇなぁと思います。

憎悪に突き動かされ、孤独に憤るもう一人の潮=シャガクシャはこれまで背中を預けてきた相棒であり、憎い宿敵を生み出した張本人でもあった。
今回の過去行は複雑な設定を追体験させる説明回でもあり、同時にうしおととらの距離をより縮める足場でもあります。
ママンの『憎しみで戦ってはいけない!』という正論を受け止めきれず、相棒を『あばよ、バケモノ』と切り捨ててしまった先週までの潮は、悲惨な運命に突き進むもうひとりの自分を見つめることで、しっかりと心を整理している。
情け容赦なくすべてを奪い絶望を生み出しつつも、そこから反転する流れへの説得力を隙なく積み上げていく劇作は、やはり素晴らしいですね。

後単純に、長い物語に心動かされながら付き合ってきた身としては、二人と白面の因縁が時間も距離も飛び越える壮大なものだったという事実が胸に迫る。
獣の槍誕生秘話で古代中国に飛んだ時も『えっ! そんな幅広い話なの?』ってビックリしたけど、今回はそこ飛び越えて古代インドだもんなぁ……ハッタリ効かせるべきところでは最大限効かすのは、やっぱ大事だ。
いろんな場所を旅する展開もそうだけど、時間的にも幅のある世界がお話しのスケールを大きくして、矮小さ(身近さではなく)を蹴っ飛ばしているのは、やっぱとても良いですね。


というわけで、道に迷った主人公が、先達の悲しい失敗を追体験することで道に戻ってくるお話でした。
ここでシャガクシャの物語を己の痛みとして受け入れられる潮の共感能力は、槍が使えるとか運命に選ばれたとか、そういうのをぶっ飛ばした大事な資質なんだろうなぁ。
心に愛がなければスーパーヒーローではないのだ、ウム……森雪之丞先生はいい詞を書かれる……。

シャガクシャがようやく手に入れた温もりと優しさは手遅れになってしまいましたが、潮の戦いはまだまだこれから、終わっちゃいない。
太陽の少年が積み重なった哀しみと憎悪をどう受け止め、長い因縁をどう打ち破るのか。
白面の凶猛さはイヤというほど描写したので、こっからの反攻反撃は盛り上がるぞぉう……。
あー楽しみだ……この盛り上がりを作るために、カットにカットを重ねたんだんなぁ……。(提供のシャガクシャ顔になりつつも、気合の入った演出と的確な構成意図が刺さりすぎるジレンマ)