イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第35話『希望』感想

三期が始まってから約二ヶ月! 大変長らくお待たせしました!! 白面のクソッタレアマに頭を押さえつけられる展開はおしまい、おしまいですっ!!
そんな感じの、色んな人の記憶が戻って大逆転の気配が漂う第35話目のうしとら。
ボロッカスにされたりボロッカスに暴走したりしても、『いいさ……』で前を向いてくれる潮の強さがみんなを勝利に近づけていく話で、乱高下していたテンションが勝ちに向かってぐんとアガる話でした。
……物理的にも、ほとんどの連中が上むいたり空飛んだりしてる回だな。

うしとら(というかよく出来た物語)はバネでロケットを飛ばすのに似ている気がします。
お話が高く飛ぶためには、強い圧力(白面が情け容赦なく仕掛けてくる陰謀や暴力)で強靭なバネ(それに凹まされたりしつつも、壊れず物語を支える主人公)を強くたわませ、反動を利用して思い切りジャンプする必要があります。
潮と白面が直接対決をしない今回は、そのための土台作りというか、たっぷりかかった圧力を一話かけて抜き、『ああ、これから逆転だな!』という潮目の変化を視聴者にわからせる回なのではないかと感じました。

今回の展開でほんとうに巧いなぁと感じるのは、『戦う武器である槍を砕かれる』という絶望がそのまま、『槍の破片で記憶を取り戻し、みんなを守る』という希望に変化しているところです。
憎悪のままに振るった槍は『しょうことなし』と無力にぶっ壊されちゃったんだけど、シャガクシャの人生を共有し自分が戦ってきた意味を取り戻した今は、砕けた槍が逆転のための第一歩になっている。
『槍は頼れる武器』『潮の力は心の力』というのはこれまでの戦いを共有した視聴者には強く印象付けられているわけで、その2つを奪う圧力のかけ方も、その2つが混ざり合って逆転の狼煙になる展開も、最高に説得力があるわけです。

これはそのまま、槍を握る潮の心が平静を取り戻し、御役目の女達が言ってたような『正しい心で槍を振るう』状況が生まれている証明にもなっています。
根本的には精神主義・倫理主義で戦いの勝敗が決するんだけど、それをどうやって具体的なイベントで見せるかっていう工夫が、とても良く成されている印象ですね。
この心境に潮がすぐさまたどり着くのではなく、ずーっと心に秘めていた母への愛おしさを否定されてヤケになり、ボロッカスにされてシャガクシャの過去を見て……という手順をちゃんと踏んでいる所も、その遠回りすらも必要かつ面白いところも、やっぱすげぇと思います。


今回の話は潮だけではなく、人間も妖怪も皆『正しい心』を取り戻し、混乱や憎悪ではなく『守りたい』という仁の心持ちで白面に向かい合う、いわば心理的な『気をつけ』をする回だったと思います。
大怪獣白面が日本縦断しながらボーボー燃やしたおかげで、この戦いは潮やとら、実際に戦う力を持った人間だけではなく、全日本人が関わる戦いになっています。
これまで闇の中でひっそり、選ばれたもの(と運悪く巻き込まれたもの)だけが戦ってきた白面との戦いは、もはやいつ火であぶられ瓦礫の下敷きになってもおかしくない、他人事ではありえない戦闘になっている。
『白面のパワーソースは恐怖と憎悪である』という設定がここで非常に生きていて、これまで餌として蹂躙されるだけだった名前の無い人たちが、潮の記憶を取り戻すことで希望を取り戻し、最前線に立たなくても戦闘に貢献できる状態が上手く生まれています。

これまでの物語で潮が関わってきた人たち(工事現場のオッサンとかな!)が、我も我もと戦いに参戦してくる展開はそれだけで胸が熱くなりますが、『みんな』がいることで潮が一旦心を乱す原因になった『なんで俺だけなんだよッ!』という自暴自棄がケアされているのは見逃せません。
好きな女の子にも事情を話せず、必死に耐えながら戦ってきた一人の少年の努力を僕らは歯がゆく見守ってきたわけですが、報われることのない無償の親切だった潮の戦いは、彼に助けられた人たちの口を通じて、様々な人が白面に立ち向かう足場になる。
全日本が白面との戦いに巻き込まれることは恐ろしいことだけど、これまで潮ととらが必死に頑張ってきた結果、絶望的な状況に立ち向かう大きな力が、潮の意図しないところで生まれてきている。
全日本人が潮の味方になるこの展開は、孤独から立ち上がってまた傷つくことを選んだ少年が一人ではないのだと強く感じられて、とても好きです。

元々この物語は無名の人たちに強い信頼感を置いていて、槍を持っているとか伝説の妖怪だとか、そういう特別な存在を大事にしつつも、そこからはみ出した人たちの一瞬の勇気を大事に描いてきました。
白面が復活し日本中がボーボー燃やされる段階にあっても、槍や炎で戦うだけではなく、絶望的な状況で前を向いて為すべきことを成すという、選ばれなかった人たちの戦いをちゃんと描いているのが、僕はとても好きです。
それが主人公の特別な戦い(これを最高にかっこ良く描くのも、当然大事です)と切り離されているのではなく、お互いがお互いを支え合うポジティブな関係性を再獲得しているのも、とても良いですね。


変化という意味では、前回画面から消えてたキリオにしっかり自分の意見を語る時間が与えられたのも、とても良かったです。
かつて白面の傀儡として好きな様に操られ、自分の意志を持たなかった道具的存在が、槍の憎悪に操られ人間をやめてしまう字伏の宿命に涙する姿は、彼の変化を何よりも強く表現していました。
彼が変わる切っ掛けは我らが潮が頑張って与えたんだけど、槍に人生も命も吸い取られて死んでいくバケモノに涙するほどの人格的成長は、キリオ自身が自分の人生をしっかり歩いたから生まれたもの。
ここら辺の『切っ掛け』と『自分の戦い』という対比は、今回潮を思い出すことで立ち上がった一般人達にも共通するところかなと思います。

キリオの『槍が人間燃料に不幸撒き散らす因果装置すぎね!? 俺らはそろそろそういう哀しみ超克するべきじゃね!?』というツッコミは至極最もです。
『怒りに振り回されては白面に勝てない』ってみんな言ってんのに、槍に宿ったギリョウさんは宮野声で常時マジギレし続けてて、潮がそうしたように怒りを超越する気配がない。
ジエメイさんが『まぁそれは置いといて、今は白面殴ろうぜ』ってフォローする辺りは流石兄妹だなッて感じでしたが、今回棚上げにしたキリオの疑問はちゃんと応えるべきポイントだよね。
戦いに生きる御役目の女達が『まぁ……しょうがねぇかな、勝つのが先決だしな』と先送りにしている問題を、戦闘機械からはみ出したキリオが突っ込むという構図も、彼の成長を強調してるかね。

情熱的な血潮を作品に込めつつも、ロジック部分を丁寧に整えてるところがうしとらの強みだと思いますが、『潮の記憶を取り戻した人たちが、全日本を前向きにしてるから』というロジック以外に、『妖怪と人間が初めて力を合わせて戦うから』という理由も今回出してきました。
潮が歩いてきた道を考えるとこれも強さのあるロジックなんですけど、その代表とも言えるとらちゃんは絶妙なツンデレ芸を交えつつ、潮が起きるまでの間を持たすために一人で戦って、ボッコボッコにされちゃいました。
潮は色んなバケモノを分け隔てなく助けてきたけど、一番最初で一番大切なバケモノはやっぱとらちゃんなわけで、『うしおととら』が無事合流することで今回出てきた理屈にもパワーが宿る気がしますね。
そういう機運を盛り上げるべく、『なんだか背中がスースーしやがるぜ……』という渋いツンデレかましつつ、負けブックをしっかり飲み込むとらちゃんは偉いなぁ……。


つうわけで、反撃の機運をしっかり整える回でした。
こうして全部の物語、全てのキャラクターが決戦のために力を合わせる土台が整うと、ここからの大爆発にも否応なく期待が高まりますね。
ED曲"決戦前夜"が今回のために誂えたようにビシっとハマって、燃え上がる気持ちに燃料ドバドバ注いでくれるのは最高だった。
OP曲といい、超直球勝負のアニソンがガンガン流れるのもアニメうしとらの良い所よね。

二ヶ月以上に及び押し付けられた物語的バネが、ドカンと飛び出す準備は整いました。
こっから先はもうバチ上がるしかねぇ!! って言うタイミングで、凄く大事な側道をしっかり埋めに来るのがこのお話。
復讐鬼であり、優しき父でもある男の物語の決着をアニメがどう描いてくれるのか、今から非常に期待満点であります。