イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

美男高校地球防衛部Love! Love!:第4話『愛のシンクロニシティー』感想

ご機嫌斜めな愛天使がこじらせた男子を救うアニメ、今週はブラザーズ・コンフリクト
先週ラブラブっぷりを魅せつけた箱根兄弟、愛ゆえにこじらせたサルヴァトーレ兄弟、なんか抱え込んでいる風味の別府兄弟と、三者三様の兄弟模様が胸毛で絡みあうお話でした。
胸毛というしょーもないネタにもシニカルにならず、当事者同士の問題解決を優先する有基くんは、正しく主人公していたなぁ。

今回はタイトルにもあるようにシンクロニシティー=共時性のお話でして、サルヴァトーレ兄弟の愛憎を鏡にして、別府兄弟を写すお話でした。
いかにもな悪の幹部していた別府兄弟が何にこだわり、何を大事にしているかがよく見えるお話で、キャラの理解が深まるいいエピソードだと思いました。
前回箱根兄弟の繋がりをしっかり描写したのが、上手いこと効いてる構成ですね。

人間なら必ず覚える、身近な人への憧憬と屈折。
感情が複雑に絡み合うからこそComplexと言うわけですが、それは三兄弟全てに共通する要素です。
では何が彼らを分けているかといえば、コンプレックスへの実際的な対応と、人格の成熟度。
経験を共有して健全な関係性を気づいている箱根兄弟を、愛憎の『愛』の部分だけが顕在化し『憎』を切り捨てている別府兄弟が妬み、こじらせて素直になれないまま対立しているサルヴァトーレ兄弟を自分の側に寄せようと引っ張り合うのが今回のお話だといえます。

一見幼く見える有基が人格的には一番成長しているというのがこの対立のミソで、自分の中にある兄へのネガティブな感情もしっかり受け止め、キモい胸毛怪人が『兄を愛しつつ妬む』自分の分身なんだと正しく理解し、浄化技ブッパして解決というシニカルな答えをしっかり否定し、感情のもつれを解いてより良い関係に近づけようと頑張る。
まっすぐ正しいことに辿り着く有基は凄く子どもで、それ故大人でもあるというなかなか面白いキャラクターをしています。
『主人公がその幼さゆえに強い共感能力を持っていて、それが主人公と他の仲間を分けている』って言う構図は、"プリパラ"のらぁらを思い出したりしますね。

人格が健全に成長していけば、母や兄弟といった身近な他者が自分とは似て非なるものだという認識は必ず生まれ、一種の拒絶反応も出てくる。
しかしそれを認識することは必ずしもネガティブなものではなく、多様性を認めて生活を豊かにしていく足場にもなる、大事な認識です。
家族の他者性を認識し、『自分はあの人とは違うんだ』という断絶(それが『胸毛』な辺りこのアニメらしい表現ですが)とどう適切な関係を作るのかというのは、人間が成長する上で非常に大事な問題です。

胸毛はラテン文化圏では『男らしさ』や『性成熟』のアイコンでもあるわけで、今回の話しは『他者との関係性獲得』という人格的成熟だけではなく、性的成熟も扱った物語だったと思います。(さんざん男の裸を写しているのに、性成熟というナイーブな問題は『胸毛』でネタのクッションを一回かけるあたり、このアニメはすごく女児アニ的だと思う。)
他者性の認識や性成熟に戸惑い、肥大した自我を暴走させ戸惑う青年を、有基と別府兄弟が綱引きするというのが、今回のお話の構図になっています。
有基は一足先にあんちゃんとの間合いを掴み、より良い成長を遂げているので、まだ距離感が解らず反目するサルヴァトーレ兄弟を導き、『自分とあの人は違うけど、だからと言って拒絶する必要もない』と納得させて上げたわけですね。

全てのコンプレックスを解決したサルヴァトーレ兄弟が、幼い時のように『裸=性成熟を認め合った状態』で向かい合い一緒に風呂に入るシーンは、いわば『大人になる戸惑い』『子供時代への嫌悪』を兄弟が乗り越え、子どもであることを肯定的に受け入れられたことを示しています。
それは有基という『ヒーロー』の側に兄弟を引き寄せた勝利を表してもいるし、箱根兄弟の健全な関係性にサルヴァトーレ兄弟が近づいたことも表現している、ネタだけど真剣ないいラストシーンだと思いました。
風呂は肌色満載のサービスシーンであり、同時に警戒心や余計なコンプレックスを脱ぎ捨てて、より自然な自分になっているという心理表現でもあんだな、このアニメでは。
なので、色々こじらせている別府兄弟は現状風呂に入らない、と。


子供っぽいけど十分大人な有基、子供の大人と子供の間で悩めるサルヴァトーレ兄弟に対し、別府兄弟は苛立ちと憧憬を感じます。
双子だろうと確実に存在する、『自分はあの人とは違うんだ』という人間存在の断絶は、彼らには認識されていない。
『私があなたで、あなたが私』という自我境界線の曖昧な状況は、一般的には『幼い』とされる特徴であり、一個人として自立している様子がない別府兄弟は、人格的成熟度においてサルヴァトーレ兄弟よりも幼いのだと思います。(有基は言うに及ばず)
別府兄弟はブラザー・コンプレックスを形成する愛憎のうち、『愛』しかない(と思い込んでいる)状態なのだね。

彼らは1クール話しを引っ張らなければいけない敵幹部なので、今回の話しで断絶を認識するわけではなく、ましてやコンプレックスを乗り越えもしない。
その代わりサルヴァトーレ兄弟が一足先に思春期にさしかかり、有基というメンターの力を借りて健全に成長する物語が今回は展開していました。
それはサルヴァトーレ兄弟の物語であると同時に、別府兄弟が今後歩む物語の暗示なんじゃないかと、僕は思います。
お互いが未だ未文化の別府兄弟は、物語が始まる前の『一緒にお風呂に入っていた』サルヴァトーレ兄弟と鏡写しであり、今回サルヴァトーレ兄弟が辿った道を、シリーズ全体を通して成長していく見取り図としても、このエピソードは機能しているのかなぁと、僕は見た。

その理由の一つは、彼らが防衛部に苛立ち執着する姿もまた、一つのコンプレックスだと描かれていたからです。
『ムカつくよね!』と子供っぽいことを言いつつも、彼らはより良い関係を築いている箱根兄弟から目を背けられないわけですが、それは別府兄弟が抱えているのが、憎悪の背中に興味や無自覚な愛情がくっついている感情複合体だからではないか。
コンプレックスはコンプレックスだと認識できなければ解体も出来ないし、それに向かい合い適切に解体することがより良い成長を導くのだってのは、サルヴァトーレ兄弟という鏡が今回辿った道筋です。
兄弟という『身近な他人』へのコンプレックスを別府兄弟は未だ顕在化させていないわけですが、防衛部という『遠い他人』への拒絶と興味はすでに形になっていて、しかも幼い彼らはそれを認識できていない。
これと向かい合い立ち向かうことが、今後の別府兄弟の物語になんじゃないかなぁ。

コンプレックスを持つということは人間にとって当然のことで、それを見せることで仮想のキャラクターに血肉が宿る大事な描写でもあります。
これまでスカしていた別府兄弟が、箱根兄弟に複雑な感情を見せたことで、彼らの価値観や行動理念もハッキリしてきて、彼らの顔が見えてくるエピソードになったと思います。
今回はサルヴァトーレ兄弟が主軸になったため、コンプレックスの原因や理由はまだまだ見せませんが、そこを掘り下げていくこともシリーズ全体の軸になるんでしょうね。
『こじらせた連中とヒーローが向かい合い、コンプレックスを認識し適切に解体することで、一歩ずつ大人になっていく』っていう、オーソドックスな成長物語が芯の部分にあるんじゃないかな、このアニメ。

ダダチャとの関係描写も、別府兄弟の幼さを強調していていました。
オモシロ愉快なアイドル劇場で心の隙間に滑りこむ別府兄弟は、一見強力な誘惑者のように見えますが、その裏では常にダダチャが糸を引いています。
『ムカついた!』『気に入らない!』という幼い感情を別府兄弟が爆発させる度、ダダチャは超常的な力を与えて方向性を付け、事態をあまり良くない方向に引っ張り込んでいる。
怪人事件を主導しているように見える別府兄弟はその実、ダダチャという『大人』によってコントロールされる『子ども』でしかないわけで、しかもその事実に彼らは自覚的ではない。
ここら辺は、今回有基がサルヴァトーレ兄弟をより良い方向に導くメンターをやってたのと、さかしまの描写になってますね。


というわけで、『胸毛』へのコンプレックスを描写することで、ヒーローと敵幹部の状況を浮かび上がらせるエピソードでした。
三組の兄弟を交差させることでそれぞれの状態が立体的に見えてくる構成や、過剰にシリアスにならないまま思春期を切り取る筆など、ネタっぽく見えて案外しっかりしたお話でした。
子供だましの中に芯を入れ、シンプルで強い結論をネタで覆うスタイルは正しく女児アニメ的で、俺がこの亜に目に惹かれたのはそういうムードもあるんだろうなぁ。

サルヴァトーレ兄弟を追いかけることで、このお話の大筋が『幼い別府兄弟の思春期』なんじゃないかと思えたわけですが、さてはてこの読み当たるか外れるか。
成長とは能力や身体だけではなく、心が大きく強くなることでもあるので、これを軸に据えてくれると安定した物語が生まれる気がします。
『面白い話やるぞぉ! 感動させるぞぉお!!』と青筋浮かばせて構えないゆるさもこのアニメの魅力だと思うので、巧くバランスを取って展開していってくれると、凄く良いなぁ。