イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第10話『誠実の証』感想

法無き街に天使の止まり木はないアニメ、今週は不帰点。
押し殺していた情をむき出しに、コルテオとつかの間の日常を過ごすアヴィリオ。
しかし一度足を踏み入れた暴力の泥沼は彼の足を捕まえて離さず、復讐者として本懐を果たすためには、己の手でコルテオを殺す以外に証が立てられない状況に追い込まれる。
死ぬことでしか誠実の証を立てられない兄弟の悲哀と、そこに絡みつくマフィアたちの愛憎が複雑な色合いを深め、破局への道がより鮮明になる回でした。
いやー、辛い。辛いのに面白いし、辛いのが面白いね。

復讐という明確な目標を抱いて『マフィア』に染まったアヴィリオと、それを嫌いつつアヴィリオの手を取って進んできたコルテオ
二人の道が交わったり離れたり、また交わったりする軌跡は、ネロとアヴィリオの関係と同じくらいこのお話の中心にあり続けました。
今回はその始末がつく話であり、ネロの兄弟を謀殺した因果を、血の繋がらない兄弟を自ら殺すという応報で受ける決着となりました。
良かったなアヴィリオ、お前も自分の利益のためには『家族』をぶっ殺せる『マフィア』に、本格的に仲間入りだぞ……というには、二人の絆はあまりにも哀切に過ぎるな。

コルテオはアヴィリオが捨てたはずの真っ当な暮らしというか、殺すの殺さないのしかない『マフィア』の生き方から離れた、穏やかな生活を象徴していたと思います。
クズ人間になって戻ってきた兄弟分のために、嫌いな『マフィア』のやり方に肩入れして、飲めない酒を万能の通行手形として差し出し、あまりに人生がこじれた結果人殺しになって、殺されて死んでしまう。
コルテオの人生をアヴィリオが捻り狂わせることで、彼がもう引き返せない道の真っ只中にいて、コルテオを手に掛けることで、そこからもう返ってくることもないということが、視聴者によく伝わる使い方を完遂したなぁと思います。

ではコルテオは一方的な愛を捧げた犠牲者なのかというと、アヴィリオもクソ不器用な形で兄弟を愛していて、札束で頬ぶっ叩く形で『マフィア』から遠く離れた場所に逃げろと伝えようとはしていた。
家族を殺されたときに、盗んだ財布のように空っぽになってしまった男にとっては、もうそういう不器用な伝え方しかできなかったしけども、どうしようもなく復讐に巻き込んでしまった兄弟を、アンジェロは未だに愛してはいたのです。
それで伝わるものなんて何にもなくて、コルテオはネロの情報は売るわファンゴは殺すわ、最悪の方向に転がるしかなかったけども、コルテオへの兄弟愛はアヴィリオがアンジェロである最後から二つ目の証明ではあった。

それを自分の手で摘んでしまった以上、彼の人間の証明は『復讐』しか残っていないし、誰も喜ばずあまりに大きな犠牲を強いる行為を完遂し、家族の仇を皆殺しにする以外、本当に生きる価値はなくなってしまった。
自分で自分の兄弟を殺してしまったアヴィリオ自身にも、そのルールは適応されるわけで、彼が死ぬ終わり方が運命的必然として納得されるために、丁寧に逃げ道を塞いだ回でした。
あまりにも残忍な選択肢なんだけども、それは兄に弟を、妻に夫を殺させ暗い喜悦に浸っていたアヴィリオ自身がやってきたことへの報いでもあって、どこにも正解がないどん詰まり感がどんどん加速しているなぁ。
『俺には復讐以外何もない』という、復讐モノではよく聞くセリフを、キャラクターにも視聴者にもここまでしっかり実感させてくれるのは、ちょっと凄いね……何しろ自分の命が無いことが、今回確定してしまったからね。


『空疎さを強調するために、人間的な暖かさをちゃんと描く』というのはこのアニメに特徴的な手法で、それは第4話で作った抜けた空気がネロとアヴィリオの関係を支える土台になっていることからも、見て取れます。
今回コルテオと過ごした『オメーら新婚さんかよ! このままクソマフィアの生き方も復讐も捨てて、兄弟と新しい暮らしでいいだろ!!』と思わず願ってしまう穏やかな日々も、その後の悲劇を引き立てる良いスパイスでした。
『新しい弟』として近づきつつ、ネロの盃は絶対口にしなかったのに、コルテオ相手には優しい表情も見せるしメシも一緒に食うもんな……。
そういうメタ的な仕事だけではなく、一つのカップを分け合い、荒んだ生活を一歩一歩立て直していく生活描写にはしっかり血が通っていて、『こっちで暮らせないかなぁ……』という気持ちをコルテオと共有できる、良いシーンだった。

ずっと『マフィアが嫌い』だったコルテオにとって、『ロウレス・ヘヴン』は兄弟の本懐を遂げさせるために必要な暗黒街のパスポートであり、同時に自分とアヴィリオが『マフィア』であり続ける足かせでもあります。
慎ましくも暖かな日々の果てにコルテオが『ロウレス・ヘヴン』を河に投げ捨てるのは、『マフィア』という生き方に決別する決意であり、全てを水に流し産湯に浸かって真っ当な暮らしに生まれ直したい、切なる願いの顕れでもあります。
なのでみすぼらしい下宿で二人は『酒』を飲まないし、前回見せた荒んだ表情をアヴィリオも引っ込め、幸せだった時代に戻る。
しかし同時にアヴィリオは、『ロウレス・ヘヴン』を後生大事に抱えてシカゴに渡り、ネロの代理人という『マフィア』の仕事を果たしているわけで、最後の最後まで混じり合わない故に、誰よりも兄弟として繋がった二人だったなぁと思います。

コルテオとの生活はアヴィリオにとって、失ってしまった『家族』の暖かな思い出の残滓であり、もしかしたらそこに戻れるかもしれないという、甘い夢だった。
しかしコルテオが兄弟を護るという強い決意を込め、ロウレスに呼び戻されてしまった結果、その夢を己の手で砕いて、もう後戻りが聞かない復讐の中に己を投げ込む、救いのない道が確定してしまいます。
その無残な道は残忍さだけではなく、復讐の本懐を遂げさせようというコルテオの兄弟愛でも舗装されていて、彼の血を踏みにじることでしか、アヴィリオはもう己ではいられない。
『家族』の温もりを略奪されて復讐鬼になった男が、もう一度温もりを夢見ることで逆に、復讐以外の生き方がもう残っていないことを証明されるのは、無残で鮮明な見せ方だったと思います。


そんな別れを裏から操ったのが、『四人目』であることが確定したガンゾの叔父貴。
アヴィリオを呼び込んだ理由も判りましたが、まぁストレートに欲得沙汰の判りやすいクズであり、『あ、死ぬしか無いな……』という予感がビンビンに高まる展開でした。
もともと仇だし、『家族』のために殺してきた男に『家族』を殺させた以上、もうアヴィリオを言いようには使えないよなぁ……ガラッシア皆殺しにして手に入れた街を楽しむためには生き残らなきゃいけないけど、アヴィリオは生きている理由も価値も、何もかも無いからなぁ。
しかし叔父貴がクソ陰謀を企んでくれないと話は始まってないし、アヴィリオの逃げ道を効果的に切り落としてクライマックスを加速させることもできなかったわけで、いい仕事はしている。
存分に死んでくれ。

個人的にはこっちが『四人目』だと思ってたバルベロは、眼鏡仲間に『ネロの弟って居場所を奪われそうで嫉妬してんだろ?』と本心を見抜かれ、怒りのビンタで大暴れだった。
バルベロの猜疑もネロへの愛情の裏返しなわけで、このアニメは基本的に愛憎の背中合わせで作られてるね、やっぱ。
これまでスカシた切れ者顔ばっかりが目立ってきたキャラなんで、ここで痛いところ突っつかれて地金が見えることで、感情の濃い物語で目立つ資格を、ようやく手に入れた感じもあります。
しかしゴミクズマフィアなのは間違いないし、お前の猜疑がなけりゃアヴィリオとコルテオが逃げ出す余地もあったかもなので、存分に死んでくれ。

そしてドンという立場を正式に継承し、腹心の部下の疑惑を銃弾ではらさせたネロ。
前回コルテオへの心配が迸った結果、思いっきり隙を見せたアヴィリオに疑念を持ったから、信じたい気持ちも込めて『マフィア』式のケジメを付けさせたのかねぇ……思いっきり逆効果ではあったが、そもそも出会いからして仇討ちなんだから、最初からこうなるしかなかった関係とも言える。
第4話とか前回の『俺は殺せなかった……』という告白とか、アヴィリオとネロの軌跡が近づく瞬間はこれまで幾度かあったんですが、今回『家族』を殺させられた結果、二人の道は絶対に交わらないと確信させられました。
ココらへんをスパッとさせるためにも、コルテオに散々ヒロイン力高い動きをさせた上で、最大に最悪な結末を迎えさせる必要があったのは判る……判るが、ホントひどいよ……。
お互い『弟』を殺し殺されした同士になった以上、二人の『兄』は血で決着つけるしかねぇもんな……『殺し』に付きまとうカルマの濃さはこのアニメがずーっと描いてきたものなんで、それが最後の引き金になるのは凄く統一感があって良いのよ、ホント。


愛ゆえに巻き込まれ、愛ゆえに命を使って真の証を打ち立てた青年が、兄弟の手によって夢と命を打ちくだされるお話でした。
たくさんの人間の命を弄び、兄弟に兄弟を殺させてきたアヴィリオとしては、もう引き返す道はない。
一方通行の地獄への扉を開ける鍵として、コルテオの命はあまりにも有効な演出すぎて、製作者達が好きすぎて憎くなるほどでした。

『マフィア』のやり方じゃない、暖かで幸せで真っ当な平穏という幻。
それを砕かれたことで復讐者になった男が、クライマックス直前でもう一度『家族』を奪われる展開は、お話が予測される悲劇に突き進むしか無い説得力をこれ以上無いほど高めていて、震えが来るほどです。
おあつらえ向きに仇どもを詰め込める処刑劇場も完成しますし、この長くて重くて血塗れの愛憎劇も、いよいよ終りが見えてきました。
ここまで見ちまったんなら、もう見届けるしかねぇ、頼むから見させてくれ。
そういう気持ちで、来週を待ちます。