イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チア男子!!:第12話『チアダンシ!!』感想

スポーツ根性物語のど真ん中を真っ直ぐ走り続けてきた男子チアーアニメも、ついに最終回。
全国大会という晴れの舞台を見事に疾走し、やるべきことをやり尽くした、気持ちのよいエンディングとなりました。
前回で主人公のクエストも綺麗に消化し、一体どういう燃料を使ってくるのか気になってましたが……最後の最後で練習ノートをブースターに使い、全メンバーの成長をまとめ上げてくるとは……。
個々のメンバーがこの物語で何を手に入れたのか、そしてチームとして何を成し遂げたのか。
最後の最後まで基本に忠実に、気持ち良く一番大事なものを真ん中に据えた物語だったと思います。

というわけでチア男子最終回、チーム全員が平等に己を振り返る回となりました。
練習ノートという強力なフェティッシュを仕込んでおくことで、お話がまとまるタイミングで、全員が内面をスムーズに吐露し、スマートに話がまとまる構図が明瞭に描かれ、『ああ、いい話だった』と素直に思える展開でした。
ノートを『隠されているが気になるもの』として巧く演出できたおかげで、ここで中身を全員が共有して、チームとしての結束を強める流れが自然になるし、何より視聴者も中身が見たいスケベ根性をしっかり煽られたおかげで、欲しいものが来る気持ちよさがちゃんとある。
シンプルだけど巧い作りだと思います。

ノートを開いていくことで確認されるのは、基本的に過去のエピソードで語られたことです。
お話がまとまるタイミングでは特に新しいことをする必要はなく、むしろ自分たちが何をやってきたのかしっかり確認することで、時間と熱意を消費して物語に向かい合った視聴者も、自分が費やしたコストとリターンを確認し、満足感を高めることが出来る。
作品内部のキャラクターの心情と、作品の外にいる視聴者の気持ちがしっかり重なるように展開を積み上げてきたからこそ、こういうベタな再確認が趣深いのだと思います。


しかしノートを使った述懐には描写を補強・保管する仕事もあって、タケル周りの描写は食い足りない所をしっかり補ってくれました。
第7話・第8話を使って描写されたタケルと尚史の衝突は、全体的に尚史の会心の方に尺が使われ、タケルがどう変化したのかいまいち見えにくいと、僕は感じていました。
今回ノートを公開し、おちゃらけたキャラの奥に隠された恐怖と本気を判りやすく見せてくれるおかげで、あの時感じた不足が一気に埋まり、足らないピースがハマった感じがありました。
やっぱチアーと友情をテーマにしたこのお話に参加する以上、その2つに熱い気持ちはしっかり持っていてほしいわけで、タケルもそういうものを持った男だったと確認して終われたのは、凄く良かったです。

個別イベントがあまりなかった陳くんも、最後の最後で闘志を剥き出しに堂本さんに噛みつき、BREAKERS代表として挑戦状を叩きつけることで、いい具合にキャラを立てていました。
SPARKSも溢れる闘志を叩きつけてもらうために物語に存在しているわけで、陳くんの見せ場を作り堂本さんと花咲くんに仕事させる両方の意味で、あの宣戦布告はいいシーンでした。
最終的な勝ち負けが描写されないことからも、この作品において大概的な勝敗それ自体はあんま大事ではないんですが、それと闘志の価値、それをぶつける存在が尊いかどうかは別なわけです。
闘志を振り絞り、仲良しサークル気分でやってこなかったからこそ、BREAKERSは様々なものを『ぶっ壊せた』わけで、お話がまとまるこのタイミングでその熱を確認するのは大事。
その要を陳くんがやったことで、16人という大所帯全員が物語的役割を持て、霞むことなく存在できたのは素晴らしかったと思います。

ハルという主人公を立てつつも、この話はそれぞれの課題を抱えた青年たちが何者かになる青春群像劇であり、観客も含めて全員主役のチアーという競技を扱ってもいます。
前回までに個別のクエストを終え、BREAKERS全員が主役になる最終回の展開は、そこら辺のテーマ性をしっかりお話しの構成と馴染ませた、良い作りだったと思います。
それを成り立たせているのが『ノート』の巧みな象徴性であり、就任段階でメンバー全員の人間を見切って的確にアドバイスを出した高城コーチの優秀さになります。

あれだけ優秀だと、普通一種の嫌味みたいなものが出てくるわけですが、下らないギャグで笑ったり、最後の最後で『既婚』という意外なスカし要素を入れてきたり、BREAKERSを高みに導く優秀さと、人間的な魅力をうまく両立させていたと思います。
緩みなく青年たちを厳しく始動しつつ、ともすれば本人たちよりもその真実を見抜き、必要なアドバイスを与えるコーチのことを、見ている僕らは自然と尊敬できるし、好きにもなれる。
このアニメの真っ直ぐさ、人の良さと巧さが、もしかすると一番生きたキャラかもなぁと思いました。


これまで積み上げてきたものを言葉と回想で確認し続ける今回ですが、チアーという実践がお話しの真ん中にある以上、やはり言葉を超えた表現で自分たちの成長を見せなければいけません。
このアニメは作画力を必要なタイミングで的確に使える巧さを持っていますが、今回の演技もしっかり要所を仕上げつつ、回想や客席の様子を適度に取り混ぜ、的確にカロリーコントロールを果たしていました。
実質三回しかチア作画をしていないのだけれども、その全てが細かく丁寧に変化と成長を埋め込んで描かれているので、物語的な仕事量が非常に大きいのよね。

学園祭のときは髪の毛を染めてケレンを作っていたBREAKERSですが、内向きのアピールではなく競技として評価される場ということもあり、地味で真っ当な表現に変わっています。
人数が増えたことによる迫力の増加だけではなく、技量の向上による技のバリエーションと高度化、重心移動のスムーズさ、瞬発力の使い方の変化などが、いい具合に動画に顕れていました。
競技チアにおいて何が採点されるのかという細かい部分はあえて省いたこのアニメですが、だからといって具体的表現で怠けることなく、向上と成長をちゃんと描いているのは、誠実でいいと思います。

青年たちの成長を言葉で、演技で伝え、盛り上げ、チアーの命とも言える『最高の笑顔』を人見知りの主人公にキメさせて終わる。
ベタといえばベタですが、一番分かり易い最短距離の表現を照れることなく選び取り、真っ直ぐに伝えてくれるのは、このアニメを見ていてとても気持ちが良い部分でした。
最後の最後までその方法論を崩さず、『早めの真っ直ぐ』でしっかり勝負してくれたのは、自分たちのやり方を信じ、それに魅了された視聴者を信頼してくれる感じがして、凄く良かった。
やっぱ作品にブレない芯があり最後までそれが貫徹されていることは、お話を見続け見終わるために凄く大事なんだと思います。
イタい失恋をスマートに受け流す姿、エピローグで大きく胸を張り『俺はチアをやっている!』と言えるようになった姿含めて、愛すべき主人公の成長を胸のど真ん中で感じられる、良い演出でした。


というわけで、チア男子無事終わりました。
未だ何者でもない青年たちが、各々の悩みと未熟を抱えて集い、一つの目標目指して一緒に走る。
時にはメンバー同士支え合い、時には頼れる大人に導かれ、よろめいたりぶつかったりしながら、自分が何者であるかを見出し、堂々と宣言する。
青春を扱った物語の一番核となる部分から一切逃げず、真っ直ぐにストレートに描くこのお話は、素直な強さを最後まで貫いてくれました。

ただ汗臭く青春を主張するだけではなく、ちょっと泥臭い素朴な笑いだとか、甘酸っぱい恋愛の要素だとか、適度に横道を使いつつ真っ直ぐ走りきったのは、いいバランスだったなと思います。
クセの強い連中がチームになっていく気持ちよさ、『出来ない』やつがだんだん『出来る』ようになっていく成長の喜び、お互いの弱さを預け合い支え合う信頼の構築。
チームスポーツを題材にする理由が展開の中にしっかりあって、それも王道の楽しさを丁寧に引き出してくれていました。

チア男子、地味だけど、地味だからこそ、凄く面白いアニメでした。
真っ直ぐな話を素直に楽しませるために、色々技量を凝らしてくれるサービス精神も嬉しかったし、個性は強いが優しく清廉な青年たちも、気持ち良く好きになれる奴らばっかりだった。
いいアニメでした、ありがとうざいました。