イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第13話感想

青春VS自罰衝動!! 長きに渡り繊細ボーイの内にこもりがちな内面と戦ってきた時空改変ジュブナイルSFもついに最終回、一時間スペシャルでしっかりお届けします!!
運命の日ヴァレンタイン・デイを迎え、いい加減弱気な青春を踏み倒して恋愛戦線に決着を付けた菜穂。
カレカノになって生存確定! と思ったら、悪魔の呪い・母親の携帯が炸裂し運命改変失敗ッ!!
 とはならず、これまでのリア充の積み重ねと萩田くんのナイス破壊工作で、翔生存ルートを拾い切りました。
いやー長い戦いだった……何回『勝った!! これだけ青春なんだから勝ったでいいでしょ! え、ダメ、マジ?』と思わされたことか……。
しかし最初見たときの『この気持ちのいい青年たちが、望みを叶え行き続けてほしいものだ』という願いがちゃんと叶い、同時に未来の哀しさも完全には消去しない横幅のある決着で、とても良かったですね。

今週はA・B・Cパートそれぞれ12分位を順繰りにつなげて、各々のパートで勝ったり負けたりしつつ、これまでのお話を全部使い切るお話でした。
Aパートに当たる『翔VS菜穂・恋愛大決戦』はいわば、これまでのラブストーリーの総決算。
年頃少女の揺れる心の弱さと強さを全部込めて、翔という難攻不落の精神的スペランカーを攻略するお話だったわけです。

菜穂が前に進んだかと思えば自分の弱さに躓いて、三歩進んで二歩下がりつつ恋愛していたのは、青春群像撃としてのこのアニメに『きめ細やかさ』を与えていたと思います。
『手紙』がどれだけ後悔を訴えかけ、それを己の問題だと実感していたとしても、どうしても踏み越えられない重大の繊細な臆病さ。
それは『翔の自死』という超シャレにならない大問題とは、客観的に見れば比べ物にならないんだけど、同時に自我が育成される(もしくは肥大する)季節である青春の主体にとっては、強い痛みを伴う一大事でもあるわけです。

菜穂はそれに振り回され、あるいは乗り越えあるいは一歩引きながら翔との間合いを測ってきたわけだけど、流石もう時間はないので今回はきっちり前に進み続け、青春戦闘大勝利しに来てくれました。
12話に渡ってナイーブな描写を積み重ねた結果、菜穂がそれを乗り越えて翔を受け入れ、なりふり構わず前に進む姿も、大きな意味を持って視聴者に伝わる。
グシャグシャになったチョコレートという『形』にこだわらず、かつては気後れしていた上田パイセンに毅然と向かい合う姿は、内向きだった菜穂がどう『大人』になったかを、しっかり魅せてくれました。

そういう菜穂の決意と成長が最大級に高まり、ぶつかりあうのが夜闇の告白シーンなわけですが、ここは浜崎監督の色彩センスが最高にキマっていて、素晴らしいシーンだった。
翔が背負う『死』を反映し、色彩が薄れたモノトーンの世界の中で、血の色のマフラーだけが鮮烈に赤い。
命の色が印象的なマフラーを、寒さと拒絶に震える菜穂に翔が明け渡すことで、翔が一人で背負っていた『死』の重荷が菜穂に明け渡され、長く続いた迷い路が決着したことが明瞭に演出される。
時々作画はヘロったけども、キメるとこはバッチリキメてきたorangeの演出力が最大限発揮された、印象的なシーンだったと思います。


こうして主人公の『等身大の弱さ』も、ヒロインの『優しさ故に心を閉ざしてしまう弱さ』も克服され、恋愛勝負に勝って充実した青春を獲得し、問題なくゲームクリア!! とならない所が、orangeの面白いところ。
充実した恋愛や優しい友人、キラキラした学園生活という、一種少女漫画的な価値を非常にみずみずしく描きつつも、それが万能の解決策ではなく『死』や『家族』に踏み込みきれない重たさがあればこそ、この物語は猛烈なオリジナリティを持ってきました。
青春パートが菜穂≒『生』の勝利で決着したと思った所で、『死』の国から母親がメールを出して翔を引きずり込もうとする最終決戦が始まるのは、非常にこのアニメらしいサスペンスがあって面白かった。

菜穂の恋愛戦は菜穂個人の戦いであり、彼女一人で立ち向かわなければ意味がない綱引きでもあったんだけども、最終戦は『恋愛』という個人的な関係と並列して進んだ、『友情』という多人数の戦いの決着に当たります。
なので、萩田くんが自転車ぶっ壊して最後の歯止めをかけたところも、死に損なった翔にいの一番で駆けつけ抱きしめたのが須和くんなのも、最高に『分かっている』演出だった。
菜穂も色々悩んで色々傷ついて色々大変だったけども、それと同じくらいかそれ以上に、他の仲間達だって頑張ってきた。
だからここで、男二人が決定的な仕事を果たしてくれるのは、青春の大切な一部分として『恋』を重んじしっかり描いてきたアニメとして、そして『恋』だけが青春ではないと言い続けたアニメとして、必然性のある描写でした。

あれだけの恋愛イベントを経てまだ死にたがる翔に正直イラッとも来ましたが、それだけこのお話の『死』と『家族』は生半可に乗り越え難く、重たいものだということでしょう。
そこに妥協がないからこそ、これまでの物語全てが翔を『生』の岸に引き止める意味、僕達が楽しみキャラクターたちも精一杯生きてきた『青春』の重たさが、しっかり感じられるわけです。
もう一つの未来では『青春』と『死』の綱引きは『死』が勝ってしまっている事実、それが生み出した後悔の重さもじっくり描かれているので、それに勝った感慨もひとしおですね。
ここら辺の光と影の鮮明な描き方は、『生き/死に』両方を妥協なく描いてきたこの物語にふさわしい語り口だったなあと、終わってみて感じます。

主人公とヒロインが思う存分青春の『弱さ』に溺れられるよう、常に『強く』『正しい』存在だった須和くん。
翔の身勝手な自死をしっかり怒るところなど、物語に必要な『正しさ』をしっかり果たしてくれて素晴らしかったですが、消えてしまった菜穂との未来に軽い未練を見せたのは彼の『弱さ』が垣間見れて、好きだし寂しい描写でした。
そういう『弱さ』を全て飲み込んで、人間として『正しく』誰よりも『強い』道を見据え、望み、間違えることなく真っ直ぐ有る基続けてくれた須和くんは、物語進行上最大の功労者だし、人間としてあまりにも尊敬できすぎる。
これだけの自制心と徳目、愛嬌と優しさを兼ね備えた人物が成功しないはずはないので、その未来に輝くものが待っていることを、心の底から望んでいます。
いやマジなー、須和くんホントマジなー最高だったなー……(諏訪くんのことになると語彙力蒸発マン)

あと未来改変について色々言ってたくせに、最高の手筋を打ってくれる萩田くんのありがたさマジハンパなかった。
あずちゃんとはお似合いのカップルだと思うので、とっとと付き合ってください。
あずちゃんもずーっと可愛かったなぁ……ザックリした感じなんだけども、優しさと人の良さが溢れてる感じまじ良かった。
貴子もさっぱりした性格を匂わせつつ、人間関係の間合いをしっかり分かって支えてくれる最高の女の子で、みんな好きになれる青年たちばっかだったなぁ……キャラを嫌な方向に捻らないでも、しっかり事件とサスペンスは起こせる、ストーリー・テリングの巧さあっての好青年軍団ではあるか。


今回は『未来』の描写も多めでしたが、こっちもかなり綺麗に気になるポイントをしっかり消化してくれて、大変満足できました。
手紙で過去を改変し翔を救うのもいいが、起こってしまったことを無かったことにする高慢は許されるのか。
後悔も含めて続いてしまう生、その象徴として生まれ落ちた菜穂と須和くんの息子『翔』を否定できるのか。
繊細な自意識の季節を乗り越えた『大人』だからこそ問いかけられる疑問に、しっかり答える最終話だったと思います。

パラレルワールドの設定をうまく使い、『翔の生存』『後悔の克服』というプラスの要素と、『過去の消滅』『この世界線の否定』というマイナスの要素にしっかり決着を付けていたのは、時空改変SFとしてもこのお話が優れているところだと思います。
ここではないどこかで、自分ではない自分が、自分が成し遂げられなかった『生』を引き寄せている希望。
それを夢見つつも、『死』との綱引きに敗北した苦味と、その後に続いてしまった人生の光を抱き寄せつつ行きていくしかない、栄光ある敗残者達。
その面影をしっかり時間を使って捉え、『消し去られるべき敗北』としてではなく『もう一つの価値』として『未来』を描いてくれたのは、SF故の豊かさだなぁと思います。
ジャンルのお約束や細かいギミックにはこだわらなくても、そのエッセンスはしっかり理解し乗りこなしている当たり、やっぱ巧いお話だよなこのアニメ。

まぁこっちの未来線を完全否定されてしまうと、傷心の菜穂を支えて夫婦になった須和くんも否定されちゃうんで、俺が許さんッ!! って気持ちになってたしな。(須和単推し過激派)
悲しみも喜びも引っくるめて受け入れつつ、それでもより善い結末を願って自分自身に託した『未来』の須和くんと、その心意気を完全に汲んでエゴを乗りこなし正解を引き寄せた『現在』の須和くん、両方即座に列聖して良いと思う。
僕の須和くんへの敬意も全部ひっくるめで、未来は未来として、現在は現在としてお互い真心で繋がりつつ別の方向に進んでいくまとめ方は、非常に良かったです。


そんなわけで、orange完結しました。
青春群像劇と時空改変SFという相性のいいジャンルを、少女漫画という切り口で見事に語り直した、ジャンル史に残る傑作だと思います。
これは『青春』と『SF』両方を一切妥協なくしっかり描くと同時に、お互いがお互いと響き合い高め合うようなストーリー、キャラクター、設定の関連を作れた、ブリッジの巧さが原因でしょう。
少女漫画のまどろっこしさを使いこなしつつ、それが『死』との戦いに深く関係してくる『青春』の描き方は、異質な設定を最大級に活かしきっていて、非常に見事でした。

気持ちのいい青年たちが生み出す青春の躍動感、瑞々しい甘酸っぱさ、翔が背負う『死』の重たさ。
必要なすべてを印象的かつ叙情的に演出できる筆の強さは、もちろんこのアニメ最大の武器でした。
平凡で、だからこそ大切な日常描写をちょっと攻めた演出プランで飽きさせずに描いたり、浜崎監督らしい『白』の強さを時に『生』の、時に『死』の象徴として輝かせてきたり。
繊細であることが許される季節を切り取る上で、多層的な意味をしっかり込められる絵の強さがしっかり引き出せたのは、本当に素晴らしかったです。

青春の光だけではなく、翔が引きずられ仲間たちが格闘する『死』の重さに説得力があったのも良かった。
翔を取り巻く青春が輝けば輝くほど、罪悪感と混乱はむしろ加速し、孤立し、『生』から離れていってしまう人間心理の複雑さを、じっくり時間とパワーを使って描いたことで、お話が上手く行かないもどかしさに納得できたのは、非常に大きい。
『生き/死に』の綱引きとして展開する以上、否定されるべき『死』に説得力がないと、『とっとと自殺やめて生きろよ』って気持ちになるからね。
死にたいと願う翔の鬱屈、菜穂たち『他人』を阻む『家族』という障壁の高さを妥協無しで描けたのは、お話を成り立たせ盛り上げる上で、凄く大事なことだったと思います。

そういう巧さに溺れず、思春期の子供たちが背負うものの細やかな重たさ、臆病さを丁寧に描いていたことも、ジュブナイルとして優秀な部分でした。
ここがしっかりかけないと、展開する物語にも、シーンに込められた感情にも視聴者が乗っかれず、お話が上滑りしていくからね。
色々気持ちのいい奴らで、尊敬できる青年たちで、でもどうしても人間として子供として、立ち止まってしまう一瞬がある。
そういう人間らしい彼らに愛情を注いで、いきいきと描いてくれたことに、深く感謝しています。

翔の死を踏まえた上で生き残ってしまった『未来』を肯定することも含めて、まさに大団円に辿り着いて終わってくれたこのアニメが、僕は凄い好きです。
いいアニメだったなぁ……本当に、いいアニメだった。
orange、優れて、巧く、楽しく、苦しく、美しいアニメでした。
ありがとうございました、お疲れ様でした!