イマワノキワ

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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第27話『嫉心の渦中で』感想

夢を叶えた先には虹ではなく、現実と地続きの地獄が待ち続けている火星残酷記、巨大化した鉄火団の現状と未来についての第27話。
『嫉心の渦中で』というタイトル通り、宇宙海賊に、アーブラウ正規軍に、そして鉄火団自身に疎まれ妬まれる鉄火団の『今』が、多角的に描かれるお話でした。
前回は一期から二期に時間が進んで起きた変化と不変について描いたので、今回は変化の内実を掘り下げつつ、それを抱えて先に進まざるをえない鉄火団の道行きに焦点当てた感じですね。
喫緊のイベントとして『夜明けの地平線団』との決戦を用意しつつ、それを乗り越えたとしても後に引きそうな問題点がチラホラ顔を出していて、なかなか困ったもんでした。

色んな場所で『嫉心』が渦を巻いていた今回、一番目立っていたのは外部の敵ではなく、鉄火団内の『新しい血』でした。
オルガのカリスマと疑似家族的な絆(もしくは排他性)を燃料に、野望に邁進して夢を叶えた鉄火団ですが、『自分たちと同じような境遇のガキどもに、少しはマシな暮らしをさせる』という新しい夢を掲げたおかげで、そこかしこに衝突の火種が見られます。
ハッシュにしてもラディーチェにしても、彼らは緑色の揃いの衣装ではなく砂色の新しい衣を着込んで、鉄火団の文化風土に馴染んでいない。
結果として、そこかしこで衝突ともいえないすれ違いが多発する状況になっています。

『オルガは俺たちを率いて、地べたから引き上げてくれた』
『三日月は伝説の悪魔で、戦闘では無敵』
『クソみたいな大人とは違って、ここにはやめる自由がある』
一期ラストである程度の成功を収めた鉄火団は、このような伝説を語って『新しい血』を『身内』にしようとしていますが、その経験主義的なロジックが通じるのは共通の成功体験を持っている『身内』だけだったりします。
そういう歪さを正当化せず、物語を考え抜いた論理的帰結として拒否反応をしっかり発生させるのは、引っかかりが少なく見るためには大事な部分だと思います。

狂った状況を『身内』以外を排除する苛烈な同族主義で生き残ってきた鉄火団の強みは、同時に客観的な説得力を持った文化風土を遠ざけ、『まともな商売』を求めて、もしくはかつてのオルガのような野望を抱いて鉄火団に足を踏み入れた『新しい血』を取り込む障壁となっています。
『本物の肉はいらない』と言い切ってしまう育ちの悪さがここでは足かせになっていて、適切な教育を受けていないから論理を整理して『身内』以外に通じる言葉を見つける能力がなく、なまじっか無茶筋のヤクザスタイルで成功してしまっているので、言葉を見つける必要性も感じていない。
時代の寵児として一気に巨大化した鉄火団は、その規模に相応しい官僚的方法論とは程遠いわけです。
ギャラルホルンが官僚的方法論を極限まで肥大化・腐敗させ、その膿を出すことで鉄火団が時代の寵児に躍り出た過去を考えると、なかなかに皮肉な結果ですね。

加えていえば、鉄火団は未だ道の途中であり、オルガが本当に夢見ている『命をチップにしなくても、ガキ達がまっとうに生きていける世界』は遥かに遠い。
確かにガキを弾除けにするかつてのクズ大人たちよりは全然マシですが、『やめても良いんだ』って言われたところで、『新しい血』は他に真っ当な稼ぎがないから鉄火団で命を張りに来た食い詰めどもです。
だから功名にも焦るし、戦場の現実に打ちひしがれもする。
そんなギャップを吸収し切るロジックが、やはり今の鉄火団には足りていません。
ココらへんを補いうるクーデリアを『身内』ではなく『ビジネスパートナー』に置いてしまっている所が、この状況をさらに加速させている感じはありますね。


鉄火団は同族主義を基本ロジックとして動く集団なので、『新しい血』にも同じ衣装を与え、同じ飯を食わせようとします。
しかしどれだけ少し『大人』な一期メンバーが『身内』として向かい入れようと願っても、過去の成功やオルガへの信頼を共有していない新メンバーの中には、水が馴染まない連中だっている。
タカキの差し出した飯をアストンが受け入れたように、同質化の努力が一部で実を結んでいるわけですが、チャドの説得がラディーチェには『話にならない』と拒まれたり、ハッシュがツンツンし続けたり、なかなか上手くは行きません。

かつてのオルガと同じように『仲間を率いて、少しでもまともな暮らしをさせてやる』という野望を抱き、三日月のようなパイロットになりたがるハッシュは、『新しい血』の中でも主人公たちのシャドウとしての役割を、大きく背負ったキャラクターです。
鉄火団は阿頼耶識システムの正の側面だけを幸運にも手に入れた『生存者』の集団だったので、ハッシュが語る『犠牲者』が物語に組み込まれることで、どれだけ世界がクソなのか更に深く理解できるキャラでもあります。
左手がまともに動かないず、『俺は戦闘以外役立たずだから』と自虐する三日月を見れば、阿頼耶識が悪魔との契約だってのは見て判りそうですが、彼もオルガと同じように三日月の視線に背中を押され、止まるに止まれない状況だという事かもしれません。

年齢を理由に阿頼耶識手術を拒否されていたハッシュですが、モンターク商会謹製の特殊技術を使えば彼の夢が叶うあたり、すげーヤバイフラグが立っている気がします。
ちょうどモンタークの走狗であるトドが『飴ちゃん』持って懐柔しに来てるしなぁ……即座に接触するってことはないだろうけど、ハッシュに余裕が無いのは今回よくわかったので、あの悪魔が知ったら放っておくって話はないと思う。
アトラに手を上げようとしたところも、三日月が『身内』以外に向ける目で止めにかかったのも、彼が鉄火団に馴染めていない現状を強調するものなので、離反の気配に思わず怯えてしまいます。


鉄火団内部に火種が埋め込まれているように、巨大化した鉄火団は様々な連中から『嫉心』を浴びせられています。
同じ暴力集団として『夜明けの地平線団』に付け狙われ、テイワズ直参になっても身内からは『狂ったガキども』扱いです。
これもまた、『最短距離で上を目指す』オルガの道行きが産んだ、必然の摩擦という感じでしょうか。

『夜明けの地平線団』が目の前の障壁であり、それなりに苦戦はしてもそこまで大きな問題になりそうもないのに対し、タービンズからの嫉妬心はなかなか根が深そうです。
ここら辺の調整できそうなバリストン親分が相変わらず腹黒で、下部組織の反目すら利用して組織の調整・拡大に利用しそうな所が厄介だなぁ……。
鉄火団が取り込んだ『新しい血』に悩まされているように、タービンズにおいては鉄火団自身が『新しい血』として免疫不適合を起こしているのは、結構面白い状況ですよね。

呉越同舟でズブズブなマクギリスの要請もあって、鉄火団を支援する形でギャラルホルンも動き始めましたが、彼を疎ましく思うアリアンロッドも抵抗を見せてます。
そんなアリアンロッド内部にも、仮面をつけた『新しい血』への拒絶反応があるっぽいのは、一つのテーマを徹底して各組織で共有する話作りを感じられ、統一感が見て取れる部分です。
考えてみれば、陰謀の残骸を食い荒らしながら影響力を増しているマクギリスも、ギャラルホルン主流派にとっては『新しい血』なわけで、この拒絶反応を制して『新しい血』を己の力に変えられる勢力が、今後物語の手綱を握る予感がありますね。
鉄火団の同族主義が『新しい血』と同質化しようとするのに対し、マクギリスは異物として排除し、陰謀を用いてその残骸を利用する方向なのは、なかなか面白い対比だ。


というわけで、色んな場所で『新しい血』が馴染まず、組織の動脈に危うい血栓を作っているのが判るお話でした。
物語を成功裏に終えて組織が大きくなって、むしろそのことが新しい問題を呼び込んでくるというのは、このアニメらしい意地悪な世界認識であり、物語の展開だなと思います。
鉄火団もマクギリスも大きな歪みを抱えているわけで、そこで『何の努力もなく、一発で融和できました』って言われても納得はできない。
リスタート直後のこのタイミングで、様々な拒絶反応を顕在化させ、この後の同化/和解/制圧/衝突/壊滅といった物語展開への足場を作ってくるのは、むしろ誠実で分かりやすい運びだと思いました。

数多の拒絶反応の中で、とりあえず派手に衝突する相手として選ばれた『夜明けの地平線団』
様々な組織が暴力の灯火に引き寄せられ刃を交えそうな次回、今回顔を見せた問題がどこまで加速していくのか、非常に楽しみなところです。
そしてこの衝突の先にもまた新たな問題があり、和解があり、死と憎悪と理不尽が待っているのでしょう。
あー、やっぱおもしれぇなぁ、鉄血のオルフェンズ