イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

フリップフラッパーズ:第4話『ピュアイコライゼーション』感想

思春期の霧の中で繋いだ両手だけが道標な青春幻影譚、今週は無人島回。
前回がピュアイリュージョン内部でのみ進んだ回だったので、今回は『現実』を舞台に状況を確認し、やっぱり大冒険を繰り広げる回となりました。
前半学校を描く抑えた筆致と、後半展開される極彩色の冒険の対比が面白く、ココナが今どういう『現実』を生きているか、考えるのではなく感じ取ることが出来るエピソードでしたね。
雰囲気と元気よく進めつつも、色々気になる謎もそこかしこに散りばめて、いい具合に全体の調律を果たすお話だったと思います。

ピュアイリュージョンと『現実』を行ったり来たりしながら進むこのアニメですが、『現実』が多分に精神主義的というか、主にココナの内面を反映して不安定に揺れ動く、もう一つの『幻影』として描かれているのは、周知のとおりです。
ピュアイリュージョンの外側で展開している今回もその演出は徹底されていて、徹底して抑えて冷たい色彩で展開される学校のシーンはココナの秩序的な部分を、パピカの家に入って現実のルールが壊れてからは色彩豊かにココナの弾む混乱を、それぞれ反映していました。
パピカと二人きり、裸を晒すような関係になった途端世界に色がつくあたり、ココナはパピカ好きすぎだと思うけど、運命の出会いなんだからしょうがない。

学校のシーンは不穏さと抑圧に満ちていて影が濃く、非常に静かです。
それは優等生として目立たず過ごしてきた『これまで』のココナそのものであり、不満を感じつつもやすらぎもする、ホームの情景。
学校の抑えた描写はいわば心のバネを押さえつけているようなものであり、ここを静かに描写するからこそ、ココナが『幻影』(とその象徴であるパピカ)に出会った時の混乱と喜びが、より強調されて視聴者に届くのでしょう。

これに対し、パピカと二人きりのシーンはとにかくカラフルで乱雑、生命力に満ちたケイオスが休みなく押し寄せてくる元気な世界です。
土管の中は外見より遥かに拡大し、学校の裏山には絶対生息していないだろうキウィや巨大なゼンマイが採取され、終いには人間世界と隔絶された孤島にまで行ってしまう。
クッションが敷き詰められた土管の中は極彩色の子宮であり、学校では制服を着てタイを整え、秩序に奉仕する姿勢を見せなければいけなかった少女たちも、素裸をさらけ出し合います。
ピュアイリュージョンに突入するから世界に色がつくわけではなく、パピカとの個人的な世界だから彩りが生まれるというのは、ココナとパピカの出会いがどれだけ運命的なのかを強調している感じがしますね。
『現実』を舞台にしつつ混沌と秩序、無彩色と色彩を行ったり来たり(フリップ・フラップ)することで、思春期に揺れるココナが二つの世界の間にいて、混乱しつつ楽しみ、学びつつ困惑している様子がよく感じ取れました。


ココナを取り巻く二つの世界を印象づけつつ、お話の中心にはやっぱり二人の女の子がいるこのアニメは、根本的に出会いと変化の物語なのでしょう。
向かい合ってスカーフを直すところから始まって、くっついたり離れたり、背中を向けたり、衝立の向こう側から覗き込んだり、様々な関係性が描かれていました。
最終的に真正面から向かい合い、両手を結び合って「絶対に離さないからね」と誓い合うあたり、『絆を深める』という合宿の目的は、大成功だったということでしょうか。

お風呂シーンという性的なサーヴィスを逆手に取って、二人の間合いがどれだけあるかとか、それが縮まっていく様子を印象的に切り取ってくるのは、強かな演出手腕だと感じました。
冒険を繰り返し、お互いの心にお互いが強く食い込んだ二人ですが、何も隠すものがない素裸をさらけ出すほど警戒が解けたわけでもない。
そこに踏み込んでくるのがパピカの側だということも、二度目のお風呂にはシャワーの時にあった隔たりがなくなっているということも、冒険で彼女たちが何をどう手に入れたかを示す鋭い指摘であり、性欲の煙幕に意図のパンチを混ぜ込む、巧妙なフェイントだと思います。
「絶対にこっち見ないでね!」という口だけの抵抗を示しつつ、結局はパピカと親密すぎる間合いに浸るココナの姿は、あまりにドハマリし過ぎで素晴らしかった。
土管の中のココナの部屋、プライベートな空間に『柔らかい襞を両手でこじ開け、狭い所に侵入していく』描写といい、性の婉曲的直喩がとにかく多いな、このアニメ。

ココナとパピカが冒険の中でドンドン距離を縮め、反発も含めて色んな関係性を体験するのに対し、ヤヤカちゃんはいまいち距離があり、向かい合わない描写が印象的でした。
丘の上で食事をするシーンでは常に視線が交錯せず、一方的な勧誘だけ叩きつける距離が物理的に示され、『幼馴染』のはずなのにヤヤカちゃん遠いなぁ……とか思ったりした。
ヤヤカちゃんが所属する教団や仲間(?)である双子の謎を暴いていくことは、今後展開を引っ張っていくエンジンになると思うので、その過程でヤヤカちゃんが隠している事情や気持ちも明らかになって、距離が縮まっていくのかなぁ。
ココパピの距離感はポジティブな方向で一通り固まった感じがするので、今後そこを揺らしてくるか、別方向から崩してくるか、楽しみな所でもあります。


学校から離れ、パピカとの個人的な世界になった途端冒険と混乱が世界を支配し、色彩が生まれる。
混乱と色彩の世界を象徴するのがパピカだとすると、学校に代表されるモノトーンの抑圧は誰が背負うのかと、少し気になるところです。
ヤヤカはピュアイリュージョンの開拓者として先輩だし、先輩は謎が多すぎるし、おばあちゃんはパピカとの交際に協力的だしで、『現実』の岸にココナを引き止めるキャラクターは、明確に象徴化されていない感じです。
むしろ頑張って優等生でいようとするココナこそが『現実』の象徴者なのかもしれませんが、イカダに秩序の象徴たるスカーフが巻きつけられていたことから考えても、『幻想』が連れてくるスペクタクルに『現実』はメロメロだしなぁ……。
あれは一種の敗北宣言であると同時に、学校では遠ざけられていた『現実』のタフな側面をパピカの支えで受け入れ、押し付けられるだけだった秩序に『未来に向かう旗』『推進力である帆』という独自解釈を与えて漕ぎ出すシーンでもあるのだろう。
……思いの外ウーマン・リブだな、このアニメ……漕ぎ出した瞬間新しい『幻想』に食われてしまうのも含めて。

極彩色の混乱には心躍る喜びだけではなく、死の危険や疲労する身体、飢えや不自由など、ネガティブな面がたくさんあります。
なんでも不思議な力で対応できてしまう『幻想』ではなく、一応生身の中学生としての不自由さに束縛される『現実』だけで展開する今回は、無人島の楽しさの裏にそういう束縛が埋め込まれていました。
冷え込んだ学校には極彩色の快楽はありませんが、泥や虫、自分をおいてグイグイ進んでしまうパピカの身勝手さ、食料を探す苦労も存在しないわけで、この作品の『幻想』は相変わらず、キラキラと輝くだけの愚者の黄金ではないわけです。
『幻想』を象徴化したパピカもまた、そのうち『幻想』独自の都合の悪さを発揮して、『現実』的なココナと対立する瞬間が、いつか来るのかもしれませんね。
『幻想』の狂騒から一瞬離れ、冷たく静謐な『現実』でクールダウンできる場所として、保健室が設定されているのは、そこにパピカが入れない描写があること含めて、なかなか面白い。
今後、ヤヤカの領域でもある保健室を巡る攻防がありそうな予感……なかなかに先読みが通じないアニメでもあるけれども。

たとえ『現実』が舞台でも、激しい酩酊と冒険を忘れず入れ込んでくるように、これまでの展開の中で生まれた疑問に答えつつ、今後話しを引っ張るだろう『謎』を埋め込んできたのは、なかなかに冷静でした。
ヤヤカもパピカも、欠片(アモルファス)にかける願いがあることはわかったけど、その中身ははぐらかして教えてくれませんでしたし、先輩と「また来ます」という約束はしても彼女が何者なのか、僕らは名前すら知らないし。
ココナとパピカが出会い手をつなぐシンプルなジュブナイルと同時に、コンパクトな『謎』を印象的に見せ、話を引っ張る力に変えているのは、このアニメの上手いところだと思います。
まぁそういう隠蔽がないと話が平板になりすぎて、先を見ようという意欲も生まれてこないからな……『ただ女の子が仲良くしているだけでいい』という欲求を満たすためには、物語としての適切なシェイプには注意を払わないければいけないのだろう。


というわけで、『あなたといれば、世界が輝く』『目を開けて見る夢は、恋の匂いがする』という感じの第4話でした。
夢の中の無茶苦茶なルールから一旦物語を切り離すことで、キャラクターが抱える『現実』的な悩みや望みが足場を伴って見えてきて、お話全体の見取り図がハッキリしてくる回でした。
そういう背骨を堅牢にこしらえつつ、弾むような混乱と冒険の快楽は絶対忘れず入れてくる所が、やりたいことに貪欲で素晴らしい。

すっかりココパピが仕上がっちゃった印象もありますが、色々隠している風味のヤヤカちゃんはどういう横殴りをキメてくるのか。
心躍る『幻想』描写のハザマに、小石のように挟まる躁病気質の危うさは今後炸裂するのか。
イマジネーションへの酩酊を楽しみつつ、色々疑問も膨らんできて、いい具合に先が見たくなる第4話でした。
んー、面白いなぁこのアニメ。