イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

3月のライオン:第4話『ひな&ブイエス』感想

過酷な灰色の世界に身を置く少年が、一歩ずつ色を取り戻していくリハビリテーション・ファミリーコメディ、今週はあかりお姉ちゃんとよその子。
比較的コメディ色強め、賑やかで楽しい零くんと川本家の日常が、二海堂を交えつつ展開するお話でした。
原作のエッセンスを掌握しつつ間を見事に膨らませるテクニックは今週も健在で、『原作まんまアニメになっていて、原作とは違う楽しさがある』良いアニメ化だなと、気持ちを新たにしました。

原作二話をアニメ一話で消化している3月のライオン、今週はひなちゃんの甘酸っぱい初恋と、二海堂が川本家にエンカウントするお話で構成されていました。
両方共三月町のパステルな温かみを前面に押し出し、弾むような楽しさのあるコメディに仕上がっていて、この話の持つ光の極が強く演出されていました。
今回みたいなギャーワー賑やかな展開だと、シャフトのコミカルな演出の『間』が生きてきて、見ていて楽しいですね、やっぱ。

中学二年生の初恋に肩まで浸かったひなちゃんの甘酸っぱい暴走も、声と色がつくとより味わい深く楽しめて、少し離れたところから『普通の幸せ』を見守る零くんの姿も、原作とは違った意味合いを感じ取れました。
高橋くんの野球シーンはかなりアニメで演出が強化されていて、爽やかなスポ根風味の世界を印象づけることで、そこに踏み込めない零くんのフェンス一枚の孤独が、より強調されていた感じ。
すぐさま高橋くんはそのフェンスを乗り越えて、零くんの世界に滑り込んでくるわけですが、それでも『違う』ことをちゃんと切り取ることは、『違い』が埋まる暖かさを強調する意味でも大事だと思います。

もう一つ強調されていたのは、零くんがあくまで家族目線で川本家と付き合っていて、男女ながら恋とは縁遠い距離感に一気に踏み込んでしまっていること。
モモちゃん曰く『モモのお兄ちゃん』な零くんは、三千円かけられない『よその子』だけど『フクフクにしてもらえる』縁が川本家と繋がってしまっていて、それはフェンス越しの甘酸っぱい初恋とはまた違う味わいなわけです。
そういう間合いを維持しているからこそ、真心と失敗の詰まったお弁当をひなちゃんが捨てようとしたときは『ダメだよ』と言えるし、ちょっとだけ年上の余裕も見せられるわけで。
川本家も一見幸せの権化のようでいて欠けたものが多い家庭なので、零くんが側に寄ることで手に入れたものが結構あるのだと確認できるエピソードだと思いました。

川本家のぬくもりを強調するためか、抜け目なく零くんのホームの冷たさ、灰色の世界の情景が結構な尺と無音を使ってちゃんと演出されてもいました。
やっぱアニメ版は三月町と六月町を凄く意図的に対比していて、パステル調の暖かさとモノトーンの冷たさに、色んな意味を込めて表現しているなぁと感じます。
その二つの極の間をフラフラしつつ、零くんはこれから先も何かを手に入れて、何かを奪われていくのだ。
何しろ『恋』のキーワードで思い出すのが『義姉とのあまり幸福ではなさそうな接触』だもんなぁ、零くん……そら、キラキラ甘酸っぱい野球少年への初恋とは、世界の色違いすぎるわな。


後半は俺の二海堂と川本家がコンタクトする話で、引き続きポップで温かいファミリーコメディが展開していました。
一目惚れで即抱きつきに行っちゃうモモちゃんも、彼女にジェントルに振る舞う二海堂も、暴走しつつ二海堂の腎臓を気遣うあかりさんも、皆元気で可愛らしい。
モモちゃんの表情変化、あかりさんの脳内会議など、シャフトらしい『深夜アニメの定石』から少し外した表現が活用されたアニメもたっぷり盛り込まれていて、見どころが随所にある話でした。
二海堂のこと好きなのでずーっと一緒にいるし、仕草もついつい真似しちゃうし、ボドロに似た第一印象だけではなくジェントルな振る舞いもお気に入りのモモちゃんが、とにかく可愛い。

前半川本家との絡みを濃厚にやったお陰で、家族目線とはまた違う気安さを込めて二海堂と付き合ってる零くんも、巧く浮き上がってきました。
シンドいときに助けてもらった敬意があればこそ、川本家とはちょっと固い付き合いを維持している部分もあるわけですが、グイグイ来るニカの努力もあって、同年代のライバルとは遠慮のない関係を作れています。
テンション高めのツッコミも脳内でバンバン加速し、鬱屈した普段の姿からはなかなか想像できない零くんが、たっぷり堪能できました。

普段と違う表情という意味では、二海堂も育ちの良さを全面に押し出したジェントルボーイっぷりを川本家に晒し、いい関係を作ってました。
ああやって穏やかで礼儀正しい対応を見せられると、コッチが素で零くん相手には意図的に『暑苦しくてウザいバカ』というキャラで接してんだなと判るね。
『人間には色んな出会いがあり、それぞれに対応した『場』とキャラクターがあり、そのどれか一つが正しいというわけではなくて、色々なものが意味を持っているのだ』という多様性の称揚は、この作品の特徴かもしれんね。
それがたとえ、人生の暗い側面や苦しみも含むとしても、むしろそこをひっくるめて描いていこうってお話だしね。

このエピソードはオチのまとめ方が秀逸で、ハイテンションにガーッと駆け抜けたお話がじいやの登場で一気に収束して、川本家の普段の努力が思わぬ形で評価される綺麗な落とし方で収まる、まとまりの良いお話です。
見ず知らずの、しかし幸福な出会いをした他者がお互いを知らぬまま、己を評価してくれる幸運。
パステルの温かな世界を象徴するような『イイハナシ』でキッチリ幸福に終わらせる手腕は、アニメになってより鮮烈に僕に届いて、『ああ、良いな』という感想を新たに覚えました。
こういうコンパクトな話を綺麗に終わらせられるのも、手腕だなぁとつくづく思います。


というわけで、下町の暖かさが香る二編をしっかりアニメにしたエピソードでした。
ともすれば緊迫感が逃げてしまう日常話なんですが、要所要所で世界の冷たさを映像に食い込ませることでピリッと場をシメて、世界を包む温もりが無条件に与えられているわけではないと思い出させる見せ方が冴えていました。
やっぱ灰色の世界と色彩のある世界は、このアニメの中では対立しつつ融和しうる、人生を彩る不可欠のコントラストとして受け止められてんだろうね。

暖かなお話が続いたこのアニメですが、原作通りなら次回は零くんのオリジンにまつわるシビアでハードコアなエピソード。
人生の体温を的確に切り取った筆で、過去の悲劇と現在の孤独をどれだけ冷厳に見せてくれるのか。
そしてその冷たさが世界の全てではなく、そこにもまた色彩があるのだと確認するために、どういうアニメを仕上げてくるのか。
シャフトのオリジナリティを悪目立ちさせず、その威力を再発見する意味でも楽しいこのアニメ、さてはて次回はどうなるかなと、ありがたく胸が踊りますね。