イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム2:第6話『あめふりコンダクター』感想

音楽が私達を新しい場所に導いてくれる優しきエグゾダスの記録、今週は晴れ時々雨、のち晴れ。
関西予選も無事勝ち抜き、北宇治吹奏楽部の輝ける青春……はAパートまで。
台風とともに姉との間に嵐が吹き荒れ、逃げ出した先で滝先生の人生に触れ、久美子の青春とこの作品は相変わらず重たく丁寧な手触りを維持していました。
OPがモノクロだった理由が見えたり、ついに田中あすかというミステリに踏み込む気配を感じたり、中休みのようでいて次の物語に続く、計算され尽くした一分休符のようなエピソードでした。

というわけで、今回のお話はいつにも増して明暗がくっきり別れた構成となっています。
二期一話が府大会を抜けた北宇治の表情をスケッチした後、希美の来訪で一気にメインエピソードのうねりを開始したのと、台風によって文化祭が終わり、久美子がシリアスなイベントに次々対面していくのは、少し似通った構成かな……時間もきっちり真ん中だし。
学生活動の象徴たる学園祭から、姉が大学をやめる事情や、愛と死にまつわる滝先生の物語に触れる流れは、久美子が今どういう季節にいるのかを非常に明瞭に表しています。

パステルカラーの看板が賑やかに世界を飾り、一緒にバカやってくれるクラスメートや、『特別』な友人や、可愛い衣装の先輩たちと思いっきりじゃれ合える学園生活。
それが終わった後久美子が出会うのは、灰色に塗りつぶされ、激しい嵐が傘を飛ばしてしまう台風であり、将来の進路や愛、死を含んだ大人の世界です。
久美子は姉に煽られつつユーフォニアムに青春を傾け、全国大会という目標に向けて走っているわけですが、その先にはシビアで灰色な世界がある。
甘いお菓子とキレイな衣装に彩られた世界から一歩出れば、愛する人は死に、定めたはずの道から降りもする、予測不能な荒野が広がっている。
今回の話しが温かい色彩のアジールだけで終わらず、憂鬱な世界で真実に出会い、むしろそのことが日常を歩く勇気をくれるような結末まで伸びているのは、久美子が今まさに歩んでいる青春の軌跡をそのまま写し取ったからでしょう。

色彩の世界と灰色の世界は、時間経過に従って地続きであり、パッと見の印象ほどは排他ではありません。
見事な指揮を見せたあすかの言葉の中にある陰りに久美子は気づいているし、嵐の中でも滝先生のような、立派に自分を守り導いてくれる存在に出会える。
世界全てから色が奪われたBパートの中で、花屋にしろシトロエンの中にしろ、滝先生の周辺だけが穏やかに色づいているのは、姉との確執から逃げ出した久美子にとって、滝昇という人間がどういう存在だったかを巧く表していたと思います。
機械のように感情がなく思えた厳しい指導者は、気づけば激しい風と雨が吹き荒れる世界の中でも、屋根と導きを与え、飾り気のない黒い傘を預けてくれる男に変わっていたわけです。

それはつまり、吹奏楽に本気で向かい合う中で久美子が果たした成長が、他者を、世界を見つめる視座をどれだけ変化させたのか、という証明でもある。
パステルの文化祭も、吹奏楽が繋いでくれた人間関係があってこそ輝くものなわけですが、『光の中の光』といえるその描写だけではなく、荒れ狂う嵐の中で滝がくれた助力、『闇の中の光』に目が行くようになった久美子の変化もまた、彼女の青春の一部なのです。
そういう複雑な色合いが混じり合って、黄前久美子という少女の世界は構築されているし、多様な色彩で吹奏楽と青春と恋を描くために、この話は時間を使っているのでしょう。


対比という意味では、秀一との間で構築されつつある生きた恋と、滝がイタリアンホワイトを捧げる死者への愛との対比は、なかなか重たいものがありました。
久美子はそれを恋の萌芽と気づかないまま、秀一とお化け屋敷に入り、ローテンションな普段の声色とはちょっと違う、色の付いた可愛らしい声など出してしまう。
微笑ましい一進一退の恋を見守った後、当事者である久美子はより明瞭でシビアな滝の終わってしまった恋、それでいて現在進行系の愛に踏み込んでいくことになります。
青春が恋の季節であるのなら、おそらく死ぬまでイタリアンホワイトを手向け続けるだろう滝先生は、もう帰ってこない人への恋に呪われた、永遠の青年なのかもしれません。

何かが終わってしまうことを視界の隅で眺めつつも、今まさに己の存在を証明せんとユーフォを構えている青春兵士・黄前久美子にとって、死や終焉はなかなか実感しにくい問題です。
だから、おそらく何かの終焉に行き会ってしまった姉に優しい言葉はかけられず、自分の傷つけられたエゴを充足するかのように姉に厳しい言葉を投げる。
久美子が今身を置いている時間を既に終えている姉は、そんな子供の攻撃を取り合うことはなく、本心から姉を攻撃したかったわけではない久美子もまた、その仕草に傷つく。
青春の痛みを内包した牢獄から傘を持って逃げ出した久美子の前に、滝先生が行き会ったのは、主人公の特権か、はたまた神様の細やかなケアか、どちらにしても久美子は滝の過去を知ることで、また少し大人になったのだと思います。

メイド服を着て、可愛い先輩たちを楽しく眺める生の季節が、実は終わりに繋がっていること。
愛と死が案外近くに有ることを実感したからこそ、滝が真実を告白する瞬間、葉の上を踊る二つの水滴が一つにまとまり、するりと滑り落ちていくカットが挟まるのだと思います。
あれは久美子の中で名前も形もなく、モヤモヤと蓄積していた終わりへの予感が一つの形を手に入れた瞬間であり、姉の問題にしても、秀一との微妙な距離感にしても、もしくはわざとらしくはしゃぐあすかが秘め、隠しているものにしても、今回描かれた『光の中の闇』が持っている意味合い(もしくはそこにたどり着くための端緒)を、久美子が感得したという表現なのだと思います。
だから、雨は上がり、イタリアンホワイトに秘められていた謎は解け、麗奈は何も知らないまま、滝との生きた恋に胸を張る。
一見なんてことはない日常のスケッチのように見えて、光と闇、恋と死、青春と終わりが複雑に絡み合い、お互いを侵食しつつ支え合うテーマの埋め込み方は、非常にこのアニメらしい語り口でした。


今回お話の軸に座っているのは、主人公・久美子の目から見た様々な光と影のダンスです。
その一角に小さく、しかし確実に存在を主張しているのが田中あすかです。
今回の意味深な引きからして、というかOPに色がついたことで『田中あすかのユーフォニアムには色がつかない』ことが強調されたりして、『この後は、田中あすかを中心に新しい曲を始めるぞ!』という濃厚なメッセージが出ていました。
面倒くさい四角形を解決した南中の女たちや、一期で既に面倒くさい青春にある程度ケリを付けた一年生が陰りなくイチャコライチャコラする中で、『学園祭でハイテンションになっている私』を冷静に演じるあすかの姿は、青春から半歩踏み出した嵐を予感させました。

『田中あすかには、何かがある』というのはこのアニメを貫く猛烈なメッセージでして、今回指揮棒を振るい決意の挨拶を担当したのも、『他人はどうでも良い』『人間関係面倒くさい』と言い続けている彼女です。
どんな立場に己を置いたとしても、否応なく人を惹きつけ真ん中になってしまう魔力のようなものがあすかにはあり、それに久美子が惹きつけられている描写も、幾重にも折り重なっています。
滝という『指揮者』が雨の中で己の終わり(それは永遠の始まりでもあるのですが)について語ったように、『指揮者』として部員全員の注目を集め引力を発揮したあすかが、何らかの嵐、影、死、終わりについての物語を始めるプレリュードとして、今回のエピソードは読める気がします。
それが現実のものになるかは、次回以降の映像を見なければ分からないわけですが。

なんでも言っているように見えて、何かを隠しているというのも、田中あすかを描く上で重要な画角です。
邪悪な力を秘めた魔女の扮装をしつつ、他人の全てを見抜く水晶球を抱えた学園祭の彼女は、あまりに的確なメタファーで装飾されていて面白かったですが、それはあくまで外面であり、久美子と対話するときも過剰なテンションで己を飾っています。
そしてその奥にある何か、合宿でもコンクールでも己の感情を乗せて高らかに鳴ってくれたユーフォニアムを沈黙させる影に、久美子は気づいている。
久美子の興味をひこうと頑是無く振る舞う姿は、気づかざるをえないほどにあすかに引き寄せられている久美子と同じように、あすかも案外久美子を特別な後輩として愛してんじゃねぇかなぁと、願望混じりに思えるシーンでもありました。

僕は田中あすかというキャラクターが好きで、彼女の多面性と嘘、覆い隠そうとしても漏れる人格の質量が好きです。
さんざん焦らされたんだから、彼女が覆い隠している感情がどんなもので、それが何によって生み出されたのか、しっかり描いて欲しいという気持ちもあります。
久美子が今回出会った様々な陰影、世界の複雑さを前景として、田中あすかというミステリーを鮮やかに暴き、複雑に掘り下げていくだろう次回以降、非常に楽しみですね。


南中カルテットを追いかけている間はあんま進展しなかった秀一との恋ですが、今回学園祭というカルナヴァレスクが後押しすることで、いい感じに先に進みました。
幽霊役で暴れまわった麗奈が、親友の恋を後押ししたいんだか、インタラプトかけたいんだか全くわかんない所とか、なかなか面白い。
麗奈と久美子は非常に『特別』な関係で、しかしお互いセクシュアルな結合を望む相手は別にいて、早々簡単に割り切れない複雑な色合いが二人の関係、二人の色恋にはあると思います。
秀一が表に立ってくると、一般的規範では記述しきれない複雑さと、シンプルな真実性を両立させている二人の関係が強調されるので、見ていて楽しいですね。
秀一も青春真っ只中のナイスボーイなので、恋が報われて欲しいところですが……今後どう描くのかな……それとも描ききらないのかな?

麗奈が久美子の恋を心配するように、滝先生の真実を知ってしまった久美子も、親友の難しすぎる恋に頭を悩ませます。
当事者ではないからこそ、子供だからこそ知り得る、一人の大人が人生全てを捧げたイタリアンホワイトの暗号。
シルバーのリングと白い花は、麗奈が美しすぎる死人の思い出に絶対勝てないだろう未来を暗示していますが、なんとなく麗奈は憧れのまま成就しない恋、子供の愛で満足しそうな気配もあるなぁ。

姉に対する、もしくはあすかに対する対応もそうなんだけど、久美子は本当に大事な人の真実を前に一回立ちすくんでしまう気質があって、そこをゆっくりよじ登っていく過程こそ、このアニメの真骨頂とも言える。
そういう意味では、久美子が愛するべき人々が何を隠していて、今後久美子が何を乗り越えるべきなのかを暗示する回だったんだろうな、今回は。
僕は黄前久美子というキャラクターも、横柄なようでいてナイーブで臆病な人格も好きなので、彼女がゆっくりと青春を泳いでいく姿、その果にたどり着く岸を、じっくり見守りたいですね。


というわけで、曲と曲の合間にあるようでいて、複雑で重要な含意が丁寧に描写されるエピソードでした。
AパートとBパートを境目にして別れる明暗は、しかしよく見れば相互に侵犯し色合いを深めていて、大人と子供、愛と死、成長と終焉は明瞭に割り切れるものではない。
作品全体が青春を切り取るスタンスを見事に映像にしている、非常に好きになれるお話でした。

祝祭と嵐を経験し、新しい曲に向かい合う決意を固めた久美子は、全国大会に向けて突き進んでいきます。
その中心にはあすかが位置すると、今回のエピローグが語っていますが、さてはてどんな風雨が北宇治吹奏楽部を襲い、乗り越えていくのか。
どんな危機がやってきても、傘を差し出してくれる人はいるとも今回語ったので、まずは来るべき嵐の激しさを楽しみたいと思います。