イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ユーリ!!! on ICE:第6話『グランプリシリーズ開幕!やっチャイナ中国大会!ショートプログラム』感想


美神への祈りを舞に乗せて、氷と魂を削りながら歌う愛の讃歌、今週はGP開幕。
前回自分を追いかける若手とぶつかり合って背筋を伸ばし直した勇利が、ヴィクトルとの愛を世界に問うエピソードです。
勇利とヴィクトルに重心を置きながら展開してきたこのシリーズですが、トッpスケーターとしのぎを削るGP開幕ということで、都合六人のスケートシーンが展開する、非常に幅の広い展開。
数が増えた分、流石にこれまでの圧倒的な『絵の説得力』は薄れた感じもありますが、これだけの人数を出しておいて『キャラが理想とするスケーティング』を個別に演出できていたのは、やっぱ凄いと思います。

今回はとにかく人数が多い&実際の演技を画面に写すシーンが長いので、事前準備も手際よく進めていかなければいけません。
それが逆に小気味良く話が進んでいくテンポを産んでいて、ザックザックと物語が進んでいく快楽が強くなっていたと思います。
もともと濃いキャラクターを手際良く印象づける手法が巧いアニメなんですが、今回のように人数が多い話だと、そういう強さがより良く生きるわけですね。

日常会話などはさみつつも、キャラクターの性格や価値観はあくまでスケーティングで表現され、各々の特色がよく出た選曲・振り付け・演技が六通りのスケート動画で描かれていました。
まず『省略はあっても、六人全員滑らせよう』という力押しの発想がすごいし、その目論見も()流石に苦労しつつ達成できてしまうのも、またすごい。
気の抜けたオフショットと、各々の理想をぶつけた滑走のギャップも魅力的で、色んなキャラがそれぞれの個性をゴツゴツとぶつける、楽しいGP開幕になりました。
プロスケーターとして理想を高く持ちつつも、他人を低く見たりやるべきことをやりきってないキャラがいないのは、出て来るみんなを好きになれて非常に良い。


個別の滑走に関しては、"王様と私"をスケートでパロディした曲に乗っかり、観客席を味方につけたピチットくんとか、トンチキなメイクとテーマなんだけども、しっかり伝わるもののあるゲオルギー、そして圧倒的なケツで実力者のオーラを出してきたクリスあたりが、心惹かれる滑走でした。
創作の世界内部に独特のエバーグリーンがあると、作品内部で競技が続いてきた歴史をグッと身近に感じられるので、"Shall we skate?"の『スケートファンにはおなじみの一曲。だからこそ、演者独自の解釈が大事』という扱いは、非常に好みでした。
現実世界をしっかり取材しつつ、作中のスケートを独自のものとするべく、コストを掛けて掘り下げていくスタンスはやっぱ良いなぁと思います。

ゲオルギーはヴィクトルに頭を抑えられてきた永遠の二番手で、『女にフラれた』というトンチキなモチベーションを独特の衣装、メイク、表現に乗っけて、不思議な存在感を出してきました。
一歩間違えると道化なんだけども、演技の説得力で『コイツも油断しちゃいけない相手だ』と思わせるのは、作画パワーの良い使い方。
こういうキャラクターが蔑ろにされていないと、作品が特別な存在が無双して気持ちよくなるだけのパワーポルノではないという覚悟が伝わってきて、お話が好きになれていいと思います。
ヴィクトルへの対抗心は相当あるはずなのに、あくまで自分の表現をやりきる芯の強さ、僕は好きだなぁ。
イカツい顔してるのに、勝つと無邪気に喜んじゃう可愛さとかも好き。

そしてむせ返るような色気を振りまき、相当な作画リソースを貰っていたクリスは、勇利と同い年のベテランらしい余裕を感じさせ、若人たちと面白い対比を作っていました。
『ジャンプの失敗を気にせず、GPファイナルにピークを持ってくればいい』と考えられるのは、ファイナルに進出することが当然である世界NO2の自信の表れであり、挑発的な滑走と合わせて底知れなさを感じさせました。
勇利が『女』を演じることで壁を突き破ったように、元々性差を超越した表現を滑走に乗せてくるアニメなんですけども、クリスは『色気の時限爆弾』らしい攻めた表現を随所に乗せて、なかなかに衝撃的でした。

他にもフェミニンな表情が印象的なグァンホンくんとか、音楽の喜びを滑走に乗せるレオくんとか、みんながミンア自分のスケートを持って誇り高く滑っており、色彩豊かなライバル紹介となってました。
ミナコ先生がある意味ミーハーに、全員の滑走を全力で応援してくれているのが、凄く良いなと思いました。
選手たちの競技へのスタンスもそうなんだけども、恨みや嫉妬といったネガティブな感情に時間を使うより、スケートに本気で奉仕し、観客を引き込むポジティブな方向に話全体を動かしている感じがあって、この陽性の空気はユーリの特色だなと思います。

棘棘しているように見てたユーリも、素直で可愛いボーイだったしなぁ……。
今週も『カンケーねーし! 俺は一人で見るし!!』と距離作ってるのに、だんだん仲間と一緒に滑走を見守る姿勢になってくのが、『ふふ……可愛いヤツよ……』って感じだった。
第二戦二位だったのに相当浮かない顔してて、ここらへんはロシアGPでドラマ作るための伏線かなと思ったりもした。


そんな彩り豊かなライバルたちに取り囲まれた勇利は、ほぼベストなパフォーマンスを発揮し、追われる立場でショート・プログラムを終えました。
この『追われる立場の辛さ、面白さ』というのは前回も真ん中に座っていたもので、『追いかける側の熱』でドラマを作ることが多いスポーツ・フィクションの常道から、面白く外してきたなという印象です。
ハマった時は王者に相応しい不遜さを振り回せるんだけども、ドツボに入ったらそのままズブズブ行ってしまう勇利の不安定さはこれまでも強調されてきたところで、好事魔多しというか、ショートとフリーに分かれている競技性を巧く活かして、次回の障壁を打ち立てたと思います。

滑走自体は親友でありライバルでもあるピチットくんの演技を切っ掛けにゾーンに入り、無心で演じきった勇利が勝利をつかむ展開。
特にステップシーケンスの滑らかな表現力は目を奪われる強さがあり、選手としてのストロングポイントを巧く作画で表現できていたと思います。
合計六回の滑走で作画力を分散されつつも、主人公でありトップでもある勇利の滑走にしっかり説得力を乗せれていたのは、ドラマを支える意味でも良い演出でした。

第2話、第3話、第5話と、勇利の踊る"愛について〜Eros〜"と視聴者の付き合いも結構長くなってきました。
今回勇利はこれまでの自己中心的なイメージから離れ、ヴィクトル個人を惹きつける意識も薄れてきて、『みんなを気持ちよくする』という気持ちで踊っています。
その時観客を魅了するのは、借りてきた『女』の『アタシ』ではなく、『僕』という一人称を持つ勝生勇利そのものになっています。

それはヴィクトルと出会い、カツ丼食ったり風呂入ったり、人生のいろんな側面を共有しながら『ヴィクトルが好きな勝木勇利』を好きになれたからこそ、生まれた表現なのでしょう。
ヴィクトルを愛する自分、ヴィクトルに愛されている(もしくは、愛されたいと願う)自分を強く確信したからこそ、何の鎧も飾りも持たない真実の勝生勇利をドンとお出しし、『アタシ』のskateから『僕』の、そして『みんな』のスケートにたどり着く流れは、やはりこのアニメがエロスとアガペを融和させていく切り取っているのだという認識を、より強くされるものでした。
アナウンサーが的確に表現したように、『愛は勝つ』お話なわけです。

しかし今回勇利がたどり着いた境地はもしかしたら一瞬の幻影かもしれず、追われるプレッシャーに心が砕かれてしまえば、また自分を嫌いな昔の勇利に戻ってしまうかもしれません。
ヴィクトルという『美の化身』ではなく、彼に憧れる凡人としてあり続ける勇利にとって、100点超えの境地、エロスを極限化させた結果『みんな』のために滑れてしまう『愛』のスケーティングは、手が届いたと思ったら逃げていく蜃気楼のようなものなのでしょう。
それを追いかけ続ける運動こそが、このお話が11話かけて追いかけるべき道程だと思います。

しかし同時に、勇利が100点という『神』の領域に手を届かせたことも事実であり、ヴィクトルという『美の化身』を追いかけて走ってきた彼の物語は、今回一つの結果を出した、とも言えます。
あまりにも高く遠い『美の化身』を必死に追いかけ、追いつこうとする努力はけして無駄ではなく、揺るぎのない完成がしっかり待っているものなのだということも、このお話が追いかけるべき結末なのでしょう。
儚く消えてしまう永遠、矛盾の塊としての『愛』を勇利がどう認識し、把握し、表現し、捕獲し、対応するかという、二つの極の間にある物語。
今回勇利が立った頂点とは、その一つの到達点であり、同時にいつまでも居座ってはいられない、居座っていてはいけない場所でもあるのだと思います。


というわけで、『美の化身』を目指してしのぎを削るライバルを一気に登場させ、その表情を見せる回でした。
彼らに追いかけられる立場になった勇利の危うさや、到達した高みもしっかり表現されていて、次回のフリープログラムが非常に楽しみになるヒキだったと思います。
勇利が世界に問うた『愛』が永遠なのか、はたまた氷上の蜃気楼なのか。
その審判ともなる来週のフリープログラム、非常に楽しみです。