イマワノキワ

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ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第37話『クレイジー・ダイヤモンドは砕けない その1』感想

長かった雨よさらば! "バイツァ・ダスト"の作り出した迷宮を抜け、ついに最終決戦ッッッ!!!! なジョジョ四部アニメ、第37話です。
幾重にもかけられた"バイツァ・ダスト"の制約を乗り越え、ついに仗助に希望を繋いだ早人の覚悟と、真正面からの肉弾戦でも小憎らしいところを見せる吉良、そして主役に戻ってきた仗助&億泰。
長かった物語もついにクライマックスに突入し、命を天秤に載せたギリギリバトルのアツさが、24分をあっという間に感じさせてくれました。
時空間を支配する"バイツァ・ダスト"のインチキチートを突破する戦いも良かったけども、生と死が直接交錯するダイレクトバトルは、やっぱ興奮するなぁ……。


というわけで、何のスタンド能力も持たない犠牲者の少年が、最悪の殺人鬼に一泡吹かせる所からスタートな今回。
あそこで名前を名乗らなければ吉良もやりたい放題し放題だったわけですが、これまで何度も描写されたように、彼は犠牲者に自分の力を誇示し、優越感に浸らなければ気が済まない男。
吉良が慢心したというよりは、その本性を引っ張り出して決戦のリングに乗せた早人の『覚悟』があまりに凄まじかった、というべきでしょう。

彼の『覚悟』はバトルに突入してからも健在で、億泰を前にしたジレンマを迷いのない行動で打破したり、億泰をやられて熱くなっている仗助を諭したり、一般小学生とは思えないタフさを見せてくれます。
ぶっちゃけ早人がいなければ、"バイツァ・ダスト"を解除したとしても死んでた場面が沢山あるわけで、最終的にモノを言うのはスタンドの強さではなく、試練を乗り越え磨き上げられた黄金の精神なのですね。
スタンド見えないのに、仗助の『治す』能力を信じ切って一回死ぬあたり、ホント仕上がってんなこの小学生……あと、解説役としての性能が高すぎる。

何度も繰り返された『雨』が上がり、新しい光が見えてきた展開も、非常に鮮烈にアニメにされていました。
パキッと曇り空が割れて青空が覗く希望から、吉良のどす黒い決意表明に繋ぐ明暗が凄く良かったなぁ。
状況はハードだけども好転していると示すように、精神の青空だけではなく、現実でも雨が止む展開を追いかけるのが良い。

死体になってしまった億泰を抱えて進もうとする仗助に対し、早人はあくまで冷静に、あらゆる人の幸福のために一番リターンの取れる選択肢を選ぼうとします。
それは冷静であると同時に、『自分が両親に愛されて生まれた子供なのか、確認したい』から盗撮までした孤独な少年らしい、ちょっとドライな選択だと思います。
ここらへんの葛藤に時間を使うのは、『正義』の戦士たちもただ公益心から血を流しているわけではなく、後悔や親愛といった個人的な思いに支えられ、死地に赴いていることを示しています。
早人が一番守りたかった相手は、彼の物語がスタートしたときにはすでに、吉良に乗っ取られて死んでいるからなぁ……ここらへんの違いはとても面白い。


久々に出てきた億泰と仗助は、長い間見れなかった超肉弾バトルで大暴れし、『やっぱ殴り合いは分かりやすくていい……』というバーバルな感想を抱かせてくれました。
"キラー・クイーン"と"クレイジー・ダイヤモンド"の肉弾戦が非常に良い作画で、アクションシーンの単純な面白さをドドンと叩きつけてくれたのは、長い知略戦の後だけに気持ちが良かったです。
前回の敗北から学習し、グダグダ言葉で崩される暇を与えずとりあえずぶん殴ってくる仗助が、野蛮ながらも知的で頼もしかったですね。

片や『治す』、片や『壊す』。
"クレイジー・ダイヤモンド"と"キラー・クイーン"の対決は、お互いの能力をどこまで応用できるかというルールの押し付け合いでもあります。
ここらへんの捻った展開がまさにジョジョの醍醐味でもあり、『治す』力を移動に使ったり、猫草と"キラー・クイーン"のあわせ技で攻めてきたり、能力バトルの美味しい部分を堪能できる展開でした。
スピードワゴンくんの再来かと思うような、早人のハイテンションな解説がまた良いんだ……聞いてると、『ああ、ジョジョだ……』という気持ちになる。


そういう爽快感を大事にしつつも、眼の前にいる相手が生なかな敵ではないと示すべく、あっけない不意打ちで命を刈り取られた億泰。
彼が負傷することで、『壊す』のではなく『治す』、『殺す』のではなく『守る』ことを第一にする仗助の精神性も、痛いほどよく伝わってきます。
自分の体がぶっ飛んでもダチを治そうとするし、重荷になろうが捨ててはいけないし、「コイツとは気が合うんだ……」という言葉が非常に痛ましく、重い。
これまでバカ男子高校生のゆるふわライフを楽しませてもらったからこそ、仗助が億泰に抱く想いの強さも真に迫って視聴者に届き、胸を揺さぶるシーンとなっていました。

仗助は愛する祖父を同じ状況で失っており、もう二度と身内が助からないのは耐えられない。
なまじっか『治す』力を持っているからこそ、その力が及ばない領域に億泰が行ってしまう事実を、やすやすと飲むわけには行かないのでしょう。
それは心を殺した『正義』の機械としては失格なんでしょうが、熱い血潮の流れる人間としては譲れない一線であり、それを失ってしまえばスタンドという『非日常』の力は、卑劣な犯罪の道具に成り下がる。
仗助というキャラクターの根本が見れる展開の中で、傷から溢れ出した血液すら逆転のための武器として使うシーンが、印象的に刺さります。

億泰は短い出番でちょっと悲しかったですが、すっかり『守る』戦士に生まれ変わった姿を見せてくれたのは、嬉しかった。
彼の"ザ・ハンド"は『抉る』という攻撃的な本質を持っているわけですが、億泰はそれで誰かを殺すのではなく、攻撃を曲げて仲間を『守る』ために能力を使っていました。
誰かを傷つけるために生まれたとしか思えない能力、それを宿した人間も、出会いと決意さえあれば生き方を変えて、より良い方向に歩み出せるという希望を、億泰の変化は表現しているように思います。
攻撃的な本質を制御できず、他人を『殺して』生きる吉良に、「殺人が趣味の豚野郎が、テメェの都合だけのたくってんじゃネェぞこのタコ!!」と啖呵を切ってくれたのは、頑張って『テメェの都合』を制御してきた姿を見てた立場としては、とても良かったです。
……まぁ、その後不意打ちでやられちゃうんだけどさ……しかし、ここからですよ億泰は。(モンペの目)


億泰が喝破したように、吉良の行動や言い分は徹底的なエゴイズムに彩られ、自己正当化で守られています。
『植物のように穏やかに生きたい』と言っているくせに、自己顕示欲を制御しきれず本名言っちゃうし、自分の穏やかさのためなら他人の命も尊厳もお構いなしのゴミクズ野郎だってのは、これまでも描写されていたところです。
川尻家に迷い込んで、しのぶさんと情のある付き合いをすることも出来たんだろうけども、結局伸びてくる爪を抑えることは出来ずに、『殺し』の本性に立ち返っていく。
そういう男が最後まで憎たらしいのは、一貫性があって良いことだと思います。
濃口の表情作画がマジでゲスでなぁ……追い込まれる側の必死さとか、仗助の覚悟とか感じ取れて、今回の作画は雰囲気あってよかった。

ゲスでクズの卑怯者だろうと、ラスボスを張るだけの実力がちゃんとあるのが困りどころ。
むしろ、絶大なパワーに倫理が伴わず、他人を踏みにじるために使う心の弱さこそが、ジョジョのボスには共通している気もします。
悪のどす黒い強さを強調するべく、早人のような『弱くて強い。弱いからこそ強い』キャラクターがいいポジションで活躍するんだろうね。

猫草を悪用して更に強化された"キラー・クイーン"はまさに難敵で、あっという間に億泰が取られ、不可視の爆撃に苦戦もします。
こんだけ長い物語を経て出会う強大な『悪』との決戦なので、しっかり強いのは良いことです……憎らしいけど。
ただ暴力の比べ合いで強いのではなく、『もう足手まといでしかない億泰を、それでも守り続けるのか?』という魂の試練を戦いの中に用意しているのは、非常にジョジョらしいですね。
そういう部分に敬意を払えないから、吉良吉影吉良吉影なのであり、足手まといと分かっていても億泰から手を離せないから、東方定助は東方定助なのだ。


最終決戦で主人公とラスボス、両方の人格がグッとむき出しになり、作品のテーマと良さがアクションに乗って叩きつけられるのは、やっぱり気持ちが良いものです。
一筋縄ではいかない難敵をしっかり描けばこそ、『悪』に立ち向かいすべての力を出し尽くす『正義』の行動が、説得力を持って胸に迫ってくる。
創作がやるべきことがあらゆる瞬間にしっかり乗っていて、やっぱ四部のラストバトルは良いな、と思います。

お互いの死力を尽くし、魂の在り方を問われる限界のスタンドバトルは、まだまだ始まったばかり。
ここからの二転三転にどれだけ興奮させられるか、たっぷり期待しても裏切られないのが四部アニメだと思います。
運命ときたいと決意を込めて続いてきた物語も、そろそろ終幕。
来週が非常に楽しみです。