宝石の国を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
冬。
幼年期の終りであり、略奪の季節でもある。肌を切り裂く寒気の中でも戦士は戦い、仲間を見捨てない。圧倒的な正しさで、南極石は砕かれてなお弱き者を想う。
さらば、アンタークチサイト。さらば、フォスの幼年期。さらば、無用であることに溺れることが出来た黄金の季節よ。
キャストを3人まで絞り込み、モノクロームの厳しい冬を背景に、フォスフォフィライトが決定的に変化してしまう瞬間を捉える、重たいエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
松本憲生のアクション作画が存分に生き、サスペンスと一瞬の希望、それを打ち砕く悲劇の重たさが心に突き刺さる。見事に残酷で美麗な、冬だった。
アンタークチサイトの粉砕と略奪が脳裏にこびりつくが、今回のエピソード、真髄は戦いでもアクションでもなく、細やかな視線の芝居にあったように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
兄たちに囲まれ賑やかな夏の日とは違う、孤独で緊密な距離感に包まれた厳冬。そこでフォスは、特別ではない自分を痛感する。
冒頭、流氷の甘言に乗って腕を略奪されるフォスの内面が、時間を巻き戻して描写される。変化の可能性、間に合わなくなる焦燥を突かれても耐えていたフォスが、シンシャとの約束で決定的に砕けるのは、非常に示唆的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
破滅は常に、愛と隣合わせの場所に在るのだ。しかも自己愛ではなく、他者への愛に
冒頭で一度は切り抜けた危機は終盤に再演され、今度は取り返しのつかない結果を生む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
アンタークチサイトはその両方で、迷わず戦友のために窮地に飛び込み、己を顧みない。死のような眠りに仲間がとらわれているとしても、体温のある言葉をかわせないとしても、同胞愛は彼にとって死ぬ理由になる。
仲間を守るという、抽象的な理念。結晶化された理想のために生き、死ぬことが出来る『正しさ』は、決定的にフォスから遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
どうやっても『正しい』在り方を自分に引き寄せられない、愚昧なる衆生。グズグズと黄金色のカルマと遊んでいる余裕が、アンタークチサイトを死に追いやる決定打にもなる。
破滅の運命を予感しつつ、流氷との戦いは痛み分けに終わり、アンタークチサイトは片腕を、フォスは両腕を見失って帰還する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
ダメージ総量ではフォスのほうが一大事なのに、金剛先生はアンタークチサイトを抱きしめる。父子相姦にも似たアモラルなエロスが漂う抱擁を、フォスはじっと、無言で見る。
その視線の中に、何が込められているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
兄のように的確に、己の痛みを訴えて適切な対応を貰い受ける器用さへの嫉妬か。自分を抱きしめてくれない、父への不満か。『傷ついた』という特権を適切に活かして、治療へと導けない己への失望か。
孤独な冬の中、親しく抱擁する二人と、遠く離れた一人。
フォスは偶然と運命に導かれた『冬』の中で、これまでにない充実感と連帯を感じている。世界に三人きりの真っ白な世界で、アンタークチサイトは理想の戦士であり、厳しくも優しい兄であり、心を許せる親友…になれる可能性を持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
この冬が、(これまでと同じように)何事もなく終われば。
闘争と略奪がありつつ、宝石人の人生は繰り返しを基本とする。鉱物の身体は変化とは遠い位置にあって、生病老死の宿命にとらわれてはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
限られた時間の中で如何なるドラマを生きるかではなく、繰り返す平穏の中で己を研磨していくかこそが、一般的なジュエル・ライフスタイルだった。
しかしこの『冬』は生死の明滅が激しくスパークする、とても生物的な時間である。奪われたアンタークチサイトと、二度と会話することは出来ない。戦士の心得を学ぶことも、繰り返す日常の中で友情を蓄積していくことも、もう出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
そんな未来が当たり前にあることを、フォスは知らない。
知らないまま距離を開けて離れて、それでもシーンからは退場しない。羨ましそうに、居心地悪そうに二人の抱擁を見つめて、だが何も言えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
あそこに満ちていた隠微で清潔で、とても人間的な視線こそが、この冬の悲劇を支える心理的/時間的土台であったように、僕は思うのだ。
失われ、帰還しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
『死』という人間的宿命は宝石の子らを常に取り巻いていて、同時に可逆的でも在る。
取り返して、つなぎ合わせる。
月人のアクセサリー/武器と成り果てても、そうやって再生する希望があるのは、むしろ残酷でもあろう。何気なく投げ込まれた、宝石爆弾を見てそう思う。
あそこで爆裂したピンクの石もまた、意志を持った生命の欠片なのかもしれない。すっかり宝石の国の倫理を学んだ視聴者は、アレをただの殺戮兵器としては見れないはずだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
フォスやアンタークちんのように、喋って笑って悩むかけがえのない命が、兄弟を傷つける兵器として使い捨てられる。痛ましい。
人を騙し、殺して奪うことにしか役立たない月人の奸智は本当に憎らしく、許すことは出来ない。同時にアレが『人間の魂』であると言われてしまえば、不承不承頷いてしまう説得力もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
聖人の遺構にすがるように、金剛先生を取り巻く月人の浅ましさ。それが足止めでもあるという薄汚さ。
金剛先生を拘束する縄は、彼に合掌結印させようと蠢く。月人は一体、金剛先生(の仏性)にどんな救いを求め、何に苛まれているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
それは未だ見えない謎だが、救済するべき衆生として見られていないことは判る。愛子バラバラにして盗んでくんだから、当たり前ではあるが。
欠損したフォスの腕を補うために、二人は崖へと向かい金を目にする。重たく、脆い黄金は役立たずであり、実際それを取り込んだフォスはアガートの速度を失ってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
我々の生活を支配する金は、生き死にを離れた宝石の国では屑石なのだ。ここら辺の皮肉は、なかなか素敵な悪意に満ちてる。
そんな重たい金色の肉をフォスのインクルージョン(記憶、魂、運命、制御不能な深層心理)は肯定し、同化していく。その重たさに縛り付けられた弟を守るため、傷つけられた痛みを叩きつけるため、アンタークチサイトは戦う。怒りが彼の肌を引き裂く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
フォスが変則的なサイボーグであり、外付けされた装置との相互フィードバックにより魂の有り様が変化するという、非常に古典的な自意識の課題と戦っていることは、もはや明白だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
黄金もまた、フォスの身体に同化し、精神を侵食する。戦わなければいけない時に檻に閉じ込め、自由を奪う/守る。
アメシストが砕かれた時と同じように、フォスは戦いから距離を起き、己を守る。そこに飛び込もうとするアンタークチサイトの戯けた、しかし必死の努力が、彼を死地に追い込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
バラバラに砕かれてなお、弟の生存を望んで沈黙を伝える戦士の姿は、悲愴に過ぎる。歴史の教科書に載るくらい立派だ
アガートの足もそうだが、フォスの可能性/戦闘能力を拡張する装置は、とにかくフォスの思い通りにはならない。暴走し、自己を傷つけ、あるいは過剰に防衛する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
なすべきことを為せない無用から抜け出すための力なのに、そこから自分を遠ざける。生物としての生存本能は、人類にとって怯懦の悪徳である
フォスはそんな己に怒り、黄金の檻を制御し、開花する。蓮華のモチーフが多用される月人との重なり合いは、怒りで己の身を砕いたアンタークチサイトとの共感にも通じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
フォスは怒っているのだ。奪う月人にも、黙ってみている無用な自分にも。おそらく、奪われてしまうアンタークチサイトにも。
憤怒。かつて最優の戦士たるボルツだけがフォスに叩きつけてくれた、不甲斐なさを焼き尽くす烈火が、フォスを新しい形に導く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
だがそれは、都合よく全てを解決してくれる無敵の救済ではない。フォスの歩みは遅く、腕は短く、投げ捨てた刃は届かない。冬の戦士はバラバラに砕かれ、略奪される。
フォスは結局無用なままで、液状化したミダス王の腕は意味あるものを何もつかめない。重たくて有害で、邪魔なだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
黄金との一体化、アンタークチサイトの略奪と『冬』の信託により、フォスはシンシャとも接近していく。液体鉱石という特殊な性質が、フォスとシンシャとアンタークチサイトを繋ぐ。
『冬を頼んだ』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
アンタークチサイトが残した遺言は、今後確実にフォスを縛り付けるだろう。それは死にゆくもの最後の願いであり、死を超越した人間性であり、希望という名前の呪いだ。役立たずの黄金のように輝き、魔力を秘めて人を誘う。それに魅せられるフォスは、やはり過剰に人間的なのだろう。
シンシャもまた、フォスが言った『キミの居場所を見つけてみせる』という約束に縛られている。己が無用だと諦められれば、毒の中で一人生き腐れて行けるのに、あの時胸に刺さった呪いが『生きろ』と囁く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
無用ならざる人間として、社会の中で輝けと。当たり前の幸福を目指せと。
同じ無用の呪いを受けつつも、シンシャは宝石の国を離れ己の毒を閉じ込める暮らしを、ずっと続けている。繰り返しが基底にある宝石人のベーシックを、丁寧に追う。繰り返す冬の冷たさに、己を沈める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
フォスは違う。短い夏に咲き散る生物のように、砕かれては繋がれ、劇的に変質していく。
金の自重で砕けていくフォスは、戦士の顔をしている。激怒と痛みに満ちた、アンタークチサイトやボルツの顔だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
そうやって誰かを取り込み(インクルージョン)しながら、フォスは人間以上の速度で激変していく。黄金を身に入れて、七宝に更に近づいたなぁ…やな予感しかしない。
そして、奪われる痛みや哀しさに貫かれる生き様がフォスの特権ではないことは、イエローダイヤモンドが教えている。無用である悲しみが魂を規定することは、シンシャとダイヤが証明している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
宝石の子供たちは皆どこか似ていて、どこかが決定的に違う。私達と同じく。それが描けているのは凄いことだ
アンタークチサイトを略奪されたことで、不変なる宝石の生き方はまた少し変わるだろう。そして変わらず、穏やかな夏がやって来るだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
黄金に侵食されたフォスは、そんな世界の中でどうなっていくのだろうか。
確かなのは、もうバカで元気で優しい緑色の末っ子は、どこにもいない、ということだ。
それは、失われた身体から記憶=インクルージョンが失われたという、物理的な設定だけが理由ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
目の前でアンタークチサイトが砕かれ、それでもフォスを思って願いを託した、あのあまりに劇的な瞬間がフォスの魂に焼き付いて、無邪気であることを許してくれない、ということだ。
無用であることの痛み。抱きしめてもらえない寂しさ。それら全てを道化の仕草で覆って、身を守っていた不器用なフォス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
バカで無邪気で、でも底抜けに明るい在り方を兄たちに呆れられ、でも愛され救ってもいたフォス。
春の萌木に似た色の君は、黄金と瑪瑙に混じり合って、もう会えないのだろうか。
こういう哀切が胸を突くのは、フォス本来の無垢な善さがしっかり描けたからであり、だからこそ効果的に奪っていくことが可能なのだ。アンタークチサイトをたった2話で魅力的に描き、感情移入させ、凄まじく残酷に略奪したのと、同じ手腕だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
見事な劇作であり、ひでーなマジって感じだ。
かくして、僕とフォスの心に傷を残して、冬の戦士は去っていった。月人ぜってぇ許さねぇ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
不変の中にある宝石人でも、幼年期は終わる。それが暖かな春の日差しではなく、孤独で冷たく清潔な冬の風の中で起きたのは、なんだか凄く適切だなぁと思った。奇妙だけど、それしかないイニシエーションだ。
砕かれたフォスの体と心に、黄金が染み込んでいくだろう。金と鉱物の融合体として、宝石人の規範から大きくハズレたイレギュラーとして、『変化』を背負ってフォスは進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
それは祝福であり呪いであり、希望であり絶望でもある。『変わる』ということは、時に見るに耐えないほどに醜悪なのだ。
そんな醜さも、戦士として己を生み直したフォスの活躍も、全部ひっくるめて。今後の物語がとても楽しみである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年11月25日
そしてアンタークチサイトに、敬意とお別れを。君はとても強くて優しくて正しい、立派な戦士だった。美しく孤独な、冬の幻影であった。多分その幻が、焼き付いて離れないだろう。