どろろ を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
護国の鬼神と畏れられ、白無垢の贄を捧げることで維持されてきた共同体。そこからはじき出された、獣相のアウトサイダー達は、失われた母の残り香で繋がる。
南無八幡大菩薩、鬼神一切何するものぞ。秀衡卿も照覧あれ、今引かれ者どもが無明の闇をば引っ千切り、天陽来福の一矢仕る。
そんな感じの、民俗オタク大興奮のVS大百足編。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
白羽の矢、早太郎伝承、贄としての白無垢、サンカ、猿と犬のトーテミズム、俵藤太、金鉱集団の象徴としての百足、硫黄と愚者の黄金。
詰め込まれたモチーフが興味領域をビンビンにクスグり、多分製作者が狙っていないところで悶絶していた。
ここら辺のモチーフ掘りは始めるとキリがない上に、ドラマの本道からどんどん遠ざかっていくので一個だけにしておくが、さるが姉ちゃんを取り返そうと撃ち放つ矢羽は白…文字通りの『白羽の矢』である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
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今では『選ばれた精鋭』みたいな意味でも使うが、元々は荒神に選ばれた花嫁の屋根に刺さる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
怪物との婚礼はすなわち、共同体を維持するための贄を意味するわけで、姉ちゃんは自然石の金屏風に座り、角隠しで瞳を隠す。古式ゆかしい床入れスタイルである。
白羽の矢にまつわる贄の伝承は、たいがい大猩々(”さる”)が妻を求め、犬(早太郎、悉平太郎などと呼ばれる)がこれを倒すことで大団円となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
名と顔を”さる”とし、犬の毛皮をまとった少年は、ムラを脅かす怪異とそれを討ち果たす怪異、両方のトーテムを背負っているわけだ。
今回もエピソードゲストと主役は共鳴し、共通点を探し求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
人ならざる食性、損なわれた四肢、差し出される癒やし、母のぬくもり。
さるが語る姉ちゃんと思い出は、どろろの心をうち、年少者のリベンジ同盟が結成されていく。
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石を以て追われ、四つん這いで逃げ惑うさるは、半銃半人の古い生き物であり、体内にアヤカシの赤が混ざる百鬼丸の似姿でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
しかし序盤、旧来の世界認識に閉じこもった百鬼丸は、残され雲の方ばかり見てさるの方を見ない。
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あまりにも巨大な残され雲は、百鬼丸の視界からは炎の壁に見える。これまで世界の本質(だけ)を見抜いてきた破幻の瞳は、今回惑いの原因となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
百鬼丸は新しく再獲得した器官と世界に適応し、リハビリを果たさなければアヤカシを切れない。
百鬼丸は人助けのためにアヤカシを斬っているわけではない。これは第1話、どろろとの出会いで強調されたロジックでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
鬼神の贄と捧げられ(つまり姉ちゃんも、もうひとりである百鬼丸)、鬼を斬る以外の機能も生き方も与えられなかった青年には、獣と少女の同盟には目もくれない。
さるのキャラ描写には八犬伝的な『姫と忠犬』のモチーフも上手く組み入れられて、24分の短い時間を有効に使っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
眼の前で奪い取られた主の残り香を、寂しそうに見やる瞳の潤み。イヌ科の動物だけが持つ、凶暴なほどの忠誠が薫る。
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白無垢はすなわち経帷子でもあり、さるは石壇に遺品を捧げ、姉ちゃんの復讐を誓う。この時、獣の衣装は脱がれ、さるはあくまで人…憎悪に突き動かされるのではなく応報を願う理性的存在としての顔を、強くアピールする。
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共同体からはじき出された獣としての自分、傷ついた人間としての自分。
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両方を受け入れてくれた、母の転生体への愛着を共有することで、どろろとさるは強い絆で結ばれる。
しかし百鬼丸は、初めてであった無明への対処、アヤカシの切り方に夢中でその情を見ない
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それは百鬼丸の異質な認識が、ずっと切り捨ててきた世界だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
他人のどこかに自分に似たものを探し、情に棹さして流される。一瞬の共感に命を張って、正義を為して仁義に生きる。
アヤカシを斬るアヤカシである百鬼丸には、そういう声は聞こえず、姿は見えない。妖刀、あるいは万代の始末を思い出そう。
しかし異質な百鬼丸もまた人間のちまたに身を置き、人の世の綺麗な部分に参画できる事実は、兄貴兄貴と世話を焼くどろろの献身により、百鬼丸に再獲得されつつある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
それは御仏の加護を祈って命を繋いでくれた母、あるいは義肢と剣術と人の温もりを教えてくれた義父のように、昔からあったものだ。
百鬼丸は真夜中、姉ちゃんの名残に包まれ涙を流すさるを見る。さるの獣相を着込むことで母なるものへの愛着、喪失の痛みに共鳴するどろろを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
それは炎の壁ではない。かつて寿海との、あるいはみおとの別れに見た魂の黄金が、おそらくそこでも見えている。
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どろろChangは姉ちゃんの白無垢をまとうことで、姉ちゃんが果たそうとした贄の役割を背負い、その痛みを知る。
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姉ちゃんが果たせなかった化け物退治を引き受け、さると共に戦う。火は赤赤と燃え、戦乱を広げる以外の人の叡智を煌々と照らす。
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少年を装う少女たるどろろが、成熟した花嫁を演じることで大百足の隙を作る。なかなか倒錯した構図であり、ヤマトタケルの熊襲征伐をアウトサイダー達がさかしまに演じているようでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
神話民俗にハァハァしてっと感想終わんねぇから、止めろって言ってんだろ!(セルフ殴打)
とまれどろろは、共同体にとって都合のいい贄の衣装を脱ぎ捨てて、決死に戦う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
『奪われたものを、今度は奪い返す』
みおの守子唄は、どろろの中で強く生き続けているのだろう。
どろろは献身的にケアし、人の生き方を粘り強く教えるだけでなく、体張って戦いまでするからな。好感度たけーわ。
そんな子供たちの奮戦に、百鬼丸は新たな世界をエコーロケーションし、認識を消化していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
冒頭、強く降り注ぐ悪意の雨が耳障りであったのが、良い演出だった。あれは百鬼丸が包まれている世界の音を、そのまま取り出したのだろう。その雑音から、真実を聞き出し炎の壁を超える。
三界火宅ならず。袖すり合うも他生の縁。乗りかかった船ならば、三途の川も渡り切る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
鬼神を倒して獲得した器官は、兄を斬られた妹の慟哭を聞き、死にゆく女の名を叫ぶだけではない。新しい可能性、人が人として生きていける夢を探り当て、その手で掴む助けともなる。
3人目の少年として百鬼丸が登場する時、白無垢を肩に羽織っているのが圧倒的にセクシーである。男女の領域を小粋に超越する、境界線上のヒロイズム。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
それは姉ちゃんの弔い合戦に、百鬼丸も参戦する意志…同盟に名を連ねる気概を見事に表現する。
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姉ちゃんは因習に押し流されるのではなく、ムラの人名を守るために誇り高く、死地に赴いた。その尊厳をさるは石壇に飾り、どろろは着込み、百鬼丸も背負う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
その遺志が、百鬼丸に刃を抜かせるのだ。石に引っかけての抜刀、マージでかっこよすぎる。失神しそうになった。
百足らしく異常なしぶとさを見せる残され雲に、百鬼丸の世界は広がっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
どろろの声と勇気を聞き、炎の壁を超えるためにどろろの声を呼ぶ。壁の向こう側には無明ばかりではなく、誰かの声と想いが、確かに存在していることを、百鬼丸は戦いの中で確認していく。
天を覆うばかりの残され雲は、どろろと百鬼丸が取り囲まれている理不尽を体現する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
デカく、強く、ヤバい。倒しても倒しても襲ってきて、諦めを押し付けてくる強敵を討ち果たせば、空には青い夢が見える。
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無惨の描き方と使い方が巧いアニメなので、何かと薄暗い世界認識ばかりが見えるが、やはりその先にある不屈と人道を諦めてはいないのだなと、今回のエピソードは教えてくれるように思えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
戦えば勝てる。勝てば救える。
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さるは新しい名前を手に入れ、贄を救い怪物を倒した英雄として街に向かい入れられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
二人が幸福に夫婦になっていくのかは、スポットライトの外側の物語であるが、おそらくなるだろう。古今、英雄譚とはそういうモノである。(”ハッピーエバーアフター”の先にある悲劇を描くのも、英雄譚だが)
”名”は絡新婦、あるいは百鬼丸においてもとても大事なものであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
硫黄(悪魔が現れる先触れ)の悪臭だけでなく、花の芳香を学び取った百鬼丸は、命がけで共に戦い、傷つき壊れた自分を支えてくれる少女の名を、不器用に呼ぶ。
そこに込められた尊さを、僕らはもう知っているはずだ。
さるが差し出した鉱石は、おそらく黄鉄鉱であろう。硫黄と鉄の硫化鉱物で、”愚者の黄金”とも言われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
金ピカの見た目に騙され、骨折り損となったどろろであるが、現世の生臭い銭算段よりも大事な薫りを、兄貴からの名問いを、何よりの報酬としただろう。
それは形がなく、値段もない。風に吹かれて消えてしまう、微かな、でもとてもいい匂いがする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
そういうモノが確かにあって、そのために生命を張れば少しずつでも、前に進める。失われたモノを再獲得し、新しい世界を掴み取ることがデキる。
そういう希望を、叙情性と民俗への視線たっぷりに描くエピソードでした。まぁここで手に入れた希望が、また絶望の色合いを濃くもするのだが…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月26日
その明暗入り乱れるカオスこそが、生の実相であるのなら。やはり無惨だけに目を奪われては勿体無いなぁ、と思う。来週も楽しみである。