グランベルムを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
魔術儀礼を巡る霧は、払っても払っても追いすがる。
愛する人への疑念。世界の真実。そこに繋がった、白紙の人形の秘密。
知るほどに傷つき、それでも知ることをやめられない。幾重にも重なる嘘と夜想曲。
地に惹かれし者よ、皆堕ちよ。
蛇が囁く時、月が嘲笑う。
という感じの、不協和音と思い出がギシギシ軋む中盤戦、グランベルム第九話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
寧々ちゃんが見つけてしまった真実。九音の白い記憶。水晶の欺瞞と囁き。
色んな霧が渦を巻く中で、相変わらず不穏な日常から不穏な非日常へと場面が移り変わる。
普通のお話なら、霧を祓って”知る”ことは物語の完成へと近づく、ポジティブな一歩だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
しかし表裏吉凶が常に癒着したこのアニメは、真実を知ることが必ずしも幸福には繋がらない。
消え去ったアンナがすがった過去が、嘘だと知って全てが壊れたように。
真実ほど人を傷つけるものもない。
それでも”知る”ということは魔術師の重要な属性で、否が応でも少女たちは知っていってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
暴かれたものに傷つけられながら、何を奪って何を掴むか。
非日常の殺し合いは、残酷にそれを問い続ける。
霧が晴れても、まだまだ謎がある。真実が見えても、迷いは深まる。
そんな裏腹な道行きを、アンナさん亡き後ガン回ししてくれている水晶先生が、ようやく両手でグランベルムを操る話でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
ドロセルノクターンがローブを脱ぎ、その真実を露わにした時、彼女はナメた態度を捨て、正式な決闘の姿勢を取る。つ、強そうだ…。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/eikuOSydTS
水晶の戯けた態度を引っ剥がし、”本気”という真実にたどり着くまでのエピソードは、まず九音の迷妄から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
後に霧を剥がし、姉への愛を取り戻す九音だが、悪い女にグラッグラにされた冒頭段階では、記憶はモノクロームである。現実世界の、カラフルなコスモスと面白い対比。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/D2YdouqWGZ
コスモスの花言葉は『乙女の純真』と『調和』である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
水晶の口からこぼれ出る不協和音は、様々なものを乱す。蛇の悪意だけでなく、寧々ちゃんが辿り着いてしまった真実も、新月を乱す。
定められた法則に従い、美しい音を奏でるハーモナイズは、精霊にたどり着くために必要。根源に潜り、糸をたぐる。
しかし調和を手繰り寄せるほどに、満月の瞳には純白の恐怖が襲う。後に暴かれる(あるいはこれまで示唆されてきた)彼女の出自を思えば、探るほどにそれが迫るのは道理ではある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
人形遊びの不協和音が、ハーモニーを諦めた後更に軋む。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/R52X93d8KL
糸をたぐる指は、その実糸に操られる人形の指でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
裏腹な矛盾が新月を無視していないのは、既にアンナを失った事実からも、不気味に打ち捨てられたフェティッシュからもしっかり匂う。
皆、運命という糸に惹かれる奴隷。愛に縛られ、憎悪に踊る。それを吸い上げて、今宵も月は嘲笑うのだ。
ほんとこー、心にダメージを追ってなお自分を磨こうとする親友を支える、表面上はいいシーンなのに絵面は不安定な地獄っていうのが、グランベルムだなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
『魔術が失われた日常』という初期設定自体が、強大な欺瞞だとバレかけてる今、安心させないカットばっかり積んだ理由が理解ってきた…
こっちは見た目と内実が乖離したシーンだが、水晶と九音の逢瀬は比較的、その2つが隣接している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
邪悪なものを拒むはずの魔術建築物…鳥居と注連縄を既に侵犯して、水晶は境内に足を踏み入れて待つ。影の中、暴き立てられる真実の中から、ちろりと長い舌を出す。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/Zbv9PS4LOP
今回水晶はワープが多い。それは尋常な歩みを飛び越して、一足先に真実にたどり着き、専有している現れだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
彼女はマトモに歩かない。境界線を飛び越え、勝手に真実の一部をチラつかせてくる。
自分だけが成熟し、自分だけが本当のことを知っている。その危うさに九音は反射し、瞳の檻に取り込まれる。
水晶が危ういエロティシズム(同性愛のインモラルな気配を含む)を背負ったキャラなのは、正しいなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
ワープと同じくらい多用される、男性器的なシルエット。侵犯し、侵入する”尖った異物”そのものとして、水晶は落日を背負う。巨大な陰茎として挑発し、殴られて消える。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/yqhWf1Rody
九音の純潔を的にかける赤いシーンに、無力な注連縄が映り込む。簒奪を止めることすら出来ない、魔力なきただの形。九音のバックボーンにある、神道的呪術の無力。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
長い長い蛇の影を振り切るように、九音は自分の腕で水晶の頬を張る。
それすら喜びだとうそぶいて、水晶はやはり魔法のように消える。
心に付けられた傷が、月の器を満たすのであれば。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
傷つけ、傷つけられることは真実にたどり着く喜びでしかない。だから水晶はサディストであると同時にマゾヒストで、嘘つきであり同時に真実の管理者でもある。
矛盾に思えるものが、背中合わせに合一していること。魔術的認識の力を、よく理解している
同時にその態度は透明な世界の真実に奉仕する清廉などではなく、秘められた我欲に突き動かされている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
まだ見えない真実を、独占的に専有し、操作する不実。押し付けられる限定情報に、どれだけ欲望が混じっているのか精査する冷静さが、蛇を退けるには大事だ。
調和は不協和を知ることから始まる。
新鉢破りの赤い血のような、夕日から身を翻して。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
水晶は世界の在り方を歌う。水と月。巨大な”陰”の気を背負い、真実を握り込みつつも水鏡にあやふやに、己を投げかける。
ただのゲスではなく、叡智を匂わせる外道なのが良いのよね…。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/M1byKHuv6R
夕焼けと月夜の間で展開するエロティックな闘争を知らないまま、新月と満月は精霊を追う。自分の中の真実をおいかけても逃げていくものを、『新月のため』という欺瞞(あるいは事実)で手繰り寄せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
その優しさに触れる時、直接手ではなく、糸を手繰って近づくところが好き
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/CzLcTmDJQe
相変わらず二人は一つのものを分け合い、お互いの口に入れて飲み込む。それは日常的な魔術儀礼であり、四翠を”食べた”水晶の影絵でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
湯気を立てる真心を手渡しているのに、窓枠の垂直線が二人の間にきっちり立って、分断を強調しているのは最高。性格悪すぎるレイアウト。(褒め言葉)
優しい日常の積み重ねが、破滅につながる誘蛾灯かも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
迷いの中光に惹かれた虫が、最初は一匹なのに、特別な肉まんを共有した後は二匹になっているのは、どんな予言か。三日月(満月と新月の中間体)は、巨大な瞳として監視を続ける。
まぁ、順当には当然終わらないだろう。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/VPa4yJIeUK
毎回現実を侵食する魔術の描画が素晴らしいアニメだが、今回のグランベルム展開は特に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
鏡合わせの赤い月が虚空に染まり、霧が廃城を覆い隠す。幾重にも重なった嘘と、戦略的な暴露。剥いでも剥いでも、謀略は霧のごとく湧いて出る。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/7ttskFoUnY
これを剥ぎ取るのに、九音が”重力”を使っているのは面白い。同士討ちを呼び込む霧に”重さ”を与えることで雨に変え、世界の真相を暴く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
しかしそれは、スタート地点でしかない。水晶は片手でしか、アルマノクスを操っていないのだ
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/X9GM9E5PMi
そもだに、なにかに引き寄せられ動けない重さ、重力を手に入れてしまったが故の不自由は九音の属性である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
彼女は姉への愛に縛られ、水晶の欺瞞に縛られる。都合のいい真実の一部を毒として流し込まれることを、人は”嘘”と呼ぶのだ。
霧が魔法で晴れても、毒が抜けるわけじゃない。
一方新月は寧々から受け取った(受け取ってしまった)真実を、満月から隠すべく背中に隠す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
アンナの殺害に傷ついた彼女は、もう庇護者としての役割を果たせない。それでも、鏡の向こうには背中だけ写し、眉間の苦悩は見せないように強がる。強くて寂しい猫だな…。(新月が好き)
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/yIh0x3zgPY
這い寄る虚像、巨魁なるメドゥーサに遮られて、満月は九音の加勢が出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
増殖する姉の虚像に取り囲まれて、心にざわつきを生み出される。それが水晶の中の四翠なのか、自分の中の姉なのか、(存在しうるとして)客観の真実なのか、もう判別できない
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/uA6smCrqJx
立ち向かうべき敵が誰なのかすら判別できない、不協和音の霧。ディスプレイでドロセルノクターンが占めていた場所を、愛するべき姉(戦う理由)がハックしている状況を、刃が切り裂く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
短刀は破邪の意味合いを持つ。通夜で棺の上に乗せるのは、悪いものが入らないため…切り裂くためだ。
魔力が枯れた世界で、その刃に破邪顕正の力があったかどうかは、実は問題ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
約束とともに手渡されたもの。物質化した思い出を、未だ持っている事実が、増殖する迷妄を切り裂き、九音を開放していく。
それが”音”とともに伸展していくのが、彼女もう一つの属性である。
爪弾かれる側から見ると、五線譜のようにも見える九音の操り糸。灰色の思い出から、唯一確かな聴覚の残滓を引っ張り出して、九音はノクターンを弾く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
記憶に色が付き、鏡は真実を照らす浄玻璃鏡の仕事を果たす。ここら辺のフェティシズム一切説明しないの、ハイコンテクストね。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/iT2CuP2hld
赤い蹂躙を止めない、注連縄と鳥居。極限で霧を払う、短刀と鏡。魔術的なアイテムに力を込めるのが、個人の記憶と感情だというのは、なかなか面白い解釈だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
形だけなぞった所で、力が宿るわけがない。
欲望を晒せ。真実に傷つけ。そうして流れた血を月が啜る。ヘカテ、あるいはアルテミスの貪欲。
かくして思い出を取り戻し、姉の真意を掴んだ(と、自分の中では確信できた)九音だが、この程度で袴田水晶大先生は終わらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
ドロセルノクターン、構えるは嫫母の杖。鏡の発明者が、少女と魔術儀礼の真実を照らす水晶に重なってるのは凄いなぁ…。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/QIwEDV1uXf
炎の禊で虚偽を剥ぎ取り、真の姿を露わにした水晶のアルマノクス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
偽りの霧を払うのも鏡なら、見たくもない真実を教えるのも鏡の仕事。新月と向き合っている時は、『あなたのため』という屈折にしか辿り着けない満月は、水晶と対峙することでしか前に進めない。
真実を隠そうとする新月の不器用な優しさは、あっという間に乗り越えられてしまう。前に立ったホワイトリリィを追う権利は、そびえ立つメドゥーサの”花”で奪われてしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
鏡よ鏡、主人公の真実を教えて?
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/cFN4e65lLF
操っていたつもりが操られ、人形遣いは人形で。全てがさかしまに反転する真実を、新月は嘘で塗り固めたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
アンナのときと同じように、その不器用な優しさは届かない。
幾度も忍び寄ってきた悪夢のように、白く白く真実が塗りつぶして、満月は人形に”戻る”。”なる”わけじゃない。
なんの変哲もない少女が、魔法に呼ばれて特別な力を発揮したのは、皆が求める魔法自体の子供だったから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
魔法を隠蔽するように思えた日常が、実は魔法によって欺瞞されていた事実が顕になるに従って、物語を支える”お約束”も綺麗に反転する。
鏡に写ったものは、さかしまに見えるものです。
しかし目に映るものが必ずしも事実ではないように、辿り着いた真実もまた、逆転した虚像でしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
世界を支える認識をひっくり返し、混乱の中から真実を拾い上げる。魔術的思考がドラマを伴い、物語世界を主人公を残酷に侵略しだした感じだ。
あまりにも正当に魔術的で、マジ興奮する。
寧々が託した残酷な真実を背負い、新月は再び過つのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
不協和に弄ばれた果て、ようやく見つけた姉妹の音を、九音は信じきれるのか。
人形の手に戻った満月は、約束された虚無を満たす何かを、その手に掴めるのか。
緑の魔石は、少女を誘う。アンナだけが贄じゃないのさ。
©ProjectGRANBELM pic.twitter.com/oUv5X3uvLR
そして水晶は、余裕ズラの奥に最後の巨大感情を隠しているのか(あるいは、いないのか)。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月31日
反転と破綻を繰り返し、合わせ鏡に揺れ動く。己の存在意義をかけた戦いは加熱し、心の血を啜り続ける。
その残酷喜劇(グランギニョル)の果てに、何が待つのか。
グランベルム、まーじで面白い。来週も楽しみ