憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
完全犯罪を以て英国の臓物を食い破る、モリアーティ三兄弟。
その血塗られた起源が今、明かされる。
頭蓋の内側に記憶の宮殿を持つ天才少年が、差し出す悪徳。
階級を転覆し腐敗を焼き払うその掌を、貴族を憎む貴族が取った時、全ては始まった…。
そんな感じのモリアーティ・ザ・ビギニングである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
いきなり犯罪コンサルタントの”日常”を血みどろに描写した第一話で、色々気になったポイントがガシガシ明かされ、なかなか楽しかった。
溢れる知恵を悪事に注ぎ込み、血のペンキで新たな英国像を描いていく。
金色の堕天使めいた”ウィリアム”、最初の顧客となったアルバートが己の家族と屋敷を焼くまでの物語であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
絢爛たる残酷、血みどろの美麗。
デカダンスとピカレスクが仲良くワルツを踊るエグ味が、熱に浮かされたような少年期の無邪気と混ざり合い、なかなか独特の味わいだ。漆黒のジュブナイル…。
その出だしから親殺しに身分簒奪と、帰れない道を突き進んでいるモリアーティの兄弟。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
彼らが自分たちの犯罪革命にどういうケリをつけるのか、なかなか気になるところである。
条理を蹴っ飛ばす悪党の活躍に胸踊りつつ、その破滅をどこかで待ち望む矛盾した喜びは、ピカレスクの醍醐味だなぁ…。
さて物語は、改めての背景解説から入る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
上層階級が華やかな栄華を極める足下で、踏みにじられる下層階級。
差別と搾取に分断された英国のハラワタを切開し、新たな国を生み直す。
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”世直し”とキレイな言葉で飾るには、ちと血と罪の匂いがキツすぎる犯罪教唆が、我らが主役の生業である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
そんな彼の武器は、向き合った相手の欲望と人格を一瞬で見抜き、望むものを差し出す知恵と話術。
自分の手は汚さず対象の悪を引き出すあたり、エデンの蛇っぽさがあるな、ジェームズくんは。
唆されたものが悪いのか、囁くものが邪悪なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
はたまた、そうさせる世界が悪に満ちているのか。
”国”というスケールデカイものと、タイトルの時点で関わっている以上、人間で満ちた世界をどう認識してるか、どう変えたいのかっていう横幅広い部分が、結構問われる作風だと思う。
国を憂えばこそ、国を崩す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
そういう話になっていくなら、悪に身を染めてでも変えたいと思えるほど、国を愛せる起源が知りたくもなる。
炎と血に塗られた最初の事件が終わった後、モリアーティーとイギリス帝国を切り取る物語が来ると、作品の目鼻が立ってきていい感じかな?
というのは先の話として。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
ウィリアムは子供時代から、己の灰白質に詰まった知識を分け与え、居場所を作ってきた。
その根源がどこにあるかは、まだ明かされない。
今回はアルバートの原罪を描く話で、同時に主役の底知れなさも見せる感じか
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ワーキングクラスが差し出した”報酬”を、手にとって口に入れる程にアルバートは先進的な人権意識を持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
奇縁からハイクラスに招き入れられた、正体不明の少年にコートを貸し与え、庇護下に入れる。
それは差別が当たり前のこの時代、社会に馴染めない異端だということだ。
くすんだ金髪が凡庸さを強調する、本当の”ウィリアム”のように、下層民を下に見て踏みにじるのがこの時代の”普通”…であり、アルバートはそれを飲み込めない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
皮膚感覚的な違和感が、階級の烙印として機能する衣食住の描写とともに踊りだす
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今回アルバートは、色んなものを目撃する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
(比較的”革命後”を活きる僕らに価値観が近い)彼の視線を通して、ユニオンジャックの虚栄、天才少年の輝きが切り取られていく。
貴族社会の醜さに向き合う時には、長い影がその顔に伸び。
金色の謎に惹きつけられる時は、陰りが消える。
サロンの花の気を引くために、人間二人引き受ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
そんな腐れ果てた階級意識が、緑色の額縁の中で踊る。ついでに、冷え切った夫婦関係の醜悪も。
モリアーティ家の暗さと、ウィリアム周辺の光の対比。青年貴族が、引き寄せられる輝き。
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肥え太った貴族階級の退廃は、アルバートにとってとても遠くて、嫌悪するべき醜さに満ちている。
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貧しくとも肩を寄せ合い、知恵を貸し合う素朴な姿にこそ、彼は控える。
二枚の絵画を並べるように、彼の視線は明暗を行き来し、それはパクス・ブリタニカの常識と相反する。
しかし両親はこの時代の法と常識に照らし合わせて、死に値する罪を犯しているわけでもない。ただ、人として醜悪極まるだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
だから、死ね。
そういう結論と、握手をして兄弟の契りを結んでしまう苛烈さが、アルバート生来のものか、悪魔の囁きで生まれたものか。
ここら辺はこの原点を超えた先、モリアーティ達の”今”を見ることで、より深く判っていくのだと思うけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
額縁の向う側にあるような、実感のわかない”普通”に苛まれつつ、彼はギラギラと輝く危険な闇に近づいていく。
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地下トンネルの工法計算。それが導く、汚れた財の強奪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
微笑ましい知恵貸し稼業の裏にうごめく、犯罪教唆の邪悪な素顔。
それに気づいた時、世界の色が一気に変わる演出はやはり切れ味が鋭い。その衝撃が、死んだ目をした少年の心を震わせ、深い闇へと誘っていく。
神の座に腰を下ろし、血のつながらない兄弟に暴力的革命を教唆する、金色の悪魔。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
反転した聖性を宿すその微笑みに、アルバートは妖しく魅了されていく。
”モリアーティ”最初の事件、最初の顧客、最初の兄弟、か。面白い構図だな…。
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ヤードが嗅ぎつけたら連行間違い無しの危険思想を、女の子が微笑みながらがなり立てているのが悪趣味で良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
無邪気、無垢、無分別。
成長してからも匂う子供の特性は、限りない残酷さと合わせて、ウィリアムの特性である。
まともな大人なら考えないような、邪悪で無茶苦茶な奸智。
それは私欲から切り離された鮮烈な理想主義と、他人の罪を勝手に量る傲慢に照らされている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
子供だからこそ本気で信じ、大量の贄を捧げられる計画。神をも恐れぬ、悪徳による正義執行。
それはこの段階で、赤い目の犯罪コンサルタントの中で完成されている。正しく魔少年だな…。
下層民の血を啜って恥じることのない弟に、アルバートが向ける鋭い視線。不気味な緑色に包まれた、貴族社会の居心地の悪さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
血の繋がった生家と階級に、彼の安楽がないことがジワジワと描写されていく。
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冒頭、下層民から差し出された真心のクッキーを正しく口に運んでいた”兄”と、血に濡れたフォークを凶器に変えてしまう”弟”は分かりやすい対比だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
しかしそれが、燃やされ存在を略奪されるほどの罪なのか。みんなやってることじゃあないか。
みんなやってるから、全部壊す必要がある。
そういう所までアルバートが行き着くまでが、今回の物語なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
死を以て悪を贖い、国を崩して世を正す。
そういう(ある意味子供っぽい)過激さに文字通り火を付ける、悪魔との出会い。
それがなければ、穏健な改革派貴族とかになれてたのかなぁ…?
まぁ悪魔に囁かれた人たちの物語は、”もし”がないから残酷で面白いのだけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
神めいて笑う少年を、アルバートは畏敬と衝撃に目を開きながら見つめる。
自分を取り巻く社会に、醜悪しか見つけられなかった少年がたどり着いた、邪悪なる黄金
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美しいから、邪悪でも惹かれてしまうのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
邪悪だからこそ、美しいと魅入られるのか。
どちらにしても、ウィリアムが持つ奇っ怪なカリスマ、人を悪なる善に誘い込む魔性はよく描けていると思う。
ステンドガラスを通した夕日が、運命がねじ曲がる瞬間を上手く照らしていて、とても綺麗だ。
アルバートを包んだ黄金は炎へと変わり、全てを焼き尽くし奪う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
血よりも濃く、炎よりも熱いもので繋がれた兄弟が、罪の大地に証を刻む。
誰も知らない完全犯罪、モリアーティ家乗っ取りの完遂。
そこから、彼らの悪行は始まる。
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髪も瞳も違う彼らが、三つの頭を持つ魔犬として機能している理由が、良く見える回だったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
ウィリアムが放つ底しれぬ雰囲気、金色の魔力も上手く書かれていましたが、貴族社会に馴染みきれないアルバートの善性が、誘惑に落ちて悪へと反転する歩みも、邪悪な魅力がありました。
今回の邪悪なる幼年期を経て描かれたEDが、なかなか印象的で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
己の身体が汚れることなど気にしない、無邪気なお絵かき…に見えて、画材はナイフ、絵の具は血しぶきなんだな。皆無邪気なまま、罪にまみれていく。
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罪過と傲慢の返り血に汚れながら、それでも描いた理想形。そこに”滝”があるのが、”モリアーティ”の物語としては暗喩的ですよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
いつどのように、金色の玉座から落ちるのか。
華麗なる犯罪遍歴の片隅にどこか、破滅の匂いが漂ってくるのが、なかなかビリビリして良い。
加えて、幼年期の無邪気が終わり、成長した三人は別々の方向を向きながら、滝のような雨に打たれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
完全犯罪による、国家構造の転覆。
漆黒の理想、黄金の魅惑で繋がった兄弟たちは、その目的を果たすまで一つでいられるのか。
そこも、作品を引っ張るサスペンスの一つかなー、この書き方だと。
後戻りなど出来ない道へ、炎とともに踏み出した兄弟。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月19日
彼らがどこにたどり着き、その血塗られた歩みが英国の眠りを、どう乱すのか。
濃厚な罪の匂いを宿して、なかなか魅力的なオリジン開陳回となりました。次回も楽しみッ!!