裏世界ピクニック 第6話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
突如飲み込まれた裏世界で、唐突に邂逅した米軍部隊。
怪異との闘争に疲弊した兵士たちの瞳に、幽かに宿る狂気。
空魚と鳥子は手を携え、脱出のための道を探る。
見えるもの、見えぬもの、掴むべきもの。
全てが不確かな場所で、頼れるものは何か。
そんな感じの、きらさぎ駅奇譚後編、裏ピクアニメ第6話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
前回に引き続き、全てが明らかになりきらない不透明さ、唐突に訪れ唐突に去る理不尽な感覚が印象的なエピソードである。
ここまでの物語よりも、より怪異譚の色が増したというか、ゲーム感覚が抜けたというか…。
裏世界に突然巻き込まれたわけも、その正体も、米軍の起源と未来も、何もかも答えは出ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
全てが唐突で不鮮明なまま、空魚と鳥子は二人きり異界に迷い、脱出のための努力をし、怪異に行き交う。
見るものと掴むものの役割分担、繋がった手と手の感触を頼りに、あくまで個人として突破する道行き。
若干投げっぱなしな感覚が、しかし奇妙に心地よく、独特の視聴感のあるエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
異質な場所としての裏世界、異質な存在としての怪異は、このくらいロジックが見えない描かれ方のほうが、僕の肌感覚的には食べやすいのかも知れない。
…まぁ、当事者である二人にゃたまったもんじゃないが。
今回のエピソード、元々明確に異質な裏世界と同じくらい…もしくはそれ以上に、同じ人間集団であるはずの米軍は異質に描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
彼らは裏世界でも発電して明かりを使い、PCを付け、屋根の下で文明集団として生き延びようとしている。
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しかしそこには奇妙な歪みがあって、鳥子達は自分たちの全てを彼らには明かさない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
彼らを軍隊足らしめている近代理性のものさしでは、見通すことが出来ない出口。
終わりのない戦闘状態と、強制的に変質されていくアイデンティティ。
軍服を着た、信頼できない怪物たち。
司令官との紳士的な話し合いの中で、空魚は慣れないミリタリーな空気に立ちすくみ、既に訓練されている(故に、若干日常からは浮かび上がる)鳥子に応対を代理してもらう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
グリッチが軍隊組織に感染させる、”奴ら”との共通点を語る時、カメラは異界を見る目、掴む手をクローズアップする。
闇を照らすはずの電灯は個人と集団を引き裂き、二人は聖痕たる瞳と掌を隠したまま、一時的な庇護に入ることになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
この落ち着かない感じ、底が見えず過去も未来も判らない雰囲気が、なかなかに怪談していて良い。
ここで自分たちの異質性を隠すなら、異界に染まってる自覚が二人にはある。
それが(異界の中では上手く機能しない)近代理性にしがみつく集団では、排斥を呼ぶ傷跡だということも理解しているのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
それでも、人のふりをして状況をやり過ごす。
軍曹が危険視するように、立場を変えれば不審な異物は空魚と鳥子のほうだ。
そしてその警戒は、必ずしも過剰ではない。
それでも中尉は人間であり続けるために、食料と水を渡し忠告を差し出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
異界と現世を幾度も行き来し、既に変質しつつある二人よりも。
文字化けしている通話先に、違和感を覚えない二人よりも。
今回のエピソードで、一番”人間”なのは彼かも知れない。
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水は鏡のように空魚の頼りない表情を反射し、あるいは『使うな』と釘を差されていたタブーに反応し、波紋を広げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
携帯電話越しに繋がった小桜の声は、真相の入り口だけを照らしてノイズに消える。
通話…異界と現世の境界を超える行為は、叡智への扉にはならず、怪異に居場所を教えるだけだ。
存在しないペイルホース部隊。黙示録の騎士が乗る、青ざめた馬。死の先触れ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
不穏で不鮮明なやり取りの果てに、通話装置は異様な予言を垂れ流し、闇の中で影絵が踊る。
なぜ、それが起こるのか。何を意味しているのか。
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薄らぼんやりとした予感と予兆はあり、しかし確固たるロジックはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
飲み込まれ、巻き込まれたまま自分たちなり足掻き、それが正解かどうか判らないまま、決断を投げかけるしか無い。
そんな状況は、空魚達と米軍も同じである。
銃を構え、数が多く、モノをたくさん持っても、ここでは役に立たない
それよりも、二人でいることを強く確かめ合える個人と個人の方が、より靭やかに生き残れるのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
異界を見、触れることが可能な、蒼く異質なる瞳と掌。
妖精に魅入られたモノ、神と人を繋ぐモノが刻まれたという、旧い傷跡。選ばれたものの証。
それらを活かしながら、二人は表世界最強の兵力が通用しない怪異に、ライフル一個で立ち向かっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
正確には認識こそが武器であり、空魚の慣れない銃撃を支える手が支えである。
そこには、軍隊を成立させる科学的客観というものはない。
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あるのは異質性に接触し、影響し合う私的認識…オカルト的知性だけである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
作動原理は良く分からないし、なぜそれが自分に宿ったかはより分からないが、空魚は青い瞳で怪物の急所を見つめ、射抜く特別な力を持つ。
そんな彼女に触れ合えるのは、彼女が特別に思うイカれた金髪だけである。
この緊密な距離感、世界を動かしてしまえる主観的なパワーが、怪異譚、あるいはコンタクトSFと同じくらい、女と女のロマンスに重なっているのがやっぱ、面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
世界がどうなろうと関係ない、二人だけの個別で特別な間合い。
それを中心に据えた物語は、否応なく前近代の領域に首を突っ込む。
それは理性にしがみつけばこそ狂気に近づく”常人”からすれば、迫害すべき聖痕ともなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
怪異の急所を”見る”ことで、空魚の偽装は剥げ、疑心はその牙をを顕にしてくる。
軍曹達が恐怖に竦む、理解不能で異質なミートトレイン。
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そこにこそ突破口があると解ってしまう瞳、出口を切り開けてしまう手は、銃と理性と集団性にしがみつく人々には宿らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
個別で、異質で、均質化されていない個人だからこそ、裏世界に飛び込む動機と、生き残り帰還する術が宿る…のか?
確かな所を、物語は語らない。
どちらにしても、全てが明らかにならないまま二人は決意を繋ぎ合わせ、異能を組み合わせて危機を脱していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
たくさんであること、世界の中心に近い存在であること、力を持つこと、更に言えば、男性であること。
それは、この異郷を乗りこなす助けには一切ならない。
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米軍は裏世界に置き去りとなり、二人は現実に帰還する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
それを分けたものが何か、置き去りにされたものはどうなるのか、語る筆はない。
だが何か…二つを分けるロジックがあるような、不思議な感触がある。
それが何か格言は出来ないが、感覚として伝わっている気もする。
非常に不思議な歯ごたえのエピソードで、しかし確かに楽しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
因があって果に繋がり、物語が全てを明らかにしていく近代的構造から逆行し、あるいは先行して生まれたネットロア。
オチも説明も行き届かない、ただ狭い視界の現実だけが積み重なる、不条理な質感。
それが、訳のわからないまま必死に生き延びようと、お互い手を繋いで駆けていく(くせに、肝心なところですれ違う)空魚と鳥子の物語と、不思議な噛み合い方をしているのだな、という実感があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
それは(今まで感じていたように)悪くない。面白い感触だ。やっぱ”フラグタイム”っぽいな、描き方…
薄暗い夜を越えて、繋がったのは砂場の線路。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
青い空が広がる異郷は、果たして現実なのか。つうか何処なのか。
訳の判らないまま、まーた小桜さんは恐怖体験に巻き込まれ悲鳴を上げる。可愛い。
かくしてロクな説明も無いまま、きさらぎ駅の冒険は幕を閉じた。
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そのブツリ、とした切断面から、モヤモヤと伸びる想像と妄想と確信の融合体。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
視聴者の補完を必要とする、ちょっと不親切な語り口は更に加速してきている感じだが、個人的な感触を言えば悪くない。つうか良い。
こうして手でこねくりまわして、自分の指紋をつけてくアニメ視聴は、僕は好きなのだ。
無論ここまで書き連ねたのは、僕が見たいものを勝手に読み取った妄想である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
原作既読の方々、電波ビンビンの直観主義者、あるいは物語構造をより精緻に読み溶ける理性主義者には、響かぬ部分も多々あろう。申し訳ない。
しかしまぁ、そう見えてしまったのならばそれは仕方がない。
認識は力なり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
ただし見ることは一方的ではなく、双方向的にお互いを書き換えていく。
そんなロジックを作品から受け取りつつ、僕もこのアニメを引き続き”視て”行くことにする。
鏡に写った瞳が、青くなっていないか少し心配であるが、なかなかに面白い。
次回も楽しみだ。
追記 あなたはわたしに、わたしはあなたに近づいていくが、重なることはない。鳥と魚のように、月と空のように。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
こうして銃撃することで、基地の雰囲気に押され上手く動けなかった空魚は、ミリ知識と経験に長けた鳥子に近い存在になっていく。
しかし恋の相手として、冴月を追いかけ続ける彼女は遠いまま、近づくほどに離れていく…のか?
銃弾を媒介にした接近、EBRが繋ぐ共同作業。
それが二人の関係性にどういう変化をもたらすか、南国に燃える恋模様にも次回、注目したいところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
認識による変化と相互侵犯は、多分相当大事に描かれてんだよなこの話。コンタクトモノだし。
…ちょっとメルロ・ポンティっぽくもあるか。見えるものと見えないもの。
追記 集団的アイデンティティから切り離された個人が、誉れなき自分を保てない厳しさというのは、例えばベトナム戦争における米軍に重なるものかなー、と思ったりもする。人殺しを躊躇わない強者に見えて、兵士集団というのは強烈な社会的精神的補佐を受けて初めて機能する、ナイーブな存在なのだと思う。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
異常であることがスタンダードであり、最適な生存戦略でもある裏世界。
そこに身体を改変して(されて)適応した空魚達と、持ち前のタフネスにしがみつくことで疲弊していく米軍。
そこには軽やかで無責任な個と、群体としての自我を譲れば崩壊する集団の対比があるように思う。
国家が国家たるための暴力装置として、最も前近代的な暴力性を組織のアイデンティティとして抱えつつ、だからこそ最も理性的に制御されなければいけない、軍隊という集団。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
彼らはロジカルな表世界のルールが通用しない場所に放り込まれ、しかしそこに適応した獣(あるいは異能者)にもなれない。
理性と制御を失ってしまえば、軍隊集団は野放図な暴力に落ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
規律こそが集団最大のアイデンティティだが、野営地の乱れた描写はそれが崩壊しつつあることを如実に示している。
別にグリッチに触れなくても、部隊は裏世界の侵入を受け崩壊しつつある。
この侵入は空魚達にも起こっており、だからこそ彼女たちには聖痕が刻まれているのだが、しかし彼女たちはそれを使いこなす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
それは触れ合った手が教えてくれる小さなアイデンティティに、身を預けられる個人の強みなのだと思う。
しかし単独の個人は、肋戸のようにあっさり死ぬ。
触れ合えるのは分割され、断絶され、境界線が二人を分かつからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月10日
離れていればこそ、自分の存在を反射し確認し強化できるような”あなた”を探りながら、二人の裏世界ピクニックは続く。
あるいは米軍が反射すべき”あなた”は国家なのかもしれないが、当然裏世界にUSAはないのだ。